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空地で立ちションする獣人達がライブカメラで無断配信される話

 ライブカメラ、というものがある。  具体的な説明は省くが、ある一点に設置した定点カメラの映像を長時間配信し続けるというもので、主に観光地や人の多い都市部の往来を映すことが多い。防犯目的で設置されているものが大半だが、中には街並みの観察目的や、少し変わり種でいくと山奥などに設置して、人の立ち入らない環境に潜む動物たちを観察するものなどもある。  たいていの場合、映像には移り変わりがない。往来を映すものは変わらず往来を映し続けるし、山奥に設置されたカメラの撮影範囲に動物が映り込むことなど稀なので、大抵は代わり映えなく木々を映し続けることになる。コンテンツとしては、正直退屈なものだろう。  現在私が観察している映像――ある市街地の、マンションとマンションに挟まれた小さな空地を、前景が映せる程度の高所から撮影し続けているもの――も、傍から見れば退屈極まりないものに見えるはずだ。配信タイトルは『尾先市202x_〇〇_〇〇』とその日の日付だけで、概要欄も『観察用』と、まるで要領を得ない。 タイトルが本当なら某県の尾先市だろうが、詳しい情報はそれだけでそもそもどこの空地を撮影しているのかすら不明だし、なぜ撮影しているのか、何を観察しているのかも、一見では分からない。 しかし、そんな魅力とは正反対の映像は、なぜか常に20人程度の視聴者がいて、多い時には三桁を超えることもある。そして奇妙なことに、チャット欄もそれなりの賑わいを見せている。空地に広がる草と木、砂利、それから時折通る車を観察するだけの映像に魅入られた者――私もその一人だが――がなぜこれほど多いのかは、映像を観察していれば判るはずだ。 ◇  金曜日、AM5:30。  あれほどの猛暑もすっかりと過ぎ去り、季節は初秋に差し掛かろうとしていた。定点カメラが映す朝の市街地にはうっすらと朝もやが掛かり、空はまだ微妙に白んでいる。こんな早朝なので空地の奥側に広がる道路には車一つ通らず、散歩だろうか時折老人が緩慢な歩幅で歩いてゆくぐらいだ。  世間はまだほとんどが目覚めていないというのに、ライブ配信には既に30人程度が集っていた。まるで世間話でも交わすように、朝食を食べながら見ているとか今日は夜にジムに行くだの修士論文がしんどいだの、他愛もないコメントがコメント欄に流れていく。私があいさつのコメントを流すと、幾人かが反応して返してくれる。  別に、この配信を疑似的なチャットルームとして使っているわけではない。配信を見ている人々は、私も含めて明確な目的をもって、このまるで動きのない退屈な配信をじっと見つめていて、その暇つぶしとしてこの交流が行われているのだ。  その『目的』は、私が配信の視聴を開始してから約十分後に現れた。配信画面の奥側に広がる道路を、一人の犬獣人の青年――ぴっちりと締め付け、筋肉質な体躯を浮かび上がらせる伸縮性Tシャツと、下にはトランクスとほぼ変わらないぐらい短丈のランニングショーツを纏っており、身長は180前後、小麦色の被毛と垂耳が特徴――が走ってきて、不意に道路の中央のあたりで足を止める。  彼が映像に現れた瞬間、コメント欄は目に見えてざわめきだした。まるで皆が皆、彼の登場を待っているかのようだが、それはまごうことなき事実なのである。  犬獣人の彼――配信内で名付けられた仮の名前は『犬走』だ――は、しばし道路周りを見渡したのち、おもむろに空地の中へと立ち入っていく。砂利の地面に僅かに生えた低草をランニングシューズで掻き分けつつ、彼は空地の奥までやってくる。  彼はおそらくこの配信の存在を知らない。よって、今彼が立っている丁度上の方に撮影用のカメラがあって、彼のやや童顔な顔立ちから被毛の覗く胸元、ぴっちりとしたシャツの上に浮かび上がる割れた腹筋、丈の短い白ショーツと、逞しい太腿とを余すことなく映し出していることも知らないだろう。  彼は空地と家を挟むコンクリート塀の前に立つ。その瞬間、コメント欄はひどく湧き立ち始める。私も、コトが始める瞬間を目に焼き付けるように、今か今かと画面を凝視する。  彼は二三振り返り、道路側に誰もいないのを確認した後、ゆっくりとランニングショーツの前をずり下げた。途端に露になるのは赤色のボクサーパンツで、そのゴム部分には男性なら大体知っているだろう男性用下着メーカーの名前が印字されている。布地に包まれる「ふくらみ」は中々の大きさで、その内側に押し込まれたモノが中々の逸品であることを期待させるだろう。  彼はもう一度だけ振り返り、そしてボクサーパンツのゴム部分に親指を引っ掛け、ぐいと下げる。窮屈な締め付けから解放された青年の陰茎――平均的男性よりややふと長く、川に包まれた砲身の先端に赤黒い亀頭が覗く――が露になる。彼は下着に手を掛けていないほうの指先で自らの包皮を剥き、竿先をコンクリート塀へと向け、放尿を始めた。  黄金色の放物線が青年の竿の先端から放たれ、コンクリート塀にぶち当たって地面に垂れ流れていく。灰色のコンクリート塀は濡らされて黒々しい痕が広がり、ばちばちと水の弾けるような音が配信に乗り始めた。水流は中々の勢いで、それなりに我慢していただろうことがうかがい知れる。時間的に早朝の一番搾りといったところだろうか。  はしゃぐコメント欄とは裏腹に、彼は立小便の解放感に浸る様にほうと熱く息を吐き、何ともなしに空を見上げている。まさかそんな光景が余すところなく撮影されているとは思っていないのだろう、無防備に欠伸を浮かべる姿は何とも愛らしい。たまに映像の向こうの彼と目が合いそうになるが、それでも定点カメラにはまるで気づいていないようだ。  リアルタイムの配信のため、当然修正などという無粋なものが掛かる訳もない。今、この瞬間、日本のどこかの空地の隅で陰茎を露出し、立小便に耽る犬獣人の青年がどこかにいるということなのだ。  やがてもうもうと湯気が立ち始め、青年の足元の水たまりが目立ちはじめたころ、放水は少しずつ勢いを弱めていき、はたりと止まる。竿先からぽたぽたと滴る雫を、竿に添えた指でぶんぶんと乱暴に露払いし、彼はそのまま下着の中に陰茎を収めた。何もなかったかのようにランニングショーツを上げ、それから小便に浸ったシューズのつま先を振って、そそくさと空地から離れていく。コメント欄の住人達は、まるで一つのショーが終わったかのように名残惜しさをコメントに浮かべ、閲覧人数はちらほらと減り始めていた。  なぜ、変哲もない空地を撮影するだけの配信がこうも賑わいを見せるのか。その答えが今の一部始終に込められていた。近隣に公衆便所やコンビニがなく、不意の尿意に困る環境なのか、この空き地は獣人達の名物立ちションスポットであり、いろいろな年代の人物が度々訪れては小用を足していく。その光景を余すところなく堪能することができるのが、この配信の魅力と呼べるものなのだ。  先ほどのランニングする犬獣人の青年は、毎週金曜日のこの時間帯に現れ、小便をして去っていくことから、配信の名物的な扱いを受けている。早朝から張り付くにしては多い人数が配信に集っていたのはそういう理由からなのだった。 ◇  仕掛けられたライブカメラは妙に品質が良い。夜間の高画質撮影にも対応しているし、画質も――少なくとも我々が見たいものをクリアに映す程度には――良く、音声も正確に、カメラの近くで繰り広げられたものなら、会話の一言一句さえしっかりと拾い上げるのだ。  金曜日、PM6:40。秋めく夕の空には茜色が色濃く射して、カメラ越しでさえ暮れの眩しさに目が染みるようだ。空地に隣接する道路は近隣の中学校の登下校路になっているらしく、ちらほらと自転車に乗った学生服の少年少女が通り過ぎていくのが見える。少し前までは真っ白なカッターシャツだったはずの彼らはいつのまにか艶やかな黒地の学生服に衣を替えているし、女子たちは鮮やかな紺のセーラー服で、時間の流れを感じざるを得ない。  しばし通りすがる少年少女の流れを見る。一時期は絶え間なく制服の群れが流れていくのだが、ものの十五分もするとだんだんと絶えてゆき、やがて一人も通らなくなる。 今日は目当てのものが見られそうにない――見切りを付けようと配信画面を閉じようとしたその矢先、ひとりの獣人学生が自転車に乗ったまま空地に勢いよく突っ込んできた。 彼は靴を地面に突き立てて乱暴に勢いを殺し、自転車止めを掛けることもせず半ば飛び降りるような形で地面に降り立った。当然自転車は横転して地面に叩きつけられ、がしゃんと騒々しい音が鳴る。  細身で淡い黄色の毛並みの狐獣人――目鼻立ちがくっきりと整っており、中性的な顔立ちもあってたいそうモテるだろう――だ。彼は弾かれたように空地の奥の隅、つまりカメラがばっちりと映す箇所に走り込んできた。その行動が何を意味するのか、配信を見ている視聴者の全てが理解している。 「やばい、マジ漏れる!」 隅にたどり着いた狐の少年が、かちゃかちゃとベルトのバックルを弄りつつ、モジモジと体をくねらせ、足踏みをしながら慌てたように叫ぶ。相当小便を堪えているのか、バックルの金具を外そうとする所作は随分と乱暴だ。  数秒の格闘の末に、狐の彼はようやく金具を外し、ベルトを引き抜くことに成功する。緩んだスラックスのホックを外し、チャックを下ろせば、僅かに股間部に黒々しい染みの出来たグレー無地のトランクスが露になる。おそらくは母親に買ってきてもらったものだろう、三枚千円程度の安物のようだ。  トランクスのゴムを引っ張り、少年は空いた方の手で局部を引きずり出した。先端まで皮に包まれた、いかにも思春期の少年らしい幼さが残る若竿。皮を引き剥き、砲身を空地の隅の砂利に向け―― 「はー……あっぶねえ……」  安堵に緩んだ狐の少年の声と共に、カメラがじょろじょろと無遠慮な水音を拾う。竿先から放たれ、地面を濡らしていく放物線はほぼ透明だが勢いが強く、やはり相当な量を我慢していたようだ。薄寒い気候のせいか、小便の叩きつけられたところから僅かに白い湯気が立ち上っている。 「イノセン、マジ説教長すぎだろ……」  放尿が間に合ったことで相当気が緩んでいるのか、彼は誰に聞かせるでもない独り言を吐く。イノセン、とはおそらく先生の名前で、猪頭とか井上とか、そのあたりだろうか。素行不良の説教で長時間拘束されていたのかもしれないし、あるいは部活の顧問の可能性もある。横転した自転車の隣には剣道用の竹刀らしき棒状の物が布に包まれて転がっており、おそらくは後者だろうか。 この時間帯は、下校中の悪ふざけらしき男子学生の集団が時折空地にやってきて用を足していくことが多いのだが、彼のようにここまで追い詰められている姿を見るのはほとんど初めてだった。顔立ちの整った少年が、人には見せられないような緩んだ顔をしているのは、中々に情欲をそそる。 とここで、空地の手前側の道路にもう一人学生が現れる。黒い学生服がぱつぱつに張り詰めた牛獣人の少年――大人顔負けの巨漢と肩幅で、毛並みは黒々しく、制服の上からでも分かるほどに蓄えられた筋肉量と、少々老け込んだような威厳のある顔立ちが目立つ――で、彼は空地の隅で佇む狐の少年を見やり、自転車を止めて彼のもとへと歩み寄っていく。 「何やってんだよ根付」 「お、黒岩じゃん。遅くね?」  牛の学生に声を掛けられ、狐の少年は小便を出したまま、顔だけで振り返る。どうやら知り合いらしい。 「部活の片付け当番。……なんだ、しょんべんしてんのか」  足元に広がる水たまりですべてを察知したのか、じゃおれも、と牛の少年――黒岩はつぶやき、スラックスのベルトを外し、チャックを下ろす。先ほどの狐の少年と比べるとかなり落ち着いており、そこまで我慢している様子でもないのだろうか。  ホックを外せば、黒岩少年の下着が露になる。黒々とした地毛に良く映える、純白のブリーフ。高校生が穿くには少々サイズが小さく、また生地もよれて痛んでいるし、どことなく黄ばんでいるようにも見える。恐らくは大層な年季ものだろう。少年の大人顔負けのもっこりと膨らんだ局部を覆うには心もとなく、ふとましい腰回りと腿の付け根のせいで引き延ばされ、さながら際どめのビキニブリーフのようだ。いまはどうにか布地の中に押し込まれているが、ふとした拍子にタマがはみ出ても致し方ないぐらいだ。 「お前まだブリーフ穿いてんの。つかヤバくね、見た目」 「仕方ねえだろ、うち貧乏だし。穿けるなら穿けってかーちゃんが」 「引きちぎれそうなのを穿けてるとは言わなくねえ?」  うるせえなあ、と黒岩少年はため息をつきつつ、黒々しい陰毛のはみ出しているブリーフのゴム部分に指を掛け、下着を太ももの半ばまでずり下ろす。ブリーフのふくらみの仰々しさから察していたことではあったが、中学生とは思えない長さと太さ、威圧感を併せ持つ陰茎がぼろりと現れ、配信内は騒然となる。  すっぽりと皮が包み、先端に薄桃色の亀頭が覗く黒岩少年の陰茎は大人顔負けどころか、大人でも太刀打ちできないほどのモノだ。そして、その先端から放たれる黄金色の小便の勢いも、舌を巻くほどの猛々しさを誇っている。 「あ゛~……」  落ち着いているようだが、実は思いのほか我慢していたらしい。少し萎え始めてきた狐の根付少年の水流に連なる様に、黒岩少年の豪快な放尿が始まり、空地にじゅうじゅうと叩きつけるような水音が広がり始めた。 「つーかさ、放課後トイレ禁止ってやばくね。しかも獣人男子だけって、理由知ってる?」  根付青年が口を開けば、隣の黒岩青年が眉を顰める。 「B組の熊谷がトイレでタバコ吸ってたから、連帯責任って聞いた」 「アホすぎんだろアイツ……」  罰則としてのトイレ禁止など教育委員会が黙っていないと思うのだが、どうやら彼らの学校ではそれがまかり通ってしまっているらしい。その話を総合すると、いま空地で小便に耽っている彼らが相当我慢していたらしいのも合点がいくというものだ。 「ウチの顧問クソ真面目だからさあ、マジでトイレ行かせてくれねえの。話長えし剣道着の着替えとかあるし、本気で漏らすかと思ったわ」 「剣道部は大変だな」 「柔道部はどうなんだよ」 「ウチは外周ランニング中に立ちションしてもいいことになってる。なってるっていうか、なんたらの了解ってやつ」 「マジか。え、アリなのそれ」 「でも女子の運動部も通るぞ」 「じゃダメじゃん。あいつらチンコ見てくるでしょ」 「見られた。出す直前だったから結局しょんべん出来なかったし」 「あー、ドンマイ。明日からお前のあだ名デカチンになるわ」 「しにてえ……」  はああ、と黒岩少年は大きなため息を吐き、苦虫を嚙みつぶしたような表情をする。僅かに頬を赤らめているあたり、それなりの辱めを受けたのだろう。  根付少年の放尿が止み、それからしばらくして黒岩少年の小便も止まる。彼らはぶるぶる、ぶるんぶるんと竿のサイズに合わせた勢いで竿を振って雫を飛ばし、それから下着の中へと仕舞い込む。 「学校からもうちょい近いとこでしっこできるとこねえかなあ」 「今度探すか」 「だなあ」  そんな会話をしながら、彼らは転がった自転車を起こし、二人で道路の先へと去っていく。我々としてはこの空き地を秘蔵のトイレスポットとして常用してもらいたいものだが、彼らの尊厳が保たれるような適所が見つかるのならきっとその方がよいだろう。  夕暮れの淡い茜に、空地の残された二人分の小便だまりがてらてらと鈍い輝きを放っていた。


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