SamSuka
デアカルテ
デアカルテ

fanbox


MGガール29「高2:④現状」

「じゃあ、早速で悪いんだけど」

「・・・はい?」

契約成立後、即と言わんばかりに。

星さんは、真理奈にバイト仕事の提案をして来た。


「今の記録を、測らせてくれない?」

「記録、ですか?」

記録なら確か、前に測定したんじゃなかったっけ。


「身体の調子は、どう?」

「すこぶる、良い感じです。力も強くなった感が・・・あ」

前回、測定してから時間は確かに経過していた。

実際、真理奈の身体は【負荷】を経たことで、更なる成長を見せている。


「貴女の為にも、改めて記録を採っておいた方が良いと思うの」

「わかりました」

無意識に潰したフォークの件を、僕は思い浮かべた。


中二病的な言い方をすれば、真理奈は自身の力を制御し切れていない節がある。

ここらで一度、ちゃんと測っても良いかも知れない。



程なくして、何時ぞやのグラウンドに移動。


「【圧縮】を解除。『活動服』を【展開】して」

バシュッと、ホンの一瞬で真理奈は競泳水着タイプのスーツに着替えた。

普段着を脱いで、着替える。それらが自動で且つ、一瞬で行われる。


昭和の時代から続く、ヒーロー物にありがちな瞬間衣装チェンジ。

しかし、いざ眼前で見せられると、余り情緒を感じられなくて複雑な心境。


「でも、何を測定するんですか?」

「筋力ってよりは、どちらかと言うと運動能力の方、かな」

握力や腕力は、確かに詳細な数値を見た記憶がある。

握力は『441kg』、だっけか。トンでもない数値だけど・・・。


「最初は、そうね。『50m走』と『100m走』を測ろうかしら」

「え」

僕はてっきり、何か特殊な測定をするものだとばかり思っていた。

それこそ、星さんが鉄板をぶち抜いて見せた、みたいな奴。


「『50m走』、ですか? それって、普通の体力測定なんじゃ・・・」

「そうよ♪」

星さんは、ニッコリと微笑んだ。


「じゃあ、これ。はい、お願いね」

「え、僕が測定するんですか?」

星さんは、普通の市販品なストップウォッチを手渡してくれた。


「でも、僕が測るより、星さんや機械で測った方が・・・」

「そこまで正確じゃなくて、良いから」

多少の誤差は気にしないで、と付け加える。


だだっ広いグラウンドの中央にある、陸上競技用のトラックレーン。

その一辺の直線コースはキッチリ、『100m』あって。


「こんな感じですか?」

そのスタートとゴール、それと中間地点に僕は白線を引く。


「うん。良い感じ♪」

星さんからOKが出たので、真理奈がスタート地点に取り付く。


真理奈の体力と脚力を考慮して、『50m走』と『100m走』を同時測定する形になった。

40km近く離れた海岸まで、楽勝で往復する健脚。スタミナ面は無問題。


「じゃあ、健ちゃん。合図、お願いー」

「うん。じゃあ、よーい・・・」

わかり易いよう、ストップウォッチを持った手を掲げ。


「・・・スタート!」

下げると同時に、スタートボタンを押す。


「っ!」

軽く息を吐くと、真理奈の全力ダッシュもスタート。


ギュンッ!


「うぉ、はやっ」

あっという間に、『50m』ラインを通過。

そこで一度、ストップボタンを押す。


ギュンンッ!


「はや・・・ゴ、ゴールッ!」

『100m』ラインで二度目のストップボタン。

因みに、ストップウォッチ自体は、連続計測が出来る優れモノだった。


「健ちゃん、どうだった?」

「・・・すご」

僕は、手元のストップウォッチの数値を見て、俄(にわ)かには信じられなかった。


しかし、計測したのは、誰でもない僕自身。

もし、星さんや機械で計測していたら、信じていなかったかも知れない。


50m走:3.01秒

100m走:5.03秒


「あら、凄い記録ね」

「ほぇー、良いタイム・・・なのかな」

星さんも、当の真理奈本人も、何処か他人事。


50m走は、高校生男子の平均記録の三倍速。

100m走は、男子世界記録の二倍速。


時速換算で約、『74km/h』。


「いやいやいや! 世界記録なんてレベルじゃないですよ」

前回、星さんは『400m走』を見せてくれたけれども。

その時は、むしろ僕の方が何処か他人事だった。


いざ、身近な『彼女』という存在の真理奈が叩き出してしまうと、やっぱりビックリ。


「そういえば、学校の体力測定とかはどうしてたの?」

「それは・・・」

僕は、真理奈から『上手く誤魔化せた』としか聞いていなかった気がする。


「【圧縮】した状態で思いっ切り手を抜いたので、何とか・・・」

もし、今出た数値に近い記録を出してしまっていたら。

間違いなく話題になって、運動部から引っ張りだこだったろう。


「次は、そうね。ボール投げをやってみましょうか」

そう言って、倉庫からハンドボール、砲丸、硬球を持ち出して来た。


「何から投げる?」

「じゃあ・・・と。これ、からやります」

真理奈は、サイズ的に一番大きいハンドボールを手に取った。


ミチミチッ・・・。


「ああ、気を付けて握ってね。今の貴女の握力だと、一瞬で破裂させちゃうから」

「あ、そうでした」

【圧縮】してなくて、全力を解放した真理奈のパワーは。

それこそ、全身が人間凶器な状態と言って、過言ではない。


これまた中二病的な言い回しだけど、事実としてそうなのだ。


「じゃあ、投げます・・・ねっ」

右手をお椀状にして載せたハンドボールを、手投げで斜め『40度』に射出。

奇麗な放物線を描き、グゥンッとボールはグングンと伸びて行く。


遠く離れたグラウンドの端っこにドンッ、と着地。


「うーん。『390m』ぐらい、かしら」

「そう、ですね」

かなり遠い所まで飛んだのに、星さんも真理奈もかなり正確に距離を目測していた。


スーパーガール同士は、視力も良いんだろうか。

正直なところ、僕には遠くにハンドボールが着地したことしかわからなかった。


「ってか、『390m』・・・」

確か、今年の僕の記録は、『23m』だった気がする。

これでも男子高校生の平均より少し下ぐらい、である。


「砲丸は、『156m』ね」

「えー。もっと行くと思ったんだけどなー」

投擲距離が余りに大き過ぎて、全くの役立たずに成り下がった僕を尻目に。

スーパーな女子二人は、キャッキャウフフしながら測定を続けている。


因みに、砲丸投げの男子世界記録は、『23m』。

僕のハンドボール投げと、ほぼ同じ記録だったりする。


「硬球は、普通に投げれば良いんですか?」

「そうね。遠投ってよりは、普通にピッチャー投げしましょうか」

以前、ストラックアウトをやった時は、『211km/h』だった。


「じゃあ、行き・・・まーすっ」

ハンドボールや砲丸よりは幾分、投げ易いのか。

ちゃんと腰が入った投球動作で、硬球が投げ出され・・・いや、“射出”された。


ドギュンッッ! ヒュゴォッ!!


凄まじい勢いで、グラウンドの端から端まで飛んで行き。


ドッゴォッンッ!


遂には、反対側の鉄製のフェンスに、“突き刺さった”。


「すご・・・っ」

「ん~。まあ、そうなっちゃうか」

度肝を抜かれた僕を他所に、星さんは想定した通りと言わんばかりだった。


「じゃあ、記録は・・・」

「『時速』なら、ちゃんと測定出来たわ」

どうやら、投擲距離とは別に、射出速度を機械で計測していたらしい。


「あはっ、凄いわね」

星さんが珍しく、驚きの声を上げた。


「どのぐらいなんですか?」

「何と、『331km/h』よ」

・・・え。


「はぇー」

当の真理奈は、やはり何処か実感がないようで。


「いや、そんな・・・」

如何なスーパーガールとはいえ、人間の女の子が投げたボールが。

何と、新幹線とタメを張る速度を叩き出した事になる。


「勿論、あくまで最高速地点の記録よ。野球の『19m』換算だと、もう少し落ちるわ」

そうは言っても。


ピッチャーマウンドから投げたボールが、キャッチャ-ミットに収まるまで。

単純計算で凡(およ)そ、たったの『0.2秒』しか掛からない事になる。


恐らく、投げた瞬間に打者が振っても、バットが届く前に通過している。

もしコントロールが乱れて少しでもキャッチャーミットを外せば、捕手は無事では済まない。


「ねぇ、紅世さん。その【圧縮】って、どのぐらい維持出来るの」

「え・・・っと、その。多分ですけど、数日は行けると思います」

とは言え、真理奈の成長具合によっては、不意に『解除』されてしまう事もある。

実際、僕は真理奈の自宅で“それ”を経験してしまっている。


「星さん」

「何かしら」

ようやく、星さんが僕に測定させた意味を理解した。


「最初から、そのつもりだったんですか」

「うーん。今後の事を、色々と考えたのは確かね」

真理奈のバイトは“当面”、数値測定がメインになるだろう。

その際、僕という事情を知る者が居れば、助手的に使えると思った。


でも、それ以上に。

僕や真理奈に、“現状”を理解させる意味合いが大きかったのだ。


高校での学校生活なんて、体育授業だけでなくとも身体を動かす機会は多い。

そこで、もし不意に力が入ってしまったら。突然、【圧縮】が『解除』されてしまったら。


「でも、力加減は星さんが真理奈にレクチャーしてくれているんじゃ・・・」

「力加減が出来る事と、事故を起こさないことはイコールじゃないわ」

逆に言えば、そういう忠告をせざるを得ないぐらいの状況になりつつあるということ。


真理奈は未だ、パワーアップを続けている。

いつか何処かで、僕たち一般人とは明確な線引きをしないといけない。


ひょっとしたら、いつかそんな日が来るかも・・・知れない。

僕は、記録に一喜一憂する真理奈を尻目に、独り思案するのだった。


More Creators