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ごむらば
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メリークリスマス

とある高校の教室。 男子生徒たちが集まり、ある話題で盛り上がっていた。 それはこのクリスマス時期に昨年同様、話題に上がっていること。 それは近くにあるショッピングモールに、真っ白なスタイル抜群のマネキンが赤い帽子にこれまた赤いエナメルのロングブーツ、そしてミニスカートのサンタの衣裳で現れるのだ。 なぜマネキンなのに話題になるのかというと、お客さんが入ってくると『いらっしゃいませ』と声をかけてくれる。 それだけでなくキチンと顔もあり、時々瞬きもするのだ。 当然、中に人が入っているのは間違いないのだがオープンから1時過ぎまでの長時間、同じ体勢で微動だにすることがなかった。 男子生徒たちはプロのモデルが入っているとか、中に入っていて顔を見せないくらいだからブスだとか、実は有名人で顔を出せないだとかつまらない議論をしていた。 マネキンサンタが引っ込んだ後は、発泡スチロールをベースに造られた雪だるまが握手でお出迎え。 そして最後は太っちょの着ぐるみのサンタが迎えてくれる。 女子生徒たちはマネキンサンタよりも可愛い雪だるまやコミカルな動きのサンタを話題に挙げていた。 「男子って、絶対エロいこと考えてるよ」 グループのリーダー的存在の七瀬がいった。 「そうだよ、絶対そう。今もなにかコソコソ話してるもんねぇ」真奈美が続く。 「由貴もそう思わない?」 そう振られた由貴は「うぅうん、そうだね」なにか拍子の抜けた返事を返すと、七瀬が突っ込む。 「また、圭介くんのこと見てたの?」 「そんなことないよ!」由貴はそう返したが、真っ赤になった顔は嘘を隠せていなかった。 「告白しちゃいなよ!幼馴染みなんだし」 2人が詰め寄ると由貴はさっきよりも顔を赤くし下を向いてしまった。 下を向いた由貴の耳に圭介の声が入ってきた。 「でもあのマネキン、俺にはあいさつしないんだよね」 「おまえ嫌われてるんじゃね」 笑いながら隆が突っ込む。 「由貴!聞いてる?」 七瀬の呼びかけにハッとする由貴。 「確かにあのマネキンすごくスタイルいいけど、モデルかなぁって、真奈美と話していたんだけど、由貴ってあそこのショッピングモールでバイトしてなかった?」 「うん、バイトしてるよ」 「じゃあ、マネキンの中の人見たことある?教えてよ」 七瀬と真奈美がまたも詰め寄る。 「私、裏で検品とかしてるだけだから、そういうのわからないよ」 由貴がそう答えると2人はあっさりと諦めて昨日のテレビの話を始めた。 由貴は2人には聞こえない小さな声で「いろいろ大変なんだよ」と呟いた。 土日限定でマネキンに雪だるま、サンタは現れる。 マネキンにはおじさんや若い男性が声をかけるが返ってくる言葉は『いらっしゃいませ』だけであった。 中にはマネキンをずっと遠目でビデオ撮影する輩もいた。 マネキンはキャスター付きの台に載っていて、スタッフはマネキンを運んでくると台には取り外し可能な取っ手がついていて、スタッフは取っ手のみを回収していく。 1時になると、スタッフが取っ手を持って現れて、マネキンを回収してバックヤードへと消えていく。 その後をゾロゾロと男どもが追ていく光景は、もう当たり前の光景となっていた。 その光景を舌打ちし、圭介は眺めていた。 クラスの殆どの男子が【あのマネキンの声には癒される】とか【あの娘はあんな苦しい状態の中でも優しく声掛けてくれる】といったことを聞かされていたが、圭介はマネキンから一度も声をかけて貰えずにいた。 ある時は友人と一緒にきたが、マネキンから声をかけて貰えず、友人から圭介のせいだとキレられた。 マネキンに何かして嫌われたのかとも考えたが、そんなことはまるで見当もつかなかった。 しばらく、ソファに座り吹き抜けの天井を見ていたが、こんなことをしていてもと思った圭介が立ち上がった目の前に由貴がいた。 「あっ、ゆき!」 「え!」由貴は圭介の方を見た。 「圭介くん、どうしたのこんなところで?」 「え、あぁ。買い物、ゆきは?」 「バイト、今休憩なの」 「そっかぁ、もう昼食べた?」 由貴の耳は真っ赤になり、首を振る。 「じゃあ、一緒にどう?」 「うん!」由貴は笑顔になった。 店に入り話し始める2人。 「最近、あまり話さなくなったな、ゆきと」 「そうだね」 高校に入ってどんどんかっこ良くなっていく圭介を意識して由貴は話せなくなっていた。 それどころか意識すればするほど、どんどん好きになっていたが、想いは伝えられないでいた。 「ねぇ、ゆき。ここでバイトしてるんだったらマネキンの中の人知らない?」 由貴の心の中では自分のことよりも、マネキンのことを聞いてきたことがショックであったが、圭介の話を聞く。 「知っていたら、俺が何かしたか聞いてもらえない?」 「なんか俺嫌われてるみたいで、あいさつしてもらえないんだ」 「うん、わかった」由貴はあっさりと引き受けてしまった。 それから数日後、クリスマス後の26日の朝。 圭介が起きてきてリビングへ行くと、母親が飾ったクリスマスツリーの横に大きな雪だるまがいた。 「母さん、うちに雪だるまなんてあった?」 キッチンに立つ母親に問いかける。 母親はエプロンで手を拭きながらやってきて「雪だるまさんがうちに来てくれたよ」笑顔でそういった。 「よしてくれよ、もう俺、高3だぜ」 そんな圭介の言葉も聞かずに母親は雪だるまの横へいくと雪だるまを持ち上げる。 中からはサンタクロースが出てきた。 「サンタさんも来てくれたんだよ」笑顔の母親。 圭介はあることに気づく。 雪だるまもサンタクロースもショッピングモールで見たことがある。 母親はサンタクロースの背中で何かしている。 サンタクロースの背中がぱっくりと割れ中から出てきたのはあのマネキン。 ビックリして固まる圭介に母親は「母さん、しばらく買い物にいってくるから、あとは若い2人でごゆっくり」そういうとそそくさと出かけてしまった。 普段、ショッピングモールでは動くことのないマネキンがゆっくりと歩いて圭介に近づいてきた。 「え!何?あれ?」 動揺を隠しきれない圭介の手をとるマネキン。 白い瞳で圭介を見つめて「嫌ってなんかいないよ!むしろその逆。好きで緊張してしまって声をかけられなかったの」 「あと、声でバレたくなかったの。着ぐるみのバイトしてるの恥ずかしかったから」 動揺していた圭介だったが、その声を聞いてマネキンの中の人物がだれか分かった。 「実は俺も、高校に入ってから、ゆきのこと意識し始めてあまり話せなかったんだ」 「ゆきもあまり話してかけてくれないし、嫌われたのかと思ってた」そういうとマネキン姿の由貴をギュッと抱きしめた。 「もうマネキン、脱いでもいい?」 由貴の問いに圭介は頷き、由貴にわからないように生唾を飲んだ。 ふと我に返って「ここで着替えて大丈夫?俺の部屋へ行く?」 今度はマネキンが頷く。 2人は階段を上って圭介の部屋へ。 「あのー、ブーツ」圭介は階段を登るコツコツという音が気になり声をかける。 「ごめんなさい、おばさんがブーツ履いた方が感じ出るわよって言われて、新品だから家は汚れないけど、部屋いったら脱ぐね」 マネキンは隣の圭介の両親の寝室からカバンを持って、圭介の部屋へ入った。 膝上まであるニーハイブーツを脱ぐ。 「手伝おうか?」と圭介。 「大丈夫、座ってて」そう言われベッドに腰掛け、着替えを見ている圭介。 ミニスカートを下ろすと、中には光沢のある緑色のレギンス。 赤いミニスカートと合わせたクリスマスカラーになっている。 上の服を脱ぐと白く大きなマネキンの胸が飛び出してきた。 マネキンなので中には下着などは着けていない。 大きな白い胸に見入っている圭介は思わず質問した。 「この胸本物?」 興味深く見入る圭介に「詰め物よ」と答えると”やっぱり”という表情をしたので、すかさず「ウソ!」と答える由貴。 圭介が「どっち?」と聞いてきたので、由貴は圭介の手を取り自分の胸に当てた。 由貴は自分でも驚くほど、大胆な行動をとってしまった事に驚いていた。 マネキンの時は、普段の自分とは違う自分になれたようで大胆になれた。 圭介は驚いていたが、そのまま由貴の胸を揉み始める。 気持ち良さからマネキンのわずかに空いたスリットの口から、吐息が漏れる。 本物と分かったようで、圭介が胸を揉むのをやめると、由貴は胸を隠すようにして後ずさりした。 「分かった!本物でしょ、普段胸が大きいとバカっぽく見えるから隠しているのよ」 圭介は”なるほど”といった感じの相槌をうつ。 着ぐるみの中ではタダでさえ締め付けられて苦しいから、胸は開放していることを説明した。 圭介から少し離れた位置で、マネキンを脱ぐ作業を続ける。 緑色のレギンスを脱ぐと、マネキンの左の内くるぶしから右の内くるぶしにファスナーが走っている。 マネキンの由貴は立ったまま、前屈みになりそのファスナーを開けていく。 圭介はファスナーの開いたところから、由貴の肌が見えると期待していたのだが見えるのは黒い肌? 思わずベッドから乗り出して覗き込む。 そして「マネキンの中、どうなってるの?」 由貴は圭介の質問を制止し、「先に脱がせて!」そういって、マネキンを足元から脱いでいく。 マネキンの中から出てきたのは、頭から足の先まで黒いラバースーツに包まれた由貴だった。 ただ目だけは白い瞳のままだった。 「すごい!なにこれ?」 圭介の質問に答えないで、ラバーのマスクを外し、白いコンタクトを外すといつもの由貴の顔が現れた。 「ラバースーツといってゴムでできたスーツなの」触りたそうにしている圭介を事前に制止させるため「触らないでね」と由貴が言うと、伸びかかっていた手を圭介は引っ込めた。 全身ラバースーツでマスクを外した姿の由貴は圭介の横に座ると、事の経緯を話し始めた。 「圭介とランチを一緒にしたあの日、バイトが終わってショッピングモールを歩いていると、圭介のお母さんに出会ったの。 圭介のお母さんに声をかけられ久しぶりだからお茶に誘われ、最近、うちに遊びに来なくなったことをお母さんから言われて、もう高校生なので男子のお宅へ遊びに行くのも、なにか気まずいことを伝えると。 なにかを察したお母さんから、圭介のこと好きなの?と聞かれて私は顔が熱くなるのを感じて下を向いてしまったの。 もしかすると、すでに顔が赤くなってたのかもしれない。 その後、色々話をして圭介くんがショッピングモールのマネキンのことを最近気にしていることを聞いたわ。 それでそのマネキンの中が私であることを告白したの。 実は雪だるまもサンタクロースも自分が演じていることも。 すると、お母さんはいい作戦思いついたといって協力してくれたという訳」 事の経緯をジッと聞いていた圭介だったが「一つ疑問があるんだけどいいかなぁ?」と。 由貴が頷くと、「どうやってあんなに動かずじっとしてられたの?」と聞いてきた。 由貴は少し迷って「マネキンの時は顔以外はポーズを取ったまま、ラバースーツの上からラップを巻かれて動かないように全身を固定されているの」 「そしてその上からマネキンの着ぐるみを被せるように着せられる、それで足元から脱着するようにできてるの」 と。 圭介は”へぇ”といった感じで納得して頷く。 「その後、サンタの衣裳を着せられて台に固定されたブーツを履いて完成、所定の場所に運ばれるという訳、分かった?」 ”うんうん”と嬉しそうに頷きながら、聞いてくれている圭介に着ぐるみバイトの事を話す。 「マネキンの時はミニスカートで台の上に立っているから、スカートの中が覗き放題になってしまうので小さい子どもは構わないんだけど、嫌らしい目で覗き込むオヤジもいるんで気持ち悪くて」 そう話すと圭介はムッとした表情になったことが由貴には嬉しかった。 「マネキンが終わるとずっと体を動かせずにいたので手足が痺れてるの、だから少し休憩した後の雪だるまは中が広く座ることができるようになっていて楽なのよ」 「最後のサンタは空気を入れて膨らませて太っちょに見せているので、内側はかなり圧迫されてるので、笑顔のサンタとはウラハラに中では凄い顔になってるのよ」由貴はそういうと笑って圭介の顔を見た。 圭介は真面目な顔で由貴を見ている。 そして由貴の肩を抱き、優しくキスをした。 そのまま2人はベッドに横になる…。 圭介の母親が家に帰ってきた時には、由貴は服に着替え終わっていた。 「ありがとうございました」そういうと由貴は笑顔で帰っていった。 2月、バレンタインが近づくとショッピングモールにはチョコレート色をしたマネキンが、白いエナメルのミニスカートのワンピースに、同じ白いエナメルのブーツを履いて現れた。 圭介が1人ショッピングモールへ行くと、マネキンは「いらっしゃいませ、私の大好きな人」と挨拶してくれた。 「大丈夫?無理しないでね」と圭介はマネキンに声をかけるとショッピングモールの中へと入っていった。 おしまい


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