~ 校舎裏 ~
体育館からの、部活動に励む部活生達の声。
キュッ! キュッ! と体育館の床を踏みしめる聞きなれた音も聞こえる。
そこからさらに奥へと歩いて行くと、普段、誰も近寄らない静かな校舎裏に行きつく。
その場所が、速人が柏木と待ち合わせをしている場所らしいのだが。
「あ、柏木さんがいるよ」
見ると、柏木が校舎の壁を背に一人ポツンと立っていた。
部活動の途中で抜け出してきたのか、陸上のユニフォーム姿で。
「じゃあ速人、僕達はここで待ってるからね?」
「うっ……お、おう」
柏木の姿を見てか、さらにガチガチに緊張してしまっている速人。
いつもの能天気としたのとは違い、今の速人は余りに見ていられない姿のため、俺は速人の緊張をほぐそうと声をかけた 。
「速人、柏木からお前を呼び出したんだから、そこまで緊張する必要はないって。 何か柏木を怒らせる事もしていないだろ?」
「し、していないと思う……。 俺、柏木とはこれまで普通に話していたし」
「なら、悪い話で呼び出された訳じゃないんだから、そんなに緊張する必要もないだろ」
「……だな、そうだよなっ! ゆ、勇気を出して行って来る!」
そう言って、錆びたロボットみたいな動きで柏木の元へ歩いて行った。
「あちゃ~。 速人ってば、全然緊張が溶けてないみたい」
「ああ。 まあ、でも大丈夫だろ」
「うん、そうだね」
俺達は、十中八九柏木に呼び出された内容が、悪い話ではないと思っていた。
最近、俺達と柏木達女子のグループで会話する事が多く、その中で緊張しながらも、速人が柏木と仲良く話をしている姿をみかけていたからだ。
「か、柏木! おまたしぇ」
「ちょ、アハハッ! 何よおまたしぇって。 私も今来たところだから大丈夫だよ “フジ”」
時計を見ると、約束の17時には間に合っていたみたいだ。
とりあえず、速人が遅れなくてよかった。
「なんか、改めて見ると柏木さんってやっぱりオーラが人とは違うよね」
「なんだよ健太、オーラって」
「え、分からない? 上品な雰囲気というか、何と言うか……。 ほら、天上院さんなんてすごいじゃん」
「一応、健太が言わんとしてる事は分かるが」
健太の言う通り、柏木と天上院には独特の雰囲気がある。
まあ、本当は俺達庶民が関わる事も、話す事も出来ない御令嬢なのだから当然って言えば当然だ。
(そういえば、風の噂で二人はランクが上の、一般じゃ決して入れない学校へ行けていたはずなのに、『神谷 優斗』を追いかけて同じようにこの学校へ入学したって聞いた事があるが……。 それが本当だったら神谷って一体何者なんだ? 神谷本人は確か、「僕は普通だよ」って言っていたのを覚えているが)
「謎だ……」
変に考え込んで思考している間にも速人達の会話に進展があったらしく、とても大きな速人の驚く声が、俺達の方にまで聞こえてきた。
「へあ!? ご、ごめん……聞き間違えかな? もう一度言ってほしい」
「いやだからさ、フジって私の事が好きなの? 桜から聞いたんだけど」
「桜って……浅見か! アイツ!!」
二人の会話の中に出てきた『浅見 桜』とは、俺達と同じクラスメイト。
髪を金色に染めたギャルっぽい女子だ。
実は、その浅見と速人は幼稚園からの腐れ縁であると、速人の口から聞いた事がある。
普段学校ではお互いを名字で呼んでいたから気付けなかったが、昔ポロっと下の名前で呼び合っていたのを見て、聞いて知った。
だから、恐らくだが、これはいつまでも告白すらしない速人に向けてのパスだ。
浅見の善意からだと思いたいが、しかし……キラーパスにも思う……。
早く告って振られて来いっていう……。
「っで、どうなの? 桜の言う通りフジって私の事が好きなの?」
「あ……ぅ……はい。 す、好きです」
言った。 言わされた感があって情けなくもあるが、速人はちゃんと柏木に好きだと伝える事が出来た。
まあ、後は振られて終わる事になるだろうが、この後健太と二人で慰めてやろう……そう思っていたのだが、どういう訳か――
「ほ、本当!? うわ~良かったぁ♪」
俺の予想に反して柏木は、ピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいた。
「え、へっ!?」
速人本人も、柏木が思わぬ反応を示したため驚いてしまっている。
「あ、ごめんねフジ。 本当に嬉しくってつい」
「いや、嬉しくってって……。 じゃあ、つまり俺と付き合ってく――」
「でさ、さっそくだけどフジにお願いがあって。 私の事が好きならもちろん聞いてくれるよね?」
速人はただ、彼氏彼女の関係になったのかと確認したかったのだろう。
しかし、速人が言いかけていた言葉を遮るように話しだし、何かを頼もうとしている。
「お願いが何かは聞いてみないと分からないけど、俺に出来る事なら……」
本来、話している最中に言葉を被せるのは失礼に値する行為。
自分の話したい事だけを話されたら、いい気分なんてしない。
でも、速人はそんな感情を一切みせず、柏木の質問に答えた。
それほど嬉しかったのだ。
“自分の思いを受け入れてもらえた事に”
「もちろんフジに出来る事♪ 本当はね、黙って無理やりって思ってたんだけど、それだとちょっと罪悪感が残るし、出来ればフジの意思を確認したかったんだ」
「え? 罪悪感? 意思? 柏木、何の話をして……」
「だからさ、真一がいなくなっちゃうと、エロステには学生の玩具がいなくなるから、代わりを用意しなくてはいけなくてね。 フジには真一の代わりになってほしいって話」
「し、真一って……葉山の事? あいつは留学しているんじゃ」
思わぬ人物の名前が柏木の口から出て、驚いた声を上げる速人。
俺も健太も驚いていた。
速人の言う通り、葉山は神谷と共に海外へ留学している。
何処に行ったのかとか一切教えてもらえず、柏木達も知らないと言っていた。
……なのに、今の言葉から察するに、柏木は葉山がどこにいるのかを知っている風な口振り。
(どういう事だ? それに葉山の代わりって何だ?)
俺が疑問に思った事を代弁するように、速人は柏木に葉山の事について聞いた。
「ちょ、ちょっと待って。 今の柏木の言い方だと、葉山が何処に留学したのか知っているのか?」
「あー……うん。 別にもう隠す必要はないからいいか。 あのね、私も最初は本当に留学したんだって思ってたんだけど、実はそうじゃなかったみたいでさ、私や茉由が良く行くエステサロン……まあ、言っても分からないか。 ――とりあえず商品としてお店に展示されてたの」
「しょ、商品? な、なんだそれ!?」
「ん? そのまんまの意味。 身体のマッサージに使う道具? 玩具? まあ、女の子の使う物だね」
「……は?」
柏木の話す内容がチンプンカンプンで、理解が出来ない速人は困惑しているようだ。
もちろん俺も健太も柏木の話す会話が聞こえていたけど、速人と同じように理解出来ないでいた。
「え、えっと……とりあえず、葉山は留学をしていなくて、柏木達が通うエステサロン? で働いているって事?」
「うーん、働いているっていうか……でも、そんな感じかなぁ? ま、いっか! そういう事♪」
速人の問いに少し間違いがあるのか、戸惑いながらも頷く柏木。
いや、これ以上説明するのが面倒臭くなって、とりあえず頷いた感じだ。
「そういう事で、フジには真一の代わりになってほしいの。 良いよね? でないといつまで経っても真一を飼えないから」
「へッ!? あ……か、柏木? うぶッ!」
柏木は困惑している速人に、優しく包み込むように抱擁した。
学生にしたら大きく成長しているあの胸に、顔をうずめる形で。
「うわ~柏木さんってすごい大胆だ」
「あ、ああ……」
後ろ姿から見える速人の耳は真っ赤だ。 恐らく、顔中が真っ赤に染まっているだろう。
幸せなのか、速人は特に抵抗をみせる事をしない。
正直、羨ましい……。
が、突然何処に隠し持っていたのか、いつの間にか注射器みたいな物を柏木は手に持っていて、それを――
「いツッ!!」
速人の首筋辺りに刺して、赤い得体の知れない液体を注入した。
「えっ!? 何? 速人の体がッ!!」
「う、嘘だろ……」
「ア……ガッ……ウゥ……」
注射器でいきなり速人を刺した事に驚いたが、それよりもまた別な理由で俺達は驚きの声を上げていた。
何せ、俺達の目の前で、速人は明らかに身長が縮んでいっているのだから。
漫画で見るような、年齢が逆行して幼子になっていくのではなく、明らかにそのままの姿でみるみる小さく……。
ただただ、現実離れした光景に俺達は放心したままの状態。
そんな俺達の目の前で、パサッと速人の姿が忽然と消え、着ていた制服が地面に落ちた。
「あ、ありえない……。 一体、これは」
今、自分がみた光景はなんだ?
考えても考えても思考が追い付かない。
そう、驚きで佇むだけの俺の真横で、
「デリカシーがないよ? 明日香が二人きりでっていう話しなのに、こんな所で覗き見してるなんて」
「痛ッ!!」
女子の声と、健太の苦痛な声が聞こえた。
「え、どうした健太? へっ!? て、天上院」
隣を見ると、気付けば後ろから健太に抱き付いている『天上院 茉由』がいた。
親愛を込めて抱き付く形ではなく、まるで逃さないような形で。
「ア……グ…………ウゥゥ……」
健太は天上院に抱き付かれながら、苦しそうな呻き声をもらしている。
「そ、それは……」
理由はすぐに分かった。
柏木が持っていた同じような注射器で、健太の首筋に天上院が刺していたからだ。
「天上院さんのいう通りです。 これが本当に告白だったら、岩田君達がしている行為は最低です」
どうやら天上院の他にも、もう一人この場に居たようで。
「イッ……ッッ!!」
声がする方向へ振り向こうとする前に、首筋に刺される痛みが走った。
「な、何をするッッ!!」
「きゃあッ!」
乱暴に俺が押しのけたせいか、地面に尻もちをついて倒れてしまった眼鏡をかけた女子。
首筋の痛みの原因は、どうやらこの『白鳥 詩織』のせいだったようだ。
いや、そんな事よりも――
(刺された? 刺されたんだ! 俺もッ!!)
白鳥の近くに転がっている注射器を見て、自分に何をしたのか、そしてこれから俺がどうなってしまうのかを察した。
このままだと俺も速人みたいに、今、まさに小さく縮んでいってる健太みたいになってしまうと。
「ク……ソォォォッ!」
本能だった。
一刻も早くこの場から逃げなければと、本能で走りだす。
目的地がある訳でもなく、ただただ。
「ア、ガァ……ウ……ゥ……」
体に力が入らない。 息をするのにも苦しく、辛くてたまらない。
また、視界がどんどんと下がっていっているように感じる。
そんな状態の俺は走り続ける事も出来るはずもなく、また、体が縮んでいっているせいで自分の靴に躓いて――
「ウワァァァッ!!」
道横にある草むらの中に、転がるように倒れた。
~ 一方 ~
「大丈夫? 白鳥さん」
「ちょ、しおりん平気? 痣になってない?」
「イタタッ……は、はい。 なんとか平気です」
茉由に手を引いて立ち上がらせてもらった詩織は、パンパンとスカートについた土を払い落としながら答える。
「岩田君ひどいね。 女の子に乱暴するなんて……。 優君なら絶対そんな事しないのに」
「ほんと最低。 いわっちがこんな奴だったなんて」
「い、いえ、きっと驚いてしまったんだと思います。 そこまで私は気にしていませんから。 あ! それよりも岩田君は何処に」
「ああ、それならほら、あそこだよ」
茉由が指し示す方向に視線を向けた先、僅か50m先の生い茂った草むらの上に、岩田正司が着ていた制服が転がっていた。
「あんな所まで逃げて行ったんですね。 私、ちょっと岩田君を拾ってきます」
「あ、待って、白鳥さんが心配だし私も一緒に行くよ。 明日香、二人が着ていた制服をこの紙袋の中に詰めててくれない?」
「オッケー♪ こっちはまかせといて」
「じゃあいこっか、白鳥さん」
「ごめんなさい、心配をかけてしまって……」
「ううん、後で念のため保健室にいこうね」
岩田正司という青年が走り去った道を、茉由と詩織、二人の少女はのんびりと歩く。
一歩一歩、青年があれほど全力で逃げて転んだ場所まで。
そんな逃げて転んだ場所にいる青年、岩田正司はと言うと、これまで見た事もない景色が広がる世界にいたのだった。
「ハァ……ハァ……ここは?」
周りには、自分の身長よりも高い緑色の草が地面から伸びていて、見渡す限りそれが果てしなく続いている。
また、空を仰ぎ見て見ると、そんな草を覆い被さるようにした白い布みたいなのがあった。
「ま、まさかあれは、俺の制服?」
自分自身の姿を確認すると、丸裸の状態。
速人達みたいな姿に俺もされたのであれば、これが、身長が縮んで脱げてしまった自分の制服だと分かった。
「ちょっと岩田君を拾ってきます」
そうこうしている内に、遠くの方から確かに白鳥の声が聞こえた。
俺を拾ってくるという声が。
「マズイ……に、逃げないと……」
急いで逃げようとするが、フラフラと思うように歩けない。
さらに異常なほどの睡魔が俺を襲い、視界が霞む。
これも、あの注射器で刺されたせいでこうなっているせいだ。
「とりあえず、何処かに隠れるだけ隠れないと」
《白鳥達に見つかるのはまずい》
それだけは、確かに嫌な予感として感じ、俺は歩きだし始める。
ふらついた足で自分の脱げた衣服から、なるべく離れた場所まで。
「だ、駄目だ……もう歩けそうにない。 ここらへんで身を隠せる場所は……あ、あそこだったら!」
俺は近くの草影の見つかりにくそうな場所を見つけ、座って息を潜める事にした。
そうしていると――
ドシッ! ドシッ!! ドシィィン!!
地面を巨大な何かで打ちつけるような地響きが、こちらへ近づいてきた。
そのせいで俺の近くにある草の葉が、ビリビリと極めて小さく揺れ動く。
尚も鳴りやまぬ地響きが、俺の方に近づくにつれて轟音となる。
そんな轟音が、俺のいるすぐ近くで――
と、激しい音を最後に鳴らして止まった。
「ぁ……うぁ……」
ガクガクと恐怖で体が勝手に震えだす。
もう分かってしまっているからだ。 俺はこの音の正体が何なのかを。
“そう、四つの黒い巨大な靴の塊が奏でる、二人の同級生の足音だって”
「うーんと、服の中にいるのかな?」
白鳥の声が聞こえたかと思うと、草に覆い被さっていた俺の制服が持ち上がる。
どうやら白鳥が俺の制服を手に取り、自分を探しているようで。
「……あれ? いない」
「え!? じゃあ、この草むらの中に逃げたのかもしれないね」
「面倒臭いですが、多分……」
そう言って、草むらの中を探しだし始める白鳥。
俺のいるすぐ近くの草を、白鳥の手によって掻き分けながら。
「うーん、困りました。 この草むらの中を探すとなると疲れますね。 岩田君が自分から出てきてくれたら楽なんですが」
「うん、私も立って上から見てるんだけど、草が邪魔で分からないよ」
俺のすぐ近くに白鳥の顔があるのが分かる。
見ずとも分かるんだ。
白鳥の呼吸する吐息の匂いが、俺のいる場所にまで漂っているから。
「だめです……岩田君見つからない。 ほんと、何処に行っちゃったのですか」
「そんなに遠くまでは行けないはずだから、この近くにはいるはずなんだけど……」
白鳥と天上院の “話し声” が聞こえる。
草を “掻き分ける音” や、草を “踏み鳴らす音” も。
もう、俺は目を開けていられず、音だけしか感じ取れない。
「うっ……く……」
眠い。 眠すぎるのだ。 抗えない睡魔が俺を襲っているために。
油断すると意識を一瞬で持っていかれそうになるほど。
でも、今は睡魔に絶対負けるわけにはいかない。
せめて、白鳥と天上院がこの場から離れてくれるまでは……。
………………
………
…
「どうしよう、本当に岩田君が見つからないです」
「うーん、白鳥さん、もう諦めようか」
「……はい。 勿体ないですけど」
しばらく経ち、二人は尚も俺の事を探していたようだが、やっと諦めてくれそうだった。
(よかった……。 このまま二人に見つからずにすみそうだ)
「でも、本当にいいんですか? このまま岩田君を野放しにしたままにして」
「大丈夫だよ。 放っておいても虫や鳥とかの餌になって終わるよ」
ゾクッとした。 ――天上院の言葉に。
一瞬、二人に見つかった方がよかったのではないかと、そう思わされる。
「それに、運よく虫とかから生き延びたとしても、結局は、私達女の子の体液を恵んでもらわないと生きられない存在だから、長くは生きていけないよ」
「……まあ、そうですね。 一度岩田君を使ってしてみたかったのですが、仕様がないですね」
そう言って、俺のいる場所から二人は離れていく。
ズンズンと地響きを轟かせて。
「……ははッ。 た、助かった」
神経をすり減らしながら隠れていた俺は、やっと安心が出来た事によって深い眠りの中に落ちてゆく。
そんな眠りに落ちゆく中、何故だかある一言だけが脳裏に焼き付いて離れなかった。
~ 結局は、私達女の子の体液を恵んでもらわないと生きられない存在だから ~
――その言葉が。
――――……
「あ、茉由! しおりん! いわっち見つかった?」
「ううん、見つからなかったし諦めたよ」
「残念ですが……」
正司を諦めた二人は、明日香がいる――藤田速人と大友健太を縮めた場所まで戻ってきていた。
そんな娘達三人は、地面に転がっている速人と健太を囲みながら会話をしている。
「そっか~。 まあ、見つからない物はしょうがないね。 それよりもさ、フジ達を仕舞う入れ物は持ってない?」
「それなら私、このために一応小瓶を三つ持ってきているよ。 一つは無駄になっちゃったけど……」
「さすが茉由♪」
いそいそと鞄の中を漁る茉由。 そんな時、地面から縮めたばかりの同級生の呻き声が三人の耳に入った。
「あ、まだ意識があったの?」
「藤田君はグッスリ眠っているみたいですし、大友君の声みたいですね」
「アハハッ♪ ケンケンってばしぶとい」
一斉に三人が上から健太を見下ろす。
無表情な顔、憐れむような顔、ニッコリと微笑み浮かべた顔。
どれもが、下から見上げる健太にしたら、恐ろしく醜悪で悍ましかった。
「ぅ……ぁ……」
そんな健太も、隣でグッスリと眠る速人と同じように、瞼をゆっくりと閉じていく。
これ以上眠気に耐えられず、意識を手放してしまったみたいだ。
「……眠ったみたいですね」
「だねー。 目が覚めると道具としての忙しい毎日を過ごさないといけないし、これが最後の束の間の休息になるね」
「うふふ、そうだね♪」
眠る二人の同級生だった青年の体を一つ一つ手で掴み、茉由はそれぞれ小さな小瓶の中へ入れていく。
そんな小瓶を自分の顔の前まで持ち上げ、眠りこける二人の青年の姿を、標本を鑑賞するそのような目で見つめていた。
「さて、明日香は部活の続きがあるんだよね? 私と白鳥さんとで “これ” をエロステに渡してくるね」
「ごめん、頼んだ。 それと真一がいたら様子もみておいて。 昨日も会いにいったんだけど、別の人に使われていたみたいで会えなかったし」
「うん、分かったよ。 でも、まずは保健室に行かないとね。 さっき岩田君に突き飛ばされて、白鳥さんが怪我してないか心配だし」
「あ、私はもう平気ですよ。 痛みも治まっていますから」
「駄目だよ。 一応見てもらいにだけでも行こ」
ペチャペチャと話しながら、三人の娘は校舎裏から離れていく。
真っ直ぐ、正司が縮んだ草むらの横を通り過ぎ、日常へと戻るため。
三人の娘が消えた後には、何もなかったかのような静けさだけが支配していた。
木々の葉が風で擦れてなびく音だけの、そんな自然な静けさだけが……。
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読んでいただき、ありがとうございます。
この時に『大友 健太』は小さくされ、そして最後はキノちゃん先生に買われました。
今回のお話はまだ途中で、主に『岩田 正司』と、一人の “クラスメイトの女子” を主軸にして物語が進んでいきます。
一人学校に取り残された正司……これから先、いったい……。