肉の日のミイコさん02「一年後」
Added 2025-07-28 15:00:00 +0000 UTC「ねぇ、ミイコさん。ホントに、やるの?」
「ええ。だって、ずっと楽しみにしていたんですもの♪」
ミイコさんの目は、爛々と輝いている。
そう。
今日は、久し振りの『肉の日』。
正確には、我が家で『肉の日』に開催される【力比べ勝負】。
「そ、そうだよね」
食卓に着く俺は一人、未だ大量に残る肉を頬張っている。
熊野虎雄、28歳。
『マッスルベアー』のリングネームでリングに上がる、プロレスラー。
・・・だったのだが、少し前までリングから遠ざかっていた。
食卓から少し離れた所に居るのは、我が妻。
自慢の奥さん、ミイコさん。肩書は、専業主婦。
ギィッ、ギィッ。
「・・・ふっ、ふっ」
ミイコさんは、既に食事を終えていて。
自身の分の食器洗いも、完了済。
ギィッ、ギィッ。
「・・・ふぅっ、んっ」
時間を持て余したのか、部屋の一角で“食後の運動”に勤しんでいる。
ワンフロア二十畳もある、リビング兼ダイニングの大部屋。
その大半が、色々な器具で埋め尽くされていた。
「う、っぷ・・・」
相変わらず、減らない。幾ら食べても、全く減る気配がない。
プロレスラーとしては食べるのも仕事なのだが、それでも多過ぎる。
「・・・・・」
イマイチ、食が進まないのは何も量だけの問題ではない。
前回、と言っても“あの一件”から一年近くが経過したけど。
『太腿相撲』の結果、家にトレーニングルームを導入する事になった。
・・・いや、した。
導入した・・・筈、なんだ。
トレーニングルームとして宛がった六畳の部屋は、既に一杯で。
この居間にまで、トレーニング機器が侵食を始めた。
大怪我で入院していた、およそ半年の間に。
いつの間にか、共有空間である居間は“妻の私物”で溢れ返っていた。
ガシャンッ、ガッシャン。
「んぅ、っん」
ミイコさんは、さっきからバーベルを挙げている。
いわゆる、バーベルカールという筋トレ運動。
「“それ”、また増やした?」
ミイコさんは、軽やかに挙げているが。
持ち上げている物体は、とてもじゃないが軽さとは正反対な代物。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」
挙がっているバーベルには、無骨なウェイトが何枚も搭載されていて。
ざっと見積もって、『120kg』は有ろうかというバーベル。
「だって、物足りないんですもの」
ミイコさんは、それを“片腕だけ”で上下させる。
どんな怪力自慢なレスラーでも、片腕で挙がるようなウェイトではない。
・・・ピリッ。
「・・・あ」
ミイコさんの二の腕が丸々と、大きくなったかと思うと。
ピリリッ!
「あぁ~・・・あ。やっちゃったぁ・・・」
Tシャツの袖が、上腕二頭筋の隆起に耐え切れず裂けてしまった。
「このシャツも、“また”ダメかな」
ミイコさんが着ているTシャツは、レスラー御用達な特大サイズ。
いつしか、レスラーな俺と同じ物を注文するようになって。
最初はペアルックだ、なんて喜んでいたのに。
とっくの昔に、俺より上のサイズを着るようになってしまった。
「もしかして、“また太くなった”・・・の?」
「あー、うん。『60』・・・だったかな」
女子の腕周りが『60cm』、だって・・・?
「・・・んっ」
俺は一旦、食事を中断して。
おもむろに右腕を折り曲げ、力を籠める。
モコッと、ハンドボール大な自慢の力瘤が盛り上がる。
それでも、ミイコさんの“伸ばした状態の上腕”より小さい。
「曲げたら、どのぐらい?」
「え、っとね。曲げた・・・らっ」
ミイコさんが、肩の高さで右腕を折り曲げると。
モゴゴォッ、とスイカと見紛うような力瘤が盛り上がり。
ビリリィッッ!!
袖の裂け目が、肩口まで拡大された。
「『80』あるの」
「え? は、はちじゅう!?」
つい、台詞が平仮名表記になってしまった。
「どう? 凄いでしょ♪」
ミイコさんは、誇らし気に『ダブルバイセップス』ポーズを取る。
『マッスルベアー』の名を冠する通り、俺の筋肉は団体でもピカイチ。
そんな俺の渾身の力瘤が、ダランと伸ばした妻の二の腕に及ばず。
そればかりか、盛り上がる特大の力瘤は俺の太腿と、ほぼ同じ・・・。
「ミ、ミイコさん。危ないから、バーベルは下ろした方が・・・」
ミイコさんは何と、バーベルを持ったままだった。
『120kg』をリフトしながら、ポーズを決めていたのだ。
「えー。別に、大丈夫なのにぃ・・・」
プクーッ、と口を尖らすミイコさんは正直、可愛い。
両肩から先で膨らむ二つの大玉スイカに目を遣らなければ、だけど。
「・・・・・」
しかし、俺だってただ手を拱(こまね)いていた訳ではない。
肉だけでなく、適切な栄養を充分に採る。
六ヶ月もの入院生活は、アスリートとしての食生活の改善に繋がった。
その後、更に半年にも及ぶリハビリを頑張り、筋力と体力を戻した。
むしろ、余分な体脂肪が落ちた事で、トータルの筋量は増した。
ミイコさんがもし、昔ながらの量を食べるだけの食トレを続けていたのであれば。
俺とミイコさんの間に、それ程の差は無い筈なのだ。
「・・・ふぅ、ご馳走様でした」
「いえ、お粗末様です♪」
ミイコさんが筋トレを中断して、俺の分の食器を下げてくれる。
テキパキと無駄のない所作で、皿洗いまでホンの数分で終わってしまった。
誤解がないよう言っておくと、決して俺の食事が遅い訳ではない。
2キロ近い肉メインの料理を平らげるのに、三十分と掛かっていない。
一緒に食卓に着き、同時に食べ始めたけど。
ミイコさんの食べる速度が早過ぎた、だけだ。
5キロ近い肉を食べるのに、俺の半分ぐらいしか掛からなかったが・・・。
とはいえ、食育の意味では、早食いは必ずしもプラスには働かない。
「種目、どうするの?」
我が家の慣わしで、前回の敗者が【力比べ勝負】の種目決定権を有する。
と言いつつ、ここ数年はずっと俺が決めている訳なのだが・・・。
「種目は・・・」
フィジカルで追い付く事ばかりに気を取られていたせいか。
種目について、全く何も考えていなかった。
「そう、だな・・・」
食卓を片付け、広くなった居間に大柄な男女が立って並ぶ。
肌が触れ合うような至近距離で立つのは、一年振り。
「・・・ん?」
並んで立っているのに、上背が並んでいない。
「背、伸びた・・・?」
「あー、うん。今、『187』かな」
え、うそ。身長、また伸びた・・・のか?
いや決して、ミイコさんは嘘を言うような人ではない。
信用しているのだが、その事実が信じられない、とでも言おうか。
「体重もねー、増えたの♪」
「え。幾ら、増えたの?」
うら若き乙女なミイコさんは嬉しそうに、体重増加を告白。
以前は、体重を聞くだけで怒られた気がするんだが。
「えーっと、ね。『24kg』増えた」
「ふーん。にじゅう・・・えっ」
一年振りの体重確認、とは言っても。
何事にも、限度ってもんがある。
「え。ちょっと、待って。ってことは・・・」
153+24=177。締めて、『177kg』。
女子がどうとか、そういうレベルではない。
「ミイコさん。それは、やり過ぎなんじゃ・・・」
体重を増やす事だけを考えれば、一年あれば行ける量ではある。
だが、どれだけ巨漢なレスラーでも、そこまでウェイトを付けると動けなくなる。
相撲取りが、跳んだり蹴ったり出来ないのと同じ。
「少しは、絞った方が良いんじゃ・・・」
「えー。これでも、“絞った”のよ?」
ほら、とシャツを捲ってお腹を晒す。
「っ!?」
ミイコさんのお腹は以前にも増して、見事なまでにボッコボコに盛り上がっていた。
割れているのではなく、盛り上がるような厚みのある腹直筋。
「ウェストだって、縊れてるでしょ?」
「あ、ああ・・・」
砂時計のようにキュッと縊れた腰は、脂肪が付いているようには見えない。
「これでも、『12%』しかないんだから」
それはひょっとして、体脂肪率の事なのか。
病み上がりとはいえ、俺でさえ『13%』まで絞るのも大変だったのに。
骨や腱、臓器を除いたとしても、体重から考えると・・・。
純粋な筋肉量だけで優に、『100kg』は超えている計算になる。
「だからねー。胸も、ちょっと落ちちゃったの・・・」
ゴメンナサイ、と言いながらミイコさんはペロッと舌を出した。
はにかみ舌出しミイコさんも、これまた可愛い。
「まだ、『Iカップ』はあるんだけどね」
アンダー差が僅かながら、『1cm』落ちてしまい。
ちょうど境目だったからか、カップ数としては一段階ダウン。
「・・・っ」
俺はゴクン、と唾を飲み込む。
「あー。また、胸見てぇ・・・」
小さくなった、とは言うが。
Tシャツを押し上げる胸元は、充分に豊満だと思う。
「アナタもー」
ミイコさんはクイッ、と腰をくねらせると。
モリッ。
「好・き・ね♪」
クイッと品を作ると、モリッ。
「・・・・・」
ミイコさんが動く度に、シャツ越しに筋肉が蠢いていた。
「ちょっと、良い?」
「? 良いけど」
俺は、ミイコさんの肩や腕を触診する。
嫌らしい意味は全くなく、どちらかというと対戦相手の確認がてら。
「いゃん、くすぐったい♪」
レスラーの握力で強く掴んでいるのに、ミイコさんは意にも介していない。
「・・・っ」
もし、脂肪が詰まっていようものならズブゥッ、と沈み込む筈。
しかし、皮膚の直ぐ下には、ガッチガチの筋肉が埋まっていた。
熟練の格闘家は、立ち会っただけで相手の強さがわかるというが。
レスラーの場合、相手の身体に触れれば、その強さがわかる。
以前は、彼女をフィジカルエリートと評したが。
当にその域は超えて、フィジカルモンスターと言って良い程の肉体だった。
「それで、どうするの?」
ミイコさんが、上背の差を縮めようと前屈みになる。
ばるんっ。
「・・・っ」
『Iカップ』巨乳が重力に引かれ、上下に揺れる。
乳房が下がった事でシャツの首口が広がり、谷間が覗く。
本来なら、ミイコさんの豊満さが際立つシーン、なのだが。
「・・・・・」
俺は、眼前に迫る肉体の厚みに気圧されてしまい。
無意識に半歩、後退(あとずさ)ってしまった。
まさか、レスラーである、この俺が。
対戦相手を前にして、やり合う前からビビッている・・・?
「じゃあ、さ。私が決めて、良ーい?」
まごまごしている俺を見兼ねて、か。
「『レバー相撲』、で良い?」
そんな提案をして来・・・。
・・・ん?
「レバー、ずも・・・ごめん。何、それ」
初めて聞く、種目名だった。
レバーっていうと、いわゆる肝臓を指すと思うが。
まさか、交互に『肝臓打ち(レバーブロー)』を打ち合う・・・は流石にないか。
「へへーん。えーっと、ね」
ミイコさんの提案は、今まで喧嘩の無かった俺たち夫婦の間に。
新たな一石を、投じる事になるのだった。
Comments
感想、ありがとうございます。 以前上げたバージョンで続き書いていたら色々と難しくなってしまって、それならと上げ直した次第です。
デアカルテ
2025-07-29 22:35:40 +0000 UTC調整版は今回のためだったんですね!主婦がプロレスラーよりもデカくて強いの、ほのぼの系な怪力ジャンルで好きです(^^) レバー相撲もとても気になります!(肝臓打ちネタもまた良いw)
Nogi_(°Д°)
2025-07-29 14:59:02 +0000 UTC