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Jin(鬼頭ジン)
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シノビ 其ノ参(一部先行公開)

執筆中のシノビ第3話の途中までを特別公開いたします 完成までしばらくお待ちいただけると嬉しいです 「どうやらこのスポーツジムのようだね」  夜も十時を過ぎた頃、都内のとあるスポーツジムの前に、彼はいた。  彼はただのしがないサラリーマン。しかしそれは、ほんの数刻前の話であるが。  このサラリーマン。否、“元”サラリーマンの名は士藤伸崇。今は青い装束を纏いし一人のシノビである。彼はある日を境に、様々な性技を駆使する忍者として生まれ変わったのだった。 「そうみてぇだな」  その隣にいる不良少年も伸崇と同じく、シノビとして生まれ変わった者の一人である。二人は、己を変えた“主”の命を受けこの場へとやってきていた。  夜中とはいえ、シノビの、あの姿のまま行動するのは忍びない。そう考えた主は二人にとある術を授けた。それがこの姿――彼らがシノビと化す以前の人間だった頃の肉体と人格を“真似る”術、『仮真似の術』である。二人は一介のサラリーマンと不良として、このスポーツジムを訪れようというのだ。  目的はただひとつ、“主”の悲願を達成することだ。“これ”はその足掛かり、失敗するわけにはいかない。元サラリーマンの伸崇と、元不良少年の刃村心介は、主の言葉を頭の中で反芻させながら目的の場へと歩みを進めた。  ◆  スポーツジムのトレーニング室へ、あらかじめ主が用意した、施設内の地図を頼りに進んでいく。そこに、目的のものがあるはずだからだ。『忍足の術』で音もなく暗闇を進む。  常人の目では捉えることのできない暗闇も、シノビにとっては『暗視の術』により真昼間と変わらぬ視界を保っていられる。二人は夜のジムを、まるでいつも通っているかのように平然と進んでいった。 「いたか」  心介が呟く。一つの部屋だけ、ぽつりと明かりが灯っていた。それでその部屋がこのジムのトレーニング室だと二人は確信した。そこにいるのが、シノビの目的のものだからだ。 「どうやら着いたようだね。行くよ」  伸崇が手筈通りに先にそのトレーニング室へ入っていく。残された心介は、これからのことを想像しながら股間を膨らませていた。  ――トレーニング室。  そこには一人の男がいた。その男は、十時を過ぎているというのにも関わらず、未だ激しいトレーニングを続けていた。  彼の名前は虹山健也。このスポーツジムの講師であり、元格闘家だった人間。格闘家といっても、実力が伴わず無名のまま引退していったのだけれど。  元々体を鍛えるのが好きだったこの男は、その性格が興じてその職を志すようになったが、体を鍛えるのと技術を磨くのは別の話。つまりはそういうことだった。  格闘家を引退した後も体を鍛えるのだけはやめられず、紆余曲折の後、このスポーツジムを開設したというわけだった。  今は自分がなれなかった強い人間を自ら育て上げることが生き甲斐になっていた。もちろん今でも鍛錬は怠ってはいないが。  今日は休みの日を利用して朝からトレーニングをしており、今もその最中だった。 「ふぅ。今日も充実したトレーニングだった」  健也は満足気にそう言うとペットボトルの水を口にした。そろそろ切り上げよう。そう思いトレーニング室の片付けに入ろうとした――そんな時だった。ぱりっとしたスーツに身を包んだ生真面目そうなサラリーマンが入ってきたのは。 「『ニジヤマ・トレーニングジム』はここでよろしかったでしょうか?」  サラリーマンはそう言った。  健也はふと時計を確認する。時計の針は夜の十時を指していた。  思い返せば、今日は休業の日でジムの入り口には鍵が掛けてある。他の人間はこの中には入れないはずだ。健也はこのトレーニング室に、さも当然の如く現れたこの男のことを不審に思った。 「お前……どうしてここに入ってこれた……お前は一体……」  健也は目の前のサラリーマンにそう問いかける。この男がサラリーマンを装った悪漢か何かならば、即座に対処しなくてはならない。まずは質問し、相手がどのような反応をするかを確認してからこいつの処遇をどうするか――そんなことを考えていた健也にサラリーマンはこう言い放った。 「夜分遅くのご訪問になってしまい申しわけありません。私はこのスポーツジムに入会したく伺った者です」  どうもこの回答によればこの男はこのジムへの入会が目的のようだが……  そもそも自分の質問とは無関係の答えである。どう考えても姑息な嘘にしか思えない。今すぐにでも『帰れ』と言おう。もしもそれで抵抗してくるならば、全ての腕を振るうほかない――健也がそう覚悟を決めたその時だった。 「『あなたが昨日、今日は立て込んでいるから明日の十時にここへ来るようおっしゃられた』ので……やはり今日も立て込んでおられるのでしょうか?」  怪しげなサラリーマンは自分が当たり前のことを言っているとでも言うか如くごく自然に不自然な嘘を吐いた。それを聞いた健也はこう思った。 (なんだ、そうだった)  と。 「ああ、思い出したぞ。君は会社員の士藤伸崇さんだった」。すっかり忘れていたよ。遅くなって悪かった」  健也は先程の訝しげな態度とは打って変わって友好的に返事をする。それを聞いた伸崇の表情は不気味な笑顔になる。これも、この不自然な状況も、シノビの力によるものであった。  忍法『言霊憑きの術』により、伸崇の言った虚構の言葉を、さもそれが真であるかのように認識させられたのだ。 「でも良い人そうで安心しました……『虹山さんって、疑いを知らない頭の悪い方ですもんね』。『私の言葉を文字通り信じてくれる』と思いました」  先の不気味な表情はどこへ行ったのか? と思う程に真剣な表情をして伸崇は“そう言った”。 「ガハハハハッ! 手厳しいな! まあ昨日の約束すら忘れちまうなんてことしちまったんだ! それくらい言われても仕方ねえや!」  健也は豪快に笑いながらそう言った。もう彼は伸崇のことを微塵にも疑うことはできないだろう。今の彼は『疑いを知らない馬鹿』なのだから。 「それでですね、今日は私の息子もここへ来ているのですが、息子は手のつけられないやんちゃ者でして、ぜひ虹山さんに彼も鍛えてやってほしいと思っているんですが」  伸崇はそう言うとわざとらしく出口の方を向いた。 「心介っていうんですが……」  その言葉と共に心介がトレーニング室へと入ってきた。 「何だよ親父……こんなとこ連れてきやがって」 「文句言うな! 明日からお前はこの人に鍛えてもらうつもりだ。毎日ここに通ってもらうからな!」 「ハァ!? ふざけんなこのクソが!」  二人は親子を演じる。この男を油断させるために。 「こらこら、親父さんをそういう風に言うもんじゃない!」  健也は伸崇に摑みかかろうとした心介の肩を押さえつける。心介は渋々と伸ばした拳を戻し床へ座った。 「なかなかヤンチャそーな坊主だな。しかし、そのほーが鍛え甲斐があるってモンよ! ハッハッハ!」  健也はそう笑い飛ばすと、事務室へ向かう。ジムの入会のための手続きを行うために。  しかし、健也がその手続きをすることは叶わなかった。 「あ、ちょっと待ってください。虹山さんに見てもらいたいものがありまして……」  伸崇はそう言うと手持ちの鞄を開きある物を取り出した。 「これなんですが……」 「何だこりゃ? ……巻物?」  それは、黄色の紙の巻物だった。 「出張先で貰った物なんです」 「そいつを何故俺に?」 「『余計な詮索はしなくていい』んですよ、虹山健也さん」 「…………そうか。一体どんな字が書かれてるんだろうな?」 「『開けてみてくださいませんか』? 虹山さん」 「とう、もちろんよ」  紐を外し健也は巻物を開く。その巻物には――何も書かれてはいなかった。  古そうな紙質ではあるがその巻物は綺麗な白色を保っていた。 「……こりゃあ、何だ?」 「それは、お主を我がシノビの同胞にするための、最後の箍だ」 「え?」  そう言った健也だったが、もうその時点で全てが終わっていた。  健也の手にあった巻物がひとりでに動き出す。風が吹いたかのように巻物が空中に浮かぶ。 「ん? 何だこりゃ」  ふと我に帰る健也。しかし、気付いた時には何もかもが手遅れで、既に彼らの目的は9割方完了していた。 「うおああぁあああ!!」  けたたましい声がトレーニング室に響く。健也の野太い声がトレーニング室を駆け巡ったが、伸崇が手をかざすとその騒音は外に漏れることなく遮断された。 「やっ、やめろぉ! 紙がッ 、紙が俺の体にぃ!」  健也の体にはあの巻物が絡みついていた。それはあたかも縄――否、蛇のように執拗に健也の体を縛る。 「あああ、おああ、うおおおおっ」  巻きつく紙の束を騒がしい叫び声をあげながら振りほどこうとする。だがそれを引き剥がそうとすればするほどそれは離れずなお健也の体を侵食していく。  いつしか健也の全身は黄色の巻物に覆われてしまった。まるで紙で作られたタイツを見に纏っているようにも見えてしまうようなその容貌。その状態が数分続いた後、その巻物はまばゆい閃光を放ち弾け飛んだ。 「うおおぉっ、何じゃこりゃああぁあ」  健也の首から下は先程のタンクトップとジャージという出で立ちではなかった。  帷子、脚絆、足袋……まるでその格好は時代劇の中に登場する忍者のようだった。 「その装束はどうでござるか、虹山健也」  慌てふためく健也の目の前には自分と似た風貌をした男が二人立っていた。  先程のサラリーマンと不良少年は煙の如くこつぜんと姿を消し代わりと言わんばかりにその二人の男が健也を虚ろな目で見つめていた。

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本当に楽しみにしています。いつ発売されるかもしれない最新情報はありますか?

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