筋肉ダメイド拡大記08「車庫入れ」
Added 2025-02-04 15:00:00 +0000 UTC「ただいまー」
僕は外出から、やっと帰宅した。
「・・・ふぅ」
玄関に座り込み、一息付く。
「流石に、【9XL】なんて有る訳が無いよなぁ・・・」
主だった用向きとしては、芽衣子の外行きの衣装探しだったんだけど・・・。
やはり、『吊るし』では良い物は見付からず終いだった。
「あれ、芽衣子?」
いつもなら、僕が外から帰宅すれば必ず出迎えてくれるんだけど。
一向に、姿を現す気配がない。
ズゥンッ!!
「・・・っ!?」
すると突然、何か途轍もなく重い物を置いたかのような、振動。
「ひょっとして、芽衣子?」
僕は慌てて、振動が起こったと思われる方に向かう。
ウチの家は、裏手の方が道が広いこともあって、裏口側に車庫がある。
裏口と直結しているから出入りは困らないんだけど。
「でも、何で車庫に・・・」
ウチで運転免許を持っているのは、両親と僕だけ。
とは言え、僕自身もペーパードライバーで滅多に運転しない。
「そういや、芽衣子って免許持ってたっけ・・・」
僕は恐る恐る、裏口のドアを開ける。
「あら、ご主人様。もう、お帰りになっていたんですね」
芽衣子は、『お迎え出来ず、すみません』と頭を下げた。
「いや、それは良いんだけど・・・」
車庫のシャッターが全開になっていて、敷地的には外に芽衣子が立っていた。
Tシャツとスカートを身に纏っているので、格好的には問題ないんだけど。
通販の一発目で届いた【10XL】のTシャツと、無骨なスカートで。
実際、年頃の女子に着せるのは申し訳なく思う。
「こんな所で、どうしたの?」
芽衣子のメイド仕事は、ハウスキーパーがメイン。
それはあくまで、母屋の中だけの話。
小さいとはいえ庭の手入れや、車庫の掃除は本来なら業務範囲外の筈。
「あ、いえ。その・・・」
「まーた、ウチの両親か・・・」
どうやら、またしてもウチの両親が芽衣子に直接、仕事を振ったらしい。
いや、まあ雇用主なんだから、何もおかしい事はないんだけど。
「経過報告していたら、『車庫の掃除をお願いしたい』という話になってしまって」
経過報告というのは勿論、『神のプロテイン』の効果について、だろう。
「そんなの、断っても良かったのに」
「いえ、ご主人様にも衣服の件などでご迷惑をお掛けしていますし」
破いてしまったメイド服等の衣装代やら、何やら。
それの補償も含めた特別ボーナスと、海外製の特大サイズな服を諸々。
芽衣子としては破格の取引だったようで、二つ返事でOKしたらしい。
「・・・ふぅむ。まあ、芽衣子が良いなら問題ないんだけど」
「すみません」
僕としては、ウチの両親に無理強いされてないか、心配だったけど。
「あ、いや。別に芽衣子を責めている訳じゃないんだ」
雇い主と芽衣子の間で取り交わした契約なら、僕が口を出すべきでもない。
「・・・・・ん。てか、“どうやった”の?」
「・・・?」
僕の“違和感”に対し、当の芽衣子はキョトンとした表情。
「芽衣子って、免許は持ってなかったよね?」
「はい」
この点については、僕の記憶は正しかった模様。
今、この家で自動車を運転出来るのは、僕のみ。
自家用車は、当然ながら両親の持ち物なんだけれども。
色々な車歴を経て、最終的にワンボックスカーに落ち着いた。
言い訳をするなら、僕がペーパードライバーなのはそれにも一因している。
只でさえ普段から乗り慣れないのに、ワンボックスカーなんて扱い辛くて乗る気になれないのだ。
「“それ”、どうやって出したの?」
そのワンボックスカーは今、車庫の外に完全に出ている。
いや、正確には“出されている”というべき、か。
ウチの家は別に、坂の上に在ったりはしない。
なので、サイドブレーキを引き忘れて勝手に車が動く、なんて事態も起こり得ない。
「ご主人様をお待ちしようかとも思ったのですが」
最初は、僕の帰りを待とうとしていたらしい。
「あー。今日は遅くなるかも、って伝えてあったね・・・」
芽衣子の着られる服を探したい事もあってか、普段よりは遅い帰宅になった。
「折角、ご主人様が私の服を探して下さっているのに、じっとしてられなくて」
家事や炊事の準備を全て、終えてしまって。
手持ち無沙汰になるぐらいなら自分でやっちゃおう、となった・・・らしい。
「『キー』は・・・あ、有った」
車のキーは、専用の棚の引き出しに元のまま入っている。
そもそも、車のドアが開いた形跡も、ない。
「ひょっとして・・・」
「はい♪」
芽衣子は、誇らし気に肩の高さで右腕を折り曲げる。
相変わらず、凄まじいばかりの隆起を見せる、芽衣子の力瘤。
モリモリッ・・・モゴォッ!
通販で届いて多分、そんなには着ていないであろう、【10XL】のTシャツ。
袖口がどれだけ広かろうが、『125cm』もの超絶剛腕を収める事は・・・。
ミチ・・・ミチチ、ピリィッ。
「・・・あ」
・・・出来なかったようだ。
『180cm(Kカップ)』という、超爆乳ですら収めてしまえたTシャツですら。
袖口に限って言えば、どんなに余裕を持った縫製でも『100cm』ぐらい迄が関の山らしい。
「す、すみません~」
僕に買って貰ったTシャツを速攻で破いてしまったせいか。
真理奈は涙目になっている。
「あ、気にしないで。どうせ、部屋着のつもりで買ったんだし」
未だ、成長の余地を残す芽衣子の筋肉の事は一先ず、置くとして。
「じゃあ、やっぱり・・・」
「出来なければ、直ぐにヤメようと思ったんですが・・・」
“出来ちゃった”訳、か・・・。
携帯で検索した限りだと、ウチのワンボックスカーは『1850kg』ぐらいの車重らしく。
芽衣子は、“それ”を人力で動かした、ってことになる。
「でも、具体的には、どうやったの?」
昭和のテレビショーとかだと、力自慢がトレーラーを引っ張る、なんてのはあった。
バンパーに頑丈なロープを繋いで、それを身体に巻き付けて。
全身の力を以ってして、数メートルぐらいの距離を引っ張る。
そう。
あくまで、引っ張るのが精々、精一杯。
「“こう”。いつもの、感じです」
芽衣子は、ワンボックスカーの横っ腹の下に両手を差し入れ。
そのまま、事も無げにスッと立ち上がる。
グアァァッ!
「・・・っ!?」
僕の目の前で、巨大なワンボックスカーが宙空に浮いた。
ロープやら、ジャッキやら。人類の叡智たる道具類は、一切使わず。
己の膂力のみで、芽衣子はワンボックスカーを持ち上げた。
「そういや、“いつもの”って・・・」
いつも、って。そもそも、何を指して言ったんだろうか。
以前、確かに軽トラを持ち上げたことはあったけど・・・。
ワンボックスカーなんて、軽トラの倍以上は重い筈。
「服を破いてからは通えてないんですけど・・・」
そう言えば、そうだった。
芽衣子は既に、『プラチナジム』で『900kg』超えのバーベルを持ち上げるんだった。
しかも、あくまでジム内での最大ウェイトであって。芽衣子自身の限界重量ではなく。
『バーベルカール』という反復運動を、その超高重量で以って、片手で行うのだ。
「重く、なかったの?」
「重かったです」
そりゃ、そうだろう。
「丁度良い感じの、重さでした♪」
「は、はは・・・」
マジ、か。
五人以上の人間を載せて運ぶ、巨大な鉄の箱を。
芽衣子は持ち上げ。歩いて運んだ、ってことになる。
いや、今まさに、目の前で“それ”を披露してくれた訳なんだけど。
「でも、何でまた、車庫の掃除なんて言い出したんだろう」
まさか、芽衣子の筋トレ用のウェイト替わりにしようって事なんだろうか。
「いえ、言伝を預かっていまして・・・」
「え、僕に?」
ウチの両親、息子への指示すら芽衣子を通すようになっていないか?
「『いい加減、偶には運転しろ』とのことです・・・」
「あー、うん。まあ、ね・・・」
実は、前々から僕自身も言われていたことだった。
僕が暖簾に腕押しなので、芽衣子を伝手に再度、通牒したらしい。
家具であれ、機械であれ。使わない物はどうしても、劣化が早くなる。
細かな機微の変化に気付かず、壊れる兆候を見逃すからだ。
「だから、運転を手伝ってあげて欲しい、と頼まれました」
「へ? 手伝うって・・・」
現に、芽衣子は運転免許を持っていない。
かといって、免許なしで運転出来るほど、ウチの敷地は広くないし。
「『車庫入れ』させてみたらわかる、と書いてらっしゃいました」
「車庫入れ・・・何で、また。そりゃ、得意じゃないけど」
ペーパードライバーに車庫入れは確かに、ハードルが高いけども。
「そこまで言うなら、まあ・・・」
車庫を久々に開けた、折角の機会ではある。
「じゃあ、やってみるよ。少し離れて見てて」
「はい♪」
芽衣子は嬉しそうに僕にキーを手渡し、離れた位置に立った。
「ふぅ、久々だな。オートマで助かった」
運転免許はマニュアルで取得してはいる。だけど今更、マニュアル車なんて運転出来ない。
「ご主人様、頑張って下さいー」
外から、芽衣子の応援の声が聞こえる。
僕は手を振って応える余裕を見せつつ、少しずつ車をバックさせて行く。
「いつ以来だろう。車検の時が最後だから・・・」
只でさえ不慣れなのに。油断からか、つい考え事をしてしまう。
ガクッンッ!
「う、おぉっ!?」
運転席が縦に揺れ、車が止まってしまう。
「あ、あれ・・・」
どんなにアクセルを踏んでも、駆動輪が回る音がするだけ。
前にも後ろにも、一向に動く気配がない。
「何だ、ろ。何で・・・」
「どうしました?」
運転席から降りた僕に、芽衣子が駆け寄って来る。
「・・・あ」
フラグを立てたつもりはなかったんだけど、初手からやってしまった。
車庫前の側道の脇に、雨水用の側溝があるんだけど。
何故かはわからないけど、そこの蓋が何ブロック分が外れていて。
「う、っそ・・・マジか」
物の見事に奇麗に、左後輪がピッタリと嵌っていた。
いわゆる、『脱輪』という奴だ。落輪、とも言う。
「大丈夫ですか?」
芽衣子が、心配そうに僕の顔を見る。
「僕は、大丈夫なんだけど・・・」
僕自身、身体に怪我はない。車庫入れで、速度自体が出てなかったことも幸い。
「うーん。ちょいと、やってみるか」
ギャリリリ。グギャリリリッ!
「何か、凄い音してますね」
「うーん。ダメ、か・・・」
どうやっても、車体が平行に戻る気配がない。
「これ、嵌ってしまってるんですか?」
「うん、そうなんだ」
空転してる訳ではなさそうだけど、側溝の幅とタイヤがピッタリなのか。
「じゃあ、私の出番ですね♪」
芽衣子は、両手でパンッと柏手を打って。
今度は僕に、離れた位置に居るようお願いして来た。
「まさか」
そう。そのまさか、だった。
「んっ、しょ」
芽衣子は屈み込むと、車体の下に両手を差し入れ。
少しだけグッと力むと直ぐ様、スッと立ち上がった。
まるで、何事も無かったかのようだけど。
その両手には、巨大な車体が載っている。
まるで、最初の車庫出しの映像が、逆再生されたかのように。
『1850kg』のワンボックスカーは、元あった位置に戻されたのだった。
「あー、脱輪を直すだけで良かったんだけど・・・」
「あ、すみませんっ!」
芽衣子はつい、やってしまったとばかりに頭を下げた。
「あ、いや。こちらこそ、ごめん。僕の失敗をフォローしてくれたのに」
まさか、久々の車庫入れでいきなり脱輪をやってしまうとは思わなかった。
「まさか。いや、そんな筈は・・・」
ウチの両親、もしかして・・・。
“ここまで”を想定して、芽衣子に手伝いを頼んだのだろうか。
「芽衣子。今度、時間作るから」
「はい?」
「車庫入れの練習、付き合ってくれない?」
「はい! いつでも、お手伝い致します」
芽衣子の外出着が揃ったら、二人でお出掛けなんてのも良いな。
と、僕は内心、そう思った。