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肉の日の喪女05「喪女の食事」

「今日も“また”、来ちゃった」

街に新しく出来て、そんなに間の経っていないステーキ屋。

店の前には、貼り紙がしてあり。


『肉の日限定の特別チャレンジ!

 肉10kgを御一人で食べ切ったら、賞金10万円。

 制限時間は、30分。

 ※チャレンジ料金として、5万円頂きます。』


「いつものチャレンジ、また良いですか?」

「・・・え、いや・・・その。・・・良いですよ」

店員は私を見て一瞬、ギョッとしたものの。

歯切れが悪い受け答えをしつつも、席に通してくれた。


「チャレンジ料は、先払いでお願いします」

「はい」

勝手知ったる、何とやら。

実は私自身、この店でのチャレンジは初めてではなかった。


本来はインスタ映え目当てで、複数人で挑戦する想定なのだろう。

『100グラム』で『500円』換算なので、賞金が出なくても普通にコスパは良い方。


――だけど。私は、自信があった。


『恵体』と揶揄される、私の筋肉ボディだけど。

私自身はむしろ、この“体質”にこそ真髄があると思っている。


運動はダメ、細かい仕事もダメ、な私だけど。

学生の頃から、食べる事だけは得意・・・いや、大得意だった。


「う、っそだろ・・・」

「マジ、かよ・・・」

他のお客さんだけでなく、店員も呆気に取られていた。


「ん-、おいひい♪」

私は口に頬張ったまま、つい感嘆の声を漏らしてしまう。

新規開店したばかりだからか肉の質は良く、どんどん食が進む。


「おかわり、出来ます?」

「え、あ・・・はい。別料金ですが・・・」

私は、制限時間内に食べ切っただけで飽き足らず、肉を追加注文した。

最終的に、お肉を『12kg』にご飯や汁物を大量に食べ、フィニッシュ。


「こちら、賞金になります・・・」

賞金を手渡してくれた、店員の顔は引き攣っていた。

店長でも居るのか、奥の方をチラチラと見ている。


「はい、ご馳走様でした」

これだけ大量に美味しいお肉を食べて、更に差し引きで『5万円』貰えるのだ。

何て、良いお店なのだろう。


無職の門出としては、良い日になったと思い。

つい気分が高揚していたのか、普段は通らないような公園に入ってしまう。


――と、その時だった。


「おう、ネーチャン。ちょっと、待てや」

「・・・?」

公園の中にある森に差し掛かった頃合いで、背後から声を掛けられた。


「何です、貴方たちは・・・?」

暗がりで良く見えないが、数人の強面の男たちが私を睨み付けている。

強面度で言えば、何時ぞやの体育教師の比じゃない。明らかに、“本職”な感じ。


「その“ナリ”の何処に入ってんのか、知らねえが。バカスカバカスカ、食いやがって」

どうやら、さっきのステーキ屋の関係者らしかった。


「店長が泣き付いて来やがって、よ。こっちも“ミカジメ”取ってる手前、断れねぇ」

「私、普通に食べただけですけどぉ・・・」

そう言い訳しつつも、ちょっと心当たりは有った。


「普通、だぁ? 開店してから毎月、毎月・・・。お前さんみたいなのを“賞金荒らし”って言うんだよ」

「いやぁ、はは・・・」

ご指摘はご尤も、だった。


職場での失敗は、いつからか実費で弁償することになり。

ここ数ヶ月は、手取りの給料が雀の涙だった。


食事以外、目立った趣味を持たない私。

むしろ、食べる事が趣味、と言って過言ではない。


そんな私が、どんどん食事量を減らさざるを得ないようになり・・・。

まあ、お酒を減らせば良かった、と言えばそうなんだけども。


「ヘラヘラ笑ってんじゃねーぞ? ・・・おい、お前らっ!」

「「へいっ」」

男の後ろから、若い衆と思しき連中が前に出て来た。


「この、遠慮ってモンを知らねえネーチャンに。“世間の常識”をわからせてやれ」

「わかりやした」

今時の物とは思えない、時代掛かった口調の返事だった。

『暴対法』も、この寂れた地方都市では効果が無いのだろうか。


「えー、っと。私は、その・・・どうすれば、良いですか?」

「あぁん!? 舐めてんじゃねぇぞ」

若い男は、リーダーっぽい男に良い所を見せたいのか、イキリ立って殴り掛かって来た。


ドガッ。


「きゃっ」

私は頭を抱えるように、両腕でガード。

ボクシングで言う所の、『ピーカブー』スタイル。


「・・・っ?」

男は、殴った自身の拳を見て、キョトンとしていた。


「くそ、おらっ」

「きゃ」

ドムン。


「このぉっ」

「きゃっ」

ドゴッ。


「はぁ、はぁっ・・・」

男対女。防戦一方の女に対し、男はひらすら殴り続けた。

しかし、肩で息をしているのは、殴った男の方。


「おい、どうした?」

見るに見兼ねて、リーダー男は問い掛けた。


「い、いや、その・・・全然、効いてる感じがしなくて」

「何言ってやがる。相手が女だからって、手加減してんじゃねえぞ」

いわゆる、フェミニスト的な手加減はしてなかったように、思う。

あくまで、殴られてた側の意見だけれども。


「その人、ちゃんと殴ってましたよ」

「っ!?」

私は、つい声を出して“それ”を口にしてしまう。


「おい、何だ。ピンピンしてんじゃねえか」

「・・・あ」

私は、しまったと思った。完全に、逆効果。


『ちゃんと殴ってくれたから、終わりにしましょう』な、つもりだったのに。

男たちからしたら、『手加減したせいで更に舐められた』って取られてしまった。


「しゃあねえ、な。オヤッサン、“道具”使って良いですかい?」

「ああ、構わん」

おい代われ、と後ろから警棒を持った男が出て来た。

てっきり、刃物とか拳銃が出て来ると思ったけど、そこまでじゃなかったっぽい。


「ひゃっはぁっ」

何処かで聞いたような叫び声と共に、男は躊躇なく警棒を振り下ろす。


ドガッ!「きゃ」


ドゴンッ!「きゃっ」


ドガンッ!「きゃあ」


「・・・あ、あれ?」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・っ」

二人目の男も、いつしか肩で息をしていた。


「終わり、ですか? ・・・あ、それ」

「・・・っ!?」

鉄製と思しき警棒は、余りの衝撃にグニャリとなだらかに湾曲していた。


「それ、曲がっちゃってたら使えないですよね」

「何、言って・・・うぉっ?」

私は、男から警棒を奪い取ると、両手で端と端を持ち。


「こう、かな・・・」

グググ・・・と、元通りになるよう徐々に力を籠める。


「「「・・・っ!?」」」

「あ、あれ・・・?」

先刻まで角度的に『U字型』だったのが、今度は『∩字型』になってしまった。


「あれ、あれ? ・・・あれれぇ」

「「「・・・・・」」」

ジャージ姿の喪女が警棒を折ったり曲げたりする様を、男たちは無言で見ている。


バキャッ!


「・・・あっ」

流石に何度も折り曲げ過ぎたのか。

警棒は、真ん中あたりで完全に真っ二つに折れてしまう。


「ご、ごめんなさい。お、折れちゃいましたぁ・・・」

取っ手部分を持っていると、折れた部分がプラプラと揺れて締まりが悪い。


「お前、何モンだよ・・・」

「え、私ですか? 只の無職女ですよ」

私としては善良な、堅気の一般市民であることを強調したかった。


「そんな訳あるかっ。“その中”に、何を仕込んでやがる!」

事態を飲み込めない男が、何を思ったか私のジャージの胸元をムンズと掴んだ。


「ちょっとっ! 何するんですかっ」

気付いた時には、既に遅し。


「・・・あ」

私は、つい“全力”で男の顔に目掛けて平手を放ってしまう。


バチッコォーーンッ!!!


「ぶべらぁっ!!」

男は錐揉みをしながら、数十メートルほど吹っ飛び。

ズジャァーッ!と滑りながら、顔面から地面に着地。


「おい、大丈夫か・・・ひぃっ!?」

心配で駆け寄った男は、ホラー映画のグロシーンでも見たかのような反応。


「何だ、これ。酷ぇ・・・」

私の平手を喰らった男は左頬が完全に崩壊して、左目が半分以上飛び出していた。

息はあるものの、泡をブクブクと吹いてピクッ、ピクッと痙攣している。


「てんめぇっ!?」

「ご、ごめんなさい。でも、今のはその人が悪いんじゃ・・・」

私としては、あくまで痴漢を撃退した、に過ぎない。

ちょっと、だけ。ホンのちょっと、力が入ってしまっただけなのだ。


「ここまでヤラれちゃあ、仕方ねえ。おい、攫うぞ」

「・・・え」

『攫う』と、確かにそう聞こえた。


「私、何処かに連れてかれちゃうんですか?」

「男稼業として、ここまでヤラれてハイサヨウナラ、って訳には行かねえんだよ」

つまりは、『事務所』的な所に連れて行かれ。

水商売で稼がされたり、下手をすればコンクリートに詰められ、海に・・・。


「何で、“こう”なっちゃうのかなぁ・・・」

先刻まで、美味しいステーキ肉を食べていただけ、なのに。

何で、夜の公園で暴漢に囲まれているんだろう。


もう、“仕方ない”のかな。



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Comments

感想、ありがとうございます。 今回は、良い意味でお約束展開を楽しんで頂ければと思っています。

デアカルテ

感想、ありがとうございます。 筋肉が付く説得力は常々必要と考えていまして、喪女シリーズは今回の話が発端たったりします。

デアカルテ

更新お疲れ様です。 規格外の筋肉には食事も規格外なのが説得力が増す気がして最高です。 意図せずこれ程の破壊力とは… 続きも楽しみです。

okita

これは開き直って〇〇するパターン....? 続きが楽しみです(^^)

Nogi_(°Д°)


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