昼休みの終わり、校舎の廊下。
花海佑芽は教室から飛び出すように駆けてきた。制服の上から押さえたお腹は、ずきん、と波打つように痛みを訴えている。
「くっ…さっきのパン、古かったのかな…っ」
歯を食いしばり、足を止めずに突き進む。トイレはこの先だと分かっている。それでも、腹の奥から「ギュルル…」と不穏な音が響き、冷や汗が背中をつたう。
――見えた。
個室の並ぶ扉。その前に辿り着いた佑芽は、勢いよくドアノブを握った。
「カチャッ…」
固く閉ざされた感触。視線を横に滑らせると、目に入る「使用中」の表示。
「う゛ぅっ…まだ空かないの!?」
思わず声が漏れる。右手でドアを押さえたまま、左手はぎゅっと腹部を抱きしめる。
「ギリギリ…っ、耐えろ…あたし…負けたら悔しいじゃん…!」

額から落ちる汗。こめかみも熱い。足元では「タッ…タッ…」と小刻みな足踏みが止まらない。
隣の個室も試そうと、一歩横にずれる――しかしそこも「使用中」。
「ギュルルル…」腹が大きく鳴った。痛みはさらに強まり、体がかすかに震える。
壁にもたれ、浅く息を吐く。
「…お姉ちゃんだったら、絶対こんなときでも顔に出さないんだろうな…でも…負けたくない…」
自分に言い聞かせるように呟き、視線は扉のランプを凝視する。
ほんの数秒が、やけに長く感じられる。波のような痛みと焦り。
佑芽は背筋を伸ばし、必死にフォームを保ちながら、扉が開く瞬間をただ待ち続けた。
扉の前で必死に耐えていた佑芽の呼吸は、浅く、速くなっていた。
「まだ……開かないの……っ」
握る手のひらは冷たく汗ばみ、額からも汗がつうっと流れる。腹の奥で、さっきよりも強く「ギュルルル…ッ」と鳴り響き、足元から力が抜けそうになる。
こみ上げる痛みに歯を食いしばり、もう一度ノブを回す――しかし、変わらず「カチャッ」という冷たい音だけが返ってくる。
「や…やだっ……っ、もう……っ!!」
視界が滲み、膝が震えた。必死に奥歯を噛み締めても、波のような圧力が下腹部から迫ってくる。
――来る。
分かってしまった瞬間、全身の力が抜けた。

「間に合わ……な……っ」
膝が折れ、壁にもたれる。その時、温かい感触が下着の中に広がり、堰を切ったように流れ出した。
「……っ……」
喉の奥から押し殺した声が漏れる。太ももを伝って落ちる感覚と、床に「ポタ…ポタ…」と滴る音。羞恥と情けなさが一気に押し寄せ、俯いたまま、肩が小さく震えた。
彼女の耳には、腹の奥でまだ小さく続く「ジュブジュブ…」という音と、自分の荒い呼吸だけが響いていた。