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オスケモがいろんなとこでおしっこするだけのSS③

「ケモ王子様とトイレ制限のしきたりの話」  暁に鶏の嘶きが響くころには、王宮仕えの朝は既に始まっている。  王宮に包まれるように広がる庭園、その管理を任されている庭師長ゴードン――現国王ローラッドがまだ稚児だった頃より王宮に勤めている、老年の山羊獣人――もまた、景観の妨げにならぬよう庭園の隅に建てられた石組みの古小屋で目を覚ます。  しかし、庭師の仕事が始まるのは日が昇ってからのことである。広大な庭園はゴードン一人で手入れすることは不可能であり、城下町に住んでいる他の庭師たちが王宮に集うまで、もうしばらくの猶予が残っていた。  初春に差し掛かりつつある時季といえ、早朝はまだまだ肌寒い。ゴードンは薄灰色にくすんだ被毛をさすりつつ土間のかまどに火をくべ、水瓶から吊るし鍋に水を注いだ。老齢には、白湯一つこさえるのにも一苦労である。いよいよ引退も間近かと、かまどの中で揺れる火を眺めながら思いを馳せたとき、小屋の玄関戸が遠慮がちにとんとんと叩かれる。 「どうぞ、お入りくだされ」  錠は掛けておらず、入室に知らせは不要であると何度も念を押しているのだが、なんとも律儀でまじめなものだとゴードンは嘆息しつつ、来客を招くために戸を開く。 「失礼。……その、今日も、頼めるか」  戸の前に立っていたのは、一人の狼人の青年である。 些か幼さを残しつつも、その骨身は長身かつしなやかな痩躯、銀灰色の艶やかな毛並みを朝風になびかせ、双眸は爛々と輝く金色を讃えている。整った出で立ちはさながら彫刻のようだが、姿の凛々しさとは対照的に、青年は純白の絹織りのトランクスを一枚身に纏っているだけの裸だった。この、極めて整った生来の姿と、それに似つかわしくない姿――局部を隠すための下着一丁という、まるで物乞いのような見た目の彼こそ、王国の未来を背負って立つことを約束された誇り高きアドラキア王国の第一王子――ラフラムだった。  なぜゴードンが早くに目を覚ますかといえば、彼を招くことこそ、庭師長ゴードンの一日の初めの仕事であるからだった。 「昨晩から今朝にかけ、ぐっと冷え込みましたな。さあ、火のお傍で暖まりなされ」 「ありがとう。だがその……もう、漏れそう、なんだ」  毎度のことながら、下着一枚というのは見ている側も寒々しい。かちかちと歯を鳴らして震えるラフラムをかまどの火に当たるよう促すも、ラフラムにはそれより先に済ましておきたいことがあるようで、歯切れの悪い言葉を吐く。  ラフラムの所用が何なのか、というのは、彼の所作を観察していれば誰でも察しがつくだろう。凛々しく背筋を伸ばして立ちながらも、時折両の脚を擦り合わせ、落ち着かない様子で足踏みを繰り返し、手を下着の上に乗せ、きゅっと軽く押さえつけるような動き。よく見れば、純白のトランクスの股座に位置する部分がしっとりと湿っていた。  毎日、健康のための習慣として、睡眠前に摂取することを命じられた大瓶一杯ぶんの水が、ラフラムのしなやかな肉体に並々と溜まっている。つまるところ、尿意である。 しかも、王宮の上階に位置する寝室を静かに抜け出し、ほとんど裸のまま――就寝時は下着一枚と決まっている――人目を盗んで屋外の庭師小屋へ向かうまでに、高まった緊張と寒さとがさらに欲求を加速させており、今にも漏れだしそうになっていたのだ。 「おお、おいたわしや。そういうことでしたら、さあどうぞこちらへ」  今にも果ててしまいそうな、苦悶に満ちた表情を浮かべるラフラムを痛ましく思いながら、ゴードンは小屋の裏戸の錠を外した。  庭師小屋の裏はさほど手入れがされておらず、鬱蒼とした木々が生い茂っている。周囲からの視線は通らず、またゴードンのほかに誰かが立ち寄る可能性もない。よしんば誰かが通ったとて、そこに残るおびただしい量の臭いたつ水たまりが、まさかこの国の未来を担う王子ラフラムの残した痕跡であるとは思わないだろう。  ラフラムはゴードンを半ば突き飛ばすようにして、裏口の扉を押し開けた。王子とは思えない乱暴な足取りで手ごろな樹の前に走りよると、下着を乱雑に足首までずり下げる。狼特有の太ましい尻尾と、被毛を帯びて瑞々しく張り詰めた尻が露になった。まるで童子のような姿であることに、ラフラムは気を回す余裕などなかった。 「……んっ、ああっ……!」  切なげな声が夜明けに響く。先端にわずかに桃色が覗く、瑞々しく張り詰めた若竿を片手で持ち上げ、ぐいと包皮を引き絞る。その瞬間、放たれた黄金色の放物線が木の根に突き刺さり、じろじろと水音を立て、飛沫が跳ねる。静まり返った早朝の庭にもうもうと湯気が立ち、王子はどうにか間に合ったことにほうと安堵のため息を吐いた。 「っ、ああっ、はあっ……」  吐く息は深い。 なにせ昨日の夕餉前の用足し以降、ラフラムは一度たりとて小便を許されていないのだ。うら若き青年の、しなやかで雄々しい肉体の中には、夕餉や就寝前の給水を経て並々ならぬ量の小便がため込まれていた。催し始めたものをどうにか誤魔化して眠りについたものの、普段の起床時間の前にはどうしても尿意で目が覚める。しかし、ラフラム専用の便所は使用時以外常に施錠されているため、寝室の目の前にあるにも関わらず便所での用足しは叶わないのだ。 ゆえに、放たれるものは消火用の放水もかくやというほどの勢いで、すぐに足元には土交じりの水たまりが広がり、水に水の突き刺さるばちばちという音が響き始める。パンパンに張り詰めて、今にも破裂寸前だった膀胱に多少のゆとりが生まれ、土気色だったラフラムの顔色が、少しずつ明るい血色を帯びていった。  既に一分が経過してなお、小便は勢いを止めない。無造作に放たれ、足元に臭い立つ水たまりが広げられていくのを見ながら、ラフラムは隣に立つゴードンに向けてぽつりとつぶやいた。 「ゴードンよ……おれは、挫けそうだ」  わずかに上ずり、震える声。目頭に、じわりと熱いものが染みる。 「ご辛抱召されよ。王家の男児たるもの、なにごとにも折れてはなりませぬ」 「だが、小便ぐらいさせてくれていいじゃないか……!」  悲痛な叫びだった。避けようのない生理現象を禁じられることほど苦しいものはないと、彼の歪んだ表情が強く物語っていた。 ただ小便を堪えさせられるだけならともかく、その状態のまま執務をこなし、剣術の稽古をこなし、民たちの視察までしなくてはならないのだ。彼はいつ人前で恥を晒してしまうかと、常々気が気でないし、現に我慢の限界に達し、童子のように人前で粗相をしたこともある。 「現王……あなたの御父上のローラッドさまも、昔同じようなことを仰っていました。しかし、古より伝わる王位継承者へのしきたりでありますゆえ」 「くう……っ」  アドラキア王国の第一王子は、代々十五歳の誕生日を迎えた日から王位を継承する日まで、排泄のためのトイレの利用は一日二回までとしきたりによって定められていた。 朝、起床して剣術の朝稽古を終え、朝食を食べ、公務に取り掛かる直前に一回と、夕餉の前に一回。いくら堪えの利く若者であったとして、排便はともかく、排尿回数はあまりにも足りていなかった。重罪を犯した地下牢の囚人さえ、一日に四回は小便をすることを許されているというのに。  ラフラムが誕生日を迎えて一週間の今、既にこのしきたりがもたらす「洗礼」をこれでもかというほどに味合わされていた。尿意は集中力を奪い、散漫な意識が公務の失敗を生む。今まで、心身共に完璧であることを誇りとしていたラフラムは、連日の避けられない叱責にひどく打ちひしがれていた。 「おれはもう、小便のことばかり考えながら日々を過ごしたくない」  破裂寸前までため込んでいた小便を一滴残らず出し切り、しとしとと雫の垂れる先端を慎重に何度も振る。毎朝の着替えの際に下着に痕跡が残っていれば、どこかで立小便をしたことを看破されるのは目に見えているからだ。その王子とは思えないみじめな所作をしながら、ラフラムは泣き出しそうな声音でそう囁く。 庭師ゴードンは王子の表情ですべてを理解した。昨日、おそらくは何かが起こったのだろう。凛々しく勇ましく、剣術の腕ならばもう衛兵長顔負けだと言われている王子ラフラムとて、まだ十五歳の思春期盛りの青年だ。心を引き裂くような、恥辱と羞恥に塗れた出来事に、すべてが嫌になることもあるだろう。 「気を確かにお持ちください、王子。……さあ、冷えます。少し火に当たってからお帰りなさい」  とはいえ、ゴードンにしきたりをどうこうする力はない。こうして人目につかないところで小用を足させてやるくらいしかなく、それは根本的解決には程遠い。 結局、王子ラフラムにできるのは、この忍耐と恥辱の日々をどうにかやり過ごすことだけなのだった。 別の日。 どんどんどん、と忙しなく戸を叩く音でゴードンは飛び起きた。古小屋を揺るがすかのような剣幕に、はてなにやらとゴードンは首を傾げた。 「はい、はい、なんでしょう」 「ゴードン!開けてくれ……はやく……っ!」  ラフラム王子の声で、ひどく切羽詰まっていた。早朝とはいえ大きな物音は人目を引きかねないというのに、それらを考慮することもできないほどの状況なのだろうか。そうであるなら、急がねばならない。 「はい、王子。今開けますゆえ……!」 「はやく、はやく……っ! っ、もう、我慢が――!」  と、不意に扉の向こうで言葉が途絶える。扉の向こうで、ずるり、ともたれかかっていたものが地面に崩れ落ちる音が聞こえた。まずい、とゴードンは即座に理解する。 「王子、ご辛抱を! いま直ぐに裏庭に――」  ゴードンは扉を開く。つん、と冷たいアンモニアの臭気が鼻腔を突き、そしてラフラムと目が合う。へたり込むように座り込み、見上げるような視線が、ひどく潤んでいた。 「ゴードン……」 「おお……なんという……」 呆然と立ち尽くすゴードンの前で、股間を押さえたまま、力なくラフラムはゴードンの名を呼んだ。声も体もひどく憔悴しきって震えており、王子と呼ぶにはあまりにみすぼらしく、痛々しい姿だった。 足先には水たまりが広がりはじめ、ラフラムの下半身の毛並みをじっとりと濡らしている。ぎゅうっと抑えた両手の指の隙間、真っ白な絹織りのトランクスの内側から、しゅろろろと泡立つような音を立て、濃い黄色の小便が吹き出していた。 「っ、あっ……」 悲鳴、あるいは嬌声にも似た声は、いつもの凛々しく猛々しい第一王子のものとは違い、羞恥と情けなさに打ち震えている一人の若者のものだ。じゅうじゅうと湧き出し、濃密な臭いを立てる汚水に塗れて、銀灰色の毛並みはぐしょりと濡れてへたっている。水気を含み、ぴっとりと足の付け根に張り付く下着の白が透け、成熟し始めた青年の股座の素朴な膨らみと、覆われた包皮から僅かに覗く薄桃の先端の色合いが滲む。 「ゴードン……おれ……」  ごめんなさい、と唇を震わせる。瞳に涙が滲む。肌寒さと情けなさ、そして己の境遇への絶望に、青年は小さく体を、声を震わせた。 決壊と共に、もう一つ堪えていたものも堰を切って溢れ始める。 つう、と頬を伝う涙が、ようやく広がらなくなった小便だまりにぽたぽたと垂れた。 「……とにかく、中へお入りなされ。外は、冷えますからな」  青年は答えない。年を経て、老成されているはずのゴードンでさえ、目の前の青年に掛けられるような言葉は見当たらない。  王国の未来を背負って立つことを約束された、誇り高きアドラキア王国の第一王子。 惨めな粗相の痕の上で押し殺したように泣き続けるその姿は、あまりにも肩書に不釣り合いで、みっともないものだった。


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