SSS 顔に出ない柏田さん 柏田さん、和泉紗霧
ネット配信で可愛くもセクシーな絵を描くことで人気を博しているエロマンガ先生。彼女はお面を被って顔を晒しておらずプライベートな情報も出さない。だが、配信時の容姿や話題内容から東京都在住の中高生少女ではないかと推測されていた。
だが、ここに来てその推測に異議が唱えられるようになった。彼女がごく自然に秋田県民しか知らないローカルネタをぶち込んでくることが増えた。その為に都民を装った秋田県民ではないかという説が力を増しつつあった。
「それで、柏田ちゃんはどんなハロウィンにするの?」
エロマンガ先生こと不登校JCの和泉紗霧は、同じ声友達の柏田さんこと柏田ひよりとノートパソコンを用いてチャットしていた。柏田さんは秋田県在住で、紗霧の情報源は彼女だった。
『太田を食らい尽くす』
表情がほとんど変化せず顔に出ない柏田さんとして有名だが、顔に出ないだけで彼女は誰よりも熱い魂を灯していた。
柏田さんは、太田秋人という名の同級生の少年に恋していた。太田は好きな子に意地悪してしまう小学生男子が中学生になった様な少年だった。
太田は柏田さんの表情を崩そうと躍起になっている。好きな理由は太田の根が優しいということだが、クラスメイトの多くは、太田の柏田さんへの対応を意地悪を通り越していじめだと思っている。
柏田さんが太田を好きなことに関しては第三者には理解しがたい。だが、彼女は太田が好きであることを教室内で公言する度胸を持ち合わせていた。もっとも、太田を含めてクラスメイトの大半には半分冗談と認識されている。けれど、柏田さんは本気だった。
「食らい尽くすかぁ~いいねえ♪」
紗霧は柏田さんの決意を陽気に笑って受け入れていた。
重度のアニメ漫画オタクであり長期の引きこもりで対面接触をほぼ絶っている彼女にとって漫画的な決意はむしろ受け入れ易いものだった。
『紗霧は、ハロウィンどうするの?』
「えっちなサキュバスコスをしてモテない兄さんをからかおうかなって♪」
紗霧もまた照れながらエロゲー的な計画を打ち明けていた。
彼女は義理の兄であり高校生にしてプロ作家である和泉正宗に恋していた。そして正宗は紗霧が唯一日常的に対面で接している人物でもあった。その正宗を紗霧は煽情的なコスプレで誘惑しようとしていた。
逆に言えば、紗霧にとってハロウィンとは正宗と2人きりのイベントだった。
『お兄さん、えっちな誘惑しちゃって大丈夫なの? 家、2人きりなんでしょ?』
自分の恋には胆力溢れる柏田さんも、友達の恋には慎重な態度だった。
血は繋がっていないとはいえ兄と妹。もし、上手くいかなければ家の中でぎくしゃくした関係になってしまう。反対に上手くいきすぎても和泉家はラブホテルと化してしまう。
柏田さんにとっては、紗霧と正宗の最適な近未来を想像し難い。けれど、紗霧にとってその心配は杞憂だった。
「大丈夫♪ 上手くいったら、私は引き篭もりのJC妹から引き篭もりのJC妹妻にジョブチェンジするから♪」
紗霧は兄との結婚を想定済みであることを陽気に宣言してみせた。
Free!婚の世の中なので、兄妹だろうが中学生だろうが結婚を認められる。紗霧は兄妹という枠組みを堅持するつもりもなかった。
『……結婚……』
柏田さんの表情は変わらない。だが、声のイントネーションが僅かに変わっており、動揺していることは容易に想像が付いた。
「柏田ちゃんはどうなの? 太田くんって男の子をハロウィンコスで誘惑して食らい尽くしたら……結婚するつもりはないの?」
柏田さんにとって試練とも言える質問だった。だが、彼女もまたかわいい顔に似合わず強い決意を秘めた少女だった。
『もちろん、お嫁入する……元柏田さんになる覚悟はできている』
柏田さんは断言してみせた。表情は変えないまま。クールな表情の下はギラギラしていた。
『猫コスして太田を暗い路地に連れ込む。そして暗闇の中でケモノの本性を現して太田を食らい尽くす』
「中学生の男の子を暗がりに連れ込んで襲い掛かるとかロックだねぇ♪」
『食らったら、男としての責任を取らせてお嫁にもらってもらう』
「逆レしておいて男としての責任を取らせるとか。柏田ちゃんは悪女だねえ~♪」
『照れる』
柏田さんは表情は全く変えないまま言葉だけ照れてみせた。
「それじゃあお互い、ハロウィン明けに結婚報告できるように頑張ろう♪」
『お~♪』
2人の少女は互いに結婚を目標に据えてハロウィンに挑んだのだった。
そして迎えたハロウィンナイト。
「兄さんは原作作家として公式イベントに招待されたから今夜は大阪に泊りって……私のハロウィンはどうなるのよぉおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」
「雨でハロウィンイベント中止。太田に会えないんじゃ食らい尽くすこともお嫁入もできない。残念」
2人の少女の野望が叶うことはなかったという。