これが、今の俺の身体のサイズ。
試合にこそ出てはいないものの、以前よりパワーアップ。
体重を増やしつつ、体脂肪率を下げる事で筋量を増やした。
新生、ニュー『熊野虎雄』。
今となっては、この『肉の日』に照準を合わせていたとさえ思える。
骨は折れると、それまでより骨が強固になると聞く。
肉体的には、今がピークといっても過言ではない。
「『レバー相撲』って、何?」
プロレスラーである以上、どんな種目でも受けて立つ覚悟はある。
・・・のだが、聞いたことがない種目で面食らってしまう。
ミイコさんは、生粋のプロレスファン。
ある程度、格闘技の種目については精通している筈だが・・・。
「そう、か」
俺は心の中で、得心した。
ミイコさんは、俺の仕上がった肉体を前にして怖気付いてしまい。
俺を困惑させて、油断させようなんて考えたのかも知れない。
「ふふん」
俺はつい、含み笑いが零れてしまう。
ウチの若奥さんは、やっぱり可愛いじゃないか。
素人が鍛えた肉体と、プロのレスラーがガチで鍛え直した肉体。
こう言っちゃなんだが、やっぱり中身が違うと気付いたんだろう。
「え、わかっちゃった?」
「まあ、な」
結婚して、そこそこな年数が経ったけど。
以心伝心な、熟年主婦の域に達しつつあるのかも、な。
「“さっき思い付いた”オリジナル種目なのに」
「・・・え?」
どういうことだ。
俺を惑わす為に、適当な種目をデッチ上げたんじゃないのか。
「体勢は、こう・・・やって」
そう言いながら、ミイコさんは床にうつ伏せになり。
両肘を付いて、俺に向かって上体を上げた。
むにゅんっ。
撓(たわ)わなおっぱいが、お餅のように床で潰れている。
『伏臥上体反らし』と、筋トレ運動の『プランク』の中間の体勢。
「で、“これ”が『レバー』」
ミイコさんは、拳を握りながら右前腕を床に対して垂直に起こす。
「ひょっとして・・・」
レバーって、『梃子(てこ)』の事だったのか。
× Liver(肝臓)
○ Lever(梃子、テコ)
自動車のシフトレバーを見て、『梃子』と表現する人は居ない。
『レバー』と呼ぶのは、確かに合ってはいるが・・・。
「でも、それって・・・」
ただ単に、『腕相撲』の体勢じゃないのか。
『腕相撲』なら、過去に何度かやっている。
「何だ。それならそうと、言ってくれりゃあ良いのに」
とはいえ、『腕相撲』で勝ったのは最初の頃だけで。
ここ数年は、“負け確”な種目となっている。
「あー、違う違う」
同じようにうつ伏せになろうとした俺を、ミイコさんは制止。
「アナタは、肘を着かなくて良いの」
「え、でも」
肘を床に着けないと、腕相撲の体勢を取れない。
それなら、そもそも食卓の上でやれば良い話ではあるのだが。
「アナタは、“両手で持つ”の」
「・・・え。何を言って・・・」
ミイコさんは、その逞しい前腕を更に前に突き出す。
「“ここ”、持って」
「っ!?」
俺はようやく、全てを理解した。
ミイコさんの前腕を、『レバー』に見立てて。
戦闘機の操縦桿のように両手で持って手前に引け、と。
ミイコさんは、右腕一本で俺の全力を相手にする。
そう、言っているのだ。
「は、ははっ・・・」
乾いた笑いが、俺の口から漏れた。
惚れた弱味は、俺の方にあるとは言え。
プロレスラーとして、流石にこれは看過出来ない。
「ミイコさ・・・」
「おっぱい」
・・・!?
ミイコさんの口から、予想外の言葉が発せられる。
「アナタの好きにして良い、のよ?」
空いた左手で、ミイコさんは豊満な胸を揉みしだいた。
むにょ、ん。
「何の、話だ・・・」
これに関しては完全に、以心伝心。
「勿論、勝った時の報酬よ♪」
「・・・!?」
ミイコさんは、俺が望むままの『プレイ』を許容すると宣言したのだ。
勿論、『夜の生活』での話。そこの認識違いは、無い。
「良い、のか?」
俺の性癖は、百八まである。
いつも、脳内で呟く口癖だ。
如何な夫婦といえど、全てを晒して生活している訳ではない。
ミイコさんに開示していない性癖なんて、幾らでも有る。
「ええ、もちろん♪」
俺の性癖は精々、『おっぱい好き』程度。
ミイコさんはきっと、そう高を括っているんだろう。
甘い、甘過ぎる。
おっぱいの弄り方だけで、片手の指では足りないのに。
「わかった。ルールは?」
「殴ったり、とかはヤメて欲しいけれど」
そんなの、ほぼ“何でもアリ”じゃないか。
「よぅーし」
プロレスラーとしてのプライドなんて、性癖の前には無力。
俺は意気揚々と、両手でミイコさんの右手を掴む。
「・・・・・」
約一年振りに触れる、ミイコさんの素肌。
そんな感触を味わう余裕は、まるでなかった。
「・・・っ」
床に、垂直に立てられたミイコさんの前腕。
手首から急激に太くなるにつれ、血管が走り捲っている。
「・・・んぐ」
俺は、戦闘機パイロットのように座り込み。
お尻を支点にして、それこそテコの原理を応用する。
しかし、操縦桿を引こうにも、錆びて固くなったのか動かない。
まるで、そんなイメージ。
「どうしたの? もう、始めて良いのよ」
ミイコさんは、始まった事にすら気付いていなかった。
「っ!?」
大地に根を張る大木のように、全く動く気配がない。
俺は既に、渾身の力で両腕を引いているのに、だ。
俺も、伊達にレスラーはやっていない。
力の掛け方は問題ない筈、なのに・・・。
「あ、ああ。そうだ・・・なっ!」
仕切り直しとばかりに改めて、全身の力を籠め直す。
「ぬぅ、っ! ん、ぎ・・・ぃっ」
『120kg』に増量した、自分自身そのものをウェイトにして。
腕力プラス体重で、ミイコさんの右前腕を手前に引き寄せて行く。
「・・・お」
少し。ホンの少しだが、ミイコさんの腕がこちらに傾く。
「うおっ、りゃ!」
実際の試合で上げるような、気合いの発声。
このまま、一気に・・・!
「えい♪」
突然。
ミイコさんが手首をクイッ、と返した。
「・・・うぉっ!?」
たった、それだけで。
大柄な筈の俺の身体が、左右に振られる。
「何・・・っで、だ。体重を掛けてるのに・・・っ」
鍛え上げたレスラーの肉体が、良いように振り回されている。
若妻が使っているのは手首の力、だけ。
「虎雄さん、何キロだっけ?」
平然とした表情で、ミイコさんが体重を聞いて来る。
「あ、え? っと、『120kg』だ、よっ」
俺は未だ、全力を入れ続けているのに、だ。
「あー、そっかぁ・・・」
ミイコさんが、落胆の表情を浮かべる。
「それって、どういう・・・っぐ!」
会話を続けつつも、力は抜かない。
もし、少しでもミイコさんが緩めれば、一気に決める腹積もり。
「じゃあ、バーベルと同じぐらいなのね」
「・・・んぅ、っぐ!」
俺は、直接は答えない。
その余裕がない、とも言えるが。
ミイコさんの言う、バーベル。
それはきっと、この居間の隅っこに転がっている『カール用』の事だろう。
確かに、パッと見で『120kg』。シャフト分を入れても、『130kg』。
充分に重いウェイトである事は、間違いない。
しかし今、それと同じぐらいの自重を掛けつつ。
更に、レスラー自慢な俺の腕力も目一杯、籠めている。
「私、ね。今、『150』挙げてるの」
「・・・え。何の、話・・・」
床に直立していたミイコさんの右腕が、徐々に奥側に傾いて行く。
“俺”という負荷を受けていながら、だ。
「う、おっ・・・おっ」
俺は堪(こら)えようと必死に、身体ごと後ろに倒れようと試みる・・・が。
ミイコさんの上腕二頭筋が行き場を無くし、モゴゴ・・・と上方向に膨らみ。
蛇が這い回るように太い血管がモコ、モコッと浮き出る。
「う、っそだ・・・ろ」
俺の尻が、床から浮いていた。
両足も、辛うじて接地しているに過ぎない。
「・・・ん」
それは、力んだというよりは。
単純に、作業が完了した、という声だった。
モゴゴォッ!!
何度かスイカと形容した力瘤は、ミイコさんの上腕を埋め尽くし。
「う、っおわぁっ!?」
俺の身体は、いとも簡単に前転しながら空中で一回転。
ミイコさんの大きな広背筋の隆起に、俺は背中から叩き付けられた。
バッターン!
「え、うそ。アナタ、大丈夫っ!?」
まさか、俺が身体ごと投げ出されるとは思っていなかったようで。
ミイコさんは慌てて立ち上がり、俺を“抱き上げ”た。
第38回【力比べ勝負】
◆レバー相撲 時間無制限一本勝負◆
ミイコ ○ 2分11秒(片手投げ) ● 虎雄
「お、おろし・・・て」
「あら、大丈夫そうね♪」
相変わらず、笑うと愛嬌があって可愛い。
“逆お姫様抱っこ”をされながら、俺はそんな事を思っていた。
「そう言えば、どうやったら勝ちなんだっけ」
「・・・え」
ここまでやっておいて、今更感。
ここでゴネればワンチャン・・・あるようには、とてもじゃないが思えない。
「いつも、ジムだと『150kg』挙げてるの?」
ミイコさんが申告した、『150』という数値は。
『プラチナジム』で挙げている、バーベルのウェイトだった。
「んー、というか。ウォーミングアップで、かな」
「・・・っ!?」
『150kg』でバーベルカールなんて、ウチの団体でも誰一人・・・。
「・・・両手、だよね?」
「うぅん、片手よ」
インストラクターさんに頼み込んで、ウェイトを増やす許可を得たらしい。
とはいえ、その『150kg』は許可的な意味での最大重量。
「『ベンチ用』のを挙げたい、って言ったら呆れられちゃった」
普通に考えて、片手カールで『150kg』の時点ですら馬鹿げているのに。
更に重いウェイトで挙げたい、なんて言われたインストさんの心中は如何ほどか。
「今って、“こう”なのに」
メモ書き、のようなものをスッと差し出した。
それは、ジムで提出したミイコさんのサイズ表だった。
「何、これ・・・うぇっ!?」
いつの間にか、胸周りのサイズで抜かれている。
レスラーの鍛え抜かれた胸板より、若妻のアンダーバストの方が大きいのだ。
「まだ、やる?」
「・・・ぅ」
ミイコさんとしては、別に凄んでいるつもりはないんだろうけど。
俺より太い首から、山のように盛り上がる僧帽筋。
肩の三角筋だけで俺の頭ぐらいあるのに、その先にはスイカ大の力瘤。
『90cm』という柱と見紛う太腿は、俺のヒップサイズまで後僅か。
ミイコさんの身体を見て『専業主婦』だと思う者が果たして、どれだけ居るだろうか。
「じゃあ、私の勝ちで良いわね♪」
「あ、ああ・・・」
『マッスルベアー』の名を冠するパワーレスラーが。
家庭内では奥さんにされるがまま、なんて知られたら商売上がったりだ。
「私、プロレスのリングに立ちたいの」
「・・・え」
勝利者の賞品として。
ミイコさんは、そんなことを言い出した。
デアカルテ
2025-09-02 10:19:49 +0000 UTCNogi_(°Д°)
2025-08-31 09:52:25 +0000 UTC