潔癖症の私
Added 2022-12-25 03:00:00 +0000 UTC潔癖症の私は外出するのには、消毒液は欠かせない。 そして、消毒液だけでは物足りない時はゴム手袋をする。 そして、ある時思った。 手袋だけでなく全身ゴムで覆えば、気にしなくてもいいのに。 そんな事を思いながら、ネットで全身ゴムと検索してみた。 検索結果には私の想像もしてみなかった画像が飛び込んできた。 それは全身を黒光りするゴムで覆われた人たち。 私が持ち歩いているような安物のゴム手袋とは一線を画していた。 私は無我夢中で検索をしていく。 体に張り付くようにゴムで覆われ、顔までもゴムで覆われて窒息してしまわないのかと心配してしまうような画像まであった。 いろいろと調べているうちに分かった事は、それらはラバースーツと呼ばれ、ファッションとしても海外では取り入れられ、ラバーの服まである事も知った。 私は外出は極力避け、家でも常に手を洗う生活を送っていたので、すぐにラバースーツの購入に踏み切った。 夢中でラバースーツを購入していて、気づけばかなりの数を購入してしまっていた。 しかし、私は売れっ子作家なので、お金に糸目は付けない。 これからの生活が快適になるなら安いものだった。 一週間が過ぎた頃から宅配BOXに、購入したものが届き始めた。 ある程度揃ってから、着替え始める。 まずは初めて見て衝撃だった黒光りするラバースーツ。 ネックエントリータイプのラバースーツを購入した。 初心者向きではないとあったが、体に密着する感じは最高とコメントにあり、構わずに購入した。 初心者向きではないというのには頷かされる。 かなり着づらいからだ。 それでも何とか海外の着用動画を見ながら着る事に成功、マスクも被り自分で触っているのに他人触られている感覚に酔いしれながら何度も気持ちよく絶頂を迎えた。 その後、私のラバーフェチはエスカレートしていき、ラバースーツの重ね着から下着を着た上からボディスーツを着たりといろいろ試し始めた。 それは自分が着るものだけに限らず、ベッドのシーツはもちろん、羽毛布団のカバーも枕カバーもラバーに取り替えた。 ラバーで満たされた寝室でラバーに包まれて眠る事は私にとって最高の幸せとなった。 さらに、このラバーに包まれる安心感を拗らせ過ぎた結果。 寝る時はラバーマスクを重ね着して、呼吸は確保し目は見えないマスクを着用し、ラバー製のスリーピングバッグとセンサー付きの吸引機も購入し、真空度が下がると自動的にスリーピングバッグ内を真空状態に保ってくれるものも購入した。 最近のお気に入りはスリーピングバッグで真空パックされながらも、さらにバキュームベッドで二重に真空パックされて眠る事。 私は潔癖症からどんどん圧迫感を求める変態の域へと足を踏み入れている事を自覚しつつも止める事が出来なくなっていた。 そんなある時、私は編集者の男性との打合せの約束も忘れて、二重に真空パックされて眠っていた。 最近は吸引機のタイマーの調子が悪く朝になっても吸引し、真空パックされる事が度々あった。 『ピンポーン!』 インターホンが鳴ってから、編集者の男性 向井 浩司(むかいこうじ)さんが来る事を思い出した。 幸い、真空パックされていないので起き上がれそうだと思った時だった。 吸引機が作動し始めて、私を真空パックしてベッドに留める。 『ピンポーン!』 間を置いて2度目のインターホンが鳴った。 依然として吸引機は止まらない。 3度目のインターホンを鳴らしても、出て来ない時は渡してある合鍵で入って貰っても構わないというルールになっている。 それは執筆中で手が離せない時があるからだ。 私は必死に体を捩って、真空パックから抜け出そうとしたが、吸引機は止まる事なく空気を吸い出し続けて私を真空パックし、ベッドに留め続けた。 真空パックから逃れられれば、マスクだけを脱いで服を着れば、やり過ごせると考えていた。 私が潔癖症である事は向井さんも周知していたから。 首から下が全てラバーに覆われている、しかも黒光りして目立つのはいろいろ言い訳を考えていたが、それも無駄に終わりそうだ。 私は向井さんから全身ラバーを纏って圧迫に酔いしれる変態女として認識されるだろう。 涙が溢れてきた。 そうです、私は向井さんに恋をしていました。 担当になって、私の事を誰よりも理解してくれた向井さん。 直接、触れ合う事は潔癖症の私には難しかったが、精一杯頑張っていたつもりだ。 こんな私を見て向井さんはどう思うのだろう。 なぜ、向井さんが今朝来る事が分かっていたのに、いつも通りにラバーに包まれて真空パックされてしまったのだろう。 後悔しても後悔仕切れない。 『ピンポーン!』 無情にも3度目のインターホンが鳴った。 『ガチャガチャ』 吸引機の音に紛れているが、向井さんが鍵を開けている音が聞こえてくる。 私は力いっぱい目を瞑り、唇を噛み締めた。 「先生!空先生!」 私のペンネームは青井 空(あおいそら)。 青く綺麗に澄んだ空が好きだから。 皮肉なもので、今は黒光りするラバーに覆われて、身動きも取れずにベッドに磔にされている。 吸引機が唸りを上げているので、音のする方へ引き付けられるように向井さんが向かって来るのが、私を呼ぶ声で分かる。 こんな姿を向井さんに見られたら、確実に軽蔑されてしまうだろう。 潔癖症で外出を好まない私は男性と出会う機会は少ない。 そんな私が仕事を介して出会った向井さん。 向井さんは身長も高くスポーツマンで爽やか系、年齢は私の3つ年上の31歳だ。 向井さんが私の担当になった時、私から勇気を振り絞りツーショット写真を撮って貰った。 その写真はいつも作業デスクの片隅に飾っている。 初めてそれを見つけた向井さんは笑顔で「爽やかカップルみたいだね」と言ってくれたのが、私には最高に嬉しかった。 なのに、こんな姿をよりによって向井さんに晒すなんて。 そんな事を考え始めると悪いことばかりが頭を過ぎる。 向井さんとの恋愛が成就しないだけに留まらず、向井さんが担当を外して欲しいと願い出て、最終的には作家人生も終わってしまうかもしれないと考え始めた。 その時、寝室のドアがノックされる。 『コン、コン、コン!』 私は正直に向井さんに全てを話そうと気持ちを切り替えた。 そうする事で、その後に何が待ち受けているか分からないが。 『ドサッ!』 ドアが開いてすぐに物が落ちる音が聞こえた。 向井さんはいつも打合せの時、スイーツを持参してくれる。 青井 空の爽やかなイメージとはかけ離れた黒光りするラバーで満たされた寝室に驚いたのだろう。 普段、私が全くみせることのない一面。 「空先生、これは?」 向井さんが驚き、言葉を失いながら近づいてくる。 黒光りするカバーで覆われた羽毛布団を除けられたのが感覚で分かる。 だが、私は目が見えないマスクを重ね着した上、黒いバキュームベッドに入っているので、向井さんの顔は全く見えない。 向井さんが言葉を失っているという事は、私の知られざる一面を目の当たりにして驚いているのだろう。 軽蔑の眼差しで私を見る向井さんの顔を想像して涙が流れる。 今更ながら、強盗が入ってこんな目に遭わされていると言い訳しようとも考えたが、これだけラバーで統一された寝室で、タイマー式の吸引機にバキュームベッドも内側から開閉ができ、1人でも操作できるようになっているのにそんな言い訳は到底無理だと思った。 正直に潔癖症対策でラバーに魅了された事を話そうとした時、吸引機が唸りを上げて私の言葉を遮り、真空パックにより最後の言い訳の機会さえ与えて貰えなかった。 また、私の体の上に掛け布団が優しく掛けられた。 私の顔の近くで向井さんの声がする。 「空先生にこんな趣味があったなんて… 」 向井さんの言葉が心に突き刺さる。 バキュームベッドの真空を示す高い音が向井さんの最後の言葉を掻き消してしまう。 「待って!」 私は大きな声で叫んだつもりだが、実際は口をまともに開ける事が出来ず、ドアの閉まる音だけが聞こえた。 「終わった」 私は真空パックされ、静まり返った寝室で声も出さずに泣いた。 泣きながら私はいつの間にか眠ってしまっていた。 私が目覚めたのはベッドに潜り込む何者かの存在。 必死に逃れようとするが、真空パックされていて身動きが取れない。 侵入してきた何者かは、私の胸に触れてくる。 悲しいのはそんな不審者の手で触れられても乳首が勃起してしまうという事。 優しく乳首を触れられてビクッビクッと感じてしまう。 いつも1人で自分を真空パックしていたので、人にラバー越しに体を触れられるのは初めてだ。 物凄く気持ち良く、バキュームベッドの中で動ける範囲で体を捩らせる。 その姿に興奮したのか不審者は、私の体に覆い被さってきた。 そして、熱く硬いものを真空パックされて顕著になった股の割れ目に擦り付けてきた。 見えない相手に不快な事をされ、到底耐えられないと思ったのだが、これがまた気持ちよく体を預けてしまう。 私の中で何かが壊れてしまったのだろう。 不審者は優しく必要以上に私の股へ熱く硬いものを擦り付けてくる。 もう、それが何かは私は知っている。 「どうにでもして」 私は呟いた。 「じゃあ、空先生、俺と付き合って下さい!」 私は耳を疑った。 その声は紛れもなく、向井さんだったから。 「え?え?え?向井さん?」 「空先生、すみません、もう俺我慢できなくなって、つい」 「え?え?え?」 私は言葉が出て来ない。 軽蔑され、帰ってしまったとばかり思った向井さんが私のベッドにいる。 「空先生が悪いんですよ、こんな姿で俺を挑発するから」 私は向井さんの言葉にはチグハグな返しをしてしまう。 「向井さん、帰ったんじゃあ?」 「また、戻って来ちゃいました」 照れるような向井さんの声に私は嬉しくて泣き出してしまった。 泣いている事に気づいた向井さんが言う。 「ごめんなさい、すぐにバキュームベッドから出しますね」 私は「ハイ」とだけ答えた。 バキュームベッドから出された私を見て向井さんは驚き感心したような声を上げる。 「スリーピングバッグでも真空パックしてたんですか?1人でよく出来ましたね」 体だけ真空パックされているので、私は頷いて向井さんの言葉に答える。 「スリーピングバッグから出して、抱きしめてもいいですか?」 私は向井さんの言葉に2回頷いた。 スリーピングバッグから出された私はずっと真空パックされていたので、体に力が入らない。 そんな私を向井さんは優しく抱きしめてくれた。 「それにしても、空先生にこんな一面があったんですね、正直驚きもありますが運命を感じました」 私は向井さんの言葉の意味が分からずに首を傾げていると、ラバーマスク越しにキスをされて押し倒される。 向井さんの唇を感じながら、少し回復した腕で力いっぱい向井さんに抱きついた。 ベッドの上で足を絡ませて、互いの体に触れ合う。 「物凄く気持ちいい、このまま向井さんに抱かれたい」 そんな思いが口をついて出てしまう。 「いいの?」 向井さんが優しく声を掛けてくれた後、私はラバースーツを着たまま向井さんに抱かれる。 ラバースーツは2枚重ね着しているが、2枚とも女性器のところにコンドームのような袋が付いている。 なので、そのまま向井さんのペニスを受け入れる事ができる。 潔癖症で男性と交わった事はなく、大人のオモチャで過ごしていた私にとっては、今まで体感した事のない快感をもたらした。 それは大好きな向井さんだったからかも知れない。 エッチをしながら、向井さんがある事に気づいた。 「空先生、もしかして見えてない?」 「はい、マスクをもう一つ被っているので」 そう言って、目が見えないラバーマスクを脱ぎ、マネキンのようなマイクロホールマスクだけになった。 今日初めて向井さんを見て私は驚いた。 向井さんも黒光りするラバーマネキンのような姿だったから。 そこで初めて、向井さんの言っていた【運命を感じました】の意味を知った。 「俺も重度のラバーフェチなんです、そんな男は女性から敬遠されガチで」 そう言って頭を掻く姿は、マネキンのような姿でもいつもの向井さんの顔がハッキリと見えた気がした。 私は嬉しくなり自分と同じラバーマネキンの向井さんに抱きついて、何度も何度も交わった。 ベッドでまったりとして甘い時間を過ごしていたが、終業時間の近づく向井さん。 私と向井さんはラバーマネキンのまま、作業デスクへと向かい打合せを始めた。 ただし、私は向井さんの膝の上で彼の首に腕を回した状態で。 いちゃつき過ぎて打合せはなかなか進まなかったが、なんとか終えた向井さんはリモートで会社に報告し本日の業務を終えた。 それから数ヶ月後、私の潔癖症はスッカリ治り、普通の生活を手に入れた。 手に入れたものはもう一つ、本名 芦名 優香(あしなゆうか)は向井 優香になりました。 そうそう、潔癖症は治ってもラバーフェチは治っていないので、向井 浩司さんとの夜の営みの第一ラウンドはラバースーツを着てラバーマネキン姿で。 おしまい