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肉の日のミイコさん02「一年後」

「ねぇ、ミイコさん。ホントに、やるの?」

「ええ。だって、ずっと楽しみにしていたんですもの♪」

ミイコさんの目は、爛々と輝いている。


そう。


今日は、久し振りの『肉の日』。

正確には、我が家で『肉の日』に開催される【力比べ勝負】


「そ、そうだよね」

食卓に着く俺は一人、未だ大量に残る肉を頬張っている。


熊野虎雄、28歳。


『マッスルベアー』のリングネームでリングに上がる、プロレスラー。

・・・だったのだが、少し前までリングから遠ざかっていた。


食卓から少し離れた所に居るのは、我が妻。

自慢の奥さん、ミイコさん。肩書は、専業主婦。


ギィッ、ギィッ。


「・・・ふっ、ふっ」

ミイコさんは、既に食事を終えていて。

自身の分の食器洗いも、完了済。


ギィッ、ギィッ。


「・・・ふぅっ、んっ」

時間を持て余したのか、部屋の一角で“食後の運動”に勤しんでいる。


ワンフロア二十畳もある、リビング兼ダイニングの大部屋。

その大半が、色々な器具で埋め尽くされていた。


「う、っぷ・・・」

相変わらず、減らない。幾ら食べても、全く減る気配がない。

プロレスラーとしては食べるのも仕事なのだが、それでも多過ぎる。


「・・・・・」

イマイチ、食が進まないのは何も量だけの問題ではない。


前回、と言っても“あの一件”から一年近くが経過したけど。

『太腿相撲』の結果、家にトレーニングルームを導入する事になった。


・・・いや、した。

導入した・・・筈、なんだ。


トレーニングルームとして宛がった六畳の部屋は、既に一杯で。

この居間にまで、トレーニング機器が侵食を始めた。


大怪我で入院していた、およそ半年の間に。

いつの間にか、共有空間である居間は“妻の私物”で溢れ返っていた。


ガシャンッ、ガッシャン。


「んぅ、っん」

ミイコさんは、さっきからバーベルを挙げている。

いわゆる、バーベルカールという筋トレ運動。


「“それ”、また増やした?」

ミイコさんは、軽やかに挙げているが。

持ち上げている物体は、とてもじゃないが軽さとは正反対な代物。


「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」

挙がっているバーベルには、無骨なウェイトが何枚も搭載されていて。

ざっと見積もって、『120kg』は有ろうかというバーベル。


「だって、物足りないんですもの」

ミイコさんは、それを“片腕だけ”で上下させる。

どんな怪力自慢なレスラーでも、片腕で挙がるようなウェイトではない。


・・・ピリッ。


「・・・あ」

ミイコさんの二の腕が丸々と、大きくなったかと思うと。


ピリリッ!


「あぁ~・・・あ。やっちゃったぁ・・・」

Tシャツの袖が、上腕二頭筋の隆起に耐え切れず裂けてしまった。


「このシャツも、“また”ダメかな」

ミイコさんが着ているTシャツは、レスラー御用達な特大サイズ。


いつしか、レスラーな俺と同じ物を注文するようになって。

最初はペアルックだ、なんて喜んでいたのに。


とっくの昔に、俺より上のサイズを着るようになってしまった。


「もしかして、“また太くなった”・・・の?」

「あー、うん。『60』・・・だったかな」

女子の腕周りが『60cm』、だって・・・?


「・・・んっ」

俺は一旦、食事を中断して。

おもむろに右腕を折り曲げ、力を籠める。


モコッと、ハンドボール大な自慢の力瘤が盛り上がる。

それでも、ミイコさんの“伸ばした状態の上腕”より小さい。


「曲げたら、どのぐらい?」

「え、っとね。曲げた・・・らっ」

ミイコさんが、肩の高さで右腕を折り曲げると。

モゴゴォッ、とスイカと見紛うような力瘤が盛り上がり。


ビリリィッッ!!


袖の裂け目が、肩口まで拡大された。


『80』あるの」

「え? は、はちじゅう!?」

つい、台詞が平仮名表記になってしまった。


「どう? 凄いでしょ♪」

ミイコさんは、誇らし気に『ダブルバイセップス』ポーズを取る。


『マッスルベアー』の名を冠する通り、俺の筋肉は団体でもピカイチ。

そんな俺の渾身の力瘤が、ダランと伸ばした妻の二の腕に及ばず。


そればかりか、盛り上がる特大の力瘤は俺の太腿と、ほぼ同じ・・・。


「ミ、ミイコさん。危ないから、バーベルは下ろした方が・・・」

ミイコさんは何と、バーベルを持ったままだった。

『120kg』をリフトしながら、ポーズを決めていたのだ。


「えー。別に、大丈夫なのにぃ・・・」

プクーッ、と口を尖らすミイコさんは正直、可愛い。

両肩から先で膨らむ二つの大玉スイカに目を遣らなければ、だけど。


「・・・・・」

しかし、俺だってただ手を拱(こまね)いていた訳ではない。


肉だけでなく、適切な栄養を充分に採る。

六ヶ月もの入院生活は、アスリートとしての食生活の改善に繋がった。


その後、更に半年にも及ぶリハビリを頑張り、筋力と体力を戻した。

むしろ、余分な体脂肪が落ちた事で、トータルの筋量は増した。


ミイコさんがもし、昔ながらの量を食べるだけの食トレを続けていたのであれば。

俺とミイコさんの間に、それ程の差は無い筈なのだ。


「・・・ふぅ、ご馳走様でした」

「いえ、お粗末様です♪」

ミイコさんが筋トレを中断して、俺の分の食器を下げてくれる。

テキパキと無駄のない所作で、皿洗いまでホンの数分で終わってしまった。


誤解がないよう言っておくと、決して俺の食事が遅い訳ではない。

2キロ近い肉メインの料理を平らげるのに、三十分と掛かっていない。


一緒に食卓に着き、同時に食べ始めたけど。

ミイコさんの食べる速度が早過ぎた、だけだ。


5キロ近い肉を食べるのに、俺の半分ぐらいしか掛からなかったが・・・。

とはいえ、食育の意味では、早食いは必ずしもプラスには働かない。


「種目、どうするの?」

我が家の慣わしで、前回の敗者が【力比べ勝負】の種目決定権を有する。

と言いつつ、ここ数年はずっと俺が決めている訳なのだが・・・。


「種目は・・・」

フィジカルで追い付く事ばかりに気を取られていたせいか。

種目について、全く何も考えていなかった。


「そう、だな・・・」

食卓を片付け、広くなった居間に大柄な男女が立って並ぶ。

肌が触れ合うような至近距離で立つのは、一年振り。


「・・・ん?」

並んで立っているのに、上背が並んでいない。


「背、伸びた・・・?」

「あー、うん。今、『187』かな」

え、うそ。身長、また伸びた・・・のか?


いや決して、ミイコさんは嘘を言うような人ではない。

信用しているのだが、その事実が信じられない、とでも言おうか。


「体重もねー、増えたの♪」

「え。幾ら、増えたの?」

うら若き乙女なミイコさんは嬉しそうに、体重増加を告白。

以前は、体重を聞くだけで怒られた気がするんだが。


「えーっと、ね。『24kg』増えた」

「ふーん。にじゅう・・・えっ」

一年振りの体重確認、とは言っても。

何事にも、限度ってもんがある。


「え。ちょっと、待って。ってことは・・・」

153+24=177。締めて、『177kg』

女子がどうとか、そういうレベルではない。


「ミイコさん。それは、やり過ぎなんじゃ・・・」

体重を増やす事だけを考えれば、一年あれば行ける量ではある。


だが、どれだけ巨漢なレスラーでも、そこまでウェイトを付けると動けなくなる。

相撲取りが、跳んだり蹴ったり出来ないのと同じ。


「少しは、絞った方が良いんじゃ・・・」

「えー。これでも、“絞った”のよ?」

ほら、とシャツを捲ってお腹を晒す。


「っ!?」

ミイコさんのお腹は以前にも増して、見事なまでにボッコボコに盛り上がっていた。

割れているのではなく、盛り上がるような厚みのある腹直筋。


「ウェストだって、縊れてるでしょ?」

「あ、ああ・・・」

砂時計のようにキュッと縊れた腰は、脂肪が付いているようには見えない。


「これでも、『12%』しかないんだから」

それはひょっとして、体脂肪率の事なのか。

病み上がりとはいえ、俺でさえ『13%』まで絞るのも大変だったのに。


骨や腱、臓器を除いたとしても、体重から考えると・・・。

純粋な筋肉量だけで優に、『100kg』は超えている計算になる。


「だからねー。胸も、ちょっと落ちちゃったの・・・」

ゴメンナサイ、と言いながらミイコさんはペロッと舌を出した。

はにかみ舌出しミイコさんも、これまた可愛い。


「まだ、『Iカップ』はあるんだけどね」

アンダー差が僅かながら、『1cm』落ちてしまい。

ちょうど境目だったからか、カップ数としては一段階ダウン。


「・・・っ」

俺はゴクン、と唾を飲み込む。


「あー。また、胸見てぇ・・・」

小さくなった、とは言うが。

Tシャツを押し上げる胸元は、充分に豊満だと思う。


「アナタもー」

ミイコさんはクイッ、と腰をくねらせると。


モリッ。


「好・き・ね♪」

クイッと品を作ると、モリッ。


「・・・・・」

ミイコさんが動く度に、シャツ越しに筋肉が蠢いていた。


「ちょっと、良い?」

「? 良いけど」

俺は、ミイコさんの肩や腕を触診する。

嫌らしい意味は全くなく、どちらかというと対戦相手の確認がてら。


「いゃん、くすぐったい♪」

レスラーの握力で強く掴んでいるのに、ミイコさんは意にも介していない。


「・・・っ」

もし、脂肪が詰まっていようものならズブゥッ、と沈み込む筈。

しかし、皮膚の直ぐ下には、ガッチガチの筋肉が埋まっていた。


熟練の格闘家は、立ち会っただけで相手の強さがわかるというが。

レスラーの場合、相手の身体に触れれば、その強さがわかる。


以前は、彼女をフィジカルエリートと評したが。

当にその域は超えて、フィジカルモンスターと言って良い程の肉体だった。


「それで、どうするの?」

ミイコさんが、上背の差を縮めようと前屈みになる。


ばるんっ。


「・・・っ」

『Iカップ』巨乳が重力に引かれ、上下に揺れる。

乳房が下がった事でシャツの首口が広がり、谷間が覗く。


本来なら、ミイコさんの豊満さが際立つシーン、なのだが。


「・・・・・」

俺は、眼前に迫る肉体の厚みに気圧されてしまい。

無意識に半歩、後退(あとずさ)ってしまった。


まさか、レスラーである、この俺が。

対戦相手を前にして、やり合う前からビビッている・・・?


「じゃあ、さ。私が決めて、良ーい?」

まごまごしている俺を見兼ねて、か。


「『レバー相撲』、で良い?」

そんな提案をして来・・・。

・・・ん?


「レバー、ずも・・・ごめん。何、それ」

初めて聞く、種目名だった。


レバーっていうと、いわゆる肝臓を指すと思うが。

まさか、交互に『肝臓打ち(レバーブロー)』を打ち合う・・・は流石にないか。


「へへーん。えーっと、ね」

ミイコさんの提案は、今まで喧嘩の無かった俺たち夫婦の間に。

新たな一石を、投じる事になるのだった。

Comments

感想、ありがとうございます。 以前上げたバージョンで続き書いていたら色々と難しくなってしまって、それならと上げ直した次第です。

デアカルテ

調整版は今回のためだったんですね!主婦がプロレスラーよりもデカくて強いの、ほのぼの系な怪力ジャンルで好きです(^^) レバー相撲もとても気になります!(肝臓打ちネタもまた良いw)

Nogi_(°Д°)


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