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おとなしい子とギャル

「これ落としてたよ」


 私とはクラスメイトということ以外何の縁もないはずの小池さんが話しかけてきた。

 机に乗っかった小池さんから「はい」と手渡されたのは、失くしたと思っていた私の愛読書。

 ブックカバーを付けているので一見しただけだと内容は分からないようになっている……私はおそるおそる受け取り、何事もなかったかのように振る舞うしかない。


「あ、ありがとう、ございます……」

「はぁ~? アタシら同級生じゃん。敬語とかいいって~」



 どうやら本の中身を覗いたりはしていない様子だった。そのことに心の中でホッと息をついていると、いきなり小池さんの綺麗な顔がすぐ近くに迫ってくる。

 耳元をくすぐる吐息と共に、ヒソヒソ声で小池さんは言った。


「つか、あんたSM好きなんだね……」

「ひゃいっ!?」


 思わず悲鳴を漏らし肩が大きく飛び跳ねる。

 驚いた私の様子を見てケラケラ笑う小池さん。その様子は朗らかだが、私の心はかつて無いほどざわめいていた。


 見られた見られた見られた見られた……!

 私の愛読書『ドキドキエモーショナル~SMパニック緊縛編~』が見られた……!!


「大丈夫、誰にも言ってないよ。こんなん絶対秘密じゃん?」


 小池さんは冷や汗が止まらない私に優しい口調で言ってくれる。


「ほ、本当に? 言いふらしたりしてない……?」

「しないしない! 大丈夫だし、相田っちの秘密はアタシが死守する」


 相田とは私のことで、いきなり相田っち呼びされるとは思わなかった。

 小池さんは真っ直ぐ私の目を見て微笑みかけてくれる。瞳の力強さが口の固さを証明しているかのようだった。

 クラスの中でも一際明るくて隠し事なんて何も無さそうな人だから、もしかしたら誰かに私の秘密を喋っているかもしれないと思ったけど、そんな風に思っていた私が失礼だったな……。


「ありがとう……!」


 性癖を知られてしまったことはとんでもなく恥ずかしいのだけど、秘密にしてくれると聞けて今度こそ安堵する。


「でさぁ、相田っちにお願いがあんだけど」

「え」


 小池さんの一言に体が硬直した。


「放課後屋上前に来てよ。二人きりで。いいっしょ?」

「は、はい……」


 私が頷くと小池さんは上機嫌そうにして離れていった。

 お願いって何だろう……?

 まさか秘密を守るかわりにカツアゲなんて……でも小池さんはそんなことするような子じゃなさそうだったけど……。

 再び胸中を不安で覆い尽くされたまま、私は心ここに在らずのまま放課後まで過ごすことになった。



 屋上は解放厳禁となっていて、入り口の扉は鍵が掛けられている。そのため屋上前の開けたこの部屋までは誰も通ることがなく、滅多に使われない物が雑に置かれているばかりの空間となっていた。

 そこに私と小池さんの二人がやって来る。


「ここいいっしょー。アタシの秘密基地にしてんだ」

「そ、そうなんだ」

「でさ、早速本題」


 小池さんは持って来ていたカバンから何かを取り出した。薄暗くて見えづらいが、大縄跳びの時に使うとても長い青色の縄だった。


「体育倉庫から借りて来た。これで相田っちのこと縛らせてよ」

「ひぇえ!?」


 突然の申し出に心臓がバクンと膨張する。


「実はアタシもSMに超興味あってさ……相田っちもそういうの好きじゃん? アタシら良いパートナーになれると思うんだよね」


 思いもしなかったカミングアウトを受けて戸惑う私に、小池さんは半ば強引に迫ってくる。


「ほら、背中向きな。縛ってあげっから」


 束ねていた青い縄を伸ばしながら呼吸を荒くしている。

  SMに興味があるというのは本当らしく、どうやら私を縛りたくてウズウズしているようだ。


「でも……私……」

「なに、恥ずかしがってんの? もう趣味はバレてんだから隠すこと無いっしょ?」


 小池さんはたった一つだけ勘違いをしている。私はそのことをストレートに伝えた。


「私、MじゃなくてSだから……小池さんを縛る方がいいなって……」

「……はあ!?」


 私はいつも大人しくしてて決してグイグイと行くタイプではないのだが、心の中ではいつも小池さんみたいな人を縛る妄想をして楽しんでいた。

 自信に満ち溢れてて無敵のように思える人ほど、縛って無力にしたら楽しいだろうなって、そんなことばかり考えて過ごしてきたのだ。

 だから私は小池さんを縛りたい。


「なんで! どう見たって相田っちはMじゃん! いじめられるの好きそーじゃん!!」


 慌てた小池さんから偏見が溢れ出てくるが、どう思われていても私はSなのだ。これだけは譲れない!


「私が小池さんを縛るから縄貸して」

「は? 絶対ヤだし。ふざけんな」

「それはこっちのセリフ!」


 しばらくそんな言い合いが続いたが、やがて一つの案に落ち着くこととなった。


「分ぁーった。じゃあジャンケンしよ。恨みっこなしね」


 私は絶対に小池さんを縛りたいのだが、時間ばかりが過ぎていくのは勿体無いと思ったので提案を受け入れることにする。


「ふーっ……絶対勝つっ!」


 気合いを入れて肩を回す小池さん。私も心の準備を進めていく。

 この勝負に負けたら縛られてしまう。そんな惨めな目には絶対に遭いたくない。


「いくよ! 最初はグー! じゃーんけん……」


 掛け声に合わせて心に決めた手を差し出していく。


「「ポン!」」


 私はパーを出した。

 対する小池さんは……グーだった。


「やった! 勝ったぁっ!!」


 柄にもなく飛び跳ねて大喜びしてしまう私。

 見ると小池さんは肩をガクッと落としていた。


「マジか……くぅ……」


 私はニコニコしながら小池さんの持っていた縄を奪い取る。


「早く後ろ向いて。約束だよね? 小池さんから言い出したんだよ」

「わ、分かってるしっ。もう……すぐ解いてよね」

「うんうん」


 ようやく従順になった小池さんの手に縄を絡ませていく。

 人間の縛り方は散々勉強してきたのだ。実践は初めてだが、自分でも驚くほどスムーズに小池さんの手首を縛り上げた。


「縄が余ったから足も縛るよ。座って座って」

「くっ……」


 手首から伸ばした縄をそのまま両足首を束ねるのに使用する。

 簡単には解けないようにギュッと結びつけると、小池さんの逆海老状態が完成した。


「あはは。小池さん、いい格好になってるよ」

「…………っ、もういいっしょ。早く解いて!」

「ダメだよ。完全下校までまだまだ時間はたっぷりあるんだから」

「はぁ!? すぐ解くって約束……」

「それは小池さんが勝手に言っただけ」


 私に縄を解く意思が無いことが分かると、小池さんは私をキッと睨みつけてきた。

 普段なら怖くて縮み上がる所だったけど、今の小池さんはまな板の上の鯉状態。料理されるのを待つしかない哀れな獲物でしかないのだ。



「このっ、解けっ! くそぉっ!」


 自由を求めてクネクネと身を捩らせるがその様子は私にとって興奮材料となるばかりだった。

 これからどうしてあげようか。くすぐるもよし。スカートを捲って辱めるもよし。そうだ、まずはその大きなお胸を触らせてもらおう。とにかく恥ずかしがる小池さんの顔が見たい……!


「な、何その手は……何すんの!? ダメっ、いやぁっ!」

「ごめんね小池さん……もう行くとこまで行かないと……止まれないから……!」


 その後、私は満足するまで欲望の限りを出し尽くした。

 学校を出なくては行けない時間まで遊び倒したので今日の所は縛られずに済んだが、帰り際の「明日こそ相田っちを縛るかんね!!」という言葉に心が重くなる。

 そうだ、次はトランプで勝負ということにしよう。バレないようにイカサマしまくって絶対に勝てるように仕組むのだ。そうすればまた私が縛る側に回れる!

 私はインターネットでイカサマのネタを調べるべく、大急ぎで帰路についた。

 ふふふ……これから毎日が楽しくなりそうだ……!

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