一人のヒーローと人外の力を持つ男が情報屋が住む部屋の前で邂逅した。 連絡が取れなくなった情報屋の足取りを追うため、二人の目的は一致していた。 ハイツの大家に許しを得た二人は情報屋の部屋に入った。 そこで得た手掛かりは「双星村」へ行くための乗り換えのメモ、そして予備のスマホに入っていた留守電の声。 情報屋の身に危険が迫っているのでは、と案じた二人は互いの正体をうっすら察しながら協力し合うことに。 これは寄生魔竜人にまつわる物語の第二章の始まり。 一年前に起きた擬性獣事件で中心的役割を担ったヒーローと、不思議な雑貨屋で驚くべき能力を得た男は消息を絶った情報屋「饗庭野」にどうやってアプローチするのだろうか? ******** 12 時ならぬ嵐と好色二人旅 「テナント募集中」の紙が貼られたスーパーと、とシャッターを降ろしたまま開くことの無い店ばかりのアーケードを抜けると三階建ての古びたハイツに辿り着く。 数年前まではきっと、駅からも近く買い物も便利だっただろうと想像できる好立地。 なのにハイツの一階にある集合ポストは半分も埋まっていない。 築年数の問題だけで空室が埋まらないのか、それとも他に理由があるのか。 そんなハイツの階段を上る男――が、二人。 同じ部屋のドアの前で足を止めた。 「あ? もしかしてアンタ、この部屋の住人?」 「いいえ。そちらこそこちらにお住いの方ではないんですか?」 一人はゆるくだらしなくスーツを着た「ダメ」リーマン風の男。 もう一方はビシッとスーツを着こなす「デキる」サラリーマン風の男。 雰囲気は異なるものの共通しているのは「体格がいい」と言う点。 「てことは、大家さんか?」 「いいえ。大家さんでも無ければ管理会社の者でもありません」 「んじゃぁ誰なんだ? 何しにここへきた?」 「何故答える必要が? 私はたまたまこちらに来る必要があったので来ただけですが」 頭をぼりぼりと掻いたダメな方の男が深々と、面倒臭そうにため息を吐いた。 「俺は、上司に頼まれてこの部屋の住人の様子を見に来た者だ。饗庭野さんに頼んでた仕事があったんでな」 「偶然ですね。こちらも同じです。ご依頼した件についてどうなったのかお話をうかがいに」 何とか堪えていた曇り空がとうとう痺れを切らして水滴を落とし始めた。 すぐにその雨は本降りとなってハイツにも道路にもザーザーと音を鳴らす。 「はぁ~、アンタが誰だが知らねぇが、こんなとこで睨み合ったってしょうがねぇ。なぁ、そうだろ? アンタも饗庭野に調査を依頼してたんだろ?」 「……ええ。そうですね。彼はフリーのライターとして色々な噂をご存知のようですから。ただ――」 「ただ、饗庭野からの連絡が途絶えちまったから直接ここへ来た、だろ?」 ポーカーフェイスを貫いていた「デキる」見た目の男が表情を曇らせた。 「はい。おっしゃる通りです。依頼したのは私ではなく知人なのですが、代理で私が様子を見に来たのです」 「やっぱりな。だったら立会人として丁度いい。一緒に部屋ん中を見てくれないか?」 「願っても無いです。私一人じゃ何かあった時に弁解できませんしね。よろしくお願いします。あ、申し遅れました私、『須崎』、と申します」 「多分、アンタの方が年上だろう? そんなに畏まらなくても良いと思うが……。まぁいいか。俺は『杉原 列人』。呼ぶときはレットでいい」 ガスのメーターボックスの蓋を開けると部屋の鍵があった。 その鍵を使い部屋の中に入る。 キチンと整っている、とまでは行かないものの雑然ともしておらず、男の一人暮らしにしてはかなり小ざっぱりとしている。 そして、1LDKの間取りゆえに無人であることはすぐに見て取れた。 「居ねーな」 「いらっしゃいませんね」 バスルームやトイレを確かめた二人の男は饗庭野のベッドルームでかち合った。 「ボスから異常がないか調べろって言われてるんでね」 「私もです。何日もずっとこの部屋に戻っておられないのも気がかりですね」 二人は冷蔵庫を開けてみたりクローゼットを開けたり、徐々に調べる対象を増やしていく。 すると――「おや?」 デキるサラリーマン風な須崎がベッドの枕の下から一枚のメモを発見した。 「お? 何か見つけたのか?」 聞きつけたダメなサラリーマン風のレットがすぐに須崎の側に戻った。 「枕の下にこんなメモが」 隠したと言うよりたまたま枕の下に滑り込んだのか、メモに書かれていたのは『双星村』への乗り換え案内の控え。 そして『H大学』の最寄り駅の名前。 「どちらかで事故にでも遭われたんですかねぇ」 「だとしても即死でなきゃ連絡くらいはするだろう。それが無くたって大家には連絡が入るだろうさ」 レットはバレットから、須崎はハイツの大家から直接、饗庭野について話を聞いていた。 だが、近況を掴めるような有益な情報は一切得られなかった。 むしろ『あんまり悪く言いたくはないが、饗庭野さん、おたくから借金か何かしているんかね?』 と、逆に問い返される始末であった。 もちろん金銭トラブルなどではないと、レットも須崎も強調したのは言うまでもない。 「うん? あいつってばスマホを持って行かず忘れて出かけたのか?」 あまりにも部屋に馴染みすぎていたため充電器に挿したままのスマホに気づくのが遅れていた。 だが、レットがそのスマホを引き抜くと、自動音声で『留守番電話が一件、……です』と囁いた。 「きっと家電代わりの予備機じゃないでしょうか」 「なるほど。そうかもな」 二人の男の目が合った。 小さくうなずき一番新しい留守電をスピーカーモードで聞くことにした。 『……れは、こいつらに……、隙が……、タツガヒキの…………』 ここでピーっと言う音の後に途切れ途切れで聞き取りにくい小さな声は終了。 留守電が録音された時刻は4日前。 「タツガヒキ、って?」 「〇〇県に確か、『辰ケ引町』って町はありますが……」 レットが自分のスマホの地図アプリでその町を検索すると――「双星村の隣りじゃねーか!」と叫んだ。 「無関係、では無さそうですね。双星村って先ほどのメモにも書いてましたが、察するにレットさんの調査依頼に関する地域なんでしょう?」 「……その前に、お前もそろそろ正体を現わせ。ただの人間じゃねぇだろ? まさか無免許獣人か?」 無免許獣人とは昨年起きた擬性獣事件を受け、今年に入ってから登録が始まった「獣化免許制度」を指している。 が、まだ始まったばかりなので免許を取得した獣人は7割程度であった。 レットの鋭い視線に須崎は口元「だけ」を綻ばせた。 「違いますよ。むしろレットさんこそ只者じゃないでしょ? 人間とは言えない存在なのでは?」 空気が瞬間ビシッと凍りついた。 が、レットの方が先に構えを解いた。 「やめだ、やめ。ちぃと失礼な聞き方して悪かった。確かに俺は普通の人間じゃない。人間に悪さをする連中を懲らしめる立場の者だ」 「なるほど。私はまぁ人間ですが、ちょっとだけヒトには無い部分を持っています。勘が鋭いとか、そう言うたぐいのモノに似ていますけど。おっと、懲らしめられるような悪い者でもありませんからね」 「見るからに悪い奴じゃないっぽいもんな。じゃぁ、休戦、いや、戦っている訳じゃねぇし、ええと?」 「共闘、いえ、協定を結びましょう。バレた場合は別として互いに余計な詮索は無し。ですが、饗庭野さんに関してはどうやら目的は一緒のようですし。ここは一つ、手を組みませんか?」 うなずいたレットに須崎は早速提案した。 「まずは辰ケ引町に急ぎましょう。時すでに遅し、かも知れないですが留守電を聞いた限りでは饗庭野さん、何者かに捕まって軟禁されているような印象を受けました」 「急ぐぞ! 思ったよりヤバそうなニオイがしやがるぜ!」 饗庭野の部屋を出ると雨はさらに激しい土砂降りに、突風まで強く吹く大荒れの天候になっていた。 しかし、走り出した二人は春の嵐などものともせず颯爽と駆け抜け駅へと向かった。 ◇ 辰ケ引町の「辰ケ引駅」まで都心から電車で2時間半。 ここからさらに双星村へ行くには乗り換えて30分はかかる。 だが、辰ケ引はこの地域で唯一の高校が存在する程度には人口を有しており近隣の村々の中心的な役割を担う町である。 なので小さいながらスーパーや病院など生活する上で必要な施設は一通りそろっている。 とは言いながら、だ。一時間に一本しか停車しない駅前はまだ夕方には早い時間帯なのに人影は全く無く、二つ手前の駅が最寄りの温泉地の方がいくらかマシな賑わいであった事を到着した二人に強く感じさせていた。 「雨が降ってないだけマシっちゃマシだが、こんなに急いだってのに夜中みたいな雰囲気だな!」 いやに建物だけ立派な無人の駅舎を出たレットは、目の前の殺風景な光景によって途方に暮れそうな心を奮い立たせるため敢えて大袈裟に吐き出した。 「うわー、コンビニが無い~。タクシーもいない~。家はあるけど人の気配がない~、何にも無いですねー」 須崎もまたあまりにも取り付く島のない素っ気ない光景に絶句しつつ素直な感想を述べた。 「どこから探しましょうかねぇ?」 「あのさ、アンタ、いや須崎はどれぐらい『鼻が』利く?」 実際に嗅覚が優れているのかどうか、も含めて須崎の「人は違う部分」の能力についてレットは尋ねていた。 「残念ですが私の鼻では半径20メートルが精一杯です。糸さえ繋がっていれば何とかなるんですがねぇ」 「糸ぉ? 何だそれ? 糸電話かよ! アナログだなぁおい!」 「ではレットさんは、いかがです?」 「俺? 俺はまぁ、風向きさえ良ければ2~3キロの範囲は探知可能だな」 「それは素晴らしい。で、どうでしょう? 饗庭野さんのニオイは感じます?」 スンスンと鼻を鳴らしたレットは首を左右に振った。 「いや、ダメだ。せっかくコイツを拝借したってのにまるで役に立っちゃいねぇ」 饗庭野の部屋から拝借したものを拡げたレット。それはまだ洗濯機に入れたままになっていた使用済みのビキニパンツだった。 「そうですか。それは残念です」 「あっちの方からメシの匂いがする。辛うじて食堂はあるみてぇだ。なぁ、行ってみようぜ」 「え? どちらですか? 自分は全く匂わないんですが」 「800メートルほど向こうに行った場所だ」 「そんな離れてたら私には無理ですって……」 「うう、昼メシ食ってねぇから余計にキツい……、須崎、俺が走ってもいいか?」 「はい? って、うわわわわ!?」 レットは自分よりも一回り以上体格のデカい須崎をひょいと背負うと、まるで何も乗せていないような速さで走り出した。 そうして、歩けば10分は必要な距離をわずか1分足らずで走破して立ち止まった。 「うし! 到着っ!」 「はひぇぇぇ~! レットさぁん、凄すぎりゅぅぅ~~」 背から降ろされたもののジェットコースターに乗った直後のよう目を回す須崎。 だが、目の前にある食堂に入った途端、表情がサッと硬くなった。 レットは須崎の表情に気付かず食堂の大将に一番早く提供できるメニューを聞き出し、それを注文していた。 「そっちの兄ちゃんは? どうする?」 大将に聞かれた須崎は咄嗟に「あ、じゃぁ同じものをお願いします」と答えていた。 「お? なかなか食うじゃん。つうか俺と同じ量で大丈夫なのか?」 「はい?」 「俺、ラーメンライスを3人前って頼んだけど?」 「ええーーっ!?」 「……ううう、完全に食べ過ぎて、く、苦しい……」 「無理しねぇで残しゃ良かったのによぉ。無茶しやがって」 「の、残すなんて、私の主義に反し……、うぷ……」 コップの水を飲み逆流しそうな内容物を押し戻す須崎。 その間、レットはスマホをいじって何かを調べていた。 「……ふぅ、ようやく落ち着いてきました。レットさん、お待たせしました」 「お、動けそうか?」 「激しいのはちょっときついですが、なんとかなりそうです」 席を立ち飲食代の支払いを済ませて食堂を出た二人。黙ったまま数十メートル進んだ先で立ち止まった。 「……なぁ? 店に入った瞬間、なにか勘づいてただろ?」 「はい。あの店の大将、どうやら精神的に操られていますね」 「操られている? 精神的に?」 「ありていに言えばマインドコントロール。〇〇と言った方が分かりやすいでしょうか」 「何で〇〇されていると分かるんだ? いや、詮索はしねぇって約束だったな。とりあえず、獣人でも無いただの人間をどうして〇〇したのか。その目的が気になるな」 「レットさん、もしかして鼻だけじゃなく耳も鋭いですか?」 「まぁな。それがどうした?」 「じゃぁ、ちょっとこちらへ」 路傍の自販機に誘いながらレットへ「お店から聞こえる音、拾ってみてください」と言う。 耳をぴくぴくさせて言われた通り聞いていると、食堂の中から大将が誰かと通話する声が流れて来た。 『――見かけたことの無い男が二人来ております。何者かは分かりませんがお気をつけください。他の者にも注意するよう伝えておきます――』 「あの野郎……」 「飛び込んで首根っこを掴んでも無駄だと思います。きっとあの男は命令通りに動いているだけでしょうし。問い質してもとぼける、と言うよりかは記憶すらないんじゃないか、と」 「ちっ! 面倒臭ぇな! ぶん殴ってもダメなんかよ!」 「まぁまぁ、落ち着いて下さい。それよりも、どこの誰に我々が来た事を報告していたのかが重要でしょう」 「須崎、心当たりがあるのか?」 「いいえ。この町に来るのは初めてですし、知り合いだって一人もおりません」 「んだよ、期待したじゃねーか」 ふふ、と微笑んだ須崎が意味深な目配せをした。 「もう少し待っていれば報告した相手本人か、その代理の者があの店にやって来るかも知れません。私たちはその者に警戒されないようどこかに潜んでいましょう」 「お前……どうやって……」 「糸さえ繋がっていれば何とかなる、って言いましたよね?」 食堂の前をもう一度通り過ぎ、駅の近くで宿を取ることにした。 その宿は宿場町の名残を残す古風な建物ながら清掃は行き届いており、温泉を汲み上げた露天風呂もあるなどれっきとした温泉旅館であった。 「俺らしか客はいねぇみたいだな」 「そのようですね。静かで落ち着いていて、レトロな良い宿じゃないですか」 「フロント係は不愛想だったがな」 チェックインの対応を行う初老の男は必要最低限な接客会話しか二人にしなかった。 「それは仕方ないですよ。彼も余所者には目を光らせるよう命令されているんですから」 「な!? アイツもか!」 「ええ。彼の意識にも何らかの操作痕が感じられました。ですが、大将と同じく見張り役以上の役割は持っていないようですね」 「そこまで分かるのか?」 「他の意図があるならこれほど脱出しやすい部屋には案内しないでしょうから」 通された一階の部屋は苔むした石組みのある庭園の目の前。縁側と廊下に囲まれた角部屋和室で、もう一方は隣の部屋とも繋がっている。 急須にポットの湯を注ぎ二人分のお茶を淹れた須崎は、雨が再び降り出した庭園を眺めていたレットにも「どうぞ」とお茶を勧めた。 「まぁ、確かにな。こんな部屋じゃ閉じ込めるのは難しいだろう」 「――おっと失礼、しばらくお静かに」 飲みかけの湯のみを卓上に戻した須崎は唇に指を当てレットに静寂を促した。 胡坐のままスラックスからチンポを引きずり出し目を閉じる須崎。ビクッ、ビクン、と揺れ動く巨根を目にしたレットは咽喉を鳴らした。 禅僧のように座ったまま精神を統一させ微動だにしない須崎。 再び瞼を開けると股間をもの欲しそうに顔を寄せるレットの後頭部が。 「……レットさん、そんなに俺のチンポが欲しいですか?」 バッと離れて上半身を起こしたレット。 「ば! バババ、バッカ野郎! お、俺は、その、ええと、つまりだな――」 「そこは誤魔化さずハイ、と言ってもらわないと。今夜、あなたに手を出しづらくなるじゃないですか」 「ほ、欲しいっ! そんな立派なブツを見せられたら欲しくなるに決まってんだろう!」 「はは、ありがとうございます。催促したみたいで恐縮ですが嬉しいです。ただその前に、今しがた見えたモノを共有させて下さい」 「お? お、おう……」 照れ臭そうにそっぽを向いたレットに須崎は亀頭を向けた。 「先ほど私が見ていたのは――」 見えない糸が須崎の亀頭からシュルッと伸び、スラックスの内側に隠されたレットのチンポの鈴口に入り込む。 「んふ!?」 局部の刺激により小さくカラダが弾むレット。その直後、レットの目の前に別のビジョンが映り始めた。 『――――誰だろうな? 少なくともこの町の者じゃないのは分かるが……』 視点は先ほど入った食堂の大将だと知れる。 見えるのは食堂の内側。そして、ちらちら目に入るのは大将のごつい手と、ワイシャツにスラックス姿の若い男。 役場の職員のような出で立ちだ。 若い男が大将の斜め上を指して後ろに控えている者たちに問い質した。天井から提げているテレビ画面を示しているようだ。 『この画像の二人が誰か分かる者は?』 視点が動いた。男の背後には若い男よりもさらに若く見える男、高校生くらいの少年が四人。そして、一番端にはひと世代年上の男が一人。 『…………誰もいないのか? なら、今のところはうかつに手を出すな。藪蛇になってしまっては元も子もないしな。様子を探りつつ何も無いようであれば放置して構わないだろう。 もしもおかしな動きを見せた時は、そうだな、素材としては優秀そうだし我々の仲間になってもらうとするか』 大将は何も言わず、若い男の背後の5人だけが『はいっ!』と元気よく返事をした。 『お前は引き続き来訪者に対しての監視をするのだ。こうして俺がここに来た事も、お前に命令している事も俺が去ったら忘れているように』 視点が縦にふわりと動いた。大将がうなずいたのだろう。視線を若い男に戻し「かしこまりました」と返すさなか、男の背後に控えていた中の一人だけが大将にウィンクをした。 だが、大将の意識は若い男にだけ向けられていたようでウィンクには気付かないまま。 と、ここでビジョンは終わった。 「重要な場面はこれくらいでしたね。彼らが店を出た後は新聞を拡げていたり寸胴鍋のスープをかき混ぜていたり、至って普通に食堂の仕事をこなしてばかりでした」 「おいおいおい、今見えたのは何だったんだぁ? しかもアレ、饗庭野のヤツまで見えたじゃねぇか!」 若い男の背後に控えていた中の、一世代上の男は消息を絶っていた饗庭野本人だった。 「まさしく饗庭野さんでした。ご無事で何より」 「で? 今のは何なんだ? めちゃくちゃリアルなやり取りだったが、なんであんなもんが見えたんだ? これは詮索じゃねぇから」 「私が持っている普通の人には無い力によって、です。簡単に言うと私のチンポから出る『糸』を通して任意の相手と繋がる事が可能なんです。 ですから、レットさんが糸電話と表現したのはあながち間違いじゃないんですよ」 「それで俺にも糸電話を繋いでさっきの光景を見せた、ってか? おいおいおい、お前、凄ぇ能力を持ってたんだな!」 「凄いかどうかはともかく、伝える時などは口で言うよりも早くて助かってますよ」 「……思い切りドヤりながら謙遜してんじゃねぇよ。だが、いきなり饗庭野を見つけちまうとは驚きだぜ」 「少なくとも命に危険は無いようでしたね。それに、この辰ケ引町に居た事もハッキリしました。ですが――」 冷めたお茶の残りを飲み干した須崎。 レットもまた須崎が淹れてくれたお茶を飲み思考をまとめていた。 「謎が増えちまった。なぜ饗庭野はあのワイシャツ野郎に大人しく従っている? 大将だけじゃねぇあの野郎の後ろにいた連中も様子が変だ。 そもそもあの野郎は何者なんだ?」 「もう一つ大事な点が。私は饗庭野さんに直接会って調査をお願いしたので彼もまた私を知っているはず。なのに、あの男の問いに対して沈黙していました。 これには二つの理由が考えられます。一つは私の事を記憶していなかったか、記憶そのものをあの男に消されていた。もう一つは――」 「てめぇ自身の判断で言わなかった、だろ?」 須崎は深くうなずいた。 「奴らが引き上げる前、饗庭野だけ不自然にウィンクをしてやがったな。横に並んだ他の連中は能面みてぇに瞬きひとつしてなかった中で。これが何を意味しているのかは俺にでも理解できる」 「自分は操られていない、操られているフリをしている、と言いたげでしたね。となると、これはただの拉致事件でも無さそうです。ビジョンの中の男の言葉を借りるのは釈然としませんが、藪蛇になる前に私たちも一度撤退した方が賢明でしょう」 「だな。ったく、こんなトコまで出向いたってのに仕切り直しが必要になっちまうとは面倒なこった」 「いえいえ。ここまで足を運んだ甲斐がありました。饗庭野さんは無事でしたし、正体不明の男の存在と組織的なものの存在がある事も把握できたんですから。これだけの事、わずか数時間で掴めるなんてとてもラッキーですよ」 「ポジティブなんだな、須崎は」 「その通りです。生きていればどうとでもなりますから」 「……そうか、……そうだな。ちげぇねぇや」 須崎がすっと立ち上がった。 そして、スラックスの内側に仕舞いこんだ巨根の盛り上がりをねっとりと撫でながらレットを誘った。 「地の利が向こうにある以上、今回は一旦これで引き上げるべきだとのご意見はレットさんに賛成ですし実に残念です。それはそれとして、一緒に露天風呂、入りませんか? お背中、流しますよ?」 「背中を流すだけで終われるのかぁ? 俺だって結構イイモノを持っているんだぜ?」 レットも立ち上がった。股間のフロントがパンパンに膨れ上がっている。 「お望みでしたら背中以外も。ただし、朝まで寝る暇が無くなっても知りませんよ?」 「ははっ! 気が合うな! 俺も同じ事を言いかけてたんだぜ?」