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村に駐留している白熊騎士さまと秘密の連れションをする話

 深く息を吸い、吐く。飛び込む夏の森の生ぬるさ。  木刀を握りしめる両手にぐっと力を籠め、視線を構えた刃先に向ける。  相対するのは白熊の獣人だ。僕の倍ぐらいの背丈に、切り出した丸太を思わせるような太い四肢。木刀を片手に構え、冷静な眼差しで僕の姿を見据えるその人――騎士様は、まるで堅牢にそびえ立つ城塞のそのもののようで、生半可な一撃では崩せないことはよくわかっていた。 「――、やあッ!」  足先に力を籠め、木刀を振り被って飛びかかる。 一撃。刃は阻まれる。木刀同士がガン、とぶつかり合い、両腕にじいんと痺れが走る。 騎士様はそのままつばぜり合いに持ち込もうと木刀に体重を掛けてくる。到底力比べでは敵わないから、圧しかかってくる力をいなすように刀を払い、地を蹴って後ろに飛びのく。 「敵の土俵に乗らない、良い判断です」 「――っ、力では、騎士様にかないません、から」  腕の痺れはまだ引かない。騎士様は追撃に回らず、その場に立ったまま木刀をわずかに下げた。その動きが、無謀な突撃を誘うための「釣り」であることも、何十回と打ち据えられたことでとっくに覚えている。 「そうですね。確かに君は、力では私にかなわないようです」  騎士様はひやり、と目を細めた。眼差しが鈍く光る。土を踏む太い足先に、ぐ、と力が籠る。 力で優っていることを知れば、当然攻勢に回ろうとする。いかにそれをいなし、隙を突けるかが、今からの攻防のカギとなるということだ。  息を吸う――。 「ですが――速さも、私のほうが上ですよ」  ――吐くより速く。  身長2m弱の大柄な体が、一瞬のうちに肉薄する。  強烈な風圧と共に、鉄の塊のような密度の白熊が、目の前に――! 「……ッ!」  刃先の方向を見て、剣の軌道を瞬時にイメージする。  肩口を狙う突き。辛うじて体を逸らして凌ぐ。  斜め上からの一撃。剣先で弾いてわずかに軌跡を逸らす。  即座に繰り出される横凪ぎ。身を屈めてやり過ごし、彼の大柄な懐に潜り込む。 「!」  白熊の顔色がわずかに変わる。体が大きい種族は、懐に潜り込まれるとかえってやり辛いらしい。自分のように小柄で細身な猫獣人ならなおのこと。 (チャンス……!)  わずかな動揺から生まれる隙を逃さない。僕は膝を突き出し、騎士様の体勢を崩すために蹴りを放つ。小柄で非力とはいえ、勢いの乗った膝蹴りを腹にぶつければ、多少は姿勢が揺れると思った、のだが―― (あっ)  突き出した膝。本来なら想定通りに腹に突き刺さるはずだったのだが、騎士様の背が高く、そして僕の背が低いことがなんらかのブレを生んだ。生んでしまったのだ。 ――しなやかに打ち出された膝が、騎士様の股間を、ぐにょんと激しく蹴り飛ばす。 「……ぐオッ!?」  いくら屈強な騎士様といえど、流石にきんたまは急所らしい。穏やかで温厚な騎士様から今までに聞いたことのないような咆哮――というか、悲鳴というか――が聞こえ、その巨体がぐらりとわずかに崩れる。 (……想定とは違うけど、いける!)  与えられた一瞬の隙。同じ男としてとても心配だが、今はそれよりも明確なチャンスをものにするべきだ。と、僕は木刀を振り上げ―― ガツッ! ――しかし、不意の一撃に弾かれる。手に強烈な痺れが襲い、木刀を取り落とす。 「あっ!」  騎士様は片手で股間を抑えたまま、もう片方の手でしっかりと木刀を握り締めていた。きんたまを蹴られるぐらいの衝撃を受けても騎士様は刀を手放していなかったのだ。 「勝てる、と思った瞬間が一番油断するものですよ。覚えておきなさい」  僕の喉元に、ぐいと木刀の切っ先が突き付けられる。僕は両手を挙げた。降参のポーズ。 「ま、参りました……」  かくして、三十四回目の挑戦も、僕の黒星に終わったのだ。 ◇ 「~~~~~っ、ふう゛………っ、うぐう~~~っ……」 「ご、ごめんなさい騎士様、僕、そんなつもりじゃなくて」  僕の降参宣言を聴いて、その数秒後。木刀を力なく取り落とした騎士様は、上記の悲鳴ともうめきともつかない声を上げながらその場でのたうち回り、両手で股間をぎうぎうと揉んだ。慌てて腰をとんとんと叩いてあげる。どうやら、完璧なまでに騎士様のきんたまを痛めつけてしまったらしい。 「いえ、勝負の場です、から、急所を……狙うのは、正しい行いです」  ひゅう、ひゅうと青ざめた顔で呼吸をし、ですがね、と彼は僕を何とも言えない顔で眺めた。 「ヒューレくん。き、騎士を目指す者としては、ちょっと、どうかなって思います……騎士試合でやったら失格どころか、お仕置きものですよ」 「お、お仕置きですか」 「はい、金玉打ちです。鞭でこう、ぱあんって」  鞭でぱあん。ぱあん、などという生易しい効果音でないだろうことは大体想像がつく。その強烈なまでの痛みを想像して、僕も股間をきゅっと抑え込んだ。 「ですので、今のは封印してください。でないと私の体がもちません」 「き、気を付けます……」 「次やったらやりかえしますからね」  騎士様ははははと笑ったが、一切目は笑っていなかった。 今度やるなら足払いとかにしよう、と思った。騎士様の丸太のような太い脚から繰り出される一撃を受けたら、のたうち回るどころかきんたまが破裂するかもしれない。 「ともかく、少し休憩としましょう。私は一旦庵に戻りますから、ヒューレくんもお昼ごはんを食べてくるとよいでしょう」  ようやく痛みが引いたのか、騎士様はすっくりと立ち上がった。そのまま村のはずれの小さな庵に戻ろうとする騎士様を、僕は呼び止める。 「母さんが昼ご飯にってサンドイッチを作ってくれたんです、騎士様もご一緒にって」  木の根元に置いておいた藁編みのランチボックスを指さす。騎士様は少々驚いたように目を見開いたのち、ふわりと静かな笑みを浮かべた。 「おや、そうなのですか? ではご相伴に預かろうと思いますが、その前に少し用を足してきますから、やはり一度村の方へ戻りますね」 「おしっこならその辺でしちゃえば?」  騎士様は首を横に振った。 「騎士たるものとしての誇りがありますので」  騎士様の庵には作りの都合上トイレがないから、たぶんわざわざ村の共用トイレまで足を運ぶのだろう。ここからは15分くらい掛かるはずなのに、騎士というのは本当に大変だ。 「すぐ戻りますから」  そう言い残して、騎士様は足早に去っていった。どことなくいつもより焦っているように見えたのは、多分結構我慢しているからなのだろう。どうせ僕以外誰も見ていないんだから、それならなおのことその辺で立ちションしちゃえばいいのに。  当然だけど、僕は騎士様のようにわざわざ家まで戻ったりはしない。とはいえ跡が残っていると少々恥ずかしいので、修練のための場所から少し森を奥の方に進んで、いつものおしっこポイントまで向かうことにする。  正直森の中なんだからどこでおしっこしたって構いはしないのだけど、どうせならいつもの場所でしたいと思うのは、もしかしたら獣人の性なのかもしれないな、と思う。 そういうわけで、以前に見つけたこの場所――苔むした大きな石がごろごろと転がる中に、足首ぐらいまでの深さの沢が流れている――までやってきたのだ。  蒸し暑い森の中でも、水場があるからか空気はひんやりとしている。僕は草履を脱いで近くの大きな石の上に並べると、沢に両足首を浸した。沢の流れに沿うようにして向き直り、パンツを下ろしてちんちんを指先で持つ。 「……ふー」  ちんちんの先からおしっこが飛び出して、きれいな放物線を描いて沢の中に吸い込まれていく。おしっこが突き刺さった沢の中がわずかに泡立ち、透明な水が一瞬黄色くなって、また透明になる。じょぼぼぼぼ……と、気持ちのいい水の音。 「きもちいー……」  騎士様と同じように、僕も結構な尿意をこらえていた。言い出せば騎士様は用足しの時間を設けてくれるだろうけど、一秒一分たりとも無駄にしたくないから、昼の休憩まで頑張って我慢することにしていた。とはいえ、どうしても漏れそうになってその辺の茂みに駆け込むことも結構あるのだけど。  おしっこが止む。僕はやりすぎなぐらいにちんちんを振った。前に騎士様にパンツの染みを指摘されて恥ずかしかったので、しっかりとちんちんを振って雫を飛ばすように意識をしているのだ。 (よし、午後も頑張るぞ)  パンツを上げて、沢から出る。足を振って水気を払い、草履を履いて、すっきりとした足取りでいつもの修練場まで戻ることにした。 ▽ 「ただいま、騎士様」 「お帰りなさい、ヒューレくん」  僕がいつもの場所に戻るころには、既に騎士様は戻っていた。15分くらいはかかるはずなのに、なんだか妙に早い。なぜだろう、と追及しようとしたその直後、ぐうぐうと二人のお腹が鳴って、僕らは互いに笑いあった。 「いただきましょうか」  水筒の水で手を濯いだ後、適当な大きさの倒木をベンチ代わりに腰かけ、ランチボックスを開けば、色とりどりの野菜や魚、チーズとかの挟まったサンドイッチ――食パンを丸々二枚使って挟み込んだ、騎士様用の大きなものと、小さく正方形に切りそろえられた僕用のもの――がぎっちりと詰め込まれている。 「きみのお母様は本当に料理上手ですねえ。ありがたくいただきますね」  騎士様は大きな方のサンドイッチをひょいと摘まみ上げ、あんぐりと大きな口を開けてがぶりとかぶりついた。騎士様は体だけでなく口もとても大きいから、一口でサンドイッチの面積の七割を持っていくのだ。 「ん、おいひい」  まるでナッツを目の前にしたリスのように、騎士様はほっぺたを膨らませてもごもごと口を動かした。騎士様はご飯を本当においしそうに食べるのもあって、日頃の手伝いのお礼ということで村中の人からいろいろな物をご馳走になっていることが多い。一番出くわすことが多いのは、お酒を飲んでいるところなのだけど。  騎士様は王都から派遣されてきている。なんでも、王都から遠い村の治安を守るためのなんたら、ということで、基本的に村の人たちの手伝いをしたり、盗賊みたいな悪い奴ら(来たこと一回もないけど)から村を守るのが仕事だ。そういう仕事があんまりない日、騎士になりたいという僕に対して、こうやって稽古をつけてくれている。 「食べないのですか、ヒューレくん」  既に二切れ目のめちゃでかサンドイッチを食べ終えたらしい騎士様が、手つかずの僕用のサンドイッチを狙っているようだった。あげませんよ、ときっぱり釘を刺して、慌ててサンドイッチを口に運ぶ。 「取りませんって。喉に詰まらせないようにしなさいね」 よく言うよ、とサンドイッチをほおばりながら無言の抗議。騎士様は物腰柔らかで温厚で、おまけにとても力持ちだが、結構食い意地が張っているのだ。こないだなんか、スイカを一人で一玉まるっと平らげていたぐらいだ。村の大人でそんなことが出来る人はいない。 「しかし、今日も暑いですね。少し打ち合っただけでびっしょりです」  騎士様の身に着けている薄手の半袖シャツの襟もとからは、もふもふとした真っ白な毛並みがはみ出しているのだが、心なしかしっとりとしているようだった。そもそもシャツ自体が身体にぴっちりと張り付いていて、がっちりとした筋肉質な体格が浮かび上がっている。 「騎士様も僕みたいにパンツ一丁になればいいのに」  僕が、というか、村の男子たちはこの時期ほとんどパンツ一丁で生活している。特に獣人種なんかは毛並みのせいで熱がこもるから、風通しの良い上裸にトランクス一丁でいるほうが何かと楽なのだ。 「大人はそうもいかないのですよ」 「なんで?」 「間違って大人のおちんちんが見えたりしたらえらいことですからね。君たち、そういう遊び流行ってるでしょう。人のパンツ下げるやつ」  騎士様が言うのは、男子間で夏場に流行り出す超スリリングな戦い――パンツ下げ合戦のことだろう。パンツ一丁でいることの多い男子達は、互いに隙を突いて人前で他人のパンツをずりさげ、ちんちんを晒してやりたがるのだ。自分も何度となくやられたし、やった。騎士様と話しているときに突然ずりさげられたこともあって、騎士様はその秘密の遊びの存在を知っているようだった。 「仮に私がパンツ一丁で生活してたとして、やるでしょ、君たち」 「そりゃあもう」  僕は胸を張った。これは男の戦いであるからだ。  騎士様はため息を吐き、額を抑えた。 「それがまずいんですって。そんなことされたら私、すっごい怒られちゃいます」  騎士様は遠くの王都から、村の警護と手助けのためにやってきているのだ。王都には騎士様の上の偉い騎士様がいて、その人にめちゃくちゃにお説教を食らうのだという。 「最悪王都に戻ってこいって言われちゃいます。そうなったらお別れですよ、私たち」 「それはやだなあ」 「ならあきらめてください」  はあい、と僕は気の抜けたような返事を返す。そしてそれからふと、脳裏によぎった素朴な疑問を浮かべる。 「でも、そしたら、騎士様がよくパンツ一丁でお昼寝してるのはいいんですか」  騎士様が生活している小さな庵は、騎士様がいるときは大体窓が全開になっているから、中の様子を伺うのはとっても簡単だ。たまにベッドの上でお昼寝している騎士様を見かけることがあるが、大体白いトランクス一丁でいるはずだ。たまにパンツを干しているからか何も履いてないときもあって、ぶっちゃけちんたまが丸見えの時もある。 「えっとお、あれはほら、なんというか……」  騎士様は目を泳がせた。後頭部の毛をわっしわしと掻き、しばらく考えるように目をつむってから、ややあって僕をじっと見つめた。 「内緒にしといてくださいね」 「結構いろんなひとが知ってますよ。庵を尋ねるの、僕だけじゃないでしょ」 「おお、神よ……!」  騎士様は手を前で組んで天を仰いだ。騎士様の顔はリンゴみたいに赤らんでいる。 「でも仕方ないじゃないですか、裸んぼで昼寝するの、すっごい気持ちいいんですよ」  と思いきやすぐに開き直った。騎士様は基本的にまじめだが、たまにこういう時がある。 とはいえ、そういうところが親しみやすさにつながっているのだろうとも思う。 「僕もそうおもいます」 「適当に言っていません?」 僕は騎士様をとても尊敬している。騎士様は村の大人たちも知らないようなことを知っているし、それにとっても力強くて優しいし、僕の王宮勤めの騎士になりたいという夢を笑わなかった初めての大人なのだ。 ◇  岩場の上から滝つぼのなかへと飛び込む。一瞬の浮遊感から始まり、着水の衝撃と、それから視界一杯に広がる銀色の泡。ひやりとした水の冷たさが全身の色んな所にしみ込んで、蒸し暑さから一瞬だけのお別れをするのだ。 「ぷあっ」  水面へと顔を出し、深く息を吸う。夏の空気は生ぬるくて、それがキンキンに冷やされた体にはちょうどいい。 「騎士様もおいでよ! 気持ちいいよ」  水面から、川岸の樹の木陰に座りこむ騎士様に手を振る。騎士様は手を振り返しこそすれ、僕の誘いには乗ってこないようだ。木の幹にもたれかかって手で体を仰いでいる。見事に暑さにへばっていた。 「騎士様、もしかして泳げないの?」 「いいえ、泳げますよ。これでも騎士学校時代は水練に長けていまして、海のクジラと呼ばれていたほどです」  騎士様は暑さにへたりながらも誇らしげな顔をした。海のクジラはクジラなんじゃ、と思った。 「じゃあなんで来ないの」 「着替えがないんですってば。びしょびしょのまま帰る訳にもいかないでしょう」 「フルチンでいいじゃん。僕もそうだよ」 近くの木の枝に引っ掛けられた僕の白いパンツが、風を受けてぱたぱたとはためいていた。村の男子で川に出かけるときはいつもフルチンで泳ぐけど、この方が余計な抵抗がなくていい。あと、脱げたり脱がされたりなどというトラブルとも無縁だし。 「ううん……」  騎士様は拒否をせず、深く深く葛藤をしていた。獣人の中でも短毛種の僕と違って、騎士様は毛並みが厚いから、冷たい水の中というのはより魅力的に映っているはずだ。 「午後の訓練は泳ぎの訓練にしようよ」 「……訓練、ということであれば」  騎士様はすっくりと立ち上がり、シャツを勢いよく脱いで近くの木に引っ掛ける。シャツに抑え込まれていたもふもふの毛並みは真っ白で、汗ばんでいるからか、太陽の光を浴びてしっとりと輝いている。 「このことは内緒でお願いしますね」 「このこと?」 「大人はふつうフルチンで泳がないものです」  騎士様はズボンを下ろした。継ぎあてだらけのへろへろトランクスが露になる。多分年単位で騎士様のちんたまを守ってきた歴戦のもので、淡い水色の布地には騎士紋の刺繍が縫われている。  騎士様は僕にお尻を向け、パンツをずり下げた。大木と間違えるぐらいに太くたくましい体とは逆に、丸っこくて短くてかわいらしい尻尾がぴょこんと現れる。もふもふの毛並みに覆われた騎士様のお尻はびっくりするほど大きくて、村の見張り台から遠くに見える大きな山脈みたいだと思った。  騎士様は足首まで落としたパンツを脱ぎ去ろうと足を上げた。足が開かれて、騎士様の股にぶら下がるちんたまが丸見えになる。体毛と同じ白い毛並みに覆われた、オレンジぐらいの大きさのちんたまがぶらんぶらんと揺れている。僕や同い年ぐらいの男子たちのちんたまとは格が違う。最初に見たときはびっくりしすぎてひっくり返ったものだ。 「ねえ騎士様」 「なんです?」 「騎士ってちんちんでっかくないとなれない?」 「うーん……ちんちんよりも、器が大きくないといけませんね」  騎士さまは僕の言葉にかふかふと笑いながら振り返った。騎士様は騎士なので、手でちんちんを隠すなどという軟弱なことはしない。裸んぼの騎士様は全身があちこち筋肉まみれなのがよくわかって、むしろ服を着ているときより迫力があった。  でも一番迫力があるのは、もちろん足と足の間にぶら下がるアレだ。僕らの間では村の大人たちの中で一番デカくて長くて太いというもっぱらの噂で、村の公衆浴場に一緒に行くといつも注目を浴びるものだから、常に恥ずかしそうにしている。 「でっかい」 「何度言うんですか、もう」  だってでっかいんだもの、とつぶやいた。本当にそうなのだから仕方がない。  僕は無遠慮に視線を投げる。騎士様のもさもさの股にぶら下がるでっかいちんちんが、一歩歩くごとにゆさゆさと揺れ、太ももに当たってべちんべちんとなっている。僕の腕ぐらい太くて、先端はキノコの先っちょみたいに反り返っていて、しかも腫れあがったみたいに赤黒い。腫れてるの、と以前に聞いたら、騎士様は何も言わずにあいまいな笑みを返した。  僕は水の中に潜って、自分のちんちんをまじまじと見返した。水の中ですっかり冷えあがって、ちんたまもちんちんもすっかり参ったように縮こまっているけれど、そうでなくたって天と地くらいの差がある。すっぽりと先っちょまで皮の被った僕のちんちんは、せいぜいタケノコの小さいのがいいとこだ。  息が続かなくなって、水面に顔を出す。その直後、一瞬日差しに陰りが差す。 ざぶんと激しい水しぶきが立って、ぐらりと水面が激しく震える。水中から白い細かな泡が立ち上って、その中から騎士様の顔が突き出てきた。 「ふう。水遊びなんていつぶりでしょうか」  騎士様は顔周りの毛並みをべったりと張り付かせながら、いつもより子供っぽく笑っていた。ぐちゃぐちゃの水流に足を取られそうになっている僕の体を抱きとめ、太い腕の上に座らせてくれる。 「冷たくて気持ちいいですね」  冷たい水の中でも、騎士様の大きくて逞しい身体は暖かかった。森の空気のような嫌な暑さとは違う、傍にいれば水の中に引き込まれたりしないだろう、という安心感からくる暖かさだった。 「騎士様、騎士ってどれぐらい泳げたらなれる?」 「そうですねえ。鉄の武具を担いだまま、ファフラ河の一番流れのはやいところを対岸まで泳げれば」 「ええ……」  ファフラ河、というのは村から少し外れたところにある大河だ。流れが速く、川幅もめっぽう広いから、村の子供たちがそこで泳ぐことは禁止されている。あの川を対岸まで泳ぎ切れるのも村の漁師のおじさんたちぐらいのものだろうに、さらに重い鉄の鎧や剣を担いでだなんて、僕ならまだ浅瀬のところで沈んでしまうだろう。 「ほんとに?」 「ほんとです。行軍中、川を横断するのは結構あることなんですよ」  騎士様は嘘をつかないから、やっぱり本当のことなのだろう。川を泳ぎきっている未来の自分の姿はまるで想像できなかったけど、騎士を目指すならやらなくちゃならない。 「どうやったらそんなに息が続くの? 僕でもできる?」 「水生の種族でないなら、やっぱり鍛錬あるのみですね。少し、騎士式の水練をやってみましょうか」 「騎士式の水練?」 「はい。素潜りの特訓です。ヒューレくん、私の手を握って」  僕はうなずいた。騎士様の腕から降りて横に並び、差し出された腕を両手で握りしめる。 「今から君を連れて深く潜ります。もし息が続かなくなりそうだったら、すぐに私の腕を叩いて知らせてください。――いいですか、続かなくなりそうなら、ですからね」  強く念を押され、僕は静かにうなずいた。いつもの優しい眼差しの中に、いつもより真剣さが色濃く籠っていた。 「さあ、息を吸って。いち、にいの――さん!」  すう、と肺一杯に息を貯めた直後、騎士様の力強い引っ張りのままに水の中に突入する。泳ぐことは昔からやっていたけれど、ひたすら下の方向に深く潜水する経験はあんまりなかった。ぶくぶくと立ち上る泡のカーテンを抜けて、静かな水の中へもぐりこんでいく。 (……早い!)  騎士さまが一つ水を蹴るたびに、まるで泥だまりにスコップを突き立てるようにするすると水の中へ進んでいく。騎士様の太い腕にしがみついている僕も、その強烈な速度に取り残されないように必死だった。  騎士様の横顔を眺める。その大きな口からはほとんど泡が漏れておらず、水底に向けて視線を向けたまま静かに泳ぎ続けている。潜水開始からほんのすこし経っただけなのに、もう少しずつ息が苦しくなりつつある僕とは大違いだった。  騎士を目指すなら、これぐらいで苦しいなんて言っていられない。僕は、少しずつきりきりと痛み始める心臓に無理を言って口を結ぶ。横目で見た騎士様はまるで先ほどと変わらない平静さで、たぶん、あと数分は息が続くのだろう。 (……まけたくない)  もう喉のあたりはぎっちりと詰まっていて、心臓のどくどくと波打つ音が聞こえ始めていた。太陽の光が届きにくくなって、水の色が少しずつ濃い青に染まっていく。 (もう少し、あと少しだけ……)    ――ごぼっ。  限界とは不意にやってくるものだ。頭の中がギュッと締め付けられるような痛みに襲われて、反射的に息継ぎを求めて口を開いてしまう。 (くるし……!)  途端、大量の水が口の中に流れ込んでくる。喉の奥に水が流れこみ、鼻の奥がつんと痛む。苦しい、苦しい、息ができない、苦しい――!  僕はパニックになって、全身をめちゃくちゃに動かした。騎士様の腕を手放してしまい、水の中で上も下も何もかもが分からなくなる。巻き起こした水流と細かい泡が、僕を不本意な方法で水の底へと引っ張っていくようだった。 (やだ、しにたくない……!)  体が急激に冷たくなっていく。心臓がどくどくと唸りを上げている。視界が薄暗く、もうろうとしていく。今の意識が消えたら、もう二度と地上には戻ってこれないだろうという予感があった。 (たすけて、きしさま――!)  すがる様に、僕はどこへともなく手を差し出した。その瞬間、力強くて暖かい指先が、しっかりと僕の手首を握りしめる。細かい泡の隙間から、必死の表情の白い熊が現れて、僕の体を痛いぐらいの力で抱き寄せた。  騎士様は僕の口に唇を宛がった。ふうう、と生暖かい息が喉の奥に飛び込んでくる。頭痛と冷たさに消えかけていた意識が、ほんの少しだけ明るさを取り戻す。 「……!」  大丈夫、と騎士様は無言で僕に笑みかけた。僕に分け与えたことで騎士様の息ももう限界寸前のようで、怖いぐらいに顔を強張らせているし、顔は真っ青なのに、騎士様はそれでも気丈に笑って見せる。  騎士様の体を放さないように全身でしがみつく。潜るときよりはるかに速い速度で、水を蹴って騎士様は水面へと浮上しようとする。水面を目指して上を見つめる騎士様の顔を見て、僕は、この人のような騎士になりたいと強く願った。 そうして。 そのまま、眠りにつくように、僕の意識はうつろのなかへとかき消えていく。 ▽  暖かさのなかで、僕はゆっくりと目を覚ました。僕の体は粗末なベッドに寝かされていて、その上には何重もの毛布が積み重なっている。  どうにか毛布をかき分けて、身体を起こす。開け放たれた窓の外からは、目に染みるような夕焼けが飛び込んできていた。 (ここ……騎士様の庵だ)  周囲を見渡せば、磨き上げられた武具、雑に積み重なった洗濯待ちの衣類、それから本を始めとする様々な生活用品の散乱する雑多な小部屋の内装には見覚えがあった。 (溺れて、騎士様に助けられて、気を失って、それから――)  ぐちゃぐちゃにもつれた記憶の糸を、どうにかして解きほぐす。  水の中で、僕は一度意識を失った。けれどそのあとすぐに騎士様が岸辺に上げてくれたらしく、いろいろな救命措置を施してくれている中で僕は目を覚ましたのだ。 (でも、あんまりに寒くて……)  騎士様は震える僕の体を温めようとしてくれたけれど、何もない水辺で出来ることは限られていた。だから急いで僕をおぶって庵に戻ろうとしてくれて―― (そうだ、途中で眠っちゃったんだ)  騎士様の背中は広くて、白熊の真っ白な毛並みはべちょべちょに濡れていたはずなのに、なんだかとても暖かくて、あまりに心地よくてそのまま眠ってしまった。深い水の底の冷たさの後だからか、いっそう気が緩んだのかもしれない。 (騎士様はどこだろう)  庵の中に騎士様の姿は見当たらなかった。僕をベッドに寝かせた後、たぶんどこかに出かけたのだろう。どこに行ったかは分からないけれど、とにかく、僕が目を覚ましたことを伝えないといけない。騎士様はきっとものすごく心配しているだろうから。  毛布を押しのけて、ベッドから這い出る。そこで僕は自分が何も着ていないことに気が付いた。そもそも着る暇なんてなかったし、騎士様も結構慌てていたから服を回収できなかったのかもしれない。となると、僕のパンツはまだ川辺の樹の枝に引っ掛けてあるのかも。 (さ、流石にフルチンだと外には出れないや)  そうなればもう、騎士様の帰りを待つしかない。べつにそれ自体はそれでいいのだけど、実のところ僕には、もう一つの問題が待ち構えているのだった。 (……やばい、すっごいおしっこしたい)  不意に漏れだしそうになって、ぼくは慌ててちんちんを抑え込んだ。水練の時にたらふく水を飲んだし、それから数時間眠っていたから、そりゃあおしっこがしたくなるのは当たり前だった。 (どうしよ、騎士様の庵はトイレがないんだ……)  家まで戻ろうか、と思ったけど、すっぽんぽんでは村のほうに行けない。いや行けないことないんだけど、それからしばらく僕のあだ名がフルチンしっこマンとかになっちゃうだろう。それは絶対に絶対にイヤだ。 「うう、漏れちゃうよお……」  おしっこはもうパンパンだ。そもそももう自分の家のトイレまで間に合うかも怪しいし、いやたぶん無理だろう。だからといって、このまま庵の中でお漏らしなんて絶対にダメだ、騎士様は許してくれるけど、これ以上騎士様に迷惑を掛けたくなんてない。 (ごめんなさい、騎士様。お庭でおしっこさせてください……)  とにかく、僕は庵の外に出ることにした。裏口のほうのドアをちょっとだけ開けて、外の様子を伺うべく隙間から顔を出した。庵の方にはそう頻繁に人は来ないけれど、万が一鉢合わせでもしたら―― 「おや、ヒューレくん。目が覚めたのですね……!」  はたり、と目が合う。騎士様はどこかに出かけていたわけではなくて、裏口近くにこさえた物干し台で洗濯物を干していたようだ。竿にはためいているのは騎士様の服だけでなく、僕がさっきまで履いていたパンツもある。 「あ、騎士様……」 「パンツはもう少しで乾きますから、もうちょっと庵の中で待っていてください」  洗濯物を丁度干し終えたところらしく、騎士様は僕の方に歩み寄ってきて屈みこんだ。そのまなざしはちょっとだけ潤んでいて、騎士様は僕をぎゅうっと抱きしめる。 「ごめんなさい、ヒューレくん。私は君に無理をさせてしまった」 「……っ、いえ、ちがくて……」  僕は言葉に詰まった。言いたいことはいくらでもあったのに。僕が騎士様の言いつけを守らないで無理をしたからこうなったんだ、とか、騎士様も苦しそうだったのに空気を分けてくれてありがとうだとか、僕の手を引いて水面を目指すのがとってもかっこよかったとか。  なぜ詰まったかというと、それ以上に今の僕にはしなくてはいけないことがあったからだ。おしっこだ。 (ううう、騎士様、力つよい、漏れる……!)  体を力強くぎゅうっとされるたびに、とんでもなく膀胱が圧迫されて、めちゃくちゃおしっこが漏れそうになっていた。もちろん騎士様は僕が死ぬほどおしっこを堪えているなんて知らないので、ハグをしたまま放してくれそうにない。 「き、騎士様……」 「どうしましたかヒューレくん。まさか、どこか体の調子がおかしいとか――」  僕は首を振った。そうではない。 言いたくないけど、言わないと大変なことになる。僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、騎士様の耳元でしぶしぶささやいた。 「あの、おしっこ……したい」 「――へ?」  この告白には騎士様も目を真ん丸にした。僕は騎士様のハグをどうにかすり抜けて、ちんちんを両手で握りこんだまま決死の訴えを放つ。 「……っ、だから、おしっこ……!」  一秒、二秒。少しの静けさの後、騎士様は素っ頓狂な声をだした。 「え、あ、ああ! おしっこですか、えっと……トイレまで我慢は……できそうにない、ですよね」  僕は何も言わなかったが、前かがみになって両足をぷるぷるさせている僕の姿を見て、騎士様は一瞬で僕の窮地を理解したようだ。騎士様は僕がおぼれたときよりはるかに慌てた様子で、周囲をきょろきょろと見回す。 「分かりました。ヒューレくん、10秒だけ、ぐっとこらえてください」  ぼくはちんちんをぎゅっと痛いぐらいに握りしめた。騎士様は両腕を両膝の裏と腰に添え、僕の体を持ち上げる。こういうポーズをお姫様抱っこと言うのだと僕は知っていた。騎士道物語の挿絵によくある、正義の騎士がお姫様を助け出すシーンの格好に近いけど、残念なことに僕はお姫様ではなく素っ裸のただの子供だ。 「ど、どうするの、騎士様」 「とっておきの場所があります」  騎士様は僕を抱えたまま、庵の裏の笹薮へと走っていく。騎士様の背丈ぐらいに高く茂った笹薮の一部をかき分けると、人ひとり分ぐらいの幅の小さなけもの道のような、足元の草が短く切りそろえられた道が現れる。  騎士様はその道をずかずかと進んで、一番奥の少しだけ開けた場所で僕を地面に下ろした。なぜだか、微妙におしっこの匂いがする。 「ここならだれにも見られません。笹薮が死角になります」  僕は頷いた。つまりはここでしてしまえ、と、そういうことなのだと理解する。 「……ん」  ちんちんから手を放した瞬間、じゅうっ、と勢いよく少しのおしっこが飛び出て、短い草のまばらに生える地面にたたきつけられる。僕は慌ててちんちんに指先を添えて、変な方向に飛び散らないようにした。隣に立っている騎士様に引っ掛けたら大変だからだ。 「……はあぁ」  少しずつ、お腹の下からちんちんに向けて熱いものがこみ上げてきて、やがてこんこんとあふれ出し始めた。限界まで我慢したせいか、勢いはちょろちょろとした弱弱しいもので、じろじろと音を立てて地面の土を濡らしていく。 「はー……」  息を吸って、吐くごとに、おしっこの勢いは少しずつ強くなっていく。ほとんど足元に垂れていたおしっこが、次第に勢いを増してきれいな放物線を描き始めていた。目の前に生い茂る茂みにおしっこが引っかかって、夕焼けの光を浴びてきらきらと輝いていた。  風が吹く。茂みがざわりと揺れて、おしっこの放物線をブレさせる。ちんたまの裏やむき出しのお尻に冷たい風がつうっと吹き抜けて、なんだか恥ずかしいようなわくわくするような、不思議な気持ちになる。 「ヒューレくん……」  僕の姿を隠すように後ろに立っていた騎士様が、不意に僕の名を呼んだ。顔だけで振り向けば、騎士様は妙にもじもじと体を揺らしていて、下ろした手がぎゅっと太ももをつねっていた。わずかに顔が赤いように見えるのは、夕日の光を受けているからだろうか。 「もしかして、騎士様もおしっこ?」 「……昼過ぎから、一回もしてなくて」  詳しい時刻は分からないけれど、今はもう夕方だ。騎士様だって僕と同じぐらい水を飲んだはずだから、気を失っていた僕よりはるかにおしっこがしたかったに違いない。  僕は少しだけ右にずれて、騎士様が身体を茂みに向けられるだけのスペースを作った。騎士様はありがとう、と言って僕の隣に立ち、その大きな指先でズボンの前紐を外し始める。けれど指が大きいぶん、小さなかた結びの紐を解くのは難儀のようだ。 「おしっこ行けなかったの?」 「君のご両親に事情をお話ししたり、村中から毛布を集めてたりしてたんです。あとは、君が目を覚ますまではなるべく庵を離れないようにしようと思っていて――あれっ」  騎士様はそわそわと体を揺らし、足踏みをした。固く結ばれた紐は一向にほどけてくれないようで、騎士様は呻くような声を上げ始めた。その大きな体をぎゅっと縮こまらせ、足をクロスして尿意に耐えている。 「騎士様、大丈夫?」 「……っ、だいじょうぶ、ですよ」  多分あんまり大丈夫ではないだろうなあ、と思った。騎士様は完全に焦りきってしまっていて、力づくで紐を引き解こうとしていた。そんなことをするものだから、結び目はもうかんかんに引き締まっているのだ。 「あれ、全然、解けません……っ」 「騎士様、落ち着いて」 「おち、ついて、ます……! ああ、どうしよう……」  もう本当におしっこが限界なのだろう、騎士様はぷるぷると体を震わせていた。そのうち、ベージュ色のズボンの股がじわじわと黒く染まっていくだろうことは、僕にも簡単に想像できた。  僕はお腹にすごい力を込めて、じろじろと出続けているおしっこを一時的にせき止めた。そして、騎士様のズボンの紐に指を掛けて、結び目を少しずつ解きほぐしていく。  身体も手も指先も大きな白熊獣人と比べれば、細身の猫人の僕のほうが細かい作業は得意だった。加えて騎士様はもう完全にパニックになってしまっていて、だから余計難しくなってしまったのだろう。結び目を解くなんて、落ち着いてやれば簡単なことなのに。 「ん、ほどけた」 「――っ!」  紐を緩めた瞬間、騎士様はものすごい力で勢いよくズボンとパンツを足首まで下ろした。その大きなお尻が丸出しになって、パンパンに膨らんだお腹と、きゅっと縮んで萎えているちんちんが目の前に現れる。  騎士様がちんちんを両手に持って、茂みのほうに先っちょを向けた、次の瞬間――  ――ぶじょろろろろろろろ……!  太くてでっかいちんちんから放たれた大人のおしっこは、なんだか騎士道物語に出てくる巨大なドラゴンのブレスのようだった。放つ、というより叩きつける、というぐらいの水流の勢いで、足元の土を穿っていき、白い泡を立てる。 「っ、はあぁ……はーーー……っ」  よほど気持ちよかったのか、騎士様はうっとりとした表情で大口を開けて、熱いため息を吐いた。いつも落ち着いていて、冷静で、まじめな騎士様でも、ぎりぎりでオシッコが間に合ったときはこんなにゆるっとした表情をすることがあるようだ。その辺は、大人も子供も騎士もそうでない人も、そんなに変わらないらしい。  せき止めていたおしっこが限界になって、僕もおしっこを再開する。うっそうと茂った笹薮や土でも、さすがに二人分のおしっことなると吸いきれなかったようで、次第に藪の隙間からおしっこが流れ出はじめる。足元に、少しずつおしっこだまりが広がっていって、二つの放物線――太くて勢いの強いものと、細いもの――が溜まりの中に突き刺さってじょぼじょぼと水音を立てた。つん、と鼻をつくおしっこの濃い臭い。  良く分からないけど、なんだか楽しいなと思った。連れションをしたことで、ちょっとだけ騎士様との距離が縮まったような気がして。 ▽  広がっていく水たまりを見ながら、ふとあることを思って、僕は騎士様を見上げた。 「ねえ騎士様、もしかしていっつもここでおしっこしてる?」  ぎくり、と騎士様は体を揺らし、微妙に視線を泳がせた。 「……い、いつもではないです」 「今日、お昼、いつもより戻ってくるの早かったよね。……ここでしたんでしょ」  さっきたどり着いたときに微妙におしっこの匂いがしたのも、それなら納得できる。 僕はいたずらっぽく笑って見せた。騎士様は観念したように息を吐いて、夕陽に照らされていてもわかるくらいに頬をかあっと赤らめた。 「……トイレ、遠いんですもん。それに、朝とか村の公共トイレに向かうまでに何人にも声を掛けられるものですから、ありがたいんですけど、その……」  もれちゃいそうで、と騎士様は白状した。白熊の小さい耳がぱたんと畳まれる。 「つまり、朝もここでこっそり立ちションしてる?」 「ヒューレくん、あんまり私をいじめないでください……」  図星のようだった。 「だって騎士様、立ちションなんて騎士たるものとしての誇りが……って言ってたのに」  お昼ごろ、一度用足しに帰るって言ってたとき、その辺で立ちションなんて騎士の誇りに欠けるなんて言ってたなあと思い出す。とはいえ結局外でおしっこしてるのだから、何にも変わらないじゃないか。 「うう、誰にも言わないでくださいよぉ」  騎士様は何とも言えないようで、顔を真っ赤にして唇を噛んでうつむいていた。うつむきつつもでっかいちんちんからオシッコはじょぼじょぼと吹き出し続けているので、なんだかよく分からないことになっている。  僕の膀胱がすっかり空っぽになって、ちんちんを振り終えても、騎士様のおしっこはまだ全然止まる気配がない。ちんちんの先端の赤く膨らんだところから吹き出す騎士様のおしっこをまじまじと見つめて、それから火照った白熊の顔を見上げる。 「ど、どうしたんです?」 「騎士様もおしっこ堪えてもじもじするんだなあって思って、ちょっとおもしろくなった」 「……み、皆には言わないでくださいね、私が漏らしそうになってたなんて」  さっきのパニックを思い出したのだろう、騎士様はちょっと恥ずかしそうに口を尖らせた。これも、珍しい表情だ。 その顔を見ながら、僕はなんだかうれしくなっていた。騎士様はいつもまじめで、とても強くて、優しくて、大きいけれど、今日みたいにいろんな顔をするのだなあと。 「ねえ騎士様、後で一緒にお風呂入りに行こうよ」 「おっと、今日は共同浴場の開放日でしたっけ。いいですよ、行きましょう」  二人で視線を合わせて、笑う。  笹薮の隙間から、地平線に落ちていく夕陽の残光がしみ出して、僕ら二人を静かに照らしこんでいた。

Comments

いつものおしっこスポットの事やや匂いへの言及が多くて想像してどきどきしました素敵です

わんお


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