SamSuka
デアカルテ
デアカルテ

fanbox


肉の日のミイコさん05「練習場」

「キツくて泣いちゃっても、助け舟は出さないよ?」

「うん、大丈夫」

何度も念を押したが、ミイコさんの決意は変わらない。

長かった髪も、肩口に届かないぐらい短く切ってしまった程。


車で向かっているとはいえ、スッピンにジャージという出で立ち。

体格(ガタイ)の良さもあって、一端のレスラーに見えなくもない。


しかし果たして、体格や筋力だけでレスラーが務まるのか。


「社長、連れて来ました」

「おう、来たな」

今日“やる”という事で、社長には先に入って貰っていた。


ウチの団体の興行の都合で、あれから数ヵ月が経ってしまったが。

ようやく、その時を迎えた。


『BJW』という看板が掲げられている、ウチの団体の練習場。

普段、仕事場として通っている所に、妻同伴で入るのは凄まじい違和感。


「お久し振りです。あの、その節は・・・」

「おっ・・・ぉ、おう。まあ、入りなさい」

ウチの社長とミイコさんが会うのは、結婚式以来になる。

イコール結婚生活歴、って事になるで数年振りの対面。


「しかし、その・・・なんだ」

社長が一瞬、ギョッと目を見開いたのも無理はない。


結婚式の時は、綺麗な純白のドレス。

今は、レスラー御用達の無骨なジャージに身を包んでいる。


「大っきく、なったね・・・」

「そう、ですか?」

社長は、ウチの嫁をシミジミと“見上げた”。

衣装違いだけではない、“存在感”の違い。


「ガタイは良さそうだが・・・」

ミイコさんは、かなり大きめのジャージを着込んでいる。

パッと見た感じ、“着膨れ”して太って見える。


「嬉しいです♪」

ミイコさんが身をモジモジと捩る度にモリッ、モリッとジャージが膨れ上がる。


「・・・っ!?」

もし、中身が肥満ボディなら起き得ない、布越しな筋肉の主張。

鍛え込まれた肉体が、その下に隠されている証拠だった。


「ふむ。ウチの虎雄をやり込めたってのは、本当みたいだな」

「ちょっと、社長っ」

練習場には、他のレスラーたちも大勢、居る。

先輩レスラーならまだしも、後輩たちにバレてしまっては示しが付かない。


「おう、お前ら。今日は話した通り、“お客さん”が居るからな」

余計なチョッカイを掛けるなよ、と他のレスラーたちに釘を指す。


「「「う、うっす!」」」

事情を知らないレスラーたちは、やや渋々な返事。

社長と俺、そして一部のレスラーしか“本当の事情”は知らない。


表向き、『体験入門』の体裁でミイコさんを連れて来たのだ。

いきなり、一般女性に入門テストを受けさせる、なんて言っても混乱を招く。


(お、おい。何だよ、あれ・・・)

(どうやったら、あんなにデカくなれんだ?)

ざわ・・・

 ざわ・・・


(何処かの団体の、女子レスラーじゃないのか)

(いや、あんなゴツいの女子格闘でも見たことねぇよ)

ざわ・・・

 ざわ・・・


明らかに皆、『体験入門』レベルではないミイコさんに気が気ではない。


「おい、お前ら! 練習に集中してろ」

「「「へ、へい」」」

社長の叱る声も、何処かトーンは弱めだった。

社長自身ですら、“ここまで”とは思っていなかった様子。


「えー、っと。事前に、種目は聞いてるんだったかな」

「は、はいっ」

ミイコさんは、緊張しているのか“気を付け”の姿勢。

しかし、両脇に隙間が出来て、腕がピタッと付いていない。


「・・・・・」

上腕二頭筋が大胸筋に突っかえる筋肉体型あるある、ではある。

それが女性且つ、ジャージ越しで起きてしまう程の体型ということ。


「取り敢えず、“脱いで”貰えるかな」

「はい」

社長の指示通り、ミイコさんはそそくさとジャージを脱ぎ始める。

ジャージの下には、スポーツタイプのタンクトップとスパッツ着用。


「「「・・・っ!!?」」」

「・・・えっ」

ミイコさんの肉体を見て、俺まで驚いてしまった。


「なん・・・っだ、その身体・・・」

「はい! 絞って来ました」

普段から見慣れている筈の、俺ですら驚いてしまった。


身長は変わっていないので、デカさはそのままなのだが・・・。

相変わらずの筋肉量なのに、以前より“シュッ”とした印象。


「体脂肪率も、『10.5%』・・・」

確か、前は『12%』とかじゃなかったか。


体重を『7kg』も落としつつ、体脂肪率がそれ以上に下がった。

単純計算だが、筋肉量は殆ど変わっていない。


「どうやった、の・・・」

どう見ても、いわゆるボディビルダー的な絞り方ではない。

明らかに、競技者(アスリート)が目的を持って、絞った肉体。


「シュートボクシングとロードワークだよ」

「・・・え? ロードワークは兎も角、シュートやってたの!?」

シュートボクシングとは、キックボクシングに投げ技を加えた競技だ。

ロードワークも含めた、有酸素運動を中心に鍛えていた事になる。


シュートボクシング上がりのプロレスラーも多い。

逆パターンもあり、レスリングとの親和性は高い。


「それに、したって・・・」

関節部分の脂肪が減った為か、サイズ以上に筋肉そのものが大きく見える。

女性らしいフォルムなのに、プロ格闘家並みに仕上がったアンマッチ感。


「しかし、この握力は・・・。俄かには信じ難いが・・・」

社長は先ず、握力『127kg』が気になったようで。

実際、俺もミイコさんの握力値を今、初めて知った。


「シーオー・・・っていう名前の、えっと。・・・あ」

ミイコさんは、何かを見付けたようで。


「“これ”、同じ物です。触っても良いですか?」

ミイコさんは、その辺に転がっていた『ハンドグリップ』を手に取り。


「え、“それ”は・・・」

「えい」

ガチャ。


「「「っ!?」」」

右手で握ったそれを、一瞬で閉じてしまう。


(う、っそだろ。マジかよ・・・)

(おい、“あれ”閉じてんの初めて見たぞ)

ざわ・・・

 ざわ・・・


周囲がザワ付くのも、無理はない。


『CoCグリッパー No3.5』。


片手で握る『ハンドグリップ』なのだが、必要握力が『146kg』。

握力自慢が、やっとの事で閉じる事が出来る超高難度グリップ。


「「「・・・・・」」」

恐らくだが、この場で気付いていないのはミイコさんだけ。


多分だけど、ミイコさんが事前に閉じたのは、一つ下の『No3.0』。

それなら、確かに必要な握力は『127kg』で、間違いない。


「林檎ジュースなら、ジューサーより早く作れますよ♪」

「な、成る程・・・。はは・・・」

林檎を握り潰すのに必要な握力は、『80kg』程度と言われている。


「・・・ん、んんっ。次は、カールを試して貰おうかな」

切り替える意味合いで、社長は咳払いを入れつつ。

ミイコさんに、『カール』運動を指示。


これは、プロフィールの記載に嘘偽り、誇張がないか。

『カール』が何か、を知っているかどうかの確認も含んでいる。


「はい。じゃあ・・・」

俺やミイコさんの周囲にある、トレーニング器具の数々。

ミイコさんは、その内の一つに照準を当て、近付く。


「“これ”、使っても良いですか?」

ミイコさんは、ベンチプレス台に置かれた『バーベル』を右手に取り。


「え、ちょっ・・・」

「ん、っしょ」

スッ、と事も無げに持ち上げてしまう。


モゴォッ。


「「「っ!!?」」」

社長も含め、またしても周囲が一気にザワ付く。


「っしょ」

ミイコさんが、リズミカルにバーベルを上げ下げする。


モゴゴォッ。


軽やかな所作とは裏腹に、スイカのようにこんもりを膨らむ二の腕。


「み、右腕しか、使わないのかい・・・?」

「左も、やった方が良いですか?」

俺を除く、周囲が絶句した。


ミイコさんが片手で挙げたのは、言うまでもなくベンチプレス用のバーベル。

『20kg』プレートが左右で、計八枚。ウェイトは締めて、『170kg』。


「いや、社長。あの、ですね・・・」

俺は、社長に小声で説明した。

家でも普通に、ワンハンドカールで『150kg』を挙げてるんです、と。


「い、いや、良い。もう、その辺で」

わかりました、と言いつつ物足りなさ気なミイコさん。

ベンチプレスの『420kg』は、確認不要という事でスルーされた。


「と、とにかく。書類に不備がないことはわかった」

このまま、ミイコさんの怪力ショーが続けば、続くほど。

練習生たちがドン引きして、練習意欲を削ぎ兼ねないとの判断。


「き、筋力はわかった。後は・・・」

筋力だけで熟(こな)せるほど、プロレスは甘くない。

パワー自慢たちが格闘技に参戦して、『即ノックアウト』されたのを何度見た事か。


『レバー相撲』の時、ミイコさんは殴られるのを嫌がった。

俺は、そこがずっと引っ掛かっていた。


幾ら、何度も俺を遣り込めたとはいえ、力勝負に限定した話であって。

飛んだり跳ねたり、殴ったり蹴ったりして、強いとは限らない。


「スパーなら、俺にやらせて下さいよ」

「お前は・・・ウルフ」

名乗り出たのは若手のホープ、『ウルフ斉藤』だった。


身長200cm、体重150kg。


元力士出身で、素行が悪く破門になった所をウチの社長に拾われた。

悪役(ヒール)で売っているが、力士時代に培った押しの強さと技はピカイチ。


「しかし、先に体力テストを・・・」

「体力テストでヘトヘトになった状態で、それこそスパーは難しいでしょう」

ウルフの言う事は、確かに一理ある。


プロレスは一試合辺り、短くて三十分。長いと、一時間。

それだけの時間、リングで動き続けるのだ。


そして、ウチの『入門テスト』は三十分の試合形式で実施される。

後半動けなくなり、入門が叶わなかった者たちも多い。


「その・・・いきなりだが、スパーでも良いかい?」

社長も、無理な提案なら突っ撥ねていただろう。

しかし、ミイコさんの想像以上な肉体に魅せられて、見てみたくなったのだ。


ミイコさんの旦那としては、体力テスト辺りで落ちる事を願っていた。

惜しい所まで行ったが駄目だった、を期待していた。


だが、ミイコさんは俺が思った以上に、ガチで仕上げて来ていた。

筋トレ部屋を強請ったのも、今日この日を思って事だったのだろうか。


実際、ウチの入門テストには年齢制限があって、ミイコさんはギリギリのライン。

一度やって駄目だったら、また挑戦・・・とは行かないのだ。


「はい。私は大丈夫です」

「そうこなくちゃ」

ウチの妻と、ウチの若手ホープが揃ってリングイン。

まさか、そんな光景を見る事になるとは、思っていなかった。

肉の日のミイコさん05「練習場」

Comments

感想、ありがとうございます。 スパーはどういう展開にするか迷っていまして。鋭意構想中なので、暫しお待ち頂ければと思います。

デアカルテ

ミイコさんの怪力披露ショー、もっと長く見てみたいですね(男性陣はさらに顔面蒼白になるでしょうがw)本人が差も何もないようにこなしていることが周りから大きくずれてるのとても好きです!次回はスパー...とてもwkwkします(°▽°)

Nogi_(°Д°)


More Creators