ご利益たっぷり珍宝おみくじ 6
Added 2022-02-12 23:52:30 +0000 UTC6初売りセールはとっくに過ぎたけど 一月も二十日を過ぎたこの日、差出人の無い年賀はがきが届いた。 神護からはどこにも年賀状を出していないので「返礼」的な年賀状が来ることは無い。 来たとしても利用した事のある美容院や通販業者から、くらいのもの。 とは言え、いずれも年始早々届いていて今更「年賀はがき」を使うとは思えない。 裏を返して文章を読んで行くと、 『――元旦から新たな歳神に引き継ぎ人々に福徳を与え災厄を退ける所なのだが、今年は何故か新たな歳神の力がわずかしか発揮できない状態が続いているので八百よろづの神々が分担して歳神の仕事を請け負っている。 そのため、引間大神が託宣の御籤を引きに来ても対応できない、というか来るな。断じて来るな――』 「……故に、引間大神は自らの知恵と力で『御手洗 神護』の大大大凶を解決すべし。まずは運気を啜り喰らう主たる凶霊を祓い、 『御手洗 神護』の内外を清めよ。さすれば福運の流れを妨げていた柵(しがらみ)は消え、せき止められていた水が流れ始めるかの如く運気が回復していくであろう、……だって。どっちかと言うと俺じゃなくて引間あて、じゃない?」 とても美しい毛筆の楷書でぎっちりと文字ばかりが書かれた裏面を神護が読み上げた。 引間は驚きを隠さず神護から渡された年賀はがきに目を通す。 「これは……、隣の神社に祀られている国津神からだ」 「どうして差出人の名前が書かれてないのに分かるんだ?」 「年賀はがきのようなナリをしているがコイツは神符、お札だ。だから、こうやって――」 引間が年賀はがきを両手で恭しく持ち、頭の上に掲げてからそっと床に置いて柏手を打てば白い煙をふわっと立ててハガキが「お札」に変化した。 「うわ!? 本当にお札だったんだ!」 お札、神符の表面には朱色の印と神社名を示した文字が堂々と書かれている。 「お隣の誼で俺に知らせてくれたのは実に有りがたいんだが、歳神様が不調ってのは初めて聞いたぞ?」 「それってどうなの? 歳神様の仕事って他の神様が総がかりで対応しなくちゃダメなんだ?」 「歳神様ってのは今年一年、365日毎日の福運を人間一人一人に多すぎず少な過ぎず適度な分量を定めて与えて下さる神、 なんだが、まぁ、その対象がとかくデカい。およそ一億三千万が相手だ。そんな相手に漏らさず切らさずきちっとスケジューリングした上で授けるのがどれほど大変かは、神護も想像できるだろう?」 神護は何となくスーパーコンピューターの置かれている巨大なサーバールームを思い描いていた。 もしスパコンが行っている膨大な処理を「手で」行うとなるとどれほど煩雑で困難なことか。 「来るな、って引間にこうやって伝えなくちゃならない程、なんだ」 「そう。だから俺は御籤を引きに行く事はできなくなった。まぁ、会いに行った所で面会拒絶って訳だ」 「えっと、じゃぁどうするんすか? 引間の兄貴」 「神護の運気は超バッドな感じがキープですか~?」 クロとアオが引間を見つめた。 引間が別の神からの託宣、お御籤を引きに行くのは中止になったのだ。 「取りあえずこのご神符は綺麗な棚にお祀りして感謝の気持ちを込めて拝むと良い。そうすればこの部屋の中は清められ凶霊に対してはちょっとした嫌がらせ程度には役立つ」 「嫌がらせ程度……」 「神護のカラダにバリアを張るのが神器なら、このお札は部屋に対して薄いバリアを張ってくれる。ただ、すでにこの部屋の中に隠れて潜んでいるとか部屋の外に出ちまえば意味ねぇけどな」 「人数が増えたから食材も一杯いるし。買い物は必須で引きこもり生活は無理」 「買い物くらいクロやアオに任せても…………、と思ったが財布はお前が握っておいた方がいいな。こいつらに任せたら自分の好きな物だけ大量に買って来ちまいそうだしな」 「ええ~? そんな事ないっすよぉ~」 「クロはともかく俺は問題ないですから!」 神護はクロとアオに聞いてみた。 「じゃぁ、例えば今夜の晩御飯には何を買えばいいと思う?」 「黒アワビ! 縁起も味も最高っす!」 「バカだなクロ。んなクソ高ぇ食材、買える訳ないっつの! 価格と健康をバチッと考えりゃ青汁がイケテルっしょ?」 「ごめん、聞いた俺が間違ってたよ……」 肩をがっくりと落として神護は深く息を吐いた。 ◇ 仕切り直しを余儀なくされた引間は「別の方策を考える」と言って瞑想を始めた。 結跏趺坐で足を組み背筋を伸ばして静かにしているその姿、漂うオーラはさすが「神」としての厳粛さを感じさせる。 「こうなったら引間の兄貴はしばらく動かないっすね」 「呼びかけても反応しないっぽいし、名案が出るまでは放置プレイがベストかと」 クロとアオの言葉通りならその間に買い物に行っておこうと神護が腰を上げれば、クロとアオはコックリングの神器形態になり神護のチンポに嵌っていく。 「ぬふぉ!? な、なんでだよ!」 (神護を護るためっす! 俺もお供するっすよ!) (ヒトの姿でもお役に立ちますけど、凶霊に対抗するにはこっちのほうが都合が良いんですよ~。つか、俺もクロもこっちが真の姿ですしねー) 気持ち良くなってしまい半勃起になる神護のチンポ。 どうにか落ち着かせて外出用のデニムを穿いてみたものの、案の定普段よりもモッコリ感が出てしまう。 「2連のコックリングを着けてるみたいなもんだし、もうこれ以上目立たなくするのは無理っぽいな……」 仕方がない、と踏ん切りをつけた神護は財布とスマホを掴んで部屋を出た。 ◇ アパートの階段を降りようとすると隣に住んでいる学生の男とすれ違う。 そのまま階段を上がった学生の男は自分の部屋に入って行くのかと思いきや、逆戻りして神護を追いかけてくる。 「あ、あの!」 すれ違えば会釈くらいはするものの会話らしい会話は一度も無い「お隣さん」が、この日は少し様子が違っていた。 「はい?」 振り返り、神護は次の言葉を待つ。 「あの、ですね、えっと、昨日や、一昨日、御手洗さんの部屋から、その、けっこう声が、エッチぃのが聞こえちゃってて……」 途端に神護は顔を真っ赤にした。 「わ、わ、ご、ゴメンなさいっ! そんなに漏れてなんて!」 「いえ、俺も、オカズにさせてもらったんで、謝ってもらう必要は、その、ないんですけど、大家さんにまで伝わってしまうと ヤバイと思うんで、気を付けたほうが良いんじゃないかな、って」 「あっ! な、なるほどね! そうだよね! 大家さんにまで話が行っちゃうと怒られるよね! わざわざありがとう! 大事にならないように気を付ける!」 学生の男も顔を真っ赤にしながら「じゃぁ」と呟くと逃げるように自分の部屋へと入って行った。 「やっぱ聞こえちゃってたのか~。でも、それってほぼほぼ俺じゃないし。引間とクロたちの声だから。帰ったら引間にも注意しておかないと」 アパートの階段を下り切ってふと神護は立ち止まった。 「……ん? オカズにしてたって?」 精悍で凛々しい硬派な雰囲気の男子学生が壁ごしに聞こえる卑猥な声をオカズにチンポを扱く――想像してしまうと神護のチンポはムクムク勃起し始める。 「うわ! ちょ! 今は考えるんじゃない! 止めるんだ俺!」 スカジャンじゃなくてコートにしておけば、と神護は悔やみ、ぎこちない歩き方でスーパーに向かうのだった。 ◇ 『節分の恵方巻予約受け付け中!』 何本もののぼりが風になびく近所の大型スーパーに入ろうとすると、建物の出入り口手前に占い師が席を設けて座っていた。 珍しいなと思いつつも神護は素通りして店内に入ろうとした。 「そこのお兄さん、良かったら私に運勢を見させてください。料金はうんとお安くしときますので」 神護に声を掛けた占い師は男で、中年と呼ぶにはまだ早すぎるものの成熟した大人の色気を湛えた人物だった。 眼鏡をかけた短髪黒髪の顔立ちは野性味があるとても男臭いイケメンで、ガタイの良さが座っていてもはっきりと窺える。 首筋は太く肩幅が広く、胸板や背筋がモリッと盛り上がっていて分厚い。 占い師よりももっと体格を活かした仕事の方が似合いそうなのに、と神護は思った。 「いえ、今回は別に……」 「うんとお安くしておきます。こう見えて俺、いや、私は占い師の修行中なのです。だから、俺、いえ、私に修行させて頂けると助かるんですが」 お御籤で『大大大凶』なんてものを引いてしまった神護は、逆にこう言う市井の占いではどう言う結果が出るのだろうと気になった。 「おいくらですか?」 「300円を頂戴しています。スマホでも決済できます」 テーブルの隅に決済用のQRコードが立てられている。現金を持ち歩かなくても占えるってのはなるほどイマドキらしいな、と神護は感心した。 「じゃぁ、お願いします」 神護は占い師の前にあるイスに座った。 「ありがとうございます。では、早速」 年齢と誕生日を伝えると、特に何を占って欲しいかを尋ねられた。 「うーん、そうですね……、お御籤を引いたら最悪なのが出ちゃったんで、総合的な運勢を見て欲しいです」 「かしこまりました。今回は三枚のカードで占っていきます」 占い師はタロットカードをシャッフルし、最後に神護にもシャッフルさせてからひとまとめにしてカードの山から神護に三枚を選ばせた。 「カードは過去、現在、未来、を示しています……、ですが、これは、う~む……」 過去は「正義の逆位置」主な意味は「裏切りに遭う」など。 現在には「塔の正位置」これは「不意の災難と遭う」 未来が「死神の正位置」絵は恐ろしいものの意味としては「良くも悪くも現在の状態が終わる」、と言う意味だ。 「正直に言って決して良い運勢ではない、と言えます。過去に何か不正により不利益を被ったのではないですか?」 「えぇ、そうですね。思い当たる所はあります」 「そして、現在は酷い災難か、思いもよらない障害を目の当たりにされていらっしゃいますね」 「う~ん、思い当たる事が多すぎてどれの事か、って感じです」 「未来に死神の正位置。強制的に終わりを迎える、という意味ですが、人生の大きな節目、大きな変化を迎えて今までの生活を捨てる時が近づいています」 「これって結局運勢は良いんですか? それとも悪いんでしょうか?」 「……難しいですね。素直に読み取れば過去現在の不運が終わる、とも読めるのですが」 「じゃぁ良い運勢、なのかな?」 「良い、と言えば良いのかも知れないんですが……、かなり際どいギリギリの所に立っておられる現在を踏まえると、とどめを刺されて強制終了に、って印象も私は受けるんです」 以上です、と言われた神護はQRコードをスマホで読み取って300円を支払いスーパーの店内に入った。 見送った占い師の男がテーブルに配置されたカードを再びまとめようとした時、「おや?」と言葉を漏らした。 「死神のカード一枚だけかと思ったら二枚重なっていたのか? でもって、もう一枚は『星の正位置』……」 どうやら二枚重ねのまま神護に選ばせていたようだと気付いた占い師の男は『星』のカードをじっと見つめてもう一度スーパーに視線を送った。 「この先、彼は希望をもたらす『星』と巡り合うのか? それとも――」 ふぅ、と白い息を吐いた占い師の男が眼鏡の内側の瞳を閉じた。 「俺が彼にとっての『星』になるのか……。はは、それは占いと言うよりも俺の願望だな、う~む。一目惚れなど俺には縁がないと思っていたが、そうか、こいつが、そうなのか……」