SamSuka
楓山金木犀
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くノ一媚恋殺・後編

 奥座敷から火の手が上がり、店はみるみる内に延焼して、夜の空を焦がさんばかりに燃え上がった。周囲は騒然となり、半鐘の音がけたたましく響き渡る。悲鳴と怒号が、大店の倒壊する音に掻き消された。  火は一晩中燃え続け、店は全焼した。そして逃げ遅れた数名の焼死体が瓦礫の中から発見された。  奥座敷から見つかった死体は、一つだけであった……。    ☆  夜風に乗って、火の臭いがする。東の空が赤橙色に染まっていた。  ざわざわと周囲の木々の枝が擦れた。 「ここなら追手も来るまい」  男はそう言って、破れた戸を閉める。周囲に人の気配はなかった。 「そう、火事に紛れて、上手く逃げられた訳ね」  女が言った。その着物は着崩れ、片々が焦げている。  ここは人々が寂し杜と呼んでいる街外れの林である。その中の寂れたお堂に、二つの影があった。  一つは、くノ一お瑶である。  もう一つは、お瑶が重進を仕留めた後に現れた古烏羅の雷十だ。  雷十の機転により、二人は間一髪、襲撃者達の火薬玉から逃れ、ここへと逃げ延びたのである。 「あいつらは、何だったのかしら」  お瑶が疑問を口にする。重進を仕留めた後、現れた襲撃者達のことだ。 「おそらく、別な者から依頼を受けたのだろう。お前さんが重進を殺った後、痕跡を残さずに消すように命じられたのさ。さしずめ、上は上で何やら思惑違いがあるらしい」  重進は税吏として汚職を繰り返している為、お瑶によって粛清された。どうやらそんな単純なことではないようだ。事実、雷十にも重進暗殺の仕事が命じられていたという。税吏の汚職を巡って、上層部が対立しているらしい。  しかし一介の忍びであるお瑶には、今は知る由もない。  重要なのは、自分達自身も命を狙われ、何とか雷十の手助けもあって一時ではあるが無事逃げ延びることが出来たということである。  お瑶はまだお堂の戸口に立つ男を見た。背の高い、鍛えられた身体に、簡単な町人装束を身に付けている。仕込みの武器は持っているのかも知れないが、体術で仕留めることが得意なのかもしれない。歳はお瑶と余り変わらないようだ。 「暫く動くのは危険じゃないかしら」  お瑶は提案する。 「かと言って、ここも安全という訳ではないだろう」  外に目を光らせて、雷十は言った。 「だが、無闇に姿を晒すのは危険だ。俺が戻らなければ、繋ぎの者が動く手筈になっている。それまではここで様子をみよう」  そうして、雷十はその場に腰を落とした。  お瑶は正面から雷十を見る。 「ああ、少し寒いわ」  くノ一らしからぬことを口にした。 「ふん、止めろよ。こんな時に俺を誘っても、お前さんの得にはならないぜ」  素っ気なく雷十は返す。 「あら、男と女が同じ屋根の下で、何もしないで朝を待つなんて、野暮じゃない」  軽口を叩いてみたものの、お瑶は不思議な心地だった。それは外の空風とは裏腹に、どこか身体が温かく感じられるような心地だ。この男には先刻初めて会ったばかりで、ともすると敵かもしれぬが、それでも妙な親近感を覚えてしまうのだ。それも、同じ忍びという境遇だからだけではないらしい。 「女は嫌いなのかしら」 「ふん、女は好きさ。だがくノ一は別だよ。同じ里の女でも、裏を掻かれるのが忍びというものだろう」 「警戒しているのね。まあ、無理もないわ」  じんわりと、お瑶の下腹部が熱くなってくる。これはどうしたことか。少しの戸惑いがお瑶に生まれた。  お瑶とて、数多くの男を相手にしてきた。その中には、初心にも恋慕してしまった相手もいる。今、雷十に対して感じている女体の反応は、それに似ていた。手練れのくノ一が男に恋情を抱く等笑止だと心では思うが、その秘部は、微かに濡れてきているのだ。  身体は男を求めている。そして、心も……。  お瑶は膝立ちになり、雷十へと詰め寄る。 「ねえ、貴男はわたしを助けてくれたわ。そのお礼がしたいのよ」  囁くように、お瑶は言った。着崩れた着物がら、白い肌が覗いている。 「成り行き上たそうなっただけだよ」  にべもなく雷十は返した。しかし、その視線は深い女の胸元へと注がれている。 「なら、男と女同士がこうなるのも、成り行き上仕方ないんじゃないかしら」  お瑶は器用に雷十の褌を解く。すると立派に屹立した陽物が飛び出した。 「ほら、身体は素直ね」 「ふん、好きにするさ」  少しの悔しさを滲ませながら、雷十は言った。  お瑶は微笑むと、上体を屈ませて顔を男の股間に埋めるようにして、陽物を銜え込む。 「ううっ」  雷十の口から息が洩れた。  そしてそのまま、お瑶は絶妙な舌使いで、怒張した陰茎を丹念に舐っていく。  舌先で鈴口を軽く穿り、裏筋から雁首まで、唾液をまぶしながら舐め取っていった。その度に陰茎は口の中で抵抗するように跳ね、反り返る。そして硬度と大きさを増すのだ。  啄むように唇で亀頭を何度も接吻すると、じんわりと先端から液が漏れ始めた。  雷十は一言どころか、喘ぎ声すら洩らさない。全気力や胆力を腰に集中させ堪えているのだ。それくらいのことは、男の顔を見なくともお瑶には分かった。ならばその胆力の限界まで昂ぶらせて、最高の男としての至福に導いてやろうという思いが、お瑶の身体を熱くする。 「ンちゅ、じゅるっ、ちゅちゅ、れろっ、れろれろ、ちゅちゅっ」  巧みで止むことのない舌責めが繰り出される。並の男なら、既に昇天してしまっているほどだ。だが、雷十は耐えに耐えている。男は胡坐を掻いたまま、どっしりと微動だにしない。 「れろっ、ちゅるっ……。ふふ、如何かしらわたしの舌は?」  挑発するように、お瑶は訊いた。  雷十は直ぐには返事をしなかった。しかし無表情に思えたその眉がぴくりと動く。 「ねえ、どうする?」 「……」 「やっぱり、くノ一とはしたくないと言うのなら、これで止めにするわ」 「……」  お瑶は上目遣いに雷十を見た。男の顔は影になって判然としないが、内心にて凄まじく葛藤しているであろうことがお瑶には分かった。選択権は男に与えられたように見えて、主導権は依然女が握っているのだ。 「答えがないようなら、これで終いね」  無下にそう言って、お瑶は身体を上げた。 「……くっ」  雷十が息を洩らす。  そこには何処か敗北の悔しさが籠っていた。 「ああっ」  すると突然、雷十はお瑶に抱き付くと、そのまま床の上へと押し倒した。  着崩れた着物を剥ぎ取る。豊乳が夜陰に光るように露わになった。 「きゃっ」  口でこそそう言ったものの、お瑶は微笑を浮かべていた。まさか相手がここまで大胆な行動に出るとはおもわなかったが、それでも目論見通りになったのだ。 「だからくノ一等、嫌いなのだ」  女を裸形に向きながら、雷十はそう洩らす。そこには幾らかの嫌悪や憎悪も混じっていたが、既にお瑶の術中に嵌っている男の表情だった。 「なら、わたしがくノ一だということを忘れなさいよ。初めて見初めた女子だとでも思いなさい。その娘の名は何と言うの」 「うるさい、お瑶だ」 「あら、わたしと同じ名なのかしら」  豊満な乳房が主張する素晴らしい四肢が露わになる。男も上衣を脱ぎ去り、裸体だった。二人の股間は怒張し、そして濡れていた。 「重進を殺めたその身体で、お瑶、お前さんはこの俺の心をも殺したんだよ」  そして男は、女に覆い被さる。  女はそれを受け止め、背に腕を回し、男の腿に脚を絡めた。 「ふふふ、雷十、今宵はずっと愛して上げるわ。男達を何人も殺めたこの身体で、貴男のことをね」  多くの男を惑わせ、夢中にさせ、そしてその命を奪って来たくノ一最大の武器、それが今は一人の男を愛する為に使われている。血を吸って磨かれた女の四肢は、男の身体に絡み付き、柔肌は吸い付いて、えもいわれぬ快美感を男に与えていた。  男達と殺め、そしてまた一人の男を殺そうとしているくノ一の魅身。しかしそれは、単に命を奪うのではなく、何時も間にか知ってしまった感情故に、相手を虜にしてしまおうとすることだった。  雷十自身もまた、そのことに気づいていたのだろう。男は女の気持ちに応え、その危険で魅惑的な肢体を抱いたのである。  その気持ち、感情こそ、恋である。お瑶は、危機を共に脱した雷十とい初見の忍びに、恋情を抱いたのだ。 (まずは雷十、貴男の中の他の女の想いを全て消して上げるわ)  男の熱い手が、豊乳を摑む。  二人の吐息が次第に荒くなっていく。  抱き合って横臥したまま、男女は獣のように乱れていった。  それは美しく、そして限りなく淫靡である。 (そして、貴男の胤も心も、全て貰うわよ)  女が腰を浮かせると、その引き締まった腹部が男の怒張した部分に当たる。お瑶は腰を上下させて、激しく腹で男の陰茎を扱き立てた。  男は声を立てなかった。  だが、口と舌に責められ、女身の柔肌の快楽を刷り込まれた男根は遂に限界を迎えて決壊したのである。  濃厚な白濁が、お瑶の腹を汚した。それは熱を帯び、女の肌を焼きそうな程である。 「ふふ、貴男の胤、熱いわ。それにとっても濃いわね」  気を遣ったばかりにも関わらず、男は精を自分と女に対して塗りたくるように、激しく女の肌を貪る。 「ねえ、雷十、次は貴男の最も愛する女の名を呼びながら出してちょうだい」  お瑶はしなやかに身体を捻り、太腿の間に陰茎を挟み込むと、それをやわやわと扱き上げた。  柔肌と、腿の交互の動きが射精したばかりで敏感になっている陰茎に刺激を与える。一度大量に出していても、精巣は直ぐに活発になり、血流は股間へと集中して、陽物は硬く大きく成長した。それもお瑶の腿という淫牢に捉えられたまま。 「うぐっ」  呻き声と共に、乳房を摑む男の手に力が籠る。柔らかで弾力のある肉鞠からの刺激もまた、快感となって雷十の全身を犯す。 「さあ、雷十、貴男の懸想している人は、誰?」  お瑶は一層強く両腿で最大に怒張して暴れる陰茎を捉え、扱き上げると同時に両方から挟み込んだ。  それが止めだった。 「ああっ、お瑶っ、お瑶、おようううっっっ――」  呻くような声は次第に絶叫へと変わり、雷十はその名を叫びながら、上体を仰け反らせて、お瑶の腿の間で先程よりも尚濃厚で大量の精を吐き出したのである。  びく、びく、と身体を大きく痙攣させて、雷十はお瑶の上へと倒れ込んだ。 「……お、お瑶、お、よ、う……」  意識の薄らぎかけた状態で、しかしその口からは愛を刷り込まれた女の名が洩れている。  お瑶はその魅惑の四肢で男を優しく受け止めながら、その後頭部を撫でていた。 (ふふふ、可愛いわ。恋の罠は、どんな媚術も敵わないくらい最強ね)  お瑶は艶然と微笑みながらも、その瞳は何処か夢見る乙女のように、自身の胸の上で脱力している雷十を眺めている。  外ではまだ風が唸り、木々のざわめきが、ここに二人がいることを隠してくれているかのようだ。だが――。  お瑶は雷十を優しく寝かせ、自分は四肢も露わに立ち上がる。その腹部や腿には白濁が付着し、股間や膝ねと流れていた。  お瑶はそのまま、戸の近くまで行くと、それを開け放った。 「ふふ、犬が一匹いたみたいね」  お堂の側に黒装束の男が一人仰向けに倒れているのだ。激しく身体を痙攣させている。 「わたしの淫気に中てられたみたいね。ふふ、天女の目交いは、選ばれた者しか許されないのよ。恥を知り、惨めに後悔するがいいわ」  そしてお瑶は、そのしなやかな素足で男の股間を踏み付けた。 「がはっ」  黒装束を突き破る程に勢いよく、白濁が噴き上がる。  暫しの痙攣の後、男は完全に動かなくなった。  それを見届けて、お瑶はまたお堂の中へと戻る。  もぞもぞと、雷十が動き始めていた。どうやら、意識を取り戻したようである。 「無理をすることはないわ。まだ夜は長いのよ。それまで存分に愛し合いましょう」  妖しい眼光と慈愛の笑みを浮かべ、お瑶は雷十を優しく包み込んだ。  その魅力で男を殺しもすれば、至福の快楽を与えて愛しもする、それがくノ一〈天女衆〉の、ひいては女の持つ二面性。  外では、精を枯らして干乾びたようになった男の死体が寒風に晒される側で、お堂の中では、男女が再び濃艶に交わり合おうとしている。 「お瑶、ああ、お瑶……」  雷十が口にするのは、朴訥な愛の言葉だ。  その名を唱えながら女を抱く度に、男は心も身体も、女への愛に溺れていく。  陰茎がまたも反り返り始めた。 「ふふ、雷十。来て、もっと、もっと、抱いて……」  甘い蜜のような言葉が男の耳から理性を溶かす。  淫靡な男女の情交に、お堂は淫らなけはいに満ちた。 (わたしの恋の罠の中で、わたし達はずっと愛し合うのよ、雷十……)  普段男を淫殺する時と同じように、あるいはそれ以上に、お瑶の女陰もまた、ふしだらな程に蜜を滴らせているのだった。 (終わり)


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