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仁露-じんろ-\においふぇち/
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笑顔の魔術師【ケモノ系/エロなし/ほんわか】

「いらっしゃいませ。 あ、君でしたか…おかえりなさい。」 城下町の裏路地。 魔術に携わる者が行き交うこのエリアは石畳とレトロな街灯の揺らめきが幻想的な雰囲気をさせていた。 その中の一つ、黒い木で出来ていて魔法石のノブがついた店の扉を開ける。 薄暗い店内には壁に棚がぐるりと取り付けられ、そこには色とりどりの小瓶、魔法石、錬金釜や杖など魔術に必要な道具が揃っている。 そして、店内の壁や天井まで伸びた魔法植物から生えた実や花が照明の変わりにぼんやりと温かい光を灯し、木蓮のような香りの花粉がふわりと光を纏いながら舞う。 「うん、たーだいま。ようやく仕事が終わったよ。」 僕はフードを取り白い狼の顔を晒す。 黒猫の店主はいつものように甘い紅茶を淹れ始める。 それを見ながら僕はいつもの定位置、窓から街を見下ろせる場所へ手作りの椅子を移動させ大きなリュックを足元のかごへいれた。 そして、仕事のために訪れた村のお菓子や名産品を包みを解いて広げていく。 「今回はね、僕の好きな焼き菓子も、マスターの好きなジャムや紅茶も沢山買ったけど…一番早く渡したかったのはこれ。」 もう一つ包みを解くと柔らかい光を放つ紫色の魔法石。自分の顔ほどもある大きなこれはとても珍しい、何より紫というのはほとんど産出量が少ないのだ。 「これは…。」 紅茶の蒸らしを始めていた彼が驚いたようにこちらへ足早に近付いてくる。 顔を近づけ、優しい温かさを感じるような光に目を細め、魔法石を撫でていた。 「これ、あげるよ。僕は使えないし…ただ、さ。」 幸せそうに魔法石を撫でる彼は首を傾げる。金色の瞳をこちらに向け、なんだい?と優しい顔で次の言葉を待っていた。 「この行商人擬きのお仕事は趣味なのもあるし続ける。ただ、帰ってくる家として…マスターのいるここに住まわせて欲しいなって、思うの。」 黒猫は驚くこともなく、ふっと優しく口元を緩め口角を僅かに上げれば僕の頭を優しく撫でてくる。 「いつか、そう言ってくるのかなと。そう言ってはくれないかなと思ってましたよ。」 その言葉にゆらりゆらりと落ち着きと嬉しさを示すように尻尾を揺らす。 猫であれば喉を鳴らしそうなくらい、心地よい黒猫の撫でる感触に目を閉じ、その体に少し頭を寄せた。 「実は、ここの二階には幾つか部屋があったでしょう?その一番奥の入室禁止にしていた部屋、あれ…あなたの為に用意してたんですよ。」 「っ…!マスターって…あれだよね、ほんと…もう、何なの、あぁ…はぁーぁ……大好きだなぁ……。」 それは全く予想していなかった。 もう、もう、と嬉しくて、でも分からない気持ちが溢れマスターのお腹をぽすんっと軽く叩く。 きっと一番綺麗に城下町を見下ろせて、お城も見えるであろう角部屋。気になっていたそこが僕の為に用意していただなんて。 「こう、私も凝り性というか…君の好きな雰囲気に部屋を仕上げたくて。思ったより楽しくなって、随分手をかけましたよ。」 そういう彼は蒸らし終えた紅茶を取りに行き、温めておいたいつものソーサーとカップをトレイに乗せ持ってくる。 今日は木苺の紅茶。香りで分かる、これにミルクをいれるのが僕のお気に入り。 でも、最初はそのまま、途中でいれるというポリシー。それも分かっている彼は、小さな小瓶に同じく温めたミルクをいれ側に置いてくれる。 こぽこぽと音を立ててカップへ注がれる、紅い良い香りの紅茶。彼は小皿に同じ系統のジャムをたっぷりいれて持ってくる。 「それじゃあ、先ずは…頂きましょうか。」 二人でいつもの定位置で椅子に座る。 そしてカップを持ち、互いに持ち上げ乾杯の合図をする。 口へ含む、そして鼻からふぅ…っと静かに息を漏らすの木苺の甘酸っぱい香りが抜ける。それを堪能してコクンと喉を鳴らして飲み込む。 「あぁ、しあわせ…。」 ポツリと声が漏れる。 城下町の灯りと、夜空の星や月、それらを見ながら紅茶を飲む。 そう言えば先程までの木蓮に似た香りが薄い。誰かが気を利かせたかのようなタイミングにふと魔法の花を見れば小さな妖精が楽しげに笑っていた。 親指を立て、にかっと笑う彼女が本当に気を利かせてくれていた様だ。 ちょいちょいと手招きをすれば、お菓子を勧める。すると、彼女は窓枠に腰掛け体と同じくらいのクッキーをずりずりと掴むとサクサクと音を立てて幸せそうな顔で食べ始めた。 「君は…、妖精とも仲良くなれるですね。あなたが行く先々、何故か皆が幸せそうに笑う。心から、幸せを感じそれを他者にも与えられる。」 そう、夜空を見つめながら呟く彼。 何時ものようにジャムを口に含み、そしてコクンと紅茶を飲むと言葉を続けた。 「魔法は万能ではありません。本当に心から笑顔にする魔法はなく、笑顔にする為に支えることは出来ますが最後はやっぱり人の力ですからね。」 「そうだね。」 僕は短く返す。 興味がない訳でも、無関心な訳でもない。本当にそう思う、そう思うから余計なことは言わずに素直にそう受け入れた。 僕は、ミルクを紅茶へ注ぎ、そしてクッキーを口へ運ぶ。バターと濃い小麦の味。 猪獣人の姉御肌な店主が作っていたクッキー。失礼だけど見た目と裏腹にその調理行程は繊細だった。感心した様子で楽しげに見つめていたら、クッキーを山程くれたのだ。 『あんたを見てると何か幸せな気持ちになったんだッ!あたしの気持ち込めて作ったからさ、あんたの友達にも分けて皆でその幸せな顔振り撒きながら喰いな!』 こっちだって嬉しくなるような力強い笑みでそう声をかけてくれた彼女。思い出すだけでも力が沸くような記憶。 「このクッキーね、とっても素敵な人がくれたんだ。」 彼もクッキーを口に含み、口元を緩めているのを見れば尻尾を揺らしながら声をかける。 そして、彼女のことを話すとより一層美味しく感じて二人で微笑みながら言葉を交わしていった。 後に白い狼の彼は「笑顔の魔術師」として有名になっていく。敵国の王まで笑顔にし、和平を結ぶというとてつもない功績も残すことになるがそれはまた別のお話。


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