SS 俺いも 五更瑠璃、五更日向 水着
「そう言えばルリ姉って、最初の周では水着で京介くんを悩殺しようとは思わなかったの?」
8月某日、夏コミが間近に迫った昼の五更家。エアコンを付けない環境で部屋の中でバテ掛けていた五更日向は気を紛らわすために夏コミ衣装作りに勤しむ姉に質問してみた。1周目の小4の夏の出来事を日向は憶えていなかった。
「全く考えていなかったと言えば、嘘になるわね。京介だって私の胸を揉むタイミングをずっと推し量っていたようなムッツリケダモノだったわけだし」
瑠璃は針を動かす手を止めないまま答えてみせた。ちなみに下の妹は瑠璃の隣で畳に横になって気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「ただ、プールへ行くのに劣情を全開にすることはなかったわね」
「どうして?」
「あの時の私にとって、プールとはあくまでも家族サービスだもの。五更三姉妹+京介。それが私にとってのプールだったわね」
「記憶にないとはいえ、ルリ姉のエロ猫覚醒を邪魔したのがアタシと珠ちゃんだったなんてぇ」
「姉に向かってエロ猫覚醒とは失礼ねっ!」
瑠璃は針を進ませながらムッとした表情を浮かべた。
当時の彼女は、自分の言葉通りに五更三姉妹の姉であることを優先していた。少女漫画のヒロインの様に恋に全てを傾けて日常生活や人間関係を疎かにしてしまう様な真似はしなかった。
「それで、どんな水着を着ていたの?」
「そうね……確か。実家の方にあったんじゃないかしら?」
瑠璃は立ち上がってみせた。額からは汗が流れ落ちていた。
平気なフリをしてきたが、エアコンの在る生活に慣れ切っていた彼女にとって、五更家での真夏のひと時は耐えがたい暑さだった。
瑠璃は元自室の押入れを漁って目的のモノを取り出すと早速着替えてみせた。
肌の露出が増えて何だかホッとした。それからすぐに妹たちの元へと戻っていった。
「こちらは京介と2人きりでプールに行ったときに着たものよ」
瑠璃はかつての水着を妹に披露してみせた。
「おおっ! 嫁入り前のルリ姉にしては随分と攻めた水着にしたもんだねえ♪」
日向は上から目線で瑠璃の水着が過激なことを褒めてみせた。
「…………京介を分かり易く誘惑したいという思惑がなかったかと言われればウソになるわね」
瑠璃は頬を赤く染めてみせた。
「おっぱいないのに女子高生ってブランドを後ろ盾に頑張ったんだねえ♪」
「黙りなさいっ!」
瑠璃は日向の頭を軽く小突いた。日向は舌をペロッと出してごく軽い反省の意を示してみせた。
「そんなルリ姉が人妻になって着るようになった水着がこちら」
日向はアルバムを取り出して先月、五更姉妹と京介で海に遊びに行った時の写真を見せてみせた。
「色気のないワンピース。これじゃあ、エロ水着を期待している高坂くんを満足させてあげられなかったんじゃないの?」
日向が指さしたのは紫色の肌の露出が少ないワンピース型水着を着ている瑠璃だった。
次女は長女の水着が地味だったことに大いに嘆いていた。
「…………私はもう京介と結ばれているのよ。夫婦なのよ。派手な水着で誘惑する必要性が皆無でしょうが」
瑠璃の反撃。けれど、日向は首を横に振った。
「せっかく海まで来たんだから、いつもとは違うエロ可愛いルリ姉が見たい。京介くんはそう思っていたに違いないよ。なのに、ルリ姉ときたら……」
「うるさいわね」
「だから、その分アタシがえっちな水着を着て京介くんのパトスを満たしてあげたんだけどね~♪」
日向はマイクロビキニ姿の自分の写真を指さしてドヤ顔してみせた。
「こんな写真が存在したなんて……貴女にはすぐに他の水着をレンタルさせて着替えさせたから、ちっぱい無様な水着姿の記録なんて残っていないと思っていたのに」
「ちっぱい無様はルリ姉も同じじゃんっ!」
「失礼ねっ! 私は少しはあるわよっ! 京介が毎晩揉んで喜んでくれる程度にはっ!」
姉は無乳ではないアピールを語気を強めてしてみせた。どんぐりの背比べ。そうとしか表現ができない低次元の争いだった。
「大体私はまだ16歳とはいえ既に人妻なのだから。不特定多数に見られる環境で肌を晒す謂われなんて存在しないのよ」
瑠璃の語気はますます荒くなっていた。実際瑠璃は自らのアイデンティティを京介の妻、高坂家の嫁に重きを置いている。中二病患者だった時の自分は極力出さない様にしている。もっとも、深く根付いてしまっているので本人も意識しないところで出てしまうのだが。
「そう言えばルリ姉、海で珠ちゃんのお母さんだって何度も勘違いされてよね」
「私はそんな年齢じゃないというのに……困った勘違いだったわね」
「地味な水着と相まって……おばさん臭かったってことなんじゃ?」
「失礼ねぇええええええええええええぇっ!!」
瑠璃は両手を振り上げて怒ってみせた。
五更家は本日も平和だった。