STARRYの控室を出た瞬間、後藤ひとりの胃の奥から、鋭い痛みが突き上げてきた。
「……っ、うぅ……!」
無意識に両腕でお腹を押さえる。汗がじっとりと額に浮かび、視界がわずかに滲んだ。
さっきまで、ライブ後の機材片付けを手伝っていた。
熱気と疲労で体が重くなっていたのは確かだが、急激に襲ってきたこの腹痛は、その延長ではない。
腸の奥が絞られ、ぐねりとねじれるような感覚。まるで、中で何かが暴れ回っているみたいだった。
「や、やば……ト、トイレ……!」
声にならない声を喉から漏らし、控室から廊下へ飛び出す。足取りは小刻みで、スピードを上げれば上げるほど、下腹部に重くのしかかる圧迫感が強まる。
ギュルルルルル……ッ! キュウウウ……!

無情にも、腸の抗議がジャージの内側に響く。
その音が自分にしか聞こえていないことを祈りながら、必死に一歩ずつ進む。
やっと視界の先にトイレのドアが現れた。
ひとりは半ば駆けるようにドアへ手を伸ばし、ノブを回そうとする。
――ガチャガチャッ……ガチャッ……!
「っ、あれっ……開かない……!? ちょ、ちょっと……っ!」
焦りで呼吸が浅くなる。冷や汗がこめかみをつたって頬を滑り落ち、唇がかすかに震えた。
背筋に走る悪寒と、腹の奥から突き上げる衝動が同時に押し寄せる。
「は、早く……開いて……ぇぇ……っ!」
指先に力が入りすぎ、手首が震える。
腰をくの字に曲げ、太ももをすり寄せるように踏ん張りながらも、内側から破裂しそうな圧迫感が止まらない。
もう一刻の猶予もない。
鍵さえ開けば――その先はどうにかなるはずだ。
そう信じながら、ひとりは必死にノブを回し続けた。
必死にドアノブを回しても、さっき目の前のトイレは埋まっていた。
その瞬間、後藤ひとりは諦めることなく、次の空きトイレを探すために廊下へ飛び出した。
しかし、その一歩一歩があまりにも遠い。
足を動かすたび、腹の奥でうねるような波が押し寄せ、内臓を絞り上げるような痛みが全身を支配する。
「っ……あ……あぁ……っ、まだ……っ……!」
歯を食いしばり、太ももをすり寄せるように歩みを進める。
だが、限界は唐突に訪れた。
――ビチャッ……ビュルルルルルッ……! ジュブジュブジュブ……ッ!

「あっ……!」
下腹部を覆っていた最後の抵抗が崩れ、温かく、そして重たいものが一気に広がった。
薄いピンク色のジャージ越しに、熱を帯びた液体が腿を伝い、膝裏まで濡らしていく。
耳に届くのは、自分の呼吸と、足元へ滴り落ちる水音だけ。
ポタ……ポタ……ジュルルル……ッ。
「いや……やだ……やだぁ……!」
情けなく崩れ落ちそうになる体を必死に支え、ひとりは背中を丸めたまま、振り返ることもできない。
足元では、茶色の水たまりがタイルの床をじわりと染めていく。
熱く、そして湿った空気が自分の足首を包み込み、その現実を突きつける。
「……こんな……の……」
喉の奥が詰まり、息がうまくできない。
羞恥と絶望と、どうしようもない敗北感。
そのすべてが、重く、じっとりと胸の奥に沈んでいった。