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アニメ「雲のように風のように」はクソじゃないよ


この記事はクソじゃないアニメ Advent Calendar 2023( https://adventar.org/calendars/8667 )に向けた記事です(タイトルが不穏だけど知名度の低いアニメを紹介する企画です)。



2023年11月7日、小説家の酒見賢一が死去した。氏のデビュー作が「後宮小説(1989)」であり、それを原作としてアニメ化したのが「雲のように風のように(1990年)」である。


父が読書家なので本は沢山ある環境で育ったが、ぼくにとって酒見賢一は初めて自分で見つけた小説家というような思い入れがある。この作品はぼくが後宮を舞台とした作品が好きになったきっかけのような気もしている。今季は薬屋のひとりごとが放送中なのでよろしく。


舞台は中世中国の架空の王朝。皇帝が崩御し、次の皇帝の後宮妃を全国から募集することとなる。そして田舎者の銀河(ぎんが)がそれに興味を持ち、後宮に入るという物語。


80分くらいのアニメだが1クールテレビアニメでもやるのかというような穏やかな雰囲気がある。中華ファンタジーに浸れる。


そして、これは特に小説版に言えるが(アニメは尺がたりない)、主人公銀河のルームメイトのキャラが立っていてよい。江葉(コウヨウ)が少数民族の格好をしているところなど中国を感じさせる。


不穏な空気がないわけではない。いや、最初から不穏ではある。先帝の妃、皇太后が強い権力を握っているが、若き新帝コリューンとは血がつながっていない。皇太后は皇帝コリューンを排除し、自分の息子を帝位につけたい。まあ、よくある宮中に渦巻く陰謀展開ではある。


もう一組、物語のカギをにぎるのが混沌(コントン)とイリューダという荒くれ者の義兄弟。反乱を起こし、それが中国全土に広がっていく。これもまあ、中国史によくある展開である。


よくあるよくある。


しかしこの物語の一番の特徴は、完全にクリシェを裏切るところだろう。つまり若き皇帝コリューンと主人公の銀河が結ばれることは目に見えているわけで、そうなるとこちらとしては「どうせ愛の力で主人公が勝つんでしょ」、「はいはい、そのパターンね」という大団円王朝ドラマを見るつもりでそっちに気持ちをチューニングしてしまう。クリシェに感性をすり減らした歴戦のアニオタの悪い癖である。


歴戦のアニオタの予測する展開はこうである。一回きらびやかな後宮生活を見せて、それから凄惨な戦争、しかし最後には愛の力で主人公たちが勝つのだろう。完璧な構成だ。


しかしきらびやかな後宮生活は始まらないし、愛の力で主人公が勝つことはない。視聴者の期待を裏切るように、ファンタジーは突如として瓦解する。最初に1クールアニメでもやるのかのような雰囲気があると言ったが、この物語は急に終わるのだ。急に終わるので「転」がかなりうしろにある印象だ。


なんだかものすごい虚しさが残る。作品が空虚という意味ではなく人の営みのはかなさを感じる。平家物語に詠われたはかなさ。国破れて山河あり。ラノベ慣れしていると特にこの展開には心を揺さぶられる。


読者、視聴者を裏切るだけなら簡単だ。しかしこの裏切りにはちゃんと愛の力を感じるし、馬車に揺られ田舎に帰っていく銀河の姿はとても余韻をひく。確かにもやもやした気持ちが残るが、それはちゃんと諦めがつく、どこか心地よいフラストレーションなのだ。こういう終わらせ方をするのは、多分そう簡単なことではない。



酒見賢一の後宮小説は第一回日本ファンタジーノベル大賞を受賞している。この作品はファンタジーノベル大賞の格を上げたと思う。それが証拠に、第二回、第四回と「大賞該当作無し」がけっこう続いている。


酒見賢一氏のご冥福をお祈りします。

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