愛おしい人と
Added 2022-04-24 13:48:27 +0000 UTC6発目です。おじさんと女の子が入れ替わる話ばっか書きすぎてんなぁと思ってきたので、学生同士の入れ替わりを書きました、爽やか。嘘です。ねっちょりしてます。
「……っ!」
スマホのバイブが鳴った。それだけで、僕の身体はビクッと震えてしまう。
長かった中間試験の最後の科目が終わり、帰ってアニメでも見ようかと思っていた矢先だった。
友人のいない僕に来る唯一の連絡。その相手に逆らう事など出来るはずもなく、僕は大人しく席を立ち、呼び出された場所へと向かっていった。
***
「……でさあ!カレってば自分から誘っておいて、当日になってドタキャンとか……ほんっと!ありえなくない!?」
痛い。しきりに蹴りを入れられている腹部はもちろんのこと、最初に殴られた頬がじんじんと痛むし、どこか切れてしまっているのか血の味が口の中に広がっている。そんな状態のまま、僕はサンドバッグになっていた。
「ねえ、聞いてんの?キミに向かって話してんだけど」
僕の態度が気に食わなかったのか、彼女はもう一度僕の腹を強く蹴る。
「ぐぅっ……も、もちろん聞いてます……ぼ、僕も彼氏さんは酷いなあと……」
「ね?だよね?ほんっと、西本くんは聞き上手で助かるな~」
そう言って今度は頭をぐりぐりと踏みつけられる。痛みに顔が歪んでいくのを感じながら、僕は彼女の機嫌が良くなるのを待つしかなかった。
彼女、杉原さんにこうして呼び出されるようになったのはいつぐらいの頃からだったろうか。
最初は僕からだった。可愛くて真面目で、それでいてクラスの中心にいるような女の子。僕みたいな、教室の隅でいつも一人でいるような男子にまで優しくしてくれて、そんな僕は何を勘違いしたのか彼女に告白をしてしまったのだ。それも、クラスメイトが見ている前で。
その時はやんわりと、いつもの優しい態度で断られただけだったのだが、問題はその後だった。数日後に今いる空き教室に呼び出されて、そして、いきなり殴られたのである。理由は僕のせいで邪魔な告白が増えたとか、二度と話しかけるなとか、そんな感じのことだったと思う。普段の優しい彼女からは想像もつかないような豹変ぶりに面食らった僕は、抵抗もできずされるがままだった。
それからというもの、たまにこうして呼び出されてはストレス解消のためのサンドバッグのように扱われるようになっていた。
「西本くんには感謝してるんだよ?こんな愚痴、クラスの子には言えないもん。それにっ……!あははっ、太ってるからか殴り心地も最高だしね」
「ごふっ……げほっ、げほっ……そ、それは良かったです……」
そう言いながら、彼女はまた僕のお腹を思い切り殴ってくる。僕はもう慣れてしまった痛みに耐えつつ、彼女を喜ばせるために必死に作り笑いを浮かべていた。
「はー……すっきりしたぁ。それじゃあまたね、西本くん♡ 制服すごい汚れてるから、洗濯したほうがいいと思うよ?」
最後に一度強く僕を踏みつけて満足すると、彼女はあっさりと帰って行った。一人残された僕は、しばらくその場に横たわっていた後ゆっくりと起き上がる。
「痛いなあ……」
殴られたところをさすりながら、思わず呟く。最近、暴力がエスカレートしている気がする。対格差があるとはいえ、こんなことがこれ以上続くと流石に身が持たない。そう思っていた僕は、とある策を講じていた。
「よ、よかった……ちゃんと撮れてる……」
カバンに忍ばせておいたスマホを操作し、録画していた動画を確認する。そこにはしっかりと先ほどのやり取りが記録されていた。
この映像を学校に提出して、彼女へ処分を下してもらう。本当はそうするのが一番いいんだろうけど、僕にその気はない。こんな仕打ちを受けていておかしい話かもしれないが、僕はまだ彼女のことが好きだったからだ。
とはいってもこれ以上は身が持たないし、杉原さんと同じ空間にいれるとはいえ、こんな関係は望んでない。だからせめて、この映像を学校に渡すということを材料に、暴力だけはやめてもらうように頼み込むつもりだった。
「ふーん?なんか様子がおかしいと思ったらそういうことだったんだ。意外と悪知恵働くじゃん」
「えっ……!?あっ、ちょ、か、返して……」
背後からの突然の声に振り向いた瞬間、持っていたスマホが取り上げられてしまう。そこに立っていたのは、先程教室を出て行ったはずの杉原さんだった。
「はい、削除っと。ダメだよ?盗撮なんてしちゃ」
「あ……ち、違うんです、これは…………げふっ!?」
弁解しようとしたところで思い切り腹部を蹴られ、悶絶してしまう。
「違くないでしょ?キミがさっきの様子を撮ってたのは事実だもん。あーあ、傷ついちゃうなあ。西本くんは口が固いと思ってたから相談に乗ってもらってたのにね?どうせ先生にチクろうとでも思ってたんでしょ」
「ぐっ……!げほ、げほっ!」
「ま、そんなものがあったところで私みたいな優等生が誰かを虐めてるだなんて誰も信じないだろうけど……逆らうペットにはお仕置きが必要だよね?」
「待って下さ……ぐぅっ!?」
再び蹴り飛ばされた僕は、地面に倒れ込んでしまう。しかしそれでも彼女は容赦無く、倒れた僕に何度も足を振り下ろしてくる。彼女の足がこめかみに直撃した時、僕の意識は遠のいていった。
***
「あれ……?僕は何を…………えっ!?」
目を覚ました僕は、自分の置かれている状況が理解できずにただただ困惑していた。さっきまでいた教室。時間もそれほど経っていないようで、日が差した教室内には僕と杉原さんだけの姿があった。そう、視界の中に杉原さんだけではなく、『僕』の姿まで映っているのだ。目の前にいるもう一人の『僕』は意識が無いのか、力なく床に転がっていてピクリとも動かない。杉原さんはそんな『僕』を見下ろしていているという異様な状況を、僕は彼女の真後ろから眺めていた。
「……西本くん?寝たふりとか面白くないからさっさと…………え、嘘!?い、息してない!?ちょ、ちょっと、勘弁してよ……!」
一向に目を覚まさない『僕』の異変に気付いたのか、彼女は顔を真っ青にして身体を揺すり始める。
「ま、待って杉原さん!僕はここに……え!?」
パニックになる彼女を落ち着けようと肩に手を置いた時、更におかしなことが起こった。ドン、と何かを押しのけるような感覚がしたと思ったら、杉原さんの中から半透明の、もう一人の『杉原さん』が飛び出していったのだ。
「きゃあっ!?な、なにこれ、どうなって……む、むぐぅ……!?」
「す、杉原さん……!?」
半透明の『杉原さん』は勢いのままに、目の前にあった『僕』の身体に頭からズブズブと吸い込まれてしまう。そんな異様な光景を見ていた僕も、ようやく自身に起きている異変に気付く。彼女の方へと置いたはずの右手、いや、右腕までもが彼女の身体の中へと沈み込んでいたのだ。起きた時には気づかなかったが、僕の腕も、身体もさっきの『杉原さん』と同じように半透明になってしまっている。
「ぼ、僕……杉原さんの中に入ってる……!?一体何が……うぅ…………」
いつの間にか右腕だけでなく、左腕、両脚、胴体に至るまで彼女の中へと吸い込まれていき、それにつれて意識が徐々に薄くなっていくのが分かる。残っていた頭が彼女のそれと重なった瞬間、僕の意識はプツンと途切れた。
***
「ん…………」
再び目を覚ますと、そこに杉原さんの姿は無かった。さっきの奇妙な光景は夢か何かだったのだろうか。そう思いながらも辺りを見回すと、そこにいるはずもない人物、夢に出てきた『僕』が横たわっているのが見えた。
「うわっ……あ、あの……だ、大丈夫……ですか……?」
自分がもう一人いるはずもない、瓜二つなだけで、きっと同じ学校の生徒の誰かだろう。そう自分に言い聞かせて彼に声を掛け、身体を揺すろうと手を伸ばした瞬間、僕の目はその手に釘付けになってしまった。
「細っ……!?えっ、な、なにこれっ!?えっ!?」
白く細い指先、そして、その先にある爪は綺麗に整えられており、桜色のマニキュアが塗られている。手だけではない。驚いて発したその声も高く透き通るようなものになっていて、そんな喉の違和感を確認しようとした道中で、腕にふにゅんと、柔らかい何かが当たる感触がした。恐る恐る視線を下に向けると、そこには見慣れた自分の身体ではなく、柔らかそうな二つの膨らみが鎮座していた。スカートから伸びる脚にはタイツが履かれていて、上半身はブラウスに包まれている。どう見てもそれは女子生徒用の制服で、男の僕が身に着けているはずもないものだった。
「う、うそっ……!?な、なんで僕……女子に……っ!?」
「んぅ……痛っ……あれ?なんでこんなとこで寝て…………」
混乱する僕の耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある男の声だった。それは倒れていた『僕』の声で、声だけじゃなく、改めて見ると顔から何まで僕そのもので、あまりに似ているその姿に少し気味の悪さすら覚える。すると、目の前の『僕』は僕を見たかと思うと、驚いたように目を丸くして口を開いた。
「わ、私……?」
***
「――いい?渡したメモに書かれてることは全部守ってよね。それと、私のスマホはこっちで持ってるから多分大丈夫だと思うけど……もし私の知り合いから電話とか来ても絶対出ないこと。あ、分かってると思うけど私の身体で妙な真似は絶対にしないで。冗談じゃなく殺すから」
「は、はい……分かりました……」
あれからどれくらいの時間が経っただろうか。もう一人の『僕』……いや、僕の身体になってしまった杉原さんからの説明が終わって、僕はようやく家に帰れることになった。いや、その帰る家も杉原さんの家になるのだから、家に帰ると言うと少し妙な感じがする。
僕が夢だと思っていたことはどうやら夢ではなかったようで、恐らく、僕の魂はあの時身体から出てしまっていたんだと思う。そうして杉原さんの魂が僕の身体に、僕の魂が杉原さんの身体に入ったことで、お互いの身体が交換されてしまっているという、アニメか何かでしか見たことがないような奇妙な状況になっていた。
杉原さんは初めこそ僕になってしまったことにかなりの嫌悪感を示していたが、未だに混乱している僕とは対照的に、直ぐ冷静さを取り戻した。そして、とりあえず元に戻るまでは僕に『杉原里奈』を演じるように命じたのだ。家の場所や簡単な友好関係、スキンケアなどのよく分からないことまで淡々と、嫌々ながらに説明する杉原さんはどこからどう見ても『僕』の姿で、自分自身にこうしてあれこれ命令されるというのはやはり変な感じがする。
「元に戻る方法も……こっちでも一応調べておくけど、西本くんの方でちゃんと見つけておいてよね。キミといたせいでこうなったんだから」
「っ……は、はい……」
入れ替わった時に僕が見た光景のことを、彼女には黙っていた。多分、僕がボコボコにされて意識を失ったからああなったんだと思うけど……もう一度それを再現すると言うことは、再び僕が痛い思いをするということに他ならない。
「え、えっと……本当に僕だけで杉原さんの家に行っていいんですか?」
「だからいいって言ってるでしょ。私が西本くんと一緒に家に入っていくとこなんて誰かに見られたら生きていけないもん。……はぁ、ほんと、なんで西本くんなんかに……。それじゃあ私はもう行くから、絶対にヘマしないでよね」
ため息交じりにそう言うと、彼女は歩きづらそうにしながら教室から出て行った。残されたのは杉原さんの荷物と……カラダだけだ。正直不安しかないけど、このままここにいたところで仕方がない。彼女の荷物を手に取り、僕も教室を後にした。
***
(えっと……ここ、で合ってるんだよね?)
目の前には『杉原』と表札に書かれた一軒家がある。彼女が教えてくれた住所通りの場所なので間違いないはずではあるのだが、どこか尻込みしてしまう。インターホンを押すか、いや、彼女の荷物に鍵があるのではないかと玄関の前でまごまごしていると、不意にガチャっとドアが開いた。
「あれっ!?おかえり里奈、家の前で何やってんの?」
「あっ……」
現れたのは見知らぬ女性で、恐らくは彼女が杉原さんのお母さんなのだろう。目鼻立ちがはっきりとしていてどこか杉原さんの面影もある、綺麗で優しそうな人だった。
「まあいいわ、丁度良かった。ちょっと急な仕事が入っちゃってさ……悪いんだけど、今日の夜も何か、適当に食べといて。お金はいつものとこに置いてあるから!」
「えっ……!?あ、あのっ…………」
余程急いでいたのだろうか、それだけ言い残すと、彼女はバタバタと慌ただしく出て行ってしまった。話に聞いた限り杉原さんは一人っ子で、父親が単身赴任しているはず。つまり今家には誰もいないと言うことで、杉原さんのフリをする自信が全くなかった僕は胸を撫でおろした。
「それじゃあ……お、おじゃまします…………」
恐る恐る玄関に入り、靴を脱いで揃える。他人の家に上がるのは初めてではないが、他人の身体で、それもこの家の住人として上がりこんでいると思うと妙な感覚を覚えてしまう。杉原さんの部屋は二階にあるらしく、階段を上がってすぐの部屋に入ると、そこには女の子らしい可愛らしさのある部屋があった。ピンクを基調とした家具や小物が置かれていて、ベッドの上に置かれたぬいぐるみや、棚に飾られたクラス写真などを見ると、いかにも杉原さんっぽい印象を受ける。彼女が使っているからだろうか、ふわりと香る匂いもどことなく甘い気がして、なんだか落ち着かない気分になる。
「ここが杉原さんの部屋…………あ、そうだ」
僕はカバンから自分のスマホを取り出すと、アプリに書かれている杉原さんからのメモを開いた。確か家に帰ったらやるように言われてたことがあったような……
「えっと……制服から着替えて……エアロバイク?杉原さん全然太ってないのに……いや、こういうことしてるから、なのかな」
他にもストレッチだのマッサージだの、恐らく彼女が普段やっているであることがずらずらと書かれていた。これを今から自分がやるのかとげんなりしていたところで、ふと、重大なことに気がつく。
「着替え…………」
制服から着替えるということは、当然、一度裸にならなければいけないわけで。そうして裸になる――杉原さんの身体を裸にしなくてはならないという事実を認識した途端、トクンと胸が高鳴った。
「そうだ、僕…………僕、本当に杉原さんになってるんだ……」
収納の横に立てかけてある姿見に視線を移す。そこには長く艶やかな黒髪に、ぱっちりとした瞳、そしてすらりと伸びた手足を持つ美少女、『杉原里奈』の姿があった。教室での明るく優しい彼女とも、僕一人の前で見せていた恐ろしい彼女の様子とも異なり、どこかしおらしい様子でこちらを見つめている。その姿を見た瞬間、また、ドキリと心臓が跳ねた。
「い、いいんだよね……?だって、着替えなきゃだし、そう、杉原さんにも言われてるんだから……」
鏡に映る杉原さんの顔が紅潮していく。そっと、指先で頬に触れると、滑らかな肌の感触と共に火照りが伝わってきた。そして、その指をゆっくりとブラウスのボタンへと近づけていく。
「あ、あれ?上手く外れな……あ、そうか、ボタンが逆なんだ……」
慣れない手つきで何とか上二つを外すと、白い下着に包まれた双丘が見えてくる。こんなことにならなければ間違いなく見れなかったであろう、杉原さんの胸。それをこうして、本人しか見れないはずの位置から見下ろしているのかと思うと、倒錯的な興奮が込み上げてくる。
「い、いけないいけない……早く着替えないと……」
少しの罪悪感を覚え、目を閉じながら残りのボタンを外していく。しかし、目を閉じようが今の僕の身体は彼女の身体になっているわけで、視界が覆われたことでより鋭敏になった嗅覚が、触覚が、シャツの下で蒸れていた身体から沸き立つ彼女の体臭を、服の生地が触れるだけでこそばゆくも心地よい感触を伝えてくる彼女の肌の存在を、これでもない程に伝えてくる。
ブラウスのボタンは外し終えたが、スカートの脱ぎ方がどうも分からなかったため再び目を開けた。目の前の姿見には、どこか先程以上に興奮した様相で顔を紅潮させた、下着姿の杉原さんが映っていた。
「ぁ……」
今僕は杉原さんと入れ替わっていて、だから、目の前に映る彼女も結局は僕でしかない。そう頭では分かっているはずなのに、僕には杉原さんが僕の目の前で、誘うような表情で服を脱いでいるようにしか見えなかった。
「……西本くん」
僕の名前を呟く。当然僕の声は聞こえず、どこか艶っぽいような杉原さんの声が耳に入ってくる。つい魔が差した僕は、彼女の声を、身体を使って、一つ一つ言葉を口にしていった。
「西本くん……わた……わ、私も、好きだったんだ、キミのこと。告白してもらえるの、ずっと待ってたんだ……」
それはあの時僕が言って欲しかった言葉。もちろんそんな言葉が返ってくるとは思ってなかったけど、もしかしたら、と夢想していた言葉だった。実際のところ彼女は僕を嫌っていたのだからそうはならなかったけど、でも、今目の前にいる彼女は僕だ。僕の思い通りになってくれる杉原さんが目の前にいるのだ。
「ほ、ほら、私のおっぱい、大きいでしょ?誰にも触らせたことないけど、に、西本くんなら……い、いいよ……」
妙な緊張で彼女の可愛らしい顔を引き攣らせながらも、ゆっくりと言葉を紡いでいく。ずっと妄想していた、妄想でしかなかったはずのこと。まさか、こんな形で叶える事ができるなんて――
「痛っ……!?あ、そうか、鏡……」
爪先が鏡面にカツンと当たる音で一瞬我に返り、思わず苦笑する。そうだ、目の前にいるのは杉原さん本人ではない、実際には僕がそう演じているだけの虚像。しかし、目を降ろすと『本人』のものである豊満な乳房が、胸に圧し掛かる重量感と共に実在している。
「い、いいよね、もう……んっ…………」
妙な真似はするなと釘を刺されていたが、もう後には引けない。下着の上から恐る恐る胸を掴むと、固い生地の感触越しに手のひらへと柔らかさが伝わり、それと同時にそこが揉まれているという、男だった時には感じようもなかった奇妙な、こそばゆいような感覚が伝わってくる。その感触に戸惑いつつも何度か揉んでみると、今度は胸のあたりからじんわりとした快感が広がり、身体を熱くさせていった。
「んっ…………♡す、杉原さん……っ、かわいいよ、杉原さんっ…………♡」
恋焦がれていた憧れの人が、目の前で淫猥な姿を晒している。頬は真っ赤で、息は荒いでいて、クラスメイトはおろか、彼氏にすら見せたことがないのではないかというほど乱れた姿を露わにしている。そして、他でもない僕自身がそうさせていると思うと興奮はさらに高まり、気づけばその興奮は下腹部の疼きという、男の頃にはなかった感覚へと変換されていった。
「ぁっ……♡こ、これ、もしかして…………♡」
ムズムズと疼くお腹、そしてその下にあるショーツの中へと指を潜り込ませるとヌルっとした感触があり、指先に纏わりつく粘性を持った液体。それが何か分からないはずもなく、ごくりと唾を飲み込む。
「ご、ごめんね……♡杉原さんのアソコ……さ、触るね……♡」
ここまでするつもりなんてなかったのに、本能が告げていた。この中に挿れてほしい、誰でもいいから早くこの熱を鎮めてほしいと。興奮と罪悪感で震えながらゆっくりと、カラダが求めているその場所へと指を入れていく。ぬちゃり、と粘着質な音が鳴り、同時に今まで感じたことのない強烈な異物感に襲われる。童貞だった僕は女性器に触れた経験なんて全くない。なのに、まるで身体が勝手に動くかのように僕の手は"いつもの"気持ちのイイ場所へと指を向かわせていく。やがて触れたその場所に指先を当てると、ぎゅっと、強く押し込んだ。
「ひゃうぅぅっっ♡♡♡♡♡な、なにこれぇ……♡♡♡」
瞬間、身体がびくりと跳ね上がり、全身に電流のような快感が走る。それと同時に、火照った身体の中で、その身体を間借りしているだけだった僕の魂がどろりと溶け、何かに染み込んでいくような快感が全身を包んだ。
「あぁっっ♡♡♡こ、これっ……だめぇっ♡♡♡♡や、やめないと……♡♡」
気持ちいい。今までやったオナニーの中で多分一番。そして、それこそが問題だった。脳裏に浮かんだ自慰の記憶は僕の……男としてやっていた慣れ親しんだ方法のそれだけではなく、女としての、杉原さんの身体でやった自慰の記憶があったからだ。なんとなく分かってしまう。さっき感じた、魂が溶けていくような快感。あれはきっと錯覚ではなく、彼女の身体で、彼女として自慰をしていたことで、僕の魂が彼女の身体と融け合おうとしているのだ。
「はぁっ……♡はぁっ……♡ …………ど、どうしよう……」
まるで自分が自分ではなくなってしまうような感覚に恐怖を覚えて、荒くなっている息を整えながらもなんとか自慰を中断する。入れ替わった時に見た光景が間違いでないのなら、僕たちは身体から飛び出していった魂を交換しているような状態のはず。あのまま自慰を続けて、魂がこの身体に混ざりきってしまったら、果たして元に戻れるのか――
「里奈、お前なにやってんだ……?」
「えっ!?あ……お、大島先輩…………?」
不意に聞こえてきた声で思考が中断される。振り向くと、去年卒業していった元生徒会長、大島先輩の姿があった。なんで先輩がここにいるのか、意味が分からない。
「先輩って……なんでそんなかしこまってんだ?まあ、思ったより怒ってないみたいでなによりだよ」
「え……あ、あの、なんで…………」
「あー、いや……流石に今日のは俺が悪かったと思ってさ、サークルの方は途中で抜け出してきたんだよ。ほんと、ごめんな」
「えっ……あっ…………」
そういえば杉原さん、彼氏にドタキャンされたとか怒ってたような……もしかして彼氏って、大島先輩が……!?
「一人でこんなことするくらい寂しい思いさせてたなんて思ってなかったけど……今日は俺がとことん付き合ってやるよ」
「まっ……ちょ、ちょっと……!?」
困惑する僕を押し倒すと、先輩はズボンを脱いでいき、既に勃起していたモノを僕に見せつけるように露出させる。
「せ、先輩、待ってください!」
「ははっ、何そんな焦ってんだ?大丈夫だってほら、ちゃんとゴムもするから」
「やっ……あ、あの、そうじゃなくて、ぼ、僕は杉原さんじゃ……んむっ……!?」
言い終わる前に唇を奪われる。そのまま舌を絡められ、口内を蹂躙されると頭の中がふわっとした感覚に包まれていく。
「ん……んむぅ…………ちゅぷ……♡れろぉ……♡」
男とキスをするなんて気持ちが悪い。そう思いたいのに、そうは思ってくれない自分の意志が頭の中をぐちゃぐちゃにしていく。気持ちいい。頭がぼうっとしていくのを感じながら、抵抗しようと思えばできたはずの両手は自然と先輩の背中へと回され、気づけば自分からも積極的に舌を動かしていた。
「ん……んむぅ……ぷはぁ……はぁ……はぁ……♡」
「ほら、なんだかんだ言ってお前も乗り気なんだろ?」
眼前でそう笑う先輩の顔を見て、ドキリと胸が強く高鳴る。それに共鳴するかのように、再び僕の魂が杉原さんの身体に融け込んでいくような、心地よくも恐ろしい感覚に襲われる。このままじゃまずい。
「あ、あの……あのっ!ぼ、僕、杉原さんじゃないんです……!」
「はぁ?」
「えと……だから、その、僕は別人で、本当は男で……」
「ああ、なんだ。今日はそういうプレイがしたいのか?……つっても、ははっ!流石にその設定は無理があるだろ」
「い、いや、本当に……ひうっっ♡♡」
必死に説明しようとする僕の言葉を遮るように、先輩の指先が僕の乳首をつまみ上げる。突然の刺激に耐えられず、口から甲高い声が漏れてしまう。
「なんだ、そういうのって男の娘とか言うんだっけか?男ならこんな胸はしてないだろうし……」
「やっ……やめ……♡」
「ほらここ、お前が男だってんなら、なんでココには何も無いんだろうなぁ?」
「ひゃっ……♡う……あぁん……っ♡」
たわわに実った乳房を、ゴツゴツとした指をその内に受け入れていく秘所を愛撫される。自分でするのとは比べ物にならない快感に身体がびくびくと跳ね上がり、脳を、そして魂までをも痺れさせていくような甘美な刺激を前に何も考えられなくなる。
「なあ、もういいだろ?……今日の里奈、なんかいつもよりエロいし、俺ももう限界なんだよ。……挿れるぞ?」
「あぅ……♡ま、待って…………あぁぁぁっっ!?♡♡♡♡」
僕の中に先輩のモノが挿入されると、頭の中で何かが弾けたような気がした。それと同時に、今まで感じたことのない、全身が蕩けてしまうような多幸感に満たされていく。
「おぉ、すげぇ締め付けてくるじゃん。そんなに欲しかったのか?」
「あっ♡あっ♡♡あっ♡あぁっ♡♡うぁ……あぁぁっ♡♡♡」
気持ちいい、気持ちいい、気持ちイイっっ……!今までのどんなオナニーとも、セックスとも比較にならないような感覚。性感帯を刺激されていく快感と、『僕』そのものが『私』へと融け込んでいく言いようもない快感。ピストンの度に自然と艶っぽい喘ぎ声が漏れ、奥を突かれる度にどんどん僕が私の中へと、どろどろになって融けていくのが分かる。
「里奈っ……!里奈ぁっ…………!」
「あっ♡あはぁっ……♡♡もっと、もっとぉ……っ♡♡♡♡」
どうして僕はあんなに、コレを拒んでいたんだろうか。戻れなくなる。もう、そんなことはどうでもいい。こんなに可愛くて気持ち良くなれるカラダを捨てて、どうしてあんなに醜いカラダに戻りたいなんて考えていたんだろうか。
――――嫌だ。戻りたくない。返したくない。ずっとこのままでいたい。僕は……いや、私は、ずっと『杉原里奈』として生きていきたい――
「里奈ぁっ……!あっ……くっ、だ、出すぞっ!うぅっ…………!」
「んぅっ……♡♡ はぁっ……♡はぁっ…………♡」
先輩は絶頂に達したのか、一瞬身体を震わせたかと思うと腰のストロークを止め、そのままぐったりと覆いかぶさってくる。一方の私は快感の余韻に浸りつつも、もどかしい身体の疼きを抑えられずにいた。
ああ、まだ足りない。もっと、もっと欲しい。気持ちよくなりたい。一刻も早く、『僕』の全てを『私』の中へと受け入れてあげたい。
「ねえ、まだ私イってないんだけど♡」
先輩を押しのけて、今度は私が上になる。騎乗位の体勢になり、先輩を見下ろすと彼は困惑した表情を浮かべていた。
「とことん付き合うって、言ったよね?今度は私の好きにさせて貰うから……♡♡」
「ちょっ……まっ……!」
「待たなーい♡……ひゃぁんっ♡♡」
制止の声を無視して一気に腰を落とすと、待ち望んでいた快感が身体中に走る。ああ、やっぱりこっちの方がいい。私のペースで動けるし、クリだって気持ちよくなれるし、何より……彼を征服しているようなこの光景が、最っっっ高に興奮する……♡♡♡
「くっ……ははっ、お前、珍しく落ち込んでると思ったら……くぅっ……け、結局いつもと同じじゃねえか」
「同じぃ?あはっ♡♡そっか、そうだよねぇ、あはっ、あははぁっ♡♡♡」
確かに、彼にとってはこれはいつものことなんだろう。『私』の記憶の中にもある、私のわがままを通して騎乗位でさせていたみたいな、いつも通りのセックス。本当はいつも通りなんかじゃない。私の中身が別人に、それも、男子になっちゃってるっていうのに気づかない、気づくはずもないんだ。だって、今の私は何から何まで里奈そのものなんだから。
「ふふっ……♡♡あはっ♡あはぁぁぁっ♡♡♡私もう、イクッ♡♡♡ねえ、いこっ♡♡♡♡一緒にっ、ねぇっっ♡♡♡♡♡」
「おまっ……そんなんされたら我慢できな……あっ、やべっ、で、出るっっ!!」
とどめと言わんばかりに膣内を締め付けると、私のナカで彼のモノがビクンと震え、それと同時に電撃のような快感が私の全身を貫いていく。全身を包む熱と快感の余韻で蕩け切った頭でも、何となく感じ取れた。もうこの身体は、『杉原里奈』は本当の意味で『私』のモノになったのだと。
***
翌日、私はいつも通り学校に来ていた。クラスメイトと挨拶を交わせばいつも通りに笑顔が返ってきて、授業を受ければいつもと同じように先生の話を聞きながらノートをとり、指名されればいつものように模範解答を口にする。そんな、『杉原里奈』としてのいつも通りの学校生活。いや、1つだけ変わっていることがあったかもしれない。
「うわ……まだ送ってきてる……」
昼前の授業が終わったところでスマホを確認すると、大量のメッセージが送られていることを示す通知が画面に映し出されていた。相手は元の私、西本くんだ。昨日はどうだったとか勝手なことするなとか、いちいち相手をするのが面倒だったので放置をしていたのだが、それでも同じようなメッセージを送るのを彼は一向にやめなかった。
「里奈ぁ、早く学食行かないと席埋まっちゃうよ?」
「あっ、ごめん。今行くね!」
席を立って友人の元へ向かおうとしたその時、無駄に横幅の広い男子、西本くんに行く手を阻まれた。
「西本くん……?えっと、悪いんだけど、そこ通してもらえる……?」
「ふっ、ふざけないで!!ああもう、私のフリなんてしないでよ!!メッセージは全然返さないし……!」
「わっ……!ちょっと、西本くんどうしたの?落ち着きなよ。みんな見てるし……ね?」
「う……!」
怒りの形相を浮かべて捲し立ててくる彼だったが、周りの目に気付いたのかハッとした表情を浮かべると、バツが悪そうに顔を伏せる。
「えっ……!?ちょ、ちょっと里奈、大丈夫!?」
「あははっ、大丈夫大丈夫!でも、少し西本くんと話がしたいから先に学食に行っててくれる?」
この場を取り繕おうと明るくそう言ってはみたが、今のこの状況、目立たなくて大人しい『西本くん』がクラスのトップカーストである私に詰め寄っているという構図だ。しかも彼は以前私に告白してフラれた相手。当然好奇の目が集まってくるし、正直居心地が悪い。
「ねえ西本くん、いつもの場所で話そっか?ほら、ついてきて」
「えっ……?あっ、ちょっと……!」
困惑する西本くんを尻目に、私はざわつく教室を後にした。
***
「――で?西本くんは何が不満なのかなぁ。私はちゃーんと、キミに言われた通り『杉原里奈』をやってるつもりだよ?」
誰もいない空き教室。そこで私と西本くんは向かい合っていた。
「ふざけっ……西本くんはそっちでしょ!!そもそも朝早くに来いって命令したのに、なんで来なかったわけ!?」
「朝……?ああ、私にメイクとかは無理だろうからキミがやってくれるって話でしょ?それなら必要ないかなーって。ほら、見てよ」
ズイっと顔を近づけ、自分の顔を見せつけるようにしてやる。
「ほら、化粧も髪も、いつも通りの可愛い私でしょ?……あははっ!なに顔赤くしてんの?」
「ち、ちがっ……」
「ふふっ、私はちゃんと私としてやれてるのに、なんで西本くんが怒ってるのか全然わかんないなぁ」
「だ、だから私は里奈だって……!第一、元に戻るまでって話で……そうだ、そうだよ!ねえ、元に戻る方法はどうだったの?見つかったんでしょ!?」
「ああ、それなんだけどさ。もうずっと、このままでいることにしようよ」
「…………は?」
ぽっかりと口を開け、間の抜けた声を出す西本くん。その様子に思わず吹き出しそうになるが、ぐっと堪えて続ける。
「聞こえてたでしょ?ずっとこのまま、私は里奈として、キミは西本くんとして、これから先もずーっと生きていくの」
というよりは、生きなくてはいけない、と言った方が正しいのだろうか。西本くんの身体に入った元私の魂はどうだか知らないけど、もう私の魂はこの身体に、里奈の肉体に融合しきっている。私がずっと里奈の身体で生きることはもう確定してしまっているのだから。
「…………自分が何言ってるのか分かってるわけ?」
「あははっ!もちろん分かってるってば。分かってないのは西本くんの方じゃないの?頭の悪いキミにも分かるように説明してあげよっか。いい?もうキミの身体はその、不細工でデブのキモ男子の身体でぇ……あんっ♡この可愛くて気持ちがいい、美少女の身体が私の……」
「このっ……!!」
挑発するようにわざとらしく自分の胸を揉んだところで、西本くんが殴りかかってきた。我ながら、とも言うべきか。沸点が低くて扱いやすい。少し煽ってやるだけでこれだ。
さっき私が西本くんに詰め寄られていた光景は多くのクラスメイトが目撃している。西本くんなんかに殴られるって言うのは癪だけど、暴力を受けたって言えばきっと大事に……
「……ん?」
頬に衝撃が来ると思っていたのだが、いつまで経ってもその感覚は訪れない。目の前には私以上に混乱した様子で、拳を振り上げたままの体勢で固まる西本くんの姿があった。
「あれぇ、どうしたの?私のこと殴りたいんでしょ?ねぇねぇ」
「う、うるさい……っ!な、なんで身体が動かないの……!?」
「はぁ?」
てっきり、今の状況を理解して思いとどまったのかと思ったがどうやらそうでもないらしい。訳も分からず彼の顔をじっと見つめていると、カァっと顔を赤くして視線を外される。
……まさか、とは思うが、相手が元私なのなら、確かにあり得ないことでは無い。
「ねえ、西本くんさぁ、オナニーしたんでしょ」
「えっ…………」
どうやら図星だったようで、彼は分かりやすく動揺した。おおかた、どうせ元に戻れるんだからと、今の事態を深刻に捉えてなかったのだろう。『西本くん』としての生活は普段より暇だったろうし、時間を持て余した彼の好奇心が、以前から少し興味があった男性の自慰に向くのは自然な流れと言えるだろう。なぜ分かるかって?決まってる、彼が元々『私』だったからだ。
「そ、そんなことするわけ……」
「あははっ!隠さなくていいんだよ?教えてあげよっか。入れ替わったままオナニーするとね、魂がその身体に馴染んじゃうんだよ。だからキミは私のことが殴れなかったんじゃないかな?だって……ふふっ、今の私はキミがだーいすきな『杉原さん』だもんね?」
「な、馴染むって……なんでそんなこと分かって…………」
「なんで分かるかって?決まってるじゃん、私もオナニーしたんだってば♡っていうかセックスね。昨日カレがいきなり来てさぁ……ま、とにかく、私はもうこの身体にすっかり馴染んじゃったってこと♡」
甘ったるい声でそう言いながら、身体をくねらせ、ゆっくりと私の手を股間へと這わせていく。あくまでも、彼を怒らせて殴り掛からせようとするための動作だったのだが、どうやら彼は思った以上に『西本くん』に馴染んでいたようで、聞こえないくらい小さい声で抗議こそしてはいるが、ズボンの下にある男性器を大きく勃起させていた。
「あはっ、勃起してんじゃん!なに?私がエッチしてる姿でも想像しちゃったのかな?」
「ち、ちが……」
「あ、そうだ。ほんとは学校から追い出してあげようと思ってたんだけど……ふふっ♡面白そうだし、私に逆らう気がなくなるまで馴染ませちゃおっか!」
「ふ、ふざけないで…………ぐえっ!?」
思いきりお腹を蹴ってあげると、西本くんは潰れたカエルみたいな声を出して床に転がった。『僕』だったときはなんでって思ってたけど、ああ、理由なんてないんだ。こんなに面白い、従順なおもちゃがクラスメイトにいるんだもん。それで遊ばない方がどうかしている。
「それじゃあ、シコってあげる♡」
「げほっ……げほっ……ま、待って……!」
勢いよくズボン、そしてパンツを降ろしてやると、むわっとした饐えた臭いと共に、大きく膨らんだ肉棒が露になった。かつては自分のものだった、男の人の性器。自覚は無かったがこうして見ると中々大きく……大きさだけならカレ以上かもしれない。
「んー、手でシてあげてもいいけどぉ……触りたくないし、足でやろっかな。西本くんも好きなんでしょ?こういうの♡」
「や、やめっ…………はうぅぅっ!?」
靴を脱ぎ、近くの椅子に腰掛けて両足で西本くんのモノを挟み込むようにしてあげると、彼は情けない悲鳴を上げた。そのまま軽く上下に擦ってあげるだけで、びくっ、びくっ、と気持ちよさそうに身体が震えている。
「ほーら、シコシコ♡興奮するでしょ?西本くん、ずっとこういうエッチな漫画ばっかりオカズにしてたもんねぇ」
「や、やだっ!わ、私こんなの知らな……うっ、ふぐぅっ……!」
「知らないわけないでしょ?だってキミは西本くんなんだから。ほら、私にも本当は、蹴られるんじゃなくてこうして欲しかったんだよね?こうやって、ぐりぐりってぇ♡」
「ち、ちがっ……僕は里奈で……あうぅぅっ!」
ただ股間に足裏を擦りつけてあげてるだけなのに、西本くんは面白いくらいの反応を見せてくれる。段々と彼の中の魂も融けつつあるのか、いつの間にか一人称すらも『僕』に染まってしまっていて。元はこの男子が『僕』だったし、その中にある魂が『私』だったのも覚えている。でも、こうして情けなく喘いでいる姿を見ていると、それらが元は私だったなんてと、私ですら疑いたくなってしまった。
――そんな滑稽な西本くんの姿を見ていたら、つい、いじわるをしたくなってしまうのも仕方のないことだ。
「はい、ストップ♡」
「はぁっ……はぁっ……な、なんでやめっ…………あ、ち、ちがっ……そのっ……」
「あははっ!どうしたの?西本くんが嫌そうにしてたからやめてあげたんだけど……やめてほしくなかったかな?」
足の動きを止めると、西本くんは一瞬抗議の声を上げ、すぐに取り繕うように口ごもった。もう、彼はほとんど『僕』になっているんだろう。このまま放っておいても、彼は直ぐに『僕』に染まりきってしまうのだろうが、それでも、だからこそ。彼の中にほんのひとかけらでも『私』が残っている今、やっておきたいことがあったのだ。
「ねえ、続きシてほしい?」
「ぇ…………ぁ…………」
「何?はっきり言ってくんないと聞こえないんだけど」
「うぁっ……は、はい……やってほしい、です……」
「そっかぁ♡夢にまで見た、私からの足コキだもんね? やってあげてもいいけどぉ……その代わりに1つだけ、約束してもらおうかな」
「や、約束……?」
「そう、約束。私たちが入れ替わった、なんて馬鹿みたいなことは忘れて、これからは一生西本くんとして生きていくって約束してくれるんなら、続きをシてあげる♡簡単なことでしょ?」
「えっ……!?あ……そ、それは……」
簡単なこと、とは言ったが、彼にとってそれを認めることが簡単でないことは私が一番分かっていた。それはつまり、彼の中にいる『私』が私のカラダに戻ることを諦めるのに他ならないのだから。もし私が同じ立場だったら、そんなこと絶対に認めたくなんてない。
――だからこそ、言わせたい。口にしてほしい。『私』には自分の意思で私のカラダを諦めるという、惨めったらしい思いをしながら『僕』になってほしいのだ。
「あははっ!別に私はどっちだっていいんだよ?キミがどうしようが、私はずっと私として生きていくだけだもん」
言いながら、股間に添えていた右足をゆっくりと、彼の丸い鼻先に伸ばしていく。無意識なのかそうでないのか、彼はタイツに包まれた足の匂いをスンスンと嗅ぎ始めた。私はそんなの臭いだけだと思うけど……キミはこういうのが好きなんだもんね?西本くん♡
「……で、どうするのかな?」
「う…あぁ……僕は……」
「"僕は"……なあに?」
「僕は……ぼ、僕が!……僕が、西本です……こ、これからもずっと西本健一として生きていく……のでっ……!だ、だから……その……」
彼は、ついに観念した。とうとう諦めてしまった、手放してしまったんだ。私のカラダを、『杉原里奈』としての人生を、それも自分から。――そう思うと、今まで感じたことの無い感情が込み上げてきた。愛おしい、という思いに近いかもしれないけど、それは私が彼氏に感じている感情とは似ても似つかない、どす黒いものだった。『私』が、かつて私だったモノがこんな醜い男子になり果てて、挙句の果てに、ただ足コキをしてほしいがために私としての人生を諦めてくれるだなんて、なんて健気なんだろうか。
「あははははっ♡よく言えたね、西本くん?それじゃ……続き、シてあげよっか♡」
両足を使って彼のペニスを挟み込むようにしてあげ、そのまま上下に擦り上げる。たったそれだけの行為で彼の身体はびくびくと震え、口からは言葉にならない声が漏れ出る。その様子が可笑しくて、ついつい何度も繰り返してしまう。
知らなかった。知りようがなかった。『私』の痴態を見るのがこうも面白いものだったなんて。私の前から消えてもらおうと思ってたけど、とんでもない。もう離さないし、逃がさない。そして彼も、きっとどこにも逃げはしないんだろう。
やがて、西本くんは一際大きい声を上げたかと思うと、私の足を生温かい粘液で濡らしていった。
***
「――遅すぎ。私、5分も待ってたんだけど」
「ごっ、ごめんなさい……!い、委員会が長引いちゃって……」
「へえ、キミは私よりも委員会なんかを優先するんだ?」
「えぁっ……それは、その……」
「まあいいや。それより聞いてくれる?カレってば酷いんだよ?冬休みの間はずっとこっちにいられるって言うから楽しみにしてたのに、結局補講だとかで来られないって……馬鹿にしてると思わない!?」
「は、はい……ぼ、僕も彼氏さんは酷いなあと……」
「だよね?ほーんと、私ってばかわいそうだよね~。……だから、ねえ。今日もいつもみたいに慰めてくれるでしょ?……西本くん♡」