生皮鬼 10
Added 2021-05-09 15:54:28 +0000 UTC10邪鬼の謎を探れ 学園祭まであと一週間に迫ったと言うのに、放課後の校内はがらんとして準備にいそしむ生徒の声はまったく聞こえて来ない。 そんな中、俺と壮平と龍騎の三人は「皮」を身に付け求性鬼に変化し、他の人には見えない隠形術を使いながら校内を見て回っていた。 「それにしてもさ、この学園にだけ邪鬼が出るのは何でなんだろうな?」 「生駒先生のハナシだと負の感情エネルギーが『邪気』になり、その『邪気』が人間に憑りつくと『邪鬼』になる、って事だったよな? だったら学園以外の場所でも普通に出そうなのに 壮平と龍騎が鬼の肉体美を見せつけながら「何でなんだろうな?」首を傾げる。 俺も同じ疑問を持っていた。 「もしかして俺らが知らないだけで他の高校、いや、世の中にはいっぱい邪鬼が居るとか?」 ここで『カギロイ』が口を挟んだ。 『そんな邪鬼だらけだったらこの世はとっくに地獄と化してるぜ? それに、邪鬼を生み出す邪気ってのは本来弱いものでな、 放っておいてもおのずと浄化され消滅しちまうのさ』 『この学園の中だけ邪気が格別濃いのは本当だ。それでもほとんどの人間が普通に過ごせるのは体が病にならぬよう抵抗するのと同じく、人間自身が邪気を取り込まぬようそれぞれが防いでいるのだ』 アラカネが補足してくれる。 『昔、我らが皮に封じられる前においてもそうであったが、そうそう邪鬼などは現れない。抵抗する心の弱った人間と濃い邪気が偶然出会う事で邪鬼は生まれていた』 「ハナシは最初に戻るけど、だったらなんで急にこの学園に邪鬼が出始めたのかな? 邪気は元からあったかも知れないけど生徒が邪鬼化するほどじゃ無かったのに、どうして濃くなっちまったんだろう?」 俺の言葉に壮平も龍騎も、そして皮の鬼たちも答えを用意できない。 『……お? 噂をすればなんとやらだ。濃い邪気がいやがったぞ?』 カギロイの声で俺たちが顔を上げると廊下の先、三階のトイレの前に黒い影が見えた。 「邪気って目で見えるんだな」 『我らの皮を着て鬼と化しているからだ。生駒や御隠といった勇士の子孫でもない普通の人間にゃ見えない』 壮平の疑問にアラカネが答えている。 「で? どうする? 放っておいても良いのかよ?」 『あれほどカタチを成していれば自然消滅はせぬ。気の弱っている人間が近づけば新たな邪鬼になるだろう』 龍騎にはムグラが返答していた。 「じゃぁ、ダメじゃん。生駒先生も御隠先生も職員会議中なんだし俺たちで何とかしないと」 俺は黒い影となっている邪気の塊に向かって走り出した。 ◇ 「まさか、手で触れただけで消滅するなんてな」 「あっけなさ過ぎて拍子抜けしちまう」 龍騎も壮平もあまりにも簡単に邪気の影を消しされたことに驚いていた。 俺自身、もっと手ごわいのかと思っていたけど全然歯ごたえが無くて緊張して損した気分になっていた。 『自然には消えぬほど凝縮してるとは言え、人間に憑かなきゃこの程度なのさ。清め塩でも効果があるくらいだしな』 それほど弱々しい存在なのにどうして憑りついた生徒を恐るべき邪鬼に変えるのか? しかもそんな邪鬼がこの短い間に、この学園内だけにどうして何体も出現したのだろうか? 三度同じ疑問を口にした。 『……もしかしたら、手引きしてるヤツがいるのかもな』 『カギロイよ。俺も同じ考えに至った』 『邪気を操り、人間にわざと憑かせている者がおる、と思えるな』 カギロイたち3匹の鬼が言いにくそうに告げた。 「なんだそれ。わざわざ気持ちが弱っている奴を選んで邪気をくっつけ、邪鬼に仕立ててるヤツがこの学園内にいるって意味かよ?」 気色ばむ壮平にアラカネが答える。 『落ち着け。そのような者がおるやも知れぬ、と言っただけだ』 「生駒先生か御隠先生が実は生徒を守るフリをしてて裏切っている、みたいな?」 『そこまでは言ってないだろう?』 龍騎の疑惑をムグラが歯切れ悪く否定した。 けれど、邪気に手を加えたり凹んでる生徒を見つけたりできる立場のヒトって、そんなに居ないと思うんだよな。 俺もだけど、壮平も龍騎も部活以外で他の学年の生徒と接触する機会なんてほとんど無い訳だし。 てことは、やはり真の敵は―― 『修哉。それ以上はやめとけ。こんな風に俺たちの和を乱す事も敵の策かも知れんからな』 気まずい、シラケた空気を噛みしめながら校舎の中や中庭、それから部室棟へと足を伸ばしたものの、先ほど祓った影の邪気ほど濃厚な邪気は感じられなかった。 「……そろそろ引き上げようか」 『そうだな。目に見えるほど濃い邪気は無くなったからな』 部室棟から旧校舎の図書室に置きっぱなしの鞄を取りに戻ろうとして新校舎の一階廊下を少し歩く。 職員室や学園長室のそばを通るものの相変わらず職員会議が続いているようで先生の姿は一人も見えない。 『うん? 誰かいるぞ?』 再び廊下から外へ出ようかと言う時だった。 カギロイの言葉につられて顔を上げると視界の先に白衣を着た人物が飛び込んだ。 「あの人は保健室の先生だな。毎日じゃなくて一日おきに勤務してるんだったかな」 保健室の先生がこっちに顔を向けた。隠形術で姿を隠しているから俺たちの姿は見えていない。 一瞬だけ足を止め、それから「ごく自然に」職員室へ入って行った。 『ムグラ、アラカネ……』 カギロイが鬼たちに呼びかけた。 『ああ、分かっている』 『ふむ。あやつには見えているな』 青いアラカネと緑のムグラも立ち止まってカギロイと一緒に廊下の先を睨んだ。 「どうしたんだ?」 『あの、保健室の先生とやらだが、明らかに我らに気付いているな』 「え? 俺らの姿が見えてたの?」 鬼同士は見えるけど人には全く見えない状態じゃ無かったのかよ? アラカネとムグラもカギロイに同調した。 『見えている事を我らに気付かせぬよう振る舞っておったが、目の動きまでは誤魔化せぬ』 『さほど驚かぬとはなかなかの人間であるな。いや、我らが見えているのであれば人間であるかどうか疑わしいが』 ムグラの言葉に今度は俺たちが驚いた。 「それって、保健室の先生が人間じゃない、みたいじゃないか」 カギロイが頭をぼりぼりと掻いた。 『断言ができねぇが俺らの姿が見えるのならただの人間ではない、としか言えねぇな。生駒や御隠みたいに勇士の子孫か、或いは――』 『我らと同じ鬼か』 『或いは、ヒトの姿をとった邪鬼か』 「「「邪鬼!?」」」 『完全に邪気を隠す力のある邪鬼が人間に化けている可能性も、無くは無い。……が、もう少し近くで接触してみねば何とも言えんな』 ムグラの意見にアラカネとカギロイもうなずいた。 『よし。今からアイツの正体を暴いてやろう』 「待って! そんなのダメだって! 職員室に今から飛び込む気かよ!?」 いくら他の先生たちには見えないとは言え勝手にドアが開いたり物音が立ったりしたら騒ぎになるに決まっている。 『敵であるかも知れぬ存在をみすみす見逃すなど』 「お、おい! アラカネまで! なんで皆、殺気立ってんだよ!」 『確かめるだけならば問題は無かろう?』 「いや、大アリだっつうの! 相手がビックリするだけならまだしも俺らの存在が明るみに出ちまうじゃんか!』 人目を防ぐ結界を張っても内側に入っている人たちにはまったく意味がない。 その前に、何十人も居る先生の前でもしも隠形術が解けたりしたらどっちが「モンスター」として敵視されるかは考えるまでも無い。 「カギロイたちの気持ちも分かるけどさ、保健室の先生がもしも人間じゃないとしても、それでも完璧に人間のフリをし続けてしまったらどうすんだよ?」 『うっ! そ、そいつは……』 『む、むぅ……』 『ははっ! これはいかん、修哉に一本取られたようだ!』 ムグラが顔を綻ばせて笑った。 『急いては事を仕損じる、と言うヤツだな。アラカネ、カギロイ、ここで短慮を起こしてはならん』 アラカネとカギロイから張り詰めたものと一緒に肩から力が抜けた。 「保健室の先生の事はちゃんと確かめる。今は大人しく引き下がろう」