SamSuka
ごむらば
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苦あれば幸福あり?

今日は上司から仕事を押し付けられた。 それもややこしい顧客で、怒られ罵られ散々な目に遭いながらも何とか終電に間に合う時間に仕事を終えた。 自分の仕事はそっちのけ。 おまけにこんなに遅くまで残業してまで仕事をこなしても残業手当も出ない、いわゆるブラック企業だ。 疲労困憊で、終電に乗りひと駅行った時、俺の目を引く女性が乗って来た。 光沢フェチでブーツフェチの俺には眩し過ぎる女性。 黒いテカテカの光沢があり、張りのあるロングのダウンコート。 ダウンコートは女性の膝までも覆い隠すほどの長さがある。 ダウンコートはWファスナーで下側だけ開いている。 その開いたところから太ももの半分辺りまで長さのある足に張り付くようにピッタリとしたニーハイブーツがチラッと見えた。 しかも、ニーハイブーツにも光沢があり足首はキュッと締まり、ハイヒールも堪らない。 髪は肩に掛かる黒髪で、顔はモデルを思わせる美形の女性。 座る姿からも上品さを醸し出している。 俺の目の前の座席に座った魅力的過ぎる女性。俺と向かいあう形で座り、電車は走り出した。 今日は朝からロクなことがなかったが、最後に神様は俺にご褒美を与えてくれた。 そう思い幸せな気持ちで、目の前の女性をチラ見する。 乗客も少ない田舎へ向かう電車の中。 女性の姿を写真に収めたいそんな気持ちが大きくなるが、そんな事をしたら目立ってしまうのでとても出来ない。 今の俺にできる事は、この辛かった一日に癒しを与えてくれた目の前の女性をチラ見する事だけ。 でも、チラ見だけでも今の俺にとっては十分幸せな気持ちになれた。 だが、事態は一転する。 俺が降りる二つ前の駅で女性が立ち上がった。 扉に向かうのだと思い残念に思っていたのだが、違った。 女性は俺の目の前に仁王立ち。 「ちょっと、あなた、私の事をずっとチラ見してましたよね!」 語気を強めて詰め寄る女性に反論出来ない俺は下を向く。 「ねぇ、ちょっと、聞いてます!」 俺は下を向いて首を振った。 女性は俺の手首を掴んで、電車の扉へ引っ張る。 女性の光沢のあるレザーグローブの手に一瞬反応してしまったが、そんな場合ではない。 しかし、レザーグローブで一瞬気の緩んだ俺は女性に駅へと引き摺り下ろされてしまった。 人の少ないホームに降り立った俺と女性。 女性はダウンコートのWファスナーの下側もサッと閉めると、俺の手をギュッと掴んだ。 「さぁ、行きましょう!」 ホームに駅員はいない。 連れて行かれるのは駅長室、そこで警察を呼ばれてご厄介になるのだろう。 女性の手を振り切って逃げようかとも考えたが、今日は仕事で疲れてそんな力も出ない。 観念して女性に引っ張られていく。 チラ見するだけでも犯罪になるのだろうか? ならない気もするが、女性が不快に思えば犯罪になるのかも知れない。 そんな事を考えながらも、女性に引っ張られていく。 改札口が近づいてくる。 警察に捕まり、職を失うのか? そう考えて今の会社を辞める事も決意する。 それより捕まったあとはどうなるのだろうか? まあ、今晩は家には帰れなさそうだ。 女性は俺の手を掴んだまま改札口を抜けていく。 俺は慌ててICカードを取り出し女性の後に続いた。 そういえば、この駅は交番が隣接していた。 だから、駅長室へ向かうよりも直接交番へ向かうのだと思った。 そこで一晩過ごすのか。 ため息が自然と漏れた。 だが、女性が俺の手を引く方向は交番とは真逆の方向。 俺は一体どこへ連れて行かれるのだろう。 女性はグイグイ俺の腕を引っ張りホテル街の方へと引っ張っていく。 俺は警察よりも怖いところへと連れて行かれるような気がした。 それは決してこの女性と良い関係を築けてはいないからだ。 だが、俺は女性の勢いに押されて抵抗する事も出来なかった。 俺と女性はついにラブホテルの前まで来た。 このまま中へ連れ込まれて、何もせずに出てくると怖いお兄さんに囲まれて大金を献上する事になるのだろう。 そんな考えが浮かび、踏み止まろうとしたが、女性の光沢を帯びたダウンコートとブーツがそうはさせてくれなかった。 男の性なのだろうか。 部屋に入ると、女性はダウンコートを脱いだ。 ダウンコートの下には、黒色レザーのワンピースを着ている。 レザーのワンピースは女性の体に張り付くようにピッタリとして、大きな胸の天辺には薄っすらとだが乳首も確認できる。 レザーのワンピースはハイネックでノースリーブ、二の腕の途中からは先ほどまで俺の手を掴んでいたロンググローブを嵌めていた。 レザーのワンピースのスカートはタイトなミニスカートになっていて、ギリギリで女性の股を隠している。 黒光りするタイツに包まれた足が伸び、太ももの真ん中ほどまであるニーハイブーツの中へと消えていた。 そして、一つ気になった事は、女性のノースリーブの肩から二の腕にかけて覗いている黒光りする肌、それはまるでラバーの様だった。 俺にダウンコートを脱いで全貌を見せた女性。 その姿は俺のフェチ心をくすぐるものしかなかった。 正直、こんな女性と過ごせるなら金はいくらでも払えると思った。 女性は両手を広げて俺を誘惑してくる。 俺は先ほどの考えを振り払うように頭を振ってから、女性に聞いた。 「君の目的は何だ!俺を陥れるつもりか?」 俺が女性に対して強気の態度に出ると、状況は一変した。 「ひどいです!あんまりです!」 女性は涙を浮かべてうつ伏せにベッドに横たわった。 突然起きた状況が飲み込めない俺。 だが、女性の『ひどいです!あんまりです!』の言葉が妙に心に突き刺さる。 これも女性側の作戦で嘘泣きをしているのだと思い返し、ベッドで横たわる女性の横へ行く。 だが、女性は本気で泣いていた。 俺が女性に触れると、俺の手をなぎ払う。 「君の目的は?」 少し優しく問いかけると、アイラインで目の周りを黒くした女性が俺の顔を見て言う。 「私の事を覚えていないんですか?」 俺の頭の中はパニック。 お店の女の子を想像したが、該当しない。 誰だろうと思っていると、女性の一言が俺の記憶を呼び起こした。  「遠藤先輩のバカ!」 その言葉で、今とは全く違う女性の姿が甦ってきた。 それは高校時代のサッカー部の部室で、購入したばかりのフェチ雑誌を部員全員が帰ったのを確認してからコッソリ見るのを楽しみにしていた。 我が家は厳しく母親がそういった類のものをチェックする直感が鋭く家には持ち込めなかった。 そのため、コッソリ部室で1人残ってフェチ雑誌を鑑賞している時、目の前の女性 飯田 美月(いいだみづき)に見つかってしまった。 フェチ雑誌の存在を知られた俺はどう対応して良いか分からず、美月に強く当たってしまった。 その時、美月に言われた言葉が『ひどいです!あんまりです!』だった。 当時の美月はおかっぱ頭にメガネであまりパッとしない女の子だった。 対して俺はサッカー部のエースで誰からも注目を浴びていた。 美月はあの時から俺の事が好きだったのかも知れない。 そう思うと可哀想になり、美月の頭を撫でて謝った。 今の事も、過去の事も。 美月は結局、俺のフェチを口外する事もなく自分の中に留めていたのだろう。 そして、偶然か必然かは分からないが俺の前に現れて自分の姿を見てもらおうと俺の手を引いて来たのだろう。 何度も謝り、ようやく機嫌を取り戻してくれた美月が言う。 「遠藤先輩のお好みの格好をしてあげますよ!」 俺は希望を言う前に一つ聞いてみた。 「美月、下に着てるのはラバー?」 そう言って二の腕から覗くラバーに触れてみた。 「もう、お触りはダメですよ!」 美月は咎めながらも、ラバースーツを下に着ている事も教えてくれた。 今、彼女はラバーにハマっているらしい。 キッカケは俺の光沢フェチらしい。 急に恥ずかしくなったのか俺に背を向けた美月だが、ガラス張りの部屋でアイラインで目の周りが黒くなった自分の顔を見た様で、今度は顔を隠し始めた。 なので、意地悪で言ってみる。 「久しぶりに美月の顔をよく見せてよ!」 美月は首を横に振り、「嫌です」と言うと俺に背中を向けた。 美月は自分のバッグから何かを取り出す。 「それは?」 俺が聞くと、「スイミングキャップ」とだけ美月は答えた。 美月は自分の髪を纏めてスイミングキャップに収める。 黒いシリコンラバーのスイミングキャップを被った美月のうなじがセクシーに見える。 背中を向けたままの美月はレザーワンピースの背中のファスナーを少し下ろすとレザーワンピースの中から何かを引っ張り出した。 それは胸の辺りからも同じように引っ張り出していた。 そして、胸側から引っ張り出したものを先に被り、続けて背中側から引っ張り出したものも被ると俺の方へ向き直った。 美月の顔も頭もラバーで覆われて、黒光りするノッペラボウに変わってしまっていた。 気になったのは呼吸ができるのかという事。 鼻と口の辺りどこを見ても呼吸穴は見当たらない。 ラバーはゴムだから当然空気を通さない。 「美月、呼吸できる?大丈夫?」 俺が焦って声を掛けたのに気を良くしたのか、美月は嬉しそうな声で「大丈夫ですよ!」と返してくれた。 美月は呼吸が出来るだけでなく、目も見えているようで、俺の手を取り再び聞いてきた。 「遠藤先輩、どんな格好がお好みですか?」 俺はダウンコートも着て欲しいと伝え、美月はダウンコートを着ると俺と抱き合いベッドへと倒れ込んだ。 倒れ込んだ瞬間、美月は消え俺は電車のシートに横になっていた。 「あれ?美月!」 そう呟く俺に車掌さんが声を掛けてくれる。 「この電車は車庫に入りますので降車下さい!」 「え!マジッ!」 俺が電車を飛び降りるとそこは見知らぬ駅。 おそらくいつも利用している路線の終着駅。 当然のように都心部への折り返し電車はなく、駅を出る。 マンガ喫茶で一晩過ごす事を考えたが、寂れた街でマンガ喫茶どころかホテルもない。 駅前で待機していた愛想のいいタクシーに乗車し、いつもよりもはるかに高い交通費を払って家に帰る羽目になった。 おしまい


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