魔女狩り06「王様」
Added 2025-01-04 15:00:00 +0000 UTC「ん~、何じゃ」
執務室と思しき部屋の奥に居る初老の男が、気怠そうに反応した。
簡素だが、質素ではなく着整えられた服装。
部屋の調度品も、数は多くないが豪奢が物ばかり並んでいる。
「王様、大変です!」
「だから、何じゃと言っておる」
従者と思われる男がスッと跪き、傅(かしず)く。
この男こそが十六代に渡り、この国を統治している国家元首その人だった。
「賊が! 城内に、賊が侵入しております」
「何じゃと。衛兵・・・いや、門番は何をしておる」
王様は、変わらず書類仕事を続けている。目線も従者に向けもしていない。
「どうせ、旅の物盗りか、敵国の間者であろう」
稀ではあるが、これまでも幾度か城内への侵入者は経験しているようで。
「物盗りならば、牢にぶち込め。間者なら、拷問すればよい」
今更何を報告に来たのだ、と言わんばかり。
「いえ、それが・・・“巨大な女”が『王を出せ』と」
「何じゃ、それは」
従者の報告を聞く限り、只の気が触れた闖入者としか思えない。
「女は、『サーラ』と名乗っております」
「なん・・・じゃと・・・」
流石の王様も、その名を聞くと手が止まった。
「それは、金髪の女がそう名乗った・・・のか?」
「は、はい!」
従者の首肯を確認するまでもなく、王様は立ち上がり。
「直ぐに、衛兵部隊を招集させぃ」
部屋の隅に立て掛けてあった、護身用の槍を手に取る。
「いえ、それが・・・あっ、王様! 出られては危険です」
従者が続ける言葉を最後まで聞かず、王様は執務室を出て行く。
「な、な・・・何じゃ、これは・・・」
広い城内の廊下は、逃げ惑う従者たちで溢れ返っていた。
「うわぁ・・・ばけものーっ」
「きゃあー、人殺しー」
「このぉっ・・・ぐ。ぐぁ・・・ぎゃあっ!!」
逃げる者の悲鳴に交じり、衛兵の断末魔が聞こえる。
「ま、まさか・・・」
王様は、王広間に続く廊下を歩く。
「ぎゃー!」
「ぐぎゃっ!」
複数の断末魔が、ほぼ同時に聞こえて来る。
「・・・っ」
王様は息を殺し、気配を消しながら廊下の角から大広間を覗き込む。
「・・・ふぅ。折角、本当の姿を見せてあげたのに」
筋骨隆々の広い背中に垂れ下がる、長い金髪の女。
鎧を着込んだ衛兵を軽々と持ち上げる二の腕は、衛兵たちの太腿ぐらいはありそうな巨大な力瘤は盛り上がり。
何故か、胸と腰を覆う肌着だけの半裸な身体を支える脚は、それこそ衛兵の胴体ぐらいはありそうな剛脚。
「物足りないと、思わないかしら。・・・ねぇ?」
そう言って、廊下の角に向けて。
振り向いた顔は絶世の美女を思わせる風貌だった。
「ひ、ひぃっ!?」
南国の果実を思わせる爆乳に、深く刻み込まれた腹筋。
しかし、それで居てキュッと縊れた腰は、紛れもない美女の肢体だった。
「あら。この私の美しい身体を見て、その反応は頂けないわ」
静かな怒りをぶつけるように、両手で持ち上げていた衛兵二人を。
王様に見せつけるように、顔の前でグシャッとドッキングさせた。
鎧を着た二人の人間が、ホンの一瞬で“一人分の厚さ”に圧縮されてしまったのだ。
「王様っ! お逃げ下さいっ!」
「王様、早くっ!」
実は、王様が指示するよりも早く、衛兵隊は直ぐに賊を排除すべく動いていた。
しかし、それでいて、この惨状なのだ。
「このぉ、忌まわしい魔女めぇ」
手に携えた長剣を、無駄のない所作で袈裟懸けに斬り付ける。
ガィンッ!
「なぁっ!?」
およそ、鋼鉄製の剣を人体に打ち付けたとは思えないような、音。
「ホンッと、馬鹿の一つ覚えなのかしら」
サーラは既に、何度も剣や槍の攻撃を受けていた。
現に来ていたローブは斬られ突かれたせいで、散り散りになってしまっている。
「このぉっ!!」
如何に、見上げるような巨女相手とはいえ、たった一人の女相手に。
衛兵は躊躇いなく、背後から槍を突き立てた。
グギィンッ。
「そんな、馬鹿なっ!?」
しかし、やはりサーラの肢体に、刃は通らなかった。
「『館』や、“この姿”を見た者を消して来たのは、逆効果だったのかしら」
サーラに襲い掛かった者は皆、その筋肉美体に攻撃が通用しなかったのは体感した。
しかし、サーラは相対した者を全て、屠って来ても居たのだ。
「ねぇ、王様。どう、思うかしら?」
「ひぃぃぃっ!?」
王様に見せ付けるように、近くに居た衛兵や従者“数人”を抱き上げ。
メキメキ・・・と、締め上げて行く。
「う、ぎ・・・ぃ」「ぐぅ、ぇ・・・」「が、ぁ・・・」
ただただ逃げようとする、非武装の従者。
身体に剛腕が食い込んで行く前に、脱出しようと手にした武器を突き立てる衛兵。
メギメギ・・・メギャッ。
「・・・ふふ♪」
そんな抵抗を、只の反応として愉しむかのように、サーラから薄い笑みが零れる。
メギギギ、バギャァッ!!
「「「%$#)(%(#($)#”」」」
数人の男たちの断末魔と共に、サーラの腕の中で人体の二つ折りが出来上がった。
「あら。逃げずに留まっていたのね、偉いわ」
大広間への廊下の角で、王様はヘタり込んでいた。
「もし逃げていたら、追い掛けた次いでに勢い余って殺しちゃってたかも♪」
妖しく微笑む様は、やはり魔女のそれだった。
「・・・それとも。私と追い掛けっこ、したい?」
「~~~っ!」
王様はブンブンッと、高速で首を横に振った。
「この有様を見ても、気が触れないのは流石は王様、って所かしら」
サーラは、死屍累々となった王広間を見て、そう言った。
十数人・・・どころではない、四五十人“分”は有ろうかという、死体の山。
「今日は、ね。お願いに来たの」
「・・・へ、願い?」
ここまでやっておいて今更、何を願おうと言うのだろうか。
「『館』も含めて・・・私の事、そっとしておいて欲しいの」
「それは、不可侵ということ・・・か?」
この状況で尚、魔女サーラに対して対等な口が利けるのは、やはり王たる所以か。
「不可侵というよりは、禁忌って感じかしら」
それは、つまり。
「もし、それを破れば・・・」
諍いを含めた武力衝突をしない、という意味ではなく。
アンタッチャブル。物理的に触れないだけでなく、言葉にすらしないということ。
「あら。まだ、わかってないようね」
「ひぃっ!?」
這いつくばって、その場から命からがら逃げようとしていた従者を掴み上げ。
「“こう”、しちゃうわよ?」
従者の脚を掴んだまま、大理石が敷き詰められた大広間の床に叩き付ける。
バァアンッッッ!!!
「っ!!?」
サーラと王様の間に、人間サイズの大きな血溜まりが出来上がった。
「また、魔女が“狩り”に来るわ」
「わ、わかった。や、約束しよう」
魔女を狩ろうとした結果。
逆に、魔女の狩られ掛けた。
もし、そう隣国に広まれば。平和な世は終わりを告げ。
あっという間に、戦乱の世に逆戻りだろう。
「約束したこと。決して、お忘れなきよう」
筋骨隆々の魔女がスタスタと歩いて城を後にする間、王様は只の一歩も動くことは出来なかった。
Comments
感想ありがとうございます。 当方のミスで過去話と同じ内容を上げてしまっており、申し訳ありません。上げ直しましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。
デアカルテ
2025-01-05 11:27:53 +0000 UTC魔女狩り!とても好きなシリーズです(^^) 更新ありがとうございます!!
Nogi_(°Д°)
2025-01-05 04:31:48 +0000 UTC