女帝学園2「ボクシング部」
Added 2025-04-14 15:00:00 +0000 UTC経営難による、高校の統廃合。
経営母体を同じくするK学園。そして、K女学園。
通称、『K学』『K女』と云われる二校は、県下でも知られるスポーツエリート学校だった。
しかし、その大きな集団二つの合併は、様々な“軋轢”を生み出した。
その部室は、入口に『ボクシング部』と書かれた看板が掲げられている。
その中には、中心に大きなリングが鎮座していた。
「はぁ・・・はぁっ」
「・・・もう、終わり?」
眼鏡を掛けた小柄な少女が、四角いリングの中心で呟いた。
「く・・・ぅっ!」
一方で、その少女に対峙していると思しき男子が、肩で息をしている。
ヘッドギアに、タンクトップ。下には、ボクシングパンツを穿いている。
両手には10オンスのボクシンググローブという正装、フル装備。
「う、っそだろ・・・」
「主将が、一発も当てられないなんて」
リングの外で、何人もの部員たちが事の成り行きを見守っている。
ボクシング部の主将は、アマチュアながら男子ミドル級の高校王者。
175cm、74kgという恵まれた体格は、タンクトップ越しでもキッチリと絞り込まれている事がわかる。
「アンタみたいなのが高校王者なんて、ボクシングって大した事ないのね」
少女は、右手で眼鏡をクイッと直した。
何と、少女はグローブを嵌めずに裸拳でリングに上がっているのだ。
「このぉっ! いい加減、その“眼鏡”を取りやがれ!」
そう。
少女は更に、リング上であるにも関わらず、眼鏡を掛けたままだった。
服装は、ブレザーにスカートという制服姿のまま。
「・・・ふふ、くすくすっ」
「な、何がおかしいっ!?」
然(さ)も、“眼鏡のせい”で殴り辛いからパンチが当たらない。
という主将の言い訳を糾弾するかのような、嘲笑だった。
「いえ、ね。“実力差”も計れないぐらい盆暗なのか、って思っちゃって」
「て、てめぇっ!」「主将は、本気で殴ってなかっただけだっ」
観衆と化している部員たちから、怒号が飛ぶ。
「・・・ふぅ。わかったわ」
仕方ないと言わんばかりに、少女は眼鏡を外す。
ブレザーの内ポケットから眼鏡ケースを取り出して仕舞うと、ブレザーを脱いだ。
「「「っ!!?」」」
分厚いブレザーを脱いだ下には、学校指定のブラウス。
「なん、っだ・・・“それ”は」
しかし、部員たちを驚かせたのは、そのブラウス越しの肉体だった。
「私。“素人じゃない”けど、本当に良いの?」
年頃の女子高生らしいのは、小振りな胸元ぐらいで。
肩も、二の腕も。明らかに、鍛え込まれた筋肉で隆起していた。
「っけ。それは、こっちの台詞だぜ」
主将は、部員たちに目線で指示。
すると、部員たちは部室の扉や窓を全て閉め始める。
更に、カーテンやら厚紙やらで、外から窓の中を覗けなくしてしまう。
「これで、外からは見えない」
「ふぅん。いつも、“こうやって”たんだ」
ボクシング部が、あっという間に密室に早変わり。
「ここは、部室棟の端っこ。誰も助けは来ないぜ」
それはつまり、どちらかが倒れるまで、のデスマッチを意味していた。
「幾ら鍛えてようが、所詮は女子。ボコボコにして、泣かしてやる」
そんなガキ大将のような台詞を吐きながら、主将は構える。
「・・・そう。私は、いつでも良いわよ」
脱いだブラウスをコーナーポストに掛けながら、答える。
「そう・・・、かいっ!」
“後ろ向き”のままの少女に対し、主将は一気に距離を詰める。
「そりゃっ!」
ボクシング部らしからぬ、ダッシュした勢いのままの大振りパンチ。
ズドゥムッ!
「アンタ、馬鹿なの?」
「う、ご・・・」
少女は振り向き様に身体を翻し、テレフォンパンチを掻い潜り。
右フックを、主将のボディに叩き込んでいた。
「お・・・ぐぉ、ぁ」
たった一発のボディパンチで、主将はヨロヨロと後ろによろける。
「不意打ちするのに、叫んでちゃ意味ないじゃない」
尤も、である。
「く、くそ・・・っ!」
主将は攻勢に出ようとするも、足が動かない。
リング中央付近で、ヨタヨタと千鳥足な状態。
「・・・え、嘘。たった一発で、足に効いちゃったの・・・?」
「・・・なっ」
少女は心底、驚いているといった様子だった。
「あー、失敗した」
「何を、言って・・・」
「私、さ。不意に殴られると、つい反撃しちゃうの」
「・・・・・」
「これでも、“場数”だけは踏んでるのよね。だから、つい手が出ちゃう」
「場数って・・・。お前みたいな女、女子ボクシングで見た事ねぇぞ」
部員が、リング外から突っ込みを入れる。
「・・・あ、いや。まさか・・・」
「何だ、お前。知ってるのか?」
別の部員が、何かを思い出したかのような仕草をしている。
「もしかして、『鉄拳ホノカ』・・・か?」
「あら。知ってる人、居たんだ。眼鏡を外したの、失敗だったかな」
知る人ぞ知る、伝説のレディース。
「でも、さ。恥ずかしいから“それ”、ヤメてくんない?」
その名も、『鉄拳ホノカ』。
中学生ながら。女どころか、大人の男相手に只の一度も殴り負けなかった。
水戸穂香(みとほのか)。
石コロ程度なら、簡単に握り潰す握力。
その握力で握った拳を、鍛え込まれた上半身の筋力で只、殴り付ける
そんな単純な喧嘩戦法で、無事で済んだ相手は一人も居なかった。
「でも、何でお前みたいな伝説の不良がウチに・・・」
それは何故、県内有数の女子高に、という意味であり。
そして何故、男子ボクシング部に道場破り紛いの事を、という意味でもあった。
「だって。思いっ切り殴って来て良い、って言われたから」
「何だ、それ・・・」
「いつも、“こうやって閉め切って色々やってる”のバレてんのよ」
「「「・・・・・」」」
それまで饒舌だった部員たちが、途端に黙り込む。
「・・・な、何を言ってるのか、わかんないな」
「今更、トボけても無駄だよー」
穂香は、証拠は割れてる、と付け加えた。
『K学』ボクシング部は、何と拳闘賭博に手を染めていた。
他の底辺高校の相手や、街の不良たちを相手取り。
わざわざ学校の部室に呼び込んで、賭けボクシングに興じていたのだ。
『鉄拳ホノカ』の風評は、その時の噂話で聞いていたらしい。
「対外的にバレて炎上する前に内々で処理、って寸法」
毒を以て毒を制す、とはこの事だろうか。
部内の乱闘騒ぎで全員、病院送りという筋書き。
「ただ、さぁ。アンタらの主将、弱過ぎじゃない?」
「く・・・」
リング内に視線を戻すと、主将はやっと体勢を立て直していた。
雑談に興じていたのは、主将の回復を待つ為でもあったのだ。
「私、さ。久々に人を殴れると思って、ワクワクしてたの」
「このぉ・・・っ!」
リング外に視線を落とす穂香に、再び主将が不意打ち。
しかも、今度はしっかりと体勢を整えた、左ストレート。
・・・に見せ掛けた、右フック。
ズド。
「・・・な」
主将の渾身のフックは、確かに穂香のボディを捉えていた。
しかし、百戦錬磨で鍛え上げられた穂香の筋肉ボディはビクともしない。
「・・・で?」
恐らく、身長で10cm以上は差がある筈の両者なのに。
穂香の蔑む視線は、明らかに相手を見下したモノだった。
「やる気、出さないと・・・」
主将の学習しない、不意打ち。
それを敢えて受けてあげたのに、大した威力のないパンチ。
「・・・知らないわよ?」
それらを咎めるかのような、再びの右フック。
ズゴォッ!!
「うごぉぉっ!!?」
上背で勝る主将の足が、リング上で宙空に浮き上がる。
「う、が・・・ぁ、あ・・・」
ズシャッと着地するや否や、主将はリング中央で突っ伏してしまう。
「う、っそ。“まだ強かった”・・・の?」
それはまるで、手加減していたかのような物言い。
「ごめん、ごめん。もっかい。ね? もっかい」
もう一回、と。何と、穂香は無理矢理、主将を立たせる。
「お、おい。もう、その辺で・・・」
傍から見ても、主将は明らかにグロッキーだった。
息も絶え絶えで、視線もフラフラ。
「はい。こうやって、ガードを構えて・・・」
リング外の部員たちの制止は、何処吹く風。
無理矢理、ガードを構えさせ・・・
「っし!」
パァンッ!
何かが破裂したかのような、打撃音。
「・・・お、っと」
左ジャブを軽く放っただけで、ふっ飛んで行きそうになる主将。
「もうっ。ちゃんと、立って」
それをさせまいと、逆の手で直ぐ様キャッチ。
「し、しっ!」
パァパァンッ!
「ししっ!」
パパァンッ!
バキャッ!
「・・・あ」
主将の前腕が、『くの字』に折れていた。
しかも、両腕共に。
普通、人体は衝撃を受ければ、その方向に吹っ飛んで力を逃がす。
しかし今、主将の身体は穂香の膂力でガッチリと固定されている。
それは、壁を背に殴られているのと、同義だった。
力の逃げ場が無く、主将の腕が壊れるのは時間の問題だった。
「てめぇっ」「このぉっ」
流石に、部員たちはリング外ではじっとして居られず。
怒号を上げながら、リングに乗り込んで来る。
「ふふ♪ そうこなくっちゃ」
実質、たったのボディ二発で沈んだ主将をポイッと捨てると。
まだまだ殴り足りないと、いきり立つ部員に向き合う。
「死ねぇっ」
高校生らしからぬ掛け声と共に、部員の一人が殴り掛かる。
「きゃー、怖ーい」
可愛らしい声と裏腹に、穂香は右ストレートを放つ。
ズガァッ!
「うぼぁっ」
その部員の顔面に突き刺さった拳は、鼻骨を粉砕。
部員の顔に、拳大のクレーターが出来上がる。
「こんの、クソアマ・・・ぶがっ!」
言い終わる前に、穂香のアッパーカットが顎を突き上げていた。
人が、縦に飛んだ。
「ひぃっ!」
「顎が、グシャグシャに砕けてやがる・・・」
そこからは、阿鼻叫喚だった。
手加減しても無駄、と悟った穂香は。
渾身の力で、殴り続けた。
敢えて拳を狙って殴り、衝撃で前腕を開放骨折させたり。
敢えて太腿を狙い、大腿骨を二つ折りにしたり。
穂香の鉄拳を喰らう度に、男子部員たちの身体は破壊されて行った。
「・・・ぅ、う」
「痛ぇ。痛ぇよぉ」
大半がノビているが、意識がある者も皆、痛みに悶えていた。
「何で、お前みたいな元不良が生徒会やってんだよ」
「何で、って。スカウトされたから、よ」
水戸穂香は、中学生にして向かう所敵なし・・・だった。
しかし、中学三年生の時。
当時、同じ中三だった『今の生徒会長』に出遭ったのだ。
「世の中って、広いのよね。“この人”には敵わない、って思っちゃった」
「そんな。お前より強いのが、居るのか・・・」
男子を一撃で殴り飛ばし。
あまつさえ、その男子のパンチを喰らってもビクともしない。
こんな鉄拳無双の筋肉少女を、遣り込める者が他に居るというのだ。
「何か、ウチの会長を囲んで襲うって噂があるけど・・・」
「・・・・・」
相撲部に続き、ボクシング部を潰した生徒会。
当然ながら、他の部活にも手を出している。
報復があっても、おかしくはない。
・・・しかし。
「会長に手を出したらどうなるか、今から楽しみ♪」
「・・・・・」
生徒会長の無事を心配するのでも、なく。
まるで、不良同士の抗争を楽しみにするかのような。
そんな不敵な笑みを、穂香は浮かべていた。
それを見た男子部員は、後になってから。
病院のベッドの中で自分たちが如何にマシだったか、を知る事になる。
Comments
感想ありがとうございます。 元々、生徒会の設定は幾つか起こしていたのですが、ずっと手付かずになっていました。他作品も含め、出来る限り要望には応えて行きたいと思っています。
デアカルテ
2025-04-15 05:44:18 +0000 UTC待望の女帝学園の続編...!!今回は前回の女性とは対照的で小柄で打撃系でしたね!男子ボクサー相手にボクシングを教えてあげるとことか興奮しました(°▽°) そしてより生徒会長がどれだけ凄まじい存在か気になりました!(生徒会メンバーはあと何人いるのでしょう)
Nogi_(°Д°)
2025-04-15 03:23:36 +0000 UTC