MGガール28「高2:③脅威」
Added 2024-12-14 15:00:00 +0000 UTC「――という感じで、真理奈から聞きました」
「ふふっ。待ってたわ」
僕たちは折りを見て、二人で『研究所』を訪れた。
「こんにちはー」
「はぁい」
真理奈は通い慣れてるせいか、星さんとツーカーのやり取りをしている。
何だろう、何処か疎外感を感じるんだけど・・・。
「聞きたい事は一杯あるんですが・・・」
「何でも聞いて?」
白衣越しでもわかる筋肉モリモリな身体で、大きく手を広げる星さん。
研究職という理知的な印象とは裏腹に、大型の猛獣を思わせる巨体。
「何で、この『研究所』に“薬物中毒患者”が居たんですか」
「あら。いきなり、ブッ込んで来るわね・・・」
星さん的に予想外の質問だったらしく、心底驚いた様子。
この『国立特殊生命科学研究所』は、あくまで『研究所』の筈。
決して、病院では無い。病人が居る事自体、おかしいのだ。
「【超人計画】を、営利目的で利用しようとする“者たち”が居るの」
ここで言う【超人計画】は、この『研究所』で掲げられたモノに限った話ではなく。
“人間を肉体的に進化させる”研究の、総称での一般名詞的な意味合い。
星さんのようなスーパーウーマンや、真理奈のようなスーパーガールを。
もし、人為的に作り出せる技術があれば、それはもう引く手数多(あまた)だろう。
自前で作り出した人材を派遣しても良いし、ノウハウを売り捌いても良い。
そこから生み出される利益は、莫大なモノになる。
「じゃあ、あの男が服用していた“薬物”は・・・」
「そうよ。【超人計画】の産物か、もしくはその亜種よ」
裏社会では、【SP(スーパーパワー)】という、名前そのままな薬物が出回っていて。
大半が覚醒剤や麻薬を改造した粗悪品で、大した効果が出ないものの。
稀に、あの男のように驚異的な筋力増強の効果を得た者が現れる。
【SP】の大元は、街のチンピラや半グレ程度に製作出来るような代物ではなく。
必然的に、大きな資金力を持った“者たち”が、組織立って動いている事になり。
「確かに、海辺の一件みたいな相手が街に溢れたら怖いですね」
星さんや真理奈なら、まだしも。
僕や、あのナンパ男たちでは到底、太刀打ち出来ないのは証明済み。
「まあ、それもあるにはあるんだけど・・・」
何処か含みのある、星さんの返答。
「いわゆる、“反社”とかなら問題ないんだけどねぇ」
俗に言う、『ヤ●ザ』や『マフィア』。
お金が最終目的な組織なら何れは手を退く、とのこと。
他の違法薬物に比べて多幸感が少ないにも関わらず、コストは非常に高く。
とてもじゃないが、大量生産に向かないらしい。
“違法薬物として”は、広まらない。
そうなのであれば何故、広まっているのか。
「まさか・・・」
「多分、“想像している通り”で当たりよ」
普通では広まらない物が、広まっている。
なら、答えは一つ。“広めている者が居る”のだ。
軍隊を保持する“とある国家”が、【超人兵士】を作りたいと考えた。
自国で人体実験を行い、もし発覚でもすれば国際社会から非難を浴びるのは必至。
只でさえ不安な国際情勢において、他国の介入を許すような要因は作りたくない。
「言っておくけど、“ウチ”は大丈夫よ」
“ウチ”が何処を、何処までを指すかは言う迄もないとして。
自国でやれないような“人体実験”を、他国でやる。
傍(はた)迷惑な話だが、有り得なくはないと思ってしまう。
「例え話で良いんだけど、私や紅世さんに勝てる?」
「それって・・・僕が、ってことですか?」
そうよ、と星さんは言った。
冗談めかしているが、表情は余り柔らかくないように感じる。
「小指一本、動かせないと思います」
「ふふっ♪ まあ、そうね」
真面目な空気を感じたので、僕としては真剣に回答したんだけど。
星さん的にはツボに嵌ったのか、その綺麗な顔から笑みが零れる。
「じゃ・・・あ、格闘家が相手だったら?」
「え、それは・・・」
星さん対格闘家。もしくは、真理奈対格闘家。
つい先日、真理奈の部屋で観せられた映像が脳裏を過ぎる。
「ひょっとしたら、小指ぐらいは動かせるかも・・・」
ヘビー級のボクサーが拳を壊す覚悟で殴ったとしても、無傷だろう。
武道の達人が何らか技を以ってすれば、何か起こせるかも・・・程度。
「じゃあ、お巡りさんなら?」
「それって、普通の警官が、ってことですか?」
これは、何かの思考実験なのだろうか。
警察官はイコール武道家が多いとはいえ、結果は変わらない筈。
拳銃の使用許可が出ていれば、或いは・・・。
「どうかしら?」
「あ、いや・・・」
拳銃どころか、スナイパーライフルでヘッドショットしたとして。
果たして、星さんや真理奈にどれ程のダメージがあるだろうか。
「熊とかが、相手なら?」
しばしば、世間を騒がせている猛獣、熊。
猟銃の達人か、複数人の警官が拳銃を構えて、やっと対等。
「無傷だと思います」
人間の身体ぐらい、軽く薙いだ程度で破壊してしまう熊であっても。
この二人が相手なら、手も足も出ずに退散してしまうだろう。
「警察組織・・・いえ、特殊部隊が相手なら?」
完全武装した人間の集団が、相手。
垂直跳びで、一般的な家屋なら簡単に跳び越える事が出来。
自動車並みの高速で疾走する脚力。
鉄球を投げれば、新幹線並みの速度で投擲が出来。
数百キロの鉄塊を持ち上げ、破壊する腕力。
更には、至近距離で徹甲弾を喰らっても、ビクともしない頑強な肉体。
「数分、足止めするぐらいなら・・・」
僕には、そう答えるのが精一杯だった。
「健ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと、怖い想像をしちゃって」
僕はいつの間にか、冷や汗を掻いていたらしく。
真理奈が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
星さんや真理奈が、もし“その気”になれば。
果たして誰が、“それ”に対抗する事が出来るのだろうか。
「もしかして、真理奈に試した実験って・・・」
「そう、よ」
星さんは、神妙な面持ちで首肯した。
「もし、紅世さんが・・・そうね。何らかの理由で、暴れたりしたら?」
「いや、そんな事は・・・」
ない、と思いたい。だけど、即答は出来なかった。
実際、海岸の一件もある。
何かの拍子でキレてしまって・・・とか。絶対にない、とも言い切れない。
「後は・・・むしろ、“こっち”の理由が本題なんだけど」
星さんは、僕たちに正対する。
「私たち級(クラス)の誰か、それこそ同等以上の力を有する――」
そこまで話して、星さんはグッと言葉を飲み込んだ。
“持つ”ではなく、“有する”という言葉使い。それだけで、類推出来てしまう。
【超人計画】×国家権力=超人部隊
『スー●ーマン』や『ハ●ク』みたいな、超人たちが徒党を組んで攻め込んで来る。
考えただけで、ゾッとする。
もしくは、存在を秘匿した暗殺部隊として、要人や敵国のトップを暗殺。
そんな事も、容易に可能になる。
今のご時世、核爆弾を投下して一発決着、みたいな戦争は起きない。
只でさえ、核爆弾は「非人道兵器」として条約で禁止されている。
武力衝突のメインは未だ、地上戦なのだ。
下手をすれば戦車以上の戦力が、人間サイズで稼働。
白兵戦を無双し、敵の指揮官や重要拠点を殲滅する。
「じゃあ、“本題”っていうのは・・・」
【SP】によって強化された勢力に、真理奈が対応出来るかどうか。
映像で観た実験は、その為のテストだったのだ。
「“私たち”をどう『運用』・・・いえ、違うわね」
『運用』や『有する』という単語から連想されるのは、軍事利用。
「私や紅世さんが今後、どう『活動』して行くかは説明が必要だと思うの」
これまでの真理奈の“やらかし”が一切、明るみになっていないのは。
少なくとも、公的機関のレベルで報道規制が掛かっているということ。
「残念だけど将来、スポーツ方面に進むことは出来ないわ」
陸上競技や水泳で、前人未到の超が付く世界記録を樹立。
重量挙げなんて、それこそ得意中の得意。
「特に、興味ないので・・・」
当の真理奈は、至ってサバサバした返答。
「本当に、良いの?」
「う~ん。別に・・・」
真理奈も、ボクシングや、野球のストラックアウトぐらいは経験している。
その上での、判断。
「むしろ、どっちかというとやりたくない」
そもそも、今までも普通に体育の授業は受けていた。
でも、授業で誰かを怪我させたという話は聞いたことがない。
「だって、加減しなくちゃいけないから」
僕たちは元々がインドア派、ではあるけれど。
真理奈にとって、普通の人と相対するスポーツ競技は忌諱(きい)する対象になっていた。
もし格闘技でもやれば、小指一本で相手を圧倒出来てしまう。
少しでも力加減を誤れば、あっという間に死亡事故。
「そんな事より、思いっ切り身体を動かしたい」
「そんな事、って・・・」
高校生にして、将来の道筋の一つが絶たれた・・・筈なんだけど。
当の本人は、全く意に介していないようだった。
「それについては、何処かで機会を用意するわ」
「やったー♪」
また、あの“モノリス”とかが用意されるのだろうか。
「じゃあ、契約成立って事で良いのかしら」
「はい!」
星さんに対し、真理奈は今日一番の元気さで返事。
「契約、って?」
「アルバイト、することになったの」
「正確には、私の研究助手だけれど、ね」
僕の疑問に説明不足な真理奈を補助する形で、星さんが回答。
「勿論、バイト代も出るわよ」
「わーい」
いつの間に、スーパーガールとスーパーウーマンの間で取り交わしたのか。
真理奈は、『国立特殊生命科学研究所』・・・長ったらしいので、今後は『研究所』呼びするけど。
この『研究所』でアルバイトすることになった。
「・・・・・」
只のアルバイトで済む筈が、無い。
僕には何故か、その確信があった。