薄暗い部屋の中、智絵里はひとり、ベッドの中に横たわっていた。熱で火照った頬に貼った冷却シートはもうぬるく、額からはじっとりと汗が流れ落ちている。呼吸は浅く、胸元が小さく上下するたびに「はぁ……はぁ……」と弱い吐息が漏れた。
そのときだった。
――キリ…キリ…ッ。
下腹部の奥で、小さな警告のような痛みが走る。最初は「……あれ?」と戸惑うだけだったが、痛みはすぐに鋭さを増し、波のように押し寄せてきた。
「……あっ……お、お腹……っ……」
かすれた声が喉から漏れる。ベッドの中で身じろぎを試みるが、全身が重く、熱に奪われた体力では起き上がることすら難しい。冷え切った指先が腹部へと自然に添えられ、その下から――ギュルルル…と不穏な音が響く。

便意は、唐突に、そして容赦なく襲ってきた。
「うぅ……だ、だめ……っ……トイレ……」
頭の中ではそう繰り返すのに、脚はまったく動かない。身体の奥で“次の波”がくるのがわかる。ズキンッ、と下腹部を貫くような痛み。額からこめかみ、首筋へと汗が伝い、背筋をじわりと濡らす。
「急に……きた……動けない……」
目の奥にじんわりと涙が滲む。心臓の鼓動がドクン…ドクン…と早くなり、痛みと焦燥が胸を締め付ける。呼吸はさらに荒くなり、「はぁ…はぁ…」と短い吐息が重なる。
シーツの下で膝をわずかに曲げる。体勢を変えれば少しは楽になるかもしれない――そう思うのに、身体はまるで鉛のように重く、ただ下腹部の痛みだけが存在を主張し続けた。
ギュルルル…キュル…キュルルル……
内臓が不規則に軋む音が、耳の奥で反響しているようだ。智絵里は枕を握りしめ、小さく震えながら、次の痛みの波を必死にやり過ごそうとしていた。
この夜はまだ、長かった。
高熱にうなされながら、智絵里はベッドの上でうつろに天井を見つめていた。額の冷却シートはもう温くなり、首筋から背中へと、じわじわ汗が流れ落ちていく。
下腹部に走った鋭い痛みは、先ほどから間隔を詰めながら押し寄せてくる。
――キリ…キリ……ギュルルル…。
腸の奥が蠢くような感覚に、唇を噛んで必死に耐えた。
「……あっ……だ、だめ……」
熱に奪われた体力では、起き上がることすらままならない。ベッドから降りてトイレへ行く――それは、頭ではわかっていても、重い鉛をまとったような体は動こうとしない。
「……行かなきゃ……でも……っ……」
限界はすぐそこまで迫っていた。
必死に汚さないよう、智絵里は膝を震わせながら脚を開く。わずかな抵抗。それだけが、今の自分にできる全てだった。
次の瞬間――。
「ビシャッ…ジュブジュブ…ッ」

押し寄せる強烈な便意に、腹筋が勝手に収縮し、熱いものが下腹部の奥から一気に解き放たれる。パジャマの布地を通して、ぬるい感触が広がり、シーツを汚す。
「うぅ……やだ……やだぁ……っ……」
情けなさと恥ずかしさが混ざった声が、喉から震えて漏れる。足元へと伝う液体が、ボタ…ボタ…と小さな音を立てて滴り落ちるたび、顔はさらに紅潮していく。
ギュルルル…と腹の奥が鳴り、なおも少しずつ、力なく漏れ出していく。
ベッドの上、薄暗い部屋に響くのは、荒い息遣いと、シーツに染みを広げる水音だけだった。