「ねぇ、ミイコさん。今日は多い・・・ね」
「勿論♪ だって、今日は月に一度の『肉の日』ですもの」
そう言って、ウチの奥さん・・・ミイコさんは食卓にこれでもかと料理を並べた。
野菜やスープにご飯、一般的なメニューが並ぶ。
しかし、食卓の大半を埋めるのは肉、肉、肉・・・。
“職業柄”、鶏肉が多めだが牛や豚は勿論、揚げ物も大量に並んでいた。
「いや、だけど・・・」
「どうかして?」
あ、いや・・・と俺は口籠ってしまう。
「さ、食べましょ」
「あ、ああ・・・うん」
俺はミイコさんに気圧されるように、言われるが儘に食卓の肉に箸を付けた。
「う、っぷ・・・」
減らない。幾ら食べても、全く減る気配がない。
「これ、何キロあるの?」
「えーっと、2キロ・・・かな」
2キロの肉。因みに、これは食卓全部を指して、ではない。あくまで、“一人分”。
一人あたり、2キロ。合計、4キロもの肉が所狭しと食卓に並ぶ。
「食べる楽しさを教えてくれたのは、アナタじゃない」
「ああ、そうなんだけどさ・・・」
ミイコさんの皿からはどんどん、ハイペースで肉が減って行く。
箸が文字通り走る度に、ミイコさんの全身がモリッ、モリッと躍動する。
ピリ・・・ピリリッ。
「あ。また、ヤッちゃった」
「え、また・・・?」
“音”がしたのは、ミイコさんの二の腕あたり。
「腕、もしかして“また太く”なった・・・?」
「あー、うん・・・そうかも。このシャツも、もうダメかな」
ミイコさんは右手の箸は止めずに、左腕を肩の高さで折り曲げる。
「・・・ん」
ミイコさんが軽く力むと、
ビリビリ、ビリィッ!
とシャツの袖口が弾け飛んだ。
右手に握られた箸は変わらず、ミイコさんの口に肉を運ぶ。
弱冠22歳の若妻による、片手間な“袖破り”。
「・・・・・」
ボウリング球のように大きな力瘤が、二の腕にこんもりと盛り上がっている。
血管がビキビキに走り捲った、惚れ惚れするような上腕二頭筋。
脂肪が少な目のいわゆる“キレッキレ”の力瘤なのに、大きさも凄い。
確か、前に測った時は69cmだった。ということは、今はもう70cmを超えていてもおかしくない。
推定、70cmオーバーの剛腕。
因みに、ミイコさんの職業は『専業主婦』である。
「虎雄さんも、パフォーマンスでやれば良いのに」
「あ、ああ。機会があれば、ね・・・ははっ」
俺は、ミイコさんの提案を適当に流した。
ってか、力瘤で袖破りなんて俺には出来ない。
職業がレスラー、つまりは『プロレスラー』な俺でも、だ。
熊野虎雄、27歳。
如何にもな厳(いか)つい名前だけど、本名だったりする。
『マッスルベアー』のリングネームでリングに上がる、プロレスラー。
元々、プロレス好きだったミイコさんに俺は惚れ込んで、猛アタックの末に結婚した。
ミイコさんは愛嬌のある笑顔が素敵なのだが、一番のチャームポイントは座っただけで食卓にドンッと載る爆乳。
そんな膨(ふく)よかさに惚れ込んだ、と言っても過言ではない。
そんな俺と、プロレス好きなミイコさん。
下世話だが、どちらも相手の“カラダ”に一目惚れだった。
「まあ、考えてみるよ・・・」
“服破り”のパフォーマンスは、ミイコさんが観戦してた時に何度かやった経験はある。
だけど実際は、着ているTシャツを自分の手で破る程度、だ。
勿論、Tシャツを手で破ること自体、それ相応のパワーは必要なのだが・・・。
手を使わずに筋肉の隆起だけで服を破るなんて所業は、今の今までお目に掛かったことは無い。
いや、“無かった”が正しいか・・・。
「もし、私が“やって”って言ったらどうするの」
「え、そりゃあ・・・」
どうしよう。
実は、その先に続く言葉を俺は持たない。
熊野家には、『肉の日』限定で“とあるルール”がある。
ルールは単純明快。
【力比べ】で相手を負かせば、一ヶ月間相手に言う事を聞かせられる、のだ。
とは言うものの、どちらかというと当初は夫婦生活を円滑に進める為のモノだった。
当たり前だが、レスラーの俺にミイコさんが勝てる要素は皆無だったからだ。
レスラーの体型維持の為に肉料理を多くして欲しい、とか。
カロリーを多めに採りたい、とか。
そう言った夫婦間の要望を上手く伝える手段、だった。
数ヶ月に一度は敢えて、ワザと負けたりもした。
夫婦間のスキンシップを増やし、そのまま“夜の生活”に雪崩れ込む。
そんな目的もあった。
「食べた後、また“やる”んでしょ?」
「え。あ、ああ・・・」
勿論、【力比べ勝負】の話だ。
またしても、ミイコさんの迫力に俺は気圧される。
誤解のないよう言っておくが、レスラーとしての俺は決して弱くない。
178cm、111kg。これでも、プロレス界隈ではパワーレスラーで通っている。
ミイコさんも、新婚当時はそこまでじゃなかった。
確か、身長は170cmぐらい・・・だっただろうか。
女子としては高い方だが、決して高過ぎるという訳でもなく。
当時、女子高生だったミイコさんは学生に有りがちな瘦せぎす、ではなく。
どちらかというとポッチャリな、肉付きの良い体型だった。
試合中のリング上からでも、スタンドで観戦するミイコさんの『Kカップ』爆乳は目立って見えたぐらいだ。
「どうしたの、胸ばっか見て」
「ああ、いや・・・」
今でも、ミイコさんの胸は大きい。
爆乳と言って良い、大きさは保ったまま。
「アナタ、胸好きだもんね♪」
夫婦なので、別に胸を見ていても問題はない。
“夜の生活”も、胸に飛び込む所から始めることが多い。
「・・・あ。でもぉ、『Jカップ』に減っちゃった」
そう言ってミイコさんは、はにかんだ。
「ゴメン、ね・・・てへ♪」
相変わらず、笑うと愛嬌があって可愛い。
「アンダーバストが増えちゃったのよねぇ・・・」
「幾つになったの?」
「えーっと、『101』」
「え、1メートル・・・?」
うん、とミイコさんは頷いた。
若妻(22)のアンダーバストが、『101cm』・・・。
因みに、俺の胸板は『110cm』。
職業レスラーの胸板と比べて、僅か『9cm』差の専業主婦・・・。
『Jカップ』って事は、トップバストは『134cm』っていう事になる。
「もしかして、体重も増えた・・・?」
「あー、ひっどーい」
プンプンッとミイコさんは腰に手を当てて、怒ったジェスチャーをした。
それはまるで、ボディビルの『ラットスプレッド』ポーズみたいになって。
「幾ら奥さん相手でも、聞いて良い事と悪い事があるんだぞ」
上半身の筋肉が一段、モリッと盛り上がり。
シャツのあちこちから、ピチピチッと生地が張り詰める音が聞こえて来る。
(・・・『153kg』)
「・・・え」
ボソッと、ミイコさんが呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「・・・・・え」
・・・・・『153kg』?
聞き間違い、だろうか。
俺は何とか、聞き返そうとするのをギリギリで堪えた。耐えた。
え、え。
レスラーの俺より、主婦のミイコさんの方が40kg以上も重い・・・のか?
「ミイコさん。今って、身長は幾つだっけ?」
「え、身長? この前、ジムで測った時だと・・・『183cm』だったかなぁ」
いつの間に抜かれたんだ・・・。
だって、元は俺の方が8cmは高かった筈なのに。
昨今の研究で、身体的な成長は24、25歳ぐらいまで、という研究結果がある。
レスラーは身体が資本なので、そういった知識も俺は仕入れている。
そう、ミイコさんの肉体は未だに成長を続けているのだ。
元は、俺のレスラー食事に付き合わせてしまう代わりに、筋トレで体重抑制しようというのが発端だった。
ミイコさん自身も昔から肉が付き易く、体重が増えがちだったので、二つ返事でオーケーだった。
「今って、何キロぐらいで挙げてるの?」
「今は・・・えっと、『100』でやってる」
え、・・・『100kg』?
「それって、『ベンチ』だよね?」
「うぅん、『カール』」
・・・え、『カール』で『100kg』!?
『ベンチ』とは通常、トレ界では『ベンチプレス』を指す。
専用の台に寝てウェイトを持ち上げ、主に大胸筋や上腕筋を鍛える。
一方、『カール』とは『アームカール』『バーベルカール』と呼ばれる筋トレ。
バーベルを逆手で持ち、両腕でバーベルを挙げ下げする運動のことだ。
重量挙げと違い、あくまで反復させるトレーニング運動なので、限界重量を競うモノではない。
熟練のトレーニーでも、50kg程度を挙げられれば充分凄い、となるぐらいだ。
『“片手”でやるなら、それ以上のウェイトはダメです』
「ってインストラクターさんにキツく怒られちゃった」
「・・・え。片、手・・・?」
片手。ワンハンドカール。
「それ、ダンベルカールの話?」
通常、片手でバーベルは取り扱わない。
というか、重くて危険なので、インストさんの言葉は正しい。
「ううん、バーベルだよ。だって、ダンベルだと物足りないんだもの」
それって、つまり。
職業奥さんな22歳女子が、片腕で『100kg』のウェイトを反復して挙げてるってこと・・・?
『100kg』なんてバーベル、俺でもカールさせるのは至難の業。
いや、試したことは無いんだが・・・。
もし、やるなら腕の故障覚悟で挑むことになる。
レスラー生命を賭けてまで、やりたくない。
「だから、今日の“勝負”は私が勝ったら家にトレーニングルームを作って貰うわよ」
いつの間にかミイコさんは食べ終え、食器を片付け始めていた。
繰り返すが、ミイコさんは専業主婦である。
女子高生時代もプロレス観戦が趣味で、特にスポーツはやっていなかったらしい。
体育の授業も成績が悪く、得意じゃなかったと前に聞いたことがある。
そのことからも、ミイコさんにスポーツの才能は無かったと言える。
しかし、ミイコさんは『フィジカルエリート』だった。そうとしか、考えられない。
食べれば食べた分だけ、鍛えれば鍛えた分だけ。身体がそのまま、いや普通以上に、異常に反応する。
運動神経的な意味で身体を動かす才能は無かったかも知れないが、身体を作る才能が有った、ということだ。
レスラーの俺からすると、羨ましい事この上無い。
レスラーと主婦の身体比較とは、とてもじゃないが思えない。
そんな、数値。
プロレス好きイコール筋肉好き、という訳ではないんだろうが。
ミイコさんは筋肉が好きで、『筋肉系女子』とでも言えば良いんだろうか。
そのミイコさんの“筋肉欲”は、俺と結婚したことで満たされたと思っていた。
いや、きっと最初は満たされていた筈・・・が、いつしか物足りなくなり・・・。
『もっと、一杯鍛えたい!』
ある日、ミイコさんはそんなことを言い出した。
通い始めたダイエットメインのスポーツジムを辞め、“ガチ”で有名な『プラチナジム』に移籍。
一流のトレーニーが集う大手ジムな事もあり、直ぐに音を上げるだろうと思っていたのに。
「食べるのも楽しいけど、鍛えるのはもっと楽しいの」
ミイコさんは食べる楽しさを覚え、鍛える楽しさも覚えてしまった。
この2キロの肉の食事にしても、そうだ。
『肉の日』以外は何とか懇願する形で1キロ未満に抑えて貰っている。
プロレスも昔とは違い、それ程稼げる商売では無くなっている。
流石に毎日、キロ単位の肉を食べる余裕は我が家計には無いのだ。
そこに更に、トレーニングルームを作るなんてことになったら、家計がどうなるやら・・・。
「うぇ、っぷ・・・。良し、やるか」
ミイコさんから二十分遅れで何とか肉を平らげた俺は、ようやく覚悟を決めた。
【力比べ】が出来レースではなく、“勝負”の様相を呈して来たのはいつからだったろうか。
最初は負けて“あげていた”のが、いつ間にか、互角になり。
手を抜いて負けた翌月に意地になって勝った、と思ったら。
その翌月に、簡単に負け返されたり。
ミイコさんの身体が大きくなるのに比例するように、勝敗が偏り始め・・・。
俺が最後に勝ったのは、いつだっただろうか・・・。
昔は、『ミイコ』って呼び捨てにしていたのに。
気付いたら、『ミイコさん』呼びになっていて。
そうなったのは、いつからだろうか。
「種目は、どうするの」
前回の敗者が、【力比べ】の種目を決定するルール。
「そうだ、な・・・」
食卓を片付け、広くなった居間に大柄な二人の男女が立って並ぶ。
身長は似通っているので、同じビッグサイズのTシャツに短パンというラフな格好。
それだけに、身体の厚み・・・というか、密度の違いがありありと感じ取れる。
本気で相対するとなって初めてわかる、ミイコさんの身体の凄さ。
首の太さや僧帽筋の盛り上がり、肩の三角筋の出っ張り具合。
直立しているのに脇が広がっているので“気を付け”の姿勢になっていない。
爆乳の下の大胸筋と上腕二頭筋がぶつかり合っているせいだ。
そして、その脇の隙間からは、まさかの広背筋が見えていた。
背後に回るまでもなく、分度器を上下逆さまにしたかのような広背筋の凄さは正面からでもわかった。
その大きな上半身を支える下半身もまた、太く逞しかった。
大腿四頭筋の内の一本分だけで大人の男の腕ぐらいありそうな、特大のラグビーボールのように大きく発達した太腿。
下腿三頭筋(カーフ)は、足の後ろにヤシの実でも取り付けたかのように膨らんでいた。
俺がミイコさんに勝っているのは、数値上はウェストぐらい。
因みに、同じTシャツなのに胸周りの差で丈が足りず、ウェストが完全に露わになっていて。
そのウェストに関しても、ボコボコボコッと盛り上がる腹筋の厚さは一流のレスラー以上。
「・・・・・っ」
このミイコさんの超絶筋肉ボディに果たして、俺は何を以って挑めば良いんだろうか。
「腕ずも・・・いや、手押しずも・・・いや」
腕相撲も手押し相撲も、既に何度か挑んで敗北を喫している。
「ねぇ、早く決めてよ」
「・・・そうだ」
ここに来て、俺は新たな種目を思い付いた。
「『太腿相撲』なんてのは、どうだ?」
「“太腿相撲”・・・?」
やり方は、単純。
二人で寝転がり、お互いの太腿を絡ませるように挟み合う。
いわゆる、『足4の字固め』をお互いの左脚に掛け合いつつ、踵を極めない状態。
後は、太腿に力を入れ合ってギブアップした方が負け、なルール。
「ふぅん、まあ良いけど」
ミイコさんは渋々というか、良くわかっていない風だった。
跳んだり蹴ったりするレスラーと違い、主婦なんて普段、脚の力なんて使わない。
まして、寝た状態だ。寝技を受けた経験も、掛けた経験も無い筈。
腕の太さも腕力も正直、負けを認めざるを得ないところだが。
脚に関しては、まだ“余地がある”。俺は、そう踏んだのだ。
昔、筋トレ雑誌の企画で、競輪のトップ選手と対談した事がある。
その選手は競輪界一の太腿を持っていて、太さは『74cm』だった。
俺は、それを上回る『77cm』もの太さがある。
『111kg』な俺自身の巨体を、ロープワークでジャンプさせる脚力を有する。
実際、太腿の数値差は、たったの5cm。
足の筋力の使い方を知っている俺の方が有利・・・な筈だ。
「きゃ、くすぐったい♪」
“夜の生活”でも普段こんな態勢は取らない。
ミイコさんは慣れていないのか、肌同士の感触で悶えた。
「もう、変な気分にさせて油断させようって魂胆じゃないでしょうね」
「ち、違うぞっ」
俺は、今回の勝負に生活も男のプライドも賭けている。
ミイコさんには悪いが、真剣度が違う。
“夜のプロレス”に勤しむ余裕は残念ながら、無い。
「さぁっ、行くぞっ!」
勝負開始、と言わんばかりに俺は号令を掛けた。
ギュ、ギュウゥゥゥッ!!
「・・・ぅ!?」
メキメキ・・・メギメギメギィッ!
「う、ぎゃあぁぁぁっ!!!」
俺は余りの激痛に“つい”、床をバンバンッと叩いてしまった。
「あれ? もう、“ギブ”?」
「あ、いや、ちが・・・」
曲がりなりにもプロレスラーが勝負開始たった数秒でギブアップなんて、許されない。
「い、今のはつい・・・そう! つい、条件反射でやってしまっただけだ」
さっきのは、只の条件反射。
「ま、まだまだやれるぞっ!」
意志を持って、負けを認めた訳じゃない。
しかし、――この時。
素直に負けを認めていれば、“ああ”はならなかったかも知れない。
文字通り、プロレスラーである自分自身の“条件反射”を信じるべき、だった。
何故、“条件反射”が起きたのか。
どうして、咄嗟に“タップ”してしまったのか。
「・・・じゃあ、“もっと強く”締めるね」
「・・・・・え?」
ミイコさんは、驚くべき台詞を吐いた。
『もっと、強く』だって?
じゃあ、さっきまでのは全力じゃなかった、とでも言うのか。
現役のプロレスラーを条件反射とはいえ、一瞬でタップさせてしまうような強烈な圧力が。
まさか、全力じゃない!?
「・・・んぅっ、んんっ!!」
ミイコさんは今日初めて、“渾身の力”で以って、力んだ。
モリモリモリ、モゴゴォッ!!!
「ちょ、ま・・・っ」
俺の左脚を挟むミイコさんの両腿が、二倍もの太さに膨れ上がった。
比喩ではなく、大腿四頭筋それぞれが倍増。五割増しじゃ、利かない。
ラグビーボールが、“大木”にクラスチェンジ。そのぐらい、超極太な太腿。
メギメギャ・・・ボキボキボキッッ!!!
「うぎゃあああぁぁっっっ!!!?」
「え、ちょっ・・・虎雄さんっ!?」
俺は激痛で薄れる意識の中、自分の太腿の惨状を見た。
俺の太腿・・・いや、下半身はミイコさんの二本の超絶極太腿で埋め尽くされていた。
これがもし、陣取りゲームだったら明らかな、完全敗北。
第37回【力比べ勝負】
◆太腿相撲 時間無制限一本勝負◆
ミイコ ○ 1分7秒(太腿潰し) ● 虎雄
俺の左腿は、ミイコさんの大木のような太腿に圧し潰され、食卓の・・・木製の足ぐらいの太さしか残されていなかった。
俺の自慢の太腿は、見る影も無くなっていた。
人間の太腿って、“ここまで”太くなるものなのだろうか。
“こんなにまで”なれるものなのだろうか。
そもそも、身長差が“たった5cm”なのに、体重が『42kg』も差が付いている意味。
ミイコさんは、『Jカップ』の爆乳。大きなバストはそれだけでかなり重く、両胸で5kg程。
じゃあ、残りの37kgは?
力瘤の20cm差は確かに大きい。
だけど精々、見積もって10kgにも満たないだろう。
純粋な胸板や、ウェストはミイコさんより俺の方が太い。
体幹ではそんなに差は無い筈。
・・・なら、残るのは。
そう、脚。正確には、太腿。それしか無いのだ。消去法で考えても、自明の理。
脚は、腕の三倍の筋力がある、という。
後から知ったことだが、ミイコさんは『レッグプレス』で『500kgのウェイトを何度も反復させるらしい。
『カール』と同様、“片脚”で熟(こな)してジムのインストさんを呆れさせたらしい。
因みに、俺はその話を『病院』で聞かされた。
左大腿骨の粉砕骨折で、全治六ヶ月の重症。
プロレス団体の社長にはプロの自覚が無い、とこっ酷く叱られた。
正直、返す言葉も無い。
「お前の嫁さん、ひょっとしてプロレスの才能あるんじゃないのか?」
「いや、はは・・・」
俺は、笑って誤魔化すしか無かった。
クラッシャー・ミイコ。
そんな馬鹿げた、だけど現実味のあるリングネームを思い付くも。
俺は、それを心の中に閉まって置くことにした。