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天然彼女05「夏服事件」

僕の彼女、『進藤奈緒』は天然である。



セクハラを働いた水泳部長を、ピンポン玉のように殴り飛ばし。

ゲームと称してイジメを行った先輩を、腹パン一発で沈めた。


これにより、水泳部内で奈緒は“アンタッチャブル”となった。



体力測定では握力計を握り潰し、背筋力計の鎖を引き千切った。

懸垂においては、『100回』という前人未到の大記録を打ち立てた。


これにより、ウチのクラス(と体力測定で現場に居た者)から一目置かれるにように。



トレーニングルームで、柔道部員たちと鉢合わせてしまい。

ベンチプレス中の柔道部長を、その台ごと持ち上げてしまい。


危険行為と見做(みな)され、学内でのウェイトトレを無期限で禁止された。



「今日から、夏服だね♪」

通学の最寄り駅で一緒になり、そのまま並んで登校。


「何か、嬉しそうだね」

「うん♪ やっと、窮屈な長袖から解放されたと思って」

奈緒は、着痩せする体質。

長袖着用だと、ポッチャリ系の豊満女子なイメージ。


「そ、っか・・・」

本来なら、彼女との楽しい通学。

しかし、今年初めて見る夏服姿が、僕は気になって仕方なかった。


奈緒は長袖の時、かなり大きなサイズを着ていた。

同じサイズなら、半袖でもそうは変わらない…筈だった。


「それ、サイズは幾つ?」

「え、っとね。『3XL』だよ」

へへーん、と奈緒は夏服のブラウスを僕に見せてくれる。

仕草としては、両腕を広げただけなのだが・・・。


モコ・・・モココッ。


「す、凄いね」

本当なら、『綺麗』とか『似合ってる』とか言うべきなのに。


「へへ、そっかな」

明らかに褒め言葉ではないそれを、奈緒は喜ぶ。

照れ隠しに身体をモジモジと捩る、その度に。


モリ、モリリッ。


奈緒を包むブラウスのあちこちが膨らんだ・・・のは気のせいじゃないよな。


「それ、窮屈じゃないの?」

奈緒の夏服は、どう見てもサイズが合っていなかった。


太い首に、襟がピッタリと張り付いているし。

肩は、三角筋そのままの形にブラウスが大きく出っ張って。

袖は、上腕二頭筋の隆起に押し負けて襞(ひだ)みたいに固まってる。


「うん。長袖よりは面積小さいから」

「面積、って・・・」

それはつまり、全身を覆う範囲が少ない分、楽って事なんだろうか。


「“そこ”も、足りてる?」

僕は、彼氏特権を行使してさえ、セクハラと取られ兼ねない視線を送る。


「えー、どこ」

奈緒は、僕が見ている先を理解していなかった。


「・・・・・」

多分、通学電車とかで視線を集めていたんだろうけど。

きっと、それにも気付いていないんだろうな・・・。


「胸元、だよ」

トップ『135cm』、推定『Jカップ』という学生らしからぬ爆乳。

丈が足りていなくて、ブラウスの前ボタンの間隔が開き捲っている。


「“伸び”とか、しちゃだめだからね」

ボタンの隙間から、薄ピンクなブラがチラチラ見えていて。

身体を動かす度に隙間が大きくなり、いつか御開帳しそうだ。


「え。伸びって、“こう”?」

「え、ちょ。だ・・・」

『コント芸』の“フリ”、と思った訳ではないんだろうけど。

『ダメ』と制止するより早く、奈緒は“伸び”の体勢を試みて。


ミチ、ミチチッ・・・ブボァンッ!


「うっ、おわぁっ!」

チュインッ、と僕の耳元をボタンが高速で通り過ぎて行った。

それは、まるで拳銃の弾丸のようだった。


「あ、あれ?」

奈緒自身は、単に伸びをしただけなんだろうけど。

たったそれだけで、ブラウスの胸元のボタンが二つ、飛んで行った。


「替えのボタン、ある?」

「多分、ポケットに・・・」

奈緒自身にやらせると、公衆の面前でブラウスを脱ぐ事になるので。

下駄箱に行かず校舎裏に移動して、何とかボタンの再装着に成功。


家庭科の授業で、ちゃんと裁縫を勉強していて良かった。


「えへへ、ありがと」

「ど、どういたしまして」

何度か、その豊満なバストに手が触れたんだけど。

奈緒は気付かない振りをしてくれたようで、助かった。


幾ら天然とはいえ、流石に気付いたよね?

いや勿論、決してワザとではないんだけど。まさか・・・。


「まあ、ブラウスは買い替えた方が良いかも」

「う、ん。そうだね」

何処か、歯切れの悪い返答。

奈緒が言うには、長袖に窮屈さを感じた時に買い替えていたらしい。


「お肉、付いちゃったのかな・・・」

そう言って、自身の二の腕を“グニグニ”と摘まんでいる。


「・・・・・」

僕は、奈緒の指が二の腕に全く沈まなかったのを見逃さなかった。

普通なら“プニプニ”という可愛らしい擬音で、脂肪に指が埋まっても良いのに。


握力計を握り潰す奈緒の指が、跳ね返される二の腕。

奈緒の上腕は、伸ばしたままの状態でも砲丸ぐらい大きくて。


水泳部で鍛えた僕の腕が力瘤を盛り上げて尚、足りない。

女子用のブラウスの袖に、砲丸って入るものなのだろうか。


「ジムには、まだ通ってるの?」

出禁になる以前から、奈緒は学校のトレーニングルームには顔を出さない。

冬休み以降、都合で半年近く『街ジム』に通っている。


「うん! 毎週、行ってるよ」

「あ、だめだめっ! ストップ!」

『力瘤ポーズ』を取ろうとした奈緒を、今度は寸での所で制止に成功。

奈緒が腕を曲げた段階で、袖がミチミチッと悲鳴を上げていた。


「村井先輩の言い付けは・・・」

既に卒業した元副部長、今はもう『OG』な村井先輩。

奈緒を『営倉送り』にした元凶、色んな意味での戦犯。


『一ヶ月毎に扱うウェイトをダンベルで5㎏、ベンチプレスなら10㎏ずつ増やして行きなさい』

なんて言う途方もない課題を、置き土産として置いて行った。


「もちろん、守ってるよ♪」

「え。まだ、続けてるの・・・?」


「今、『70』挙げてるよ。ベンチは『140』かな」

「そ、そうなんだ・・・」

ダンベルカールで、『70kg』。

言うまでもなく、奈緒は片手で熟(こな)してしまう。


『70kg』という重量は、単純計算で“僕一人”分。


女子かどうか以前に、大人の男でも容易に挙がるウェイトではない。

奈緒は、その気になれば僕一人ぐらい片手で持ち上げてしまえるのだ。


「夏服を仕立て直すまで、あんまり身体を動かさないようにね」

「うん、わかった」

奈緒は、僕の忠告にハキハキと返事をした。


ざわ・・・

 ざわ・・・


教室に着くなり、夏服姿の奈緒に注目が集まってしまう。

少なくとも、クラスメイトは『体力測定』で見てる筈なんだけど・・・。


「何か、また逞しくなった?」

クラスメイトの美紀が開口一番、皆が思っていそうな感想をぶつけた。


「えー、そっかなぁ」

今まで長袖だったのが、夏服の半袖になっただけ。


『体力測定』から、二ヶ月も経っていない。

たった二ヶ月ぐらいで、大きくは・・・なってないよね?



“それ”が起きたのは、昼休みだった。


昼ご飯を終え、皆が思い思いな時間を過ごしていて。

ちょうど風が心地良かったのか、奈緒は居眠りをしていた。


「ねぇ、奈緒。昼休み、もう直ぐ終わるよ」

昼休みの残り時間が後僅かという事で、美紀が気を利かせてくれた。


「う、うぅ・・・んぁ?」

奈緒は、ゆっくりと身体を起こす。


「ふぁ、あ・・・」

しかし、まだ何処か、夢見心地で。


「起き、なきゃ・・・」

目を覚まそうと、奈緒は大きく“伸び”をした。

いや、それだけならまだ良かったんだけど。


グググ・・・。


「うぅ~~、んっ!」

大きく“伸び”た万歳の姿勢から、腕をグッと折り曲げてしまう。


モゴゴ・・・モリ、モリモリリィッ!


ビッ、ビリリィッ!


ブボァンッ!


「「「っ!!?」」」

僕も含め、教室に居た全員が奈緒の席に振り向く。


万歳の状態から腕を曲げれば、それはもう『ダブルバイセップス』ポーズな訳で。


二の腕は、ハンドボールかと見紛う程に大きくなってしまい。

そんな特大の力瘤が袖に収まる訳がなく、袖の生地が完全に弾け飛んでいた。


「ちょ、ちょっと! 奈緒、隠してっ」

「は、はれ・・・?」

前方に大きく張られた胸元は、ブラウスのボタンが三つ程、消えていて。

美紀が大慌てで、手持ちのタオルで覆い隠している。


「なに、なに。何が起こったの」

「うっそだろ、見た? 今の」

「で、でけぇ・・・」

その瞬間を見ていなかった者も、惨状を見れば直ぐに想像が付いた。


高校二年の女子が、筋肉を盛り上げて制服を着破った、と。

まさかの、制服破裂事件。


午後の授業は、奈緒だけ体操着で受けることになった。


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