【小説】海外旅行に行くのにおねしょおむつが取り替えられないお話(試し読み)
Added 2023-09-18 11:11:14 +0000 UTCお風呂から上がったあと部屋着のスウェットに着換え、鏡台の前で髪を乾かしている時、夜の10時を過ぎたことに気がついた。階段の下から母親の声が聞こえてきた。 「優衣、今日は早く寝るのよ、明日早いんだから」 「分かってるって、髪乾かしたらすぐ寝るから!」 母親は少し過保護だ。確かに私は身長こそクラスメイトよりも少し低いが、あと半年でランドセルを置いてセーラー服を着るというのに、まだ私のことを幼稚園児とでも認識しているようだ。でも今日に限ってはその心配も分からなくはない、なにしろ明日は生まれて初めての海外旅行へ行くのだから。ちなみに行き先は台湾だ。沖縄よりも南なので今の時期でも暑いくらいなのだろう。 勉強机には明日着る服と真新しいパスポートが置かれている。服は少し大人っぽく白のブラウスとネイビーのジーンズを選んだ。パスポートをめくると、髪をポニーテールに結んだ自分の顔写真が印刷されており、アルファベットで【Yui Kimura】と印刷された下には、まだ少し歪な自筆の名前が印刷されている。 (私、明日初めて海外に行くんだ。クラスの友達よりも私の方が一歩大人ってことだよね) 楽しさがまた湧き上がってくる。旅行先のことはよく調べたし、お土産に何を買おうかももう考えた、家族全員分の荷物はもう車に詰めてあるので明日は家を出るだけだ。後は早く眠り、体調を万全にしておかなくてはいけない。私はパスポートを閉じ、寝るための大事な「着替え」を始めた。 部屋着のスウェットを脱ぎ、次に惜しまれつつも布のパンツも脱いだ。そしてタンスの横に置いてある、ランドセルと同じくらいの大きさのビニールのパッケージから、その歳にしてはやや幼いデザインと機能を持った、もう3つ下の妹もとうに使っていない下着を取り出した。それは世間一般には「おむつ」もしくは「おねしょパンツ」と呼ばれている。そう、私はこの歳にして、まだおねしょが治っていないのだ。 (クラスのみんなより、大人! 私は明日からみんなより大人になるの!) そういくら念じたところで下腹部を覆うピンク色をした夜専用のパンツは、おねしょが治っていないお子様がそこにいることを如実に表していた。寝る前に水を沢山飲んで、我慢に我慢を重ねたおしっこを出し切っても布団を全く濡らさずに守ってくれる不織布のふかふかした感触は、安心感こそ抜群だがまだ夜のお守りが必要な証でもあった。私だって夜も布のパンツ、いわゆる「お姉さんパンツ」で過ごしたいが、そんな見栄を張ったところでベッドも布団も大惨事になるのは火を見るよりも明らかだ。まるで遊園地で、身長制限のために乗れないアトラクションの前にいるような気持ち。朝、私の失敗を顔色変えず笑顔で受け止めてくれるカラフルに印刷された人気キャラクターも、この時ばかりは少し嫌になる。それでも、無地の味気ないものよりはずっとましか。 ベッドに入り、リモコンで部屋の電気を切った。暗くなればお姉さんパンツもおむつも見えなくなるのだ。 ******* 残りは支援者限定公開です!