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デアカルテ
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MGガール28「高2:③脅威」

「――という感じで、真理奈から聞きました」

「ふふっ。待ってたわ」

僕たちは折りを見て、二人で『研究所』を訪れた。


「こんにちはー」

「はぁい」

真理奈は通い慣れてるせいか、星さんとツーカーのやり取りをしている。

何だろう、何処か疎外感を感じるんだけど・・・。


「聞きたい事は一杯あるんですが・・・」

「何でも聞いて?」

白衣越しでもわかる筋肉モリモリな身体で、大きく手を広げる星さん。

研究職という理知的な印象とは裏腹に、大型の猛獣を思わせる巨体。


「何で、この『研究所』に“薬物中毒患者”が居たんですか」

「あら。いきなり、ブッ込んで来るわね・・・」

星さん的に予想外の質問だったらしく、心底驚いた様子。


この『国立特殊生命科学研究所』は、あくまで『研究所』の筈。

決して、病院では無い。病人が居る事自体、おかしいのだ。


「【超人計画】を、営利目的で利用しようとする“者たち”が居るの」

ここで言う【超人計画】は、この『研究所』で掲げられたモノに限った話ではなく。

“人間を肉体的に進化させる”研究の、総称での一般名詞的な意味合い。


星さんのようなスーパーウーマンや、真理奈のようなスーパーガールを。

もし、人為的に作り出せる技術があれば、それはもう引く手数多(あまた)だろう。


自前で作り出した人材を派遣しても良いし、ノウハウを売り捌いても良い。

そこから生み出される利益は、莫大なモノになる。


「じゃあ、あの男が服用していた“薬物”は・・・」

「そうよ。【超人計画】の産物か、もしくはその亜種よ」

裏社会では、【SP(スーパーパワー)】という、名前そのままな薬物が出回っていて。

大半が覚醒剤や麻薬を改造した粗悪品で、大した効果が出ないものの。


稀に、あの男のように驚異的な筋力増強の効果を得た者が現れる。


【SP】の大元は、街のチンピラや半グレ程度に製作出来るような代物ではなく。

必然的に、大きな資金力を持った“者たち”が、組織立って動いている事になり。


「確かに、海辺の一件みたいな相手が街に溢れたら怖いですね」

星さんや真理奈なら、まだしも。

僕や、あのナンパ男たちでは到底、太刀打ち出来ないのは証明済み。


「まあ、それもあるにはあるんだけど・・・」

何処か含みのある、星さんの返答。


「いわゆる、“反社”とかなら問題ないんだけどねぇ」

俗に言う、『ヤ●ザ』や『マフィア』。

お金が最終目的な組織なら何れは手を退く、とのこと。


他の違法薬物に比べて多幸感が少ないにも関わらず、コストは非常に高く。

とてもじゃないが、大量生産に向かないらしい。


“違法薬物として”は、広まらない。

そうなのであれば何故、広まっているのか。


「まさか・・・」

「多分、“想像している通り”で当たりよ」

普通では広まらない物が、広まっている。

なら、答えは一つ。“広めている者が居る”のだ。


軍隊を保持する“とある国家”が、【超人兵士】を作りたいと考えた。


自国で人体実験を行い、もし発覚でもすれば国際社会から非難を浴びるのは必至。

只でさえ不安な国際情勢において、他国の介入を許すような要因は作りたくない。


「言っておくけど、“ウチ”は大丈夫よ」

“ウチ”が何処を、何処までを指すかは言う迄もないとして。


自国でやれないような“人体実験”を、他国でやる。

傍(はた)迷惑な話だが、有り得なくはないと思ってしまう。


「例え話で良いんだけど、私や紅世さんに勝てる?」

「それって・・・僕が、ってことですか?」

そうよ、と星さんは言った。

冗談めかしているが、表情は余り柔らかくないように感じる。


「小指一本、動かせないと思います」

「ふふっ♪ まあ、そうね」

真面目な空気を感じたので、僕としては真剣に回答したんだけど。

星さん的にはツボに嵌ったのか、その綺麗な顔から笑みが零れる。


「じゃ・・・あ、格闘家が相手だったら?」

「え、それは・・・」

星さん対格闘家。もしくは、真理奈対格闘家。

つい先日、真理奈の部屋で観せられた映像が脳裏を過ぎる。


「ひょっとしたら、小指ぐらいは動かせるかも・・・」

ヘビー級のボクサーが拳を壊す覚悟で殴ったとしても、無傷だろう。

武道の達人が何らか技を以ってすれば、何か起こせるかも・・・程度。


「じゃあ、お巡りさんなら?」

「それって、普通の警官が、ってことですか?」

これは、何かの思考実験なのだろうか。


警察官はイコール武道家が多いとはいえ、結果は変わらない筈。

拳銃の使用許可が出ていれば、或いは・・・。


「どうかしら?」

「あ、いや・・・」

拳銃どころか、スナイパーライフルでヘッドショットしたとして。

果たして、星さんや真理奈にどれ程のダメージがあるだろうか。


「熊とかが、相手なら?」

しばしば、世間を騒がせている猛獣、熊。

猟銃の達人か、複数人の警官が拳銃を構えて、やっと対等。


「無傷だと思います」

人間の身体ぐらい、軽く薙いだ程度で破壊してしまう熊であっても。

この二人が相手なら、手も足も出ずに退散してしまうだろう。


「警察組織・・・いえ、特殊部隊が相手なら?」

完全武装した人間の集団が、相手。


垂直跳びで、一般的な家屋なら簡単に跳び越える事が出来。

自動車並みの高速で疾走する脚力。


鉄球を投げれば、新幹線並みの速度で投擲が出来。

数百キロの鉄塊を持ち上げ、破壊する腕力。


更には、至近距離で徹甲弾を喰らっても、ビクともしない頑強な肉体。


「数分、足止めするぐらいなら・・・」

僕には、そう答えるのが精一杯だった。


「健ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと、怖い想像をしちゃって」

僕はいつの間にか、冷や汗を掻いていたらしく。

真理奈が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


星さんや真理奈が、もし“その気”になれば。

果たして誰が、“それ”に対抗する事が出来るのだろうか。


「もしかして、真理奈に試した実験って・・・」

「そう、よ」

星さんは、神妙な面持ちで首肯した。


「もし、紅世さんが・・・そうね。何らかの理由で、暴れたりしたら?」

「いや、そんな事は・・・」

ない、と思いたい。だけど、即答は出来なかった。


実際、海岸の一件もある。

何かの拍子でキレてしまって・・・とか。絶対にない、とも言い切れない。


「後は・・・むしろ、“こっち”の理由が本題なんだけど」

星さんは、僕たちに正対する。


「私たち級(クラス)の誰か、それこそ同等以上の力を有する――」

そこまで話して、星さんはグッと言葉を飲み込んだ。


“持つ”ではなく、“有する”という言葉使い。それだけで、類推出来てしまう。


【超人計画】×国家権力=超人部隊


『スー●ーマン』や『ハ●ク』みたいな、超人たちが徒党を組んで攻め込んで来る。

考えただけで、ゾッとする。


もしくは、存在を秘匿した暗殺部隊として、要人や敵国のトップを暗殺。

そんな事も、容易に可能になる。


今のご時世、核爆弾を投下して一発決着、みたいな戦争は起きない。

只でさえ、核爆弾は「非人道兵器」として条約で禁止されている。


武力衝突のメインは未だ、地上戦なのだ。


下手をすれば戦車以上の戦力が、人間サイズで稼働。

白兵戦を無双し、敵の指揮官や重要拠点を殲滅する。


「じゃあ、“本題”っていうのは・・・」

【SP】によって強化された勢力に、真理奈が対応出来るかどうか。

映像で観た実験は、その為のテストだったのだ。


「“私たち”をどう『運用』・・・いえ、違うわね」

『運用』や『有する』という単語から連想されるのは、軍事利用。


「私や紅世さんが今後、どう『活動』して行くかは説明が必要だと思うの」

これまでの真理奈の“やらかし”が一切、明るみになっていないのは。

少なくとも、公的機関のレベルで報道規制が掛かっているということ。


「残念だけど将来、スポーツ方面に進むことは出来ないわ」

陸上競技や水泳で、前人未到の超が付く世界記録を樹立。

重量挙げなんて、それこそ得意中の得意。


「特に、興味ないので・・・」

当の真理奈は、至ってサバサバした返答。


「本当に、良いの?」

「う~ん。別に・・・」

真理奈も、ボクシングや、野球のストラックアウトぐらいは経験している。

その上での、判断。


「むしろ、どっちかというとやりたくない」

そもそも、今までも普通に体育の授業は受けていた。

でも、授業で誰かを怪我させたという話は聞いたことがない。


「だって、加減しなくちゃいけないから」

僕たちは元々がインドア派、ではあるけれど。

真理奈にとって、普通の人と相対するスポーツ競技は忌諱(きい)する対象になっていた。


もし格闘技でもやれば、小指一本で相手を圧倒出来てしまう。

少しでも力加減を誤れば、あっという間に死亡事故。


「そんな事より、思いっ切り身体を動かしたい」

「そんな事、って・・・」

高校生にして、将来の道筋の一つが絶たれた・・・筈なんだけど。

当の本人は、全く意に介していないようだった。


「それについては、何処かで機会を用意するわ」

「やったー♪」

また、あの“モノリス”とかが用意されるのだろうか。


「じゃあ、契約成立って事で良いのかしら」

「はい!」

星さんに対し、真理奈は今日一番の元気さで返事。


「契約、って?」

「アルバイト、することになったの」

「正確には、私の研究助手だけれど、ね」

僕の疑問に説明不足な真理奈を補助する形で、星さんが回答。


「勿論、バイト代も出るわよ」

「わーい」

いつの間に、スーパーガールとスーパーウーマンの間で取り交わしたのか。

真理奈は、『国立特殊生命科学研究所』・・・長ったらしいので、今後は『研究所』呼びするけど。

この『研究所』でアルバイトすることになった。


「・・・・・」

只のアルバイトで済む筈が、無い。

僕には何故か、その確信があった。


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