密閉された暗闇の中—— 長時間、本当に長時間もの間、上下左右に大きく揺さぶられ続けている。
身動き一つできない僕は、グラグラ……グラグラと揺さぶられながら、街の喧騒を聞く事しかできないでいた。
少し前まで気にする事がなかったその喧騒を、酷く懐かしい気持ちになって……。
——だって僕は、そんな喧騒をもう、自分の意思で聞く事が叶わないのだから。
「でさぁ~それでね……」
「え~ほんとぉ? キャハハハ♪」
「はい、はい。 早急に、はい……」
何が楽しいのか、会話に花を咲かせる女子高校生らしき声。
それとは別に、焦った感じで話すサラリーマンらしき男の声も聞こえる。
幾人もの様々な声が、僕の近くを無情に通り過ぎ去っていくのが見えなくても感じられる。
「ぅ……ぁ……ぁぁ………」
そんな通り過ぎていく人々に、これまで何度も助けを求めるために叫ぼうとしているが、相変わらず上手く声が出せない。
ただただ言葉すらならない、か細い呻き声をやっと搾り出せるだけ……。
まぁ例え声が出せたとしても、こんな喧騒の中じゃ僕の声なんて簡単にかき消されてしまうと思うけど……。
でも——それでも僕が唯一助かるためには、叫んで誰かに気づいてもらうほかなかった。
声が出せなくても、これが助かるための最後のチャンスで、 ‟今” 行動を起こさないと、永遠に自分の ‟人生” が閉ざされてしまう気がして。
「ぁ”……ぁ”ぁ”………ぅ……」
(早く……早く誰かに気づいてもらって、この現状から助けてもらわないと!)
助かるために必死になっている『大友 健太』という青年をよそに、残酷にもあんなに煩かった喧騒が静まり返る…… その代わりに——
ジャラジャラとした鍵の束らしき音が鳴り響く。
(もっもしかして……)
‟嫌な予感がする”
今、自分がどういう状況にあるのか…… また、このままだとどういう目に遭わせられるのかを僕は理解していた。
あの店で朦朧としながらも、ハッキリと自分を購入する声を聞いていたから。
——担任である学校の先生が、僕を ‟買う” というあの言葉を。
先生が僕を助けてくれたんだ……と、一瞬淡い期待を抱いた。
これで僕は、たくさんの女の子達のオナニーに使われるという、玩具としての立場から解放されたのだと……。
——でも、僕が包装紙で包み込まれていく間際に見た先生のあの表情を見て、それは断じて違うのだと分かってしまった。
だって、これまで僕に…… いや、絶対に生徒に見せる事がない卑しげな表情を浮かべて、自分を見下すように見ていたんだ。
そんな表情を見て、先生は僕を道具として ‟使う” ために購入したのだと理解してしまった。
だから——だから僕は、先生が家に帰宅するまでになんとか助かろうと、必死になって足掻き続ける。
家に僕を持ち帰られると、後は性欲を発散する道具として一生使い続けられていく未来しか見えないからだ。
(誰でもいい! 誰かっ! 誰か僕を助けて!!)
神に祈るように心の中で願い乞う。
……だけどそんな願いは虚しく——
ガチャ!
「ただいま~」
一生懸命必死になっている僕を嘲笑うかのように、陽気な先生の明るい声が聞こえた。
そんな声を聞いて、自分は完全に助かる未来が絶たれたのだと、どうしもうもなく自覚させられた……。
「今日は暑かったなぁ。 汗掻いちゃった……」
健太が絶望を感じている頃、女は手に持つバッグをソファーの上にポイッと放り投げる。
このバッグの中に、自分の生徒である青年が入っているというのに……。
その後、健太の耳にはドスドスと室内を歩く音が聞こえ、挙句には手洗いうがいをする ‟日常的な人間の行為” の音までもが耳に入る。
そう、健太という青年が ‟非日常” を今現在も体験しているのにも関わらず、この女にとっては普段と大して変わらない何気ない日常。
だから、生活習慣となった行動を流れ作業のようにこなしている。
‟人間” だから出来る日々の行動を……。
そして、帰宅してやるべき行動を全て終えたのか、
「ふぅ~よいしょっと」
と、勢いよくソファーの上に座った。
そのせいで、ソファーの上に放り投げていたバッグも一緒に大きくバウンドする。
「あっ! そうだった。 バッグの中に大友君を入れたままだった」
隣で跳ねたバッグを見て思い出したのか、ガサゴソとバッグの中をあさり、包装紙に綺麗に包まれた、買って来たばかりの商品を手に持つ。
そして——
ペリペリペリ……
ガサガサガサ……
と、丁寧に包装紙を剥がしだす。
「よしっ! 綺麗に剥がせた♪ ん? あっ! 目が覚めてたんだね大友君」
わずか数秒で包装紙を取り除いた女は、あらわになった玩具をテーブルの上に置き、座って覗き込むような形で大友健太を見下ろす。
テーブルの上に置いた健太を、学校で見せていたいつもの優しい表情で。
「ぅぁ……ぁぁ…ぁ………」
しかし、今の健太にはそんな表情でさえ怖かった。
——巨大すぎるのだ。 何もかも……。
クリッとして可愛らしかった目でさえ、ギョロッと黒い目玉が動き健太を凝視している。
また、鼻の穴の中までもが丸見えで、そこからはたくさんの鼻毛が生えそろっていた。
それらのせいで、健太の目から見る『福田 樹乃』の顔は、とても醜く恐ろしく見えていたのだった。
「ふふ、ようこそ先生のお家へ♪ これから大友君は……ううん、健太君はずっと先生と一緒だよ~❤」
壊れ物を扱うかのように大事に持ち、ニコニコと健太を見つめる樹乃。
その言葉の通り、樹乃は永遠に健太を逃がすつもりがないのだと分かる。
「あれ? 電源を入れてないのにプルプル震えちゃって…… 早く先生に使ってほしいのかな~?」
人差し指一本で健太の頭を撫でながら、何を勘違いしたか、見当はずれな言葉を呟く。
——ただ、恐怖で震えている健太に向けて……。
「気持ちよさそうだけど……でもごめんね。 後でいっぱい使ってあげるから少し我慢してて。 先生、お昼ご飯まだだから、お腹が空いちゃって」
きゅぅぅぅ~と樹乃のお腹から可愛らしい音が鳴る。
空腹だという事は本当みたいで、どうやらまずは、性欲よりも食欲を優先したみたいだ。
「ん~なに作ろうかなぁ~」
「………………」
キノちゃん先生は僕をテーブルの上に残し、ドスドスとキッチンの方へと向かって行った。
しばらくすると、トントントンッと、包丁で切る音がなり、さらにフライパンで炒める音もして、美味しそうな匂いが部屋中に香る。
そして数分後……
「うんっ出来た出来た♪」
どうやら料理は完成したみたいで、お皿に盛りつけた料理を僕の横に並べていく。
冷たい飲み物がはいった一人分のコップも一緒に。
ゴクリッ……
(美味しそうだなぁ……)
本当に良い匂いがして自分も食べたくなる。
これまで当然のように食べてきた人間の食事を、その香ばしい匂いで味を想像してしまって、勝手に涎が溢れ出てくる。
しかし、これらの料理を先生は僕に振舞おうとしている訳ではない。
本来なら家に連れてきた客、ましてや生徒を招待したのなら、自分の食事だけを作る事なんてありえないし、どうぞと差し出してくれるだろう。
しかし、これら全てがキノちゃん先生の分。
自分が食べるために作ったのだ……。 その証拠に——
「じゃあ、いっただっきま~す♪ はぁ~む❤」
僕に視線すら一切あわせず、口を大きく開けて料理を食べ始めた。
と、笑顔を浮かべて美味しそうにキノちゃん先生は食事を頬張る。
それと同時に冷えた飲み物も口の中に含み、
と、喉奥へ流し込んだ。
「プハァ~! 美味しい❤」
相当お腹が空いていたのか、パクパクと口の中に料理を放り込んでいくキノちゃん先生。 ほっぺはリスみたいに膨らみ、僕のすぐ傍で料理に舌鼓をうつ。
容赦なく先生の口の中に放り込まれていく、人間に食べられるために作られた料理。
材料となった物は、もちろんこの世に生きていた鳥や豚、そして牛達なのだろう。
人間に食べられるためにこの世に産まれ落ち、成長したらこうして食べられる物。
全てが同じという訳ではないが、自分もそれらと似たような立場になって、始めて理不尽に思った。
……人間の都合で生かされ、挙句には命すら奪われて、嫌でも人間の身体に役立たされる物を見て。
それにほら…… 先生が下品に食べている姿を見ていたら、生きていたものに感謝しているようには到底思えない。
自分と同じように、この世に生きていたものを食べているのだという事すら、忘れてしまっているように思う。
……だって、僕も人間として生活をしていた時は、生きていた家畜を美味しいという感情しか抱かずに食べていたのだから……。
~思い込み~
たった一度……たった一度でも、人間がこれは食べ物や道具なんだと認識してしまえば、それが当たり前になり思い込む。
そういう物なのだから仕方ないのだと言って、簡単に命を奪い、どこまでも残酷になれる。
——だから恐ろしいんだ。
これから起こる事が……。
一度でも僕を使えばそれが当たり前になり、一切の罪悪感を感じる事なく僕を物として使いそうだから……。
「ふぅ~お腹いっぱい。 ごちそうさまでした♪」
気付くと、あんなに大量にあった料理がお皿の上から跡形もなく消えていた。
信じられない事だが、僕が100人ほど並べても敵わない数の、たくさんあった一つ一つの食べ物が、キノちゃん先生のあの大きく膨らんだお腹の中に詰め込まれている。
「さっさすがに食べ過ぎたかも…… ゲプッ……」
そんな大きく膨らんだお腹を外にさらけだして、満足そうにポンポンとお腹を叩く先生。
それに呼応して、
と、けたたましくなるお腹。
大音量で鳴る先生の消化音が、僕には断末魔の悲鳴のように聞こえてしまう。
食べられた物達の苦しみもがく悲鳴に、どうしても聞こえる……。
(ぁ…あぁぁっ!)
ただただ怖かった。
正気を失ってしまいそうなぐらい……。
だから一刻も早くここから逃げ出したい気持ちに駆られ、這ってでも逃げようとしたのだが、
(うっぐ…… まだ ‟体” の感覚が……)
自分の手足の感覚がまったくなく、意識して動かす事すら出来ない。
ただ、僕が動こうとしたせいか、自分の意志とは関係なくゆっくりと横に転がりだしてしまう。
コロコロ…コロコロと、テーブルの上を……。
(ウワッ! ウワワワッ!!)
自分ではどうしても止める事も出来ず、このままだとテーブルの下に落下してしまうと思った矢先、
「もぅ、元気なのはいいけど、そんなに動くと危ないよ?」
パシッと片手で転がる僕を簡単に受け止め、先生は僕を大きな顔の近くまで持ち上げた。
「健太君はまん丸なローターの玩具なんだから、今みたいに転がってテーブルから落ちちゃうんだよ? 気を付けてよ、買って来たばかりなのに壊れちゃったらどうするの?」
(まん丸? ローター? ぇ……え?)
この時、僕はまだ自分の身体がどうなっているのか知らなかった。
ずっと頭が何かに固定されていて、目線だけじゃどうしても自分の身体を見る事が出来なかったから。
……だから先生の言葉に何か違和感を覚えてしまい、困惑した。
「あれ? キョトンとした顔をしてどうしたの? 健太君ってそういう物でしょ。 もしかして、そんな姿をしてまだ分かっていないのかな? ほら、今の姿を自分の目でよく見たら分かると思うよ」
そう言って先生は僕を持ったまま立ち上がって、全身が映る姿見の鏡の前へと移動する。
そして、僕は始めて今の自分の姿を見る事になった……。
(あ……あぁ、そっそんなっ!)
笑顔で鏡に映るキノちゃん先生の姿。
そんな先生が手に持つ、ピンク色の丸い物を見て僕は愕然とした。
だって……僕の姿があまりにも……あまりにも女性が使うローターという玩具、そのものだったからだ。
ローターの中心部に、顔だけが突出している情けない姿の僕。
そんな自分よりも何倍もの大きな先生が、ローターという僕を持って鏡に映っている。
鏡に映る僕と先生を見て、これまで以上にハッキリとお互いの立場が分かってしまった。
この、僕という玩具を ‟使用する者” と ‟使用される物” の立場を……。
「どうかなぁ~分かる? 健太君はね、先生を気持ち良くさせるためだけの玩具君になったんだよ。 だからね……見て? 先生の大切な場所を。 ここで健太君をいっぱい擦り付けたり、挟んだり……食べちゃったりするの❤」
先生がスカートをたくし上げたせいで、パンツがむき出しの状態。
そんなパンツのすぐ真横に僕を持ってきて、これからする行為を説明しだす先生……。
視線を股間に向けると、ぷっくらとしたオマンコがパンツを咥え込んで、一本の縦筋という谷間を作っている。
そんな谷間から、いやしく…いやらしく透明な涎を垂れさせ、僕を食べる事を想像してか、パンツに染みを作っていた……。
「あ……駄目……我慢出来ないかも。 健太君に汗の匂いを嗅がれるのは恥ずかしいから、お風呂で汗を流してからしようと思ってたけど、別に気にしなくてもいいか……。 もう、これは私の物なんだし。 うんっ! このまま始めちゃお♪」
我慢出来なくなった私は、テーブルの上にまた健太君を置いて、着ている服を脱いでいく。 ……健太君のすぐ傍で——
(ちょ、ちょっとやりすぎかな? でも、これからずっと丸裸の自分の姿を見られるのだし、慣れていかないとね)
これが女の子が使う玩具だと分かっていても、少しの恥ずかしさと罪悪感があった。
今から使おうとしている玩具は、元は自分の生徒で、決して他人ではない高校生の男の子だから。
しかし、それでも、そんな罪悪感が薄れるぐらいに性欲がまさってしまっている。
始めてお店で健太君の姿を見た時からくすぶっていた小さな感情……。
それが今は、とても大きく膨らんで自分では歯止めが利かない。
だって、コレクションの玩具を使っている時に、たまに夢想していた事が今、現実に起きているんだ。
——ああ、これがもし自分の生徒だったらどんなに気持ちがいいのかなって……。
だから私は、羞恥心や罪悪感、背徳感すらも性欲に変換して、これまで以上にこれからするオナニーに興奮していた。
自分の教え子を性具として使う事を愉しみにして――。