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オスケモがいろんなところでおしっこするだけのSS④

 宿というのは客商売なものだから、とにかく客の満足度のためならなんでもする。一人でも多くのお客様を取り入れるために、外観を花なり色煉瓦なりで飾ってみたりだとか、厨房に著名な料理人を雇って豪勢な食事をサービスしてみたりだとか、毎日のように食事場に顔の良い吟遊詩人がやってきて一曲奏でてくれるとか、とかくサービスというものには際限がないし、交易に旅にと流動的なこの社会において、サービスの良い宿には需要がある。  一方、その反面。客の満足度など一切なげうったような宿もある訳だ。さっき語ったような豪勢な宿にはとうてい泊まれない、いう連中も確かに存在するので、とかく安さを突き詰めたような宿にも需要はある。 ベッドなどという気の利いたものはなく、受付で敷き毛布一枚貸し出され、大部屋の適当なところに転がって眠るだとか、夕食としてお出しされるスープがぬるま湯に芋の皮を数枚浸しただけのものだったりとか、屋根“上”で寝かされるとか、探せばそういう逸話を持つ激安宿なんてのはいくらでもあるだろう。  そういうところに宿を借りるやつというのは、経験上三つに分類される。  ひとつめ。単純に金のないやつ。  ふたつめ。脛に傷を持つような、日向に顔をさらしにくいやつ。  そしてみっつめ。そういう、いわゆるプライバシーに一切の配慮がないような宿でしか拝めないような光景を『観察』しにくるようなやつ。  ――つまり、俺のことである。 ◇  王都フーゲルティア、南方地区。王城直下の北方や貴族街の東方、交易街の西方地区と比べ、貧民街の広がる南方地区にある宿は安価な傾向にある。大広場沿いに面しているような宿ですら銀貨一枚でそれなりの部屋に泊まることができるが、これはほかの地区ではあり得ない。  そこからさらに裏路地に入り、入り組んだ細道の先にある安宿『泥沼亭』は、そのまるで華のない名前の通り、外観は苔とカビの這った古臭い石組みの建物で、不愛想かつ驚くほどに接客態度の悪いサイ獣人のおっさん店主が一人で切り持っている。 建物中に埃っぽさと湿っぽさが漂い、歯ぎしりのような音を立てる壊れかけのベッドにべたつく毛布、名物と言い張っている食事のうち、一番まともなのが数日間放置されたような硬度の黒パンと、まあなんというか、大通り沿いに出店したら一日目で客とすったもんだが起き、二日目に卵が投げ込まれ、一週間で潰れるような感じの宿だ。 しかし、どう取り繕ってもこびりついた悪評の拭えないこの宿は、意外と客の出入りが多い。理由は一つ、とにかく安いのだ。銀貨一枚もあれば半月は滞在できる、といえば、その破格さが分かるだろうか。 「旦那、部屋開いてる?」 そんな風に問いつつ宿の扉を開ければ、フロントのカウンターに頬杖をつき、愛用され過ぎてボロボロになった猥褻な雑誌を読み耽っているサイ人のおっさんが、心底めんどくさそうな面持ちで俺をじろりと睨む。空気はじめっとしていて重く、しばし清掃の手も入っていないのだろう、そこらの調度品にはたいてい埃が薄く積もっている。 「またお前か」 「はは、どうもー」  俺があいまいな笑みを浮かべ、肩をすくめながら銅銭を投げ渡せば、部屋の鍵(実は大体の部屋の鍵は基本的に壊れていて、出入り自由なのだが)が投げ返ってくる。 「宿代を払っている以上、どうしようがお前さんの自由だが、面倒ごとは起こすなよ」 「分かってるって。早速張り込むけど、いいだろ」 「好きにしろ」  鍵を貰った宿泊者はたいていその足で階段を上り、上階の部屋に向かうものだが、俺は違う。実のところ、俺の目的は宿泊ではない。俺の目的地はフロントの左手奥にある木扉の先にある、この宿唯一の便所だった。  とはいえ別に用を足したいわけではない。俺がしたいのはほかに用を足すやつの『観察』だ。なので、フロントにある壊れかけのソファーに座り、誰かが便所に入っていくのを『張り込む』必要があるのだが――。 (おっと、さっそく一人来た)  少々焦ったような足取りで、階段から降りてくる人影。ソファーでくつろぐ振りをしつつ、気取られないよう横目で姿を追ってみる。  上下継ぎあてだらけの布服に身を包んだ、痩躯の狼獣人。横顔は比較的若く、人間に換算して二十代前半ぐらいと言ったところだろうか。体つきの逞しさと身なりへの気の使わなさから推測するに、駆け出し極貧の冒険者といったあたりが妥当だろう。  彼はフロントのサイと二言三言交わし、サイが指さした木扉の先――便所へと歩を進めた。おそらく彼は初めて宿泊する客で、催して目が覚めたが客室に便所がなく、焦って階下に降りてきたパターンだろう。ここで張り込むようになって数週間、似たようなパターンの連中はよく見てきた。  足早に木扉の先に消えていった狼人を追い、俺も便所へと足を踏み入れる。あのサイがこまめな掃除などするはずもないので、当然便所の中にはくぐもった悪臭が漂っている――かと思いきや、実はそこまででもない。  扉を開けば、ほとんど正方形に近い小さな部屋が広がっている。奥の壁にはプライバシーなど知ったことか、と言わんばかりの大きな切り窓が開いており、窓の先は裏路地の一本に通じている。この便所利用者のことを一切考えていない大窓のおかげで便所の中の空気は比較的ましな臭気に抑えられ、通りすがりの人々は客の放尿シーンを余すところなく拝むことができるのである。  この宿の便所には、普通の建物に備えられているような陶器白塗りの便器はない。部屋の中央に小便用の大壺がひとつと、部屋の奥のほうに地面に埋まって口を開いている小さな壺が数か所――これは排便用だ――があるだけだ。小便用だろうが大便用だろうが姿を遮るようなものはなにもないので、基本的に利用者は余すところなくその姿を晒すわけで、これが俺のような『好き者』にはたまらないというわけだ。  さておき、扉を開いて便所へと入れば、小便用の大壺に向かいズボンと下着のトランクスを下げ、壺の底面にそこそこの太ましさの竿を向けようとしていた狼人と目が合う。便所の奥にある切り窓から自身の股間を覗かれないよう窓に背を向けようとすれば、その対面から入ってきた俺とばっちり目が合うようになっているのだ。  俺はいたって普通に小便をしに来ましたよとでも言いたげな、まるで何でもないような振りをしつつ、狼人の対面へと立つ。俺の正面にぶらりと垂れ下がる狼人の太チンから迸る薄黄色の放物線が壺の底面に突き刺さり、たぱたぱと軽い水音を立て始めていた。 (たまんねえ……!)  眼福、ああ眼福。普通の宿では行き届きがちなプライバシー保護用の衝立などもないので、小便中のチンポを拝み放題(しかも真正面から!)なのがこの宿のいいところだった。個人的には、王都の中では三本の指に入る神スポットと言っていいだろう。  生唾を飲み込みつつ、目の前の狼人を気取られないよう観察してみる。彼は対面で小便をおっぱじめている俺に遠慮してか、視線を露骨に俺のほうへ向けないようにそらしている。そのお陰で、気取られることなく彼のことを観察できそうだ。  まず目を引くのがそのチンポの太ましさだ。特に狼獣人のような大柄な獣人は、俺のような人間と比較すれば遥かに巨大なチンポを持つ傾向にあるが、彼のそれは他と比較しても一級品だ。しっかりと皮が剥かれ、露になった赤黒い亀頭の先からじょろじょろと吹き出す小便の水流の太さ、勢いを踏まえて、まるで消火用のホースのようだ。  二人分の小便が底だまりしていくにつれ、音がじょぼじょぼと水に水の突き刺さるような音に変化していく。狼人は結構な量をため込んでいたらしく、次第に勢いの落ち始めた俺とは対照に、まだまだ出続けている。  とはいえ、流石に居座っているのも妙な話だ。若く瑞々しい一物をしっかりと目に焼き付け、俺はそそくさとその場から退散した。


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