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枡久野恭(ますくのきょー)
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SSS 薫る花は凛と泣く 和栗薫子 恋愛頭脳戦


SSS 薫る花は凛と泣く 和栗薫子 恋愛頭脳戦


『和栗さんのことが……好きです』


『私も……凛太郎くんのことが好きです♡』




 和栗薫子は紬凛太郎の告白を受け入れて恋人関係になった。

 底辺学校に通う男子高校生がお嬢さま学校に通う才媛美少女の心を遂に射止めた。

 世間的には凛太郎の頑張り物語と認識されているこの恋愛劇。だが、実際の構図は真逆だった。





「どっ、どうしたら。凛太郎くんともっと仲良く……恋人になれるでしょうか?」


 薫子は凛太郎が彼女を好きになっていくよりもずっと以前から彼のことを好いていた。凛太郎の実家のケーキ屋の常連になったのも、店内で彼と出会えないかと期待しての行動だった。

 そんな薫子は凛太郎と直接接する様になってからその想いを更に募らせていった。少年の不器用な優しさに触れて恋人になりたいと本気で思うようになった。

 だが、薫子は他者からは優しく頼りになると評価される一方で、実際の所は自分の気持ちを伝えるのが下手だった。問題は抱え込んでしまうタイプだった。

 凛太郎に好きだと気持ちを打ち明けることはできなかった。加えて彼女の通う桔梗学園は凛太郎の通う千鳥高校を馬鹿にする傾向が強く、恋愛相談はとてもできない雰囲気だった。

 凛太郎への募る想い、相談さえできない胸の苦しさに圧し潰されそうになった薫子は恋愛に思い悩む少女たちの集いに参加してみることにしたのだった。


「恋愛とは頭脳戦です。結ばれてから後のことを考えて……絶対に女性から先に告白してはいけませんっ!」




 恋愛頭脳戦同盟の主催者である四宮かぐやは体験会員である薫子に向かって断言してみせた。

 告白する勇気がないからセミナーに参加した薫子だったが、かぐやの断言には若干の違和感を覚えた。


「あの……女の子の方から告白するのは駄目、なんですか?」

「駄目です」


 またしても断言された。


「それは、どうしてでしょうか?」

「結婚後の生活で男性側に一生マウントを取られてしまうからです」

「けっ、結婚っ!?」


 薫子の顔が真っ赤に染まった。

 瞬間的に凛太郎との新婚生活シーンを頭の中で思い描いてしまった。


「けっ、結婚って……私たち、まだ、高校生ですよ……」


 戸惑う薫子。だが、その反応はかぐやにとっては良くないものだった。


「和栗さんは生涯を添い遂げる計画も覚悟もない男性とお付き合いするつもりなのですか? そんな尻軽な恋愛をお考えで?」


 圧が強かった。

 睨んでくるかぐやに薫子の全身が震えた。


「そっ、それは……」

「どうなんですか? 男をとっかえひっかえしたいのですか? 生涯一人だけなんですか?」


 重過ぎる質問だった。

 だが、薫子は震えながらも足を踏ん張ってかぐやの質問を真剣に考えてみた。

 答えはすぐに出た。一つしか出なかった。


「凛太郎くんとお付き合いして時間が経ったら……お嫁さん、なりたいです」


 薫子の返答を聞いて圧は霧散してみせた。


「和栗さんも真実の愛の求道者なのですね」

「その言い方はちょっと恥ずかしいです……」


 薫子の顔は赤くなった。


「つまり、交際する男性は生涯ただ1人だけで良い我々にとって恋愛とは結婚後の生活を如何に快適なものにするかということに掛かっているのです」

「……まずお付き合いできないことには結婚できないんじゃ……」

「この男性中心主義の理不尽な社会において女性である我々が結婚後に理不尽な扱いを受けない為には最初が肝心なのですっ!」


 かぐやは拳を固く握り締めながら叫んだ。


「女性から先に告白してしまえば、この女、俺に惚れてやがるなと男性を増長させてしまい、結婚後は飯、風呂、寝るしか言わない傲慢な暴君を誕生させるだけです」

「それは今の時代、さすがに言い過ぎなんじゃ……」

「とにかく、和栗さんが結婚後に夫となる男性と対等に、そして幸せに暮らしていく為には男性からの愛の告白をさせることが絶対に必要なのですっ!」

「…………凛太郎くんとの幸せな結婚生活……」


 薫子の脳裏に、凛太郎と2人でケーキ屋を切り盛りしているビジョンが浮かんだ。

 少し大人びた薫子も凛太郎も楽しそうにケーキを作っていた。

 薫子は全身が熱くなるのを感じていた。


「貴女が今脳裏に思い浮かべた光景を実際のモノにする為に知略の限りを尽くしなさい」

「知略の限り、ですか?」

「そうです。自分から何のアクションも起こさないで意中の男性から愛の告白を受けられるなんてぬるい考えは捨て去って下さい」

「あっ」


 かぐやの一言に薫子は心臓が締め付けられる思いをした。


「告白は男性からでなければなりません。ですが、何もしなければ恋が進展しないか、最悪他の女に盗られかねません。つまり、男性の方から告白したくなるような舞台を整える。それこそが我々真実の愛の探求乙女たちの恋愛頭脳戦なのですっ!」

「凛太郎くんの方から告白したくなるような舞台を整える……」


 かぐやの説明を最後まで聞いて薫子は強い衝撃を受けたのだった。




「私には凛太郎くんに告白する勇気はない。だから、かぐやさんのお話はちょっとホッとできた……」




 自宅に戻った薫子は入浴しながら先ほどのセミナーのことを思い出していた。

 男性から告白すべきというかぐやの持論は勇気を出せない薫子にとっては安心できるものあった。ただ、全面的に賛同できるかと言われればそうではなかった。


「凛太郎くんから告白してもらう為の舞台を私の方で整えるって……具体的にはどうしたら良いの~?」


 かぐやは女性側からの積極的な仕込みが男からの告白を引き出すのに必要であると説いた。だが、舞台を整えるとは具体的には何を意味するのか唯一の正解はない。薫自身で考えて実行するしかなかった。それが難しかった。


「私と凛太郎くんは敷地は隣同士とはいえ学校が違う。だから、私が凛太郎くんと会うきっかけを作らなければずっと会えないままになっちゃう……」


 桔梗と千鳥は仲が悪く、敷地が隣接し合っていても交流はなく推奨もされない。学生生活をただ送っても凛太郎との接点はない。だからこそかぐやの唱える恋愛頭脳戦は必要だと薫子は確信を抱いた。


「ケーキ屋さん通いはこれからも続けるとして。でも、それだけじゃあ、単なる食いしん坊キャラと思われるだけ。もっと、高校生らしい接点を持たないと……う~ん」


 頭を悩ませる。


「私と凛太郎くんは同い年だし、勉強会とかだったら自然と一緒に居られるかな? でも、凛太郎くん。一緒にお勉強って誘って変に思われないかな? どうしたら……」


 薫子の考え事はずっと続き長風呂となって最後にはのぼせてしまった。

 けれど、恋愛頭脳戦セミナーに参加したことで薫子は凛太郎と一緒に過ごす時間を作る為により積極的な行動をとるようになった。

 その数か月後、薫子は遂に凛太郎から告白されて恋仲になれたのだった。


 了




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