SamSuka
夜空さくら
夜空さくら

fanbox


流刑少女の監理員の受難 その1

※『流刑少女』シリーズの裏側で起きているお話です。こちらのみ全体公開となりますが、全体公開分だけ読んでも話は通じるようにする予定です。 ――――――――――――――――――――――  我が国はそんなに大きな国土を有するというわけではないため、関所から中央管理塔まで移動するのにも時間はかからなかった。  バギーを降りて特別案件が入国したことを国の上層部に伝えた。ちょうど会議をしているところだったので、色々な場所にいく手間が省けてよかった。  会議に集まっている上層部の内の一人、私たち管理員のまとめ役は、私の報告を聞いて嫌な感じに微笑んだ。  この人はハンサムだけど、言動が冷たいことが多くて、正直あまり好きじゃない。 「ほほう、久々の特別案件……それも女性の囚人ですか」 「何年ぶりかのぅ? 以前来たのは男じゃったか」  町の防衛を司る衛兵隊を指揮する、初老の将軍様は懐かしそうに呟いた。  数年前というと私はまだ学生だった時分で、囚人を見かけた覚えがない。放送くらいはしていた気もするけど。 「そうですね。その時は確か適当に坑道を掘る仕事をやらせたのでしたか」 「あの大国の技術力は素晴らしいからのぅ。囚人どもが身に付けているあの囚人服。あれのおかげで劣悪な環境にも耐えることができるんじゃな」 「ええ。おかげで危険な場所を難なく掘り進めることができました」 「あれはあれで有用じゃったの……今回はやはり奉仕活動に従事して貰うべきか」 「病気の心配もありませんしね」  その奉仕活動というのがどういう活動なのか、わからないほど初心ではない。  私が何かを言える立場ではなかったので、黙っておいた。 「別嬪さんなら良いんじゃがの。……どうなんじゃその辺?」  そんな話を私に振らないで欲しい。  けれど、相手は国の重鎮なので応えないわけにもいかない。 「そうですね……同じ女性の立場から申し上げますと、十分美しいかと。少なくとも私などよりよっぽど綺麗な方でしたよ」  その私の答えに、上司が感心したような面持ちになる。 「ほう。管理員になった貴女が言うなら、よほどの美人らしいですね」  言い方に引っかかるものを感じた。  管理員の選抜試験はとても厳しいものだ。並み居る競争相手に勝って初めて関所の管理員となることが出来る。  けれど、まことしやかに囁かれる話として、『女性の管理員はある程度容姿で選ばれている』というものがあった。  国の顔となる存在なので、ある程度の優れた容姿が必要なのだという理屈だ。  私個人としてはくだらない噂だと思っているし、ちゃんと実力で管理員の資格を得たと思っている。正直、試験に落ちた人の負け犬の遠吠えだと思っていたくらいだ。  けれど、上司の言い方だと本当に選考基準に容姿が含まれていて、それをクリアしているからこそ「管理員になった貴女がいうなら」という言葉が出たのではないか。  被害妄想かもしれないけど、なんとなくそれは当たっているような気がした。  嫌な感じだ、本当に。 「ともかく、事情は把握しました。すぐに公共放送をかけて国民に注意を呼びかけましょう。……ああ、それと貴女は部屋の外でしばらく待っていてください」  もう戻れると思っていただけに、そんなことを言われて不本意だったけど、上司の命令だから仕方ない。何かしら面倒な仕事を押しつけられるんだろうけど。  私が退出してしばらく。  中で話し合いが終わったのか、上司が会議室から出てきた。 「お待たせしました。護送のバイクを待機場所に誘導してください」 「待機場所、ですか?」 「ええ。国の入り口にいられるのも邪魔ですからね。場所はこの広場です」  そういって上司が地図を差し出してくる。  普段あまり使われない広場の場所に×印がつけられていた。  ここに誘導しろということか。確かにここならあまり人目にはつかないだろうけど。 「ここに移動させる必要があるんですか? 邪魔といっても、バイクですし……」  出入国の邪魔になるとは思えない。ちょっと脇に退いておいてもらえばそれでいい話の気がする。明らかにオーバーテクノロジーの塊に関わりたくないというのが本音だった。  けれど、上司は首を横に振る。 「我が国と関係のない存在ですからね。行商人や旅人が来る予定はいまのところありませんが、あれを見て我が国を誤解されるのも面倒です」  あのバイクを基準としたような科学文明があると思われるということだろう。すぐに誤解は解けるのだし、問題ないと思うのだけど……哀しいかな、私は所詮下っ端なので、やれと言われればやるしかない。 「わかりました」 「ああ、それと言うまでもないですが向こうを刺激しないようにしてくださいね。かといって舐められても困りますので、程々でお願いします」 「承知しています」  オーバーテクノロジーの塊に好き好んで喧嘩を売るような、短慮な女だと思われるのは心外だ。  私は上司に向かって一礼し、バイクに移動してもらうために関所に向かった。  その途中、中央管理塔からの放送が響き、特別案件がやって来たことを告知していた。  これからあの女性がメインストリートを歩くのだろう。さっそく物見高い国民たちが見学に動いているのが見えた。皆退屈しているのだろう。  犯罪者が引き立てられるところを見学するなんて、趣味が悪いとは思うけど、正直な話、私も関係なかったら好奇心で見学くらいは行ってそうだから何も言えない。  関所に戻ると、ちょうど先輩が例の囚人を引き立てて建物から出てくるところだった。  女性には口枷がつけられていて、なんと乳首にピアスが通され、吊された鈴が音を立てていた。  驚いてその姿を見つめると、女性は恥じらうように身体を縮める。両手が後ろで拘束されているから、隠そうとしても隠せないのだ。 「なにいっちょ前に恥ずかしがってんだ! しゃんとしやがれ!」  先輩がそう言って警棒で女性の臀部を軽く叩く。囚人は呻きながらも、背筋を伸ばした。 「おう、これから中央管理塔までこいつを護送するぞ。……お前が鎖を持ってみるか?」  にやにやとした笑みを浮かべて先輩が手に持った鎖を示してくる。  私は首を横に振った。 「上から仕事を言いつけられてまして。犯罪者の護送は先輩にお任せします」  元から譲る気はなかったのだろう。先輩は嬉しそうに鎖を握り直していた。 「そうか。まあ頑張れよ。……こいっ」  先輩が犯罪者の鎖を引いて、道を進んでいく。道にはすでに人だかりができ始めていた。  私はひとつ溜息を吐き、関所を通って外へと出る。  バイクは変わらぬ姿でそこに止まっていた。私は少し緊張しつつ、バイクに向けて敬礼しながら近付いた。 「失礼いたします。大変恐縮なのですが、引き渡しの時刻まで待機する場所を指定させていただきたく思います」  なるべく失礼のないように、けれど謙って下手に出過ぎもしないように。  上司も難しいことを言ってくれる。  バイクは全く動きを見せないまま、声だけ返して来た。 『現在地から移動する必要性がありません』  私もそう思う。 「これは上層部からの要請となります。私に移動の必要性を判断する権限はありません」  上から言われてるから仕方ないんですよ、と言いたかった。  機械に対してそんな言外に含めるような言い方が通用するとは思えなかったのだけど、思いがけず、あっさりとバイクは承諾してくれた。 『現地監理員の要請を受諾しました。待機場所への誘導をお願いします』  あっさりと受け入れてくれるあたり、ありがたいけど、どれほど高性能な人工知能を搭載しているのかと戦慄する。いまの言葉の流れからすると、私の立場を慮ってくれたようにも思えた。  単に定められた条件通りの行動だとしても、ありがたいことには違いない。 「感謝します。それでは私の後ろに付いてきてください」  バギーに乗って移動を開始する。バイクは私のスピードに合わせ、つかず離れずの距離で付いてきてくれた。  メインストリートを外れた道を行ったので、あの囚人がどんな風に晒されているのかはわからなかった。ただ、遠くに聞こえる喧噪からすると、相当な人が集まっているみたいだ。  ノリノリだった先輩が連れているのだ。さぞかし恥ずかしい目に遭わされていることだろう。同じ女性として少し同情してしまう。  私は余計な同情心を切り捨てて、上司に指定された待機場所へと向かった。  普段はあまり使われていない広場だ。隅には廃材などのジャンク品が積み上がっている。いまさらだけど、こんな場所に連れてきてよかったのだろうか。ゴミ捨て場で待たされるようなもので、人間だったらいい気分はしないと思う。 「ここが指定された待機場所です」  私はバギーを止めながら、バイクに向けていう。バイクは無言で広場の入口に止まった。 『現地管理員に要請します』  突然そんなことを言い出したので、私は思わず身構えてしまう。 「……なんでしょうか?」 『降車してください』  何を要請されるのか不安に思いつつ、バギーから降りた。  すると、バイクがゆっくりと私のすぐ傍まで近付いてくる。危害を加えられることはないはず、と思っても怖いものは怖い。 『両腕を揃えて前に出してください』 「……あの、いったいなにを」 『出しなさい』  有無をいわせず、とはこういうことを言うんだろう。  私が恐る恐る腕を前に出す。なんだか今から捕まろうとしている犯罪者みたいだな、と頭に過ぎった瞬間だった。  バイクから飛び出したリストバンドが、私の両腕を拘束した。  しかもそのバンドには太い鎖がついていて、私はバイクと繋がれてしまった。思わず抵抗しようとしたけど、巻き付いたバンドはびくともしない。 「ひゃっ!? ちょ、な、なにを!?」  突然の暴挙に声をあげると、それ以上の鋭い声をバイクがあげる。 『警告。待機場所に指定された箇所の直下に大量の爆発物を感知しました。こちらを害する目的であると判断します』  驚きで声もあげられない私に対し、バイクは淡々と続けた。 『貴女の上層部からの明確な説明と謝罪があるまで、安全を確保するために協力していただきます』  私は犯罪者護送用のバイクによって、拘束されてしまった。 つづく


More Creators