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こちょ憑き(水野彩月編:9)


「高林君、この授業が終わったら職員室にきなさい」


 机の下でスマホをいじっていた、お調子者の高林くんに呼び出しの宣告を食らわせ――


「綾野さん、有田さん、おしゃべりは休み時間にね」


 ひそひそ話をしていた、噂好きな綾野さんと有田さんを嗜め――


「佐藤さんの朗読は強弱が的確で、とても聞き心地が良いですね」


 お世辞だとは思えない落ち着いた口調で、将来の夢が声優な佐藤さんの朗読を褒め赤面させていた。

 そんな先生を横目に――

『わ゛ひゃあぁあああああぁああああッ!!! ぬ゛ぐひうううぅうううううううううッ!!! ぬ゛ひゅってびゃあ゛ぁあああああぁあッ!!!』


 弱点の腋こちょに負け、すっぽんぽんになることを許し叫んでしまっている先生――

『ぶばう゛ううぅぅうううぅうううぅうううッ!! ぶう゛ばあぁあああああああぁあああッ!!』


 まるでハートマークにされたアソコの毛をアピールするよう、腰をガクガク振りながら口枷から大量の涎を溢れ垂らし、見るも無残に笑い狂っている先生――

『む゛っっびゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!』


 こちょこちょのプレッシャーに耐え切れず、ちょろちょろとおしっこをちびりながら気絶してしまう――

 そんな姿……映像ウィンドを――

 『山椒魚』の一説を黒板に書き綴ってる彩月先生の隣に置いて、ぼくは見続けている。

『ぐっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃああぁあああッ!!! びゃへあ゛ああぁああああああぁあッ!!!』


 いい……。

 コンタクト型網膜ディスプレイと小型チップ式骨伝導スピーカー。

 めちゃくちゃ高かったけど……これほど心の底から買って良かったと思える買い物は、今までの人生の中では一度もなかった。


『むがっ!! ぶばあ゛っ!! お゛っっお゛う゛ううぅぅぅううううううううううううッ!!』


 良すぎて……今当てられ教科書を読めとか言われたら、席を立てそうにもない……。

 けど、大きなお尻を振り乱し、気の狂うくすぐったさを少しでも紛らわせようと一生懸命な先生の姿を見ることを

 やめるなんて、とてもできそうにない。

 それにしても――

『ほ……ほうかごぉ……ほけん……ひつぅ……しょた……おちんちん……ひみつのぉ……せいつぅ……しどうぅ……』


 今まで全然気づかなかったけど、年下……小さな男子がエロい意味で大好きな先生の趣味嗜好。


『あぁああああああぁあああぁッ!! だっっだいすきっ!! だひすきぃいいいいいいいいいいぃいいッ!!』


 その対象に、ぼくも入っているのかな……?

 そんなことをドキドキ考えていると――


「――だくん、都田くん」

『ん゛ぶほぉおおおおおおぉぉおっ!!! ん゛ん゛ぅうぅうっ!! ふぶぅううううううぅうぅうううぅううううううぅうぅッ!!!』

「都田祐樹くん!」


「へっ、あっ……は、はっはいっ!」


 夢のような映像に夢中の中、いきなりな現実の介入に、ぼくはこの上なく慌てふためき上擦った返事をしてしまう。


「授業中にぼーっとしない」

「は、はい……」


 どこからか聞こえてくる、クスクスとした笑い声。

 いつもだったら、それにムカついたり、落ち込んだりするんだけど……。


『びゃははははははははははははははッ!! んきゃぁああああああああああぁあああッ!!


 ぼくを𠮟りつける鋭い眼差しも、一度こちょぐられれば……途端ゆるゆるに垂れ下げ、五歳児以下のように涎をだらだらに垂れ流しながら、真っ赤な顔で大笑いしてしまう……。


「はい、では次ここを――」


 平然を装えてたのか……全く自信ないけど……

 先生は、ぼくの上の空な謝罪に納得したのか、再び授業を再開していく。

 職員室に日誌を届けたとき偶然横目で見た、ノートPCへ事細かに組まれていた授業の進行状況と、今後のタイムスケジュール。

 おじいちゃんの畑仕事の手伝いしかしたことのないぼくが言うのも偉そうだけど、物凄く職業意識……っていうのが高い教師なんだと思う。

 けど、先生……ごめんなさい……。


『む゛びぃいいいいいいいいいいいッ!!! む゛ぶあぁああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!』


 黒板に書かれた『山椒魚』の一説の要点を、つらつらと書き足していく先生。

 そのピンと背筋張った、姿勢の良い綺麗な後ろ姿、その横に並べたホロウィンド――

 服を着ていないとやたらむっちりと見える、そんな剥き出しの白いお尻が、汗だくになるまで何度も何度も、疲れた果てた先まで見っとも無く、ガクガクふりふりと踊り暴れている。


『ここで、山椒魚が蛙に抱いた心情ですが――』

『ほぶへぶぇえええええええええええぇええッ!! ひぶあ゛ああああああああああぁああああああぁあ~~~~ッ!!』


 とても澄んでいて落ち着いたトーンな先生の授業。

 そんなものを左耳で聴きながら、もう片方の右耳――

 手のひらに張り付けた骨伝導式チップから流れるのは、先生の口枷に阻まれくぐもった、獣のような絶叫と爆笑。


『ぎゃははははははははははははははははははははははははッ!!!』


 ごめんなさい、彩月先生。

 すごく一生懸命準備した上での授業で申し訳ないけど――

『あしょこお゛ぉおおおぉっっみぶぇええぇえええええぇええッ!!! びゃへはははははははははははははぁあぁあッ!!!』


 普段そういう先生であればあるほど、このイケナイ秘密の遊びから抜け出せそうにない……。


 


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