流刑少女の監理員の受難 その4
Added 2018-07-11 13:03:55 +0000 UTCとんでもない技術力を持つ大国の、囚人護送用バイクに拘束されて半日。 時刻は夜の帳が降りようとしている時間帯になっていた。 私は国の人が持ってきてくれたご飯を食べ、一息つく。 「力不足ですまない……せめて見張りは女性の衛兵をなるべく手配するようにする」 人質の交換を申し出てくれた隊長さんは、食事を持って来てくれたときにそう頭を下げてくれた。 私としては、そこまで真剣に考えてくれているだけでありがたかったし、あのクソ上司に比べて、ちゃんと私のことを思ってくれているということに感動すら覚えた。 「あなたの責任じゃありませんし、気にしないでください。色々気を回してくださるだけで助かっています」 食べた後の食器などを片付けている際、隊長さんはさらにありがたい話をしてくれた。 「あとで寝具なども運ばせる。野外なのは仕方ないが……耐えてくれ」 腕が拘束されているのは外せないけど、テントや寝袋などがあれば夜露は凌げるし、このまま寝るよりはかなりマシだろう。寝る時はどうなるのか不安だったので、安心した。 しかし、私が安心したその時、バイクが口を挟んできた。 『必要以上の物資の提供は認められません。危険物を紛れ込ませる可能性があります』 要は、寝具などの大型の物資は近付かせないということらしい。 確かに食事と違って、寝具とかはその気になれば爆発物とか仕込めそうだけど。 それでも、そこまで徹底する必要があるのだろうか。そもそも地中に埋まった爆発物さえ感知したバイクが、それがわからないはずがないとも思う。 「馬鹿な! こんな野外で、設備もなにもなしで彼女に寝ろというのか!? 確かにこちらに非があったかもしれないが、それはさすがに横暴すぎるだろう!」 隊長さんが勇敢にもそう噛みついてくれた。 私もそう思うので、何度も頷いて同意する。 そんな私たちの訴えにも、バイクは淡々と続けた。 さすがは機械というべきか、隙が無い。 『就寝するための装備はこちらから提供可能です』 「っ、しかし……!」 隊長さんはそれでも食い下がろうとしてくれたけど、バイクは何をするかわからない。 私は隊長さんに声をかけた。 「ありがとうございます。私は大丈夫ですから……ここは退いてください」 もちろん本当は囚人護送用のバイクが提供する就寝具とか嫌だったけど、私さえ我慢すればいいのだから仕方ない。 隊長さんは申し訳なさそうな顔で、しぶしぶ退いてくれた。 「何か困ったことがあれば、何でも言ってくれ……可能な限り、用意する」 そういって隊長さんは去って行った。本当にいい人だ。 私は暗くなってきた空を見上げて、バイクに尋ねる。 「……それで、どんな素晴らしい就寝具を用意してくれるんですか?」 ちょっとトゲのある言い方になったのは許して欲しい。 首謀したっていうならともかく、私は巻き込まれただけなのだから、いい加減取り繕うのも限界だった。 幸い、バイクの方もそんな細かいことは気にしないようで。 『まずは排泄時同様、座席部分に跨がってください』 「……もしかして、また拘束するんじゃないでしょうね」 さすがに落ち着いてきているけど、洗浄の際の刺激に翻弄された記憶はまだ新しい。 あんな行為をされるくらいなら、このまま野外で寝た方が幾分かマシだと思った。 『拘束はしません』 「……本当に?」 『虚偽の発言は行えません』 人間が言ったなら、その発言自体がもう胡散臭いのだけど、機械が言うからにはそうなのだろうか。 私は散々迷った末に、とりあえず跨がることにした。 スカートがずり上がらないように注意はしたけど、跨がるという動作上、どうしても少しはめくれ上がってしまう。特にいまは下着を履いていないから、余計に気を使う。 際どい格好になっているのを自覚しつつ、なんとか跨がった。ひんやりとした座席部分があそこに触れそうになって、慌ててわずかに腰を浮かせる。 「それで、どうすれば……」 『まず防壁を展開します』 言うが速いか、バイクの周囲に壁が生じ、私は卵の中に閉じ込められる。 考えてみれば、この状態って監禁されているのと一緒で、拘束のあるなしとか関係ないかもしれない。防壁っていうくらいだし、素手で壊せるようなものじゃないだろう。 そう思っていると、急に私の股間に、座席部分が触れて来た。 「ひゃっ!?」 確かに触れないように腰を浮かせていたはずなのに、なぜ。 そう思ってその部分を見てみると、座席部分が持ち上がって向こうの方から触れて来ているのが見えた。 「ちょ、なんで――」 『必要な処置です。就寝用クッションの展開を開始します』 そうバイクが言った途端、四方八方から膨らんできた何かが、私の身体を四方八方から押さえつけてきた。 「んむぅっ!? むぅうう!?」 それはものすごく柔らかく、私の身体のわずかな凹凸にも合わせて押さえ込んでくる。鼻が潰れない絶妙な力加減で、けれど一部の隙も無く、私は抑え込まれていた。 それほど柔らかい素材なのに、私が身体を動かして押しのけようとすると、途端に反発力が強くなって、身体を自由に動かすことが出来ない。 (く、苦しい……っ! 息が出来ない……!) 鼻や口が塞がれていて苦しい。暴れようとするのを、バイクの声が諫めた。 『落ち着いてゆっくり呼吸をしてください。このクッションは通気性が高いので、窒息はしません』 (そんな無茶な!) そうは思ったけど、従うしかなかった。 緊張と恐怖で跳ね回る心臓を感じつつ、努めてゆっくり、呼吸を繰り返す。 そうしてみると確かに通気性は良く、吐く息で熱くはなるけど、呼吸は出来た。 それにしても、妙な香りのするクッションだった。深く長く息をしないといけないこともあって、急に眠気が襲ってくる。 意識が朦朧とした時、股間に触れていた座席部分から柔らかい何かが私の股間に入り込んできた。 頭がぼーっとしていた私は、それを何の抵抗もなく受け入れてしまう。 少し感じていたお腹の張りの感覚が消えていくのが、どういうことなのか考えることもなかった。 ただ、気持ちよい酩酊感を感じつつ、私は―― 不意に、股間に震動を感じて、頭が覚醒する。 『日が昇り始めました。起床してください』 「……え?」 私の身体の周りを覆っていたクッションが縮み、身体が自由になる。 展開されていた防壁が折り畳まれていくと、外から流れてくる空気は確かに朝の空気だった。日の出が遠くに見えている。 「…………ええ!?」 バイクの上で唖然としていると、最後バイクの声が響いた。 『おはようございます。睡眠時間は10時間ほどです』 「えええっ!? うそっ!?」 思わずそう叫んだけど、でも確かに晩ご飯を食べた時間から日の出まで逆算すると、それくらいの時間にはなる。 普段より寝ているくらいだ。頭も身体もしゃきっとしているのはだからか。 それにしても、バイクの上に跨がったままという不自然な体勢だったのに、10時間も寝れるものだろうか。 私はバイクから降りつつ、なんとも納得のいかない感じがした。 「……もしかして、睡眠薬とか、そういう薬を使いました?」 それまでほとんど眠気もなかったのに、一瞬で意識が途切れたのは何か妙な気がする。 『いいえ。指摘されたような薬品は一切使っていません』 「……指摘されたような? 薬自体は使ったんですか?」 『クッションには芳香剤が用いられています』 あの妙にいい匂いはやっぱり素材そのものの匂いじゃなく、後付けのものだったようだ。 「……もしかしてそれが睡眠薬代わりになったとか?」 『その可能性は低いと思われます。一般的に使われている芳香剤です』 そうバイクは言って、私もそういうものかと納得したけど、あとから考えるとこの発言は「超技術を持つ国での一般的な薬」が、私の生まれた国ではどれほどの影響を及ぼすのかということは考えられていないものだった。 確かにバイクは嘘を吐いていなかったけど、認識の差がその致命的なすれ違いを起こしていることに気づいていなかった。 その時の私は、拘束されたままの両手を揃えて頭の上に上げ、のんびりと身体を伸ばしていた。 この拘束がなければ清々しい朝なのにな、などと暢気に考えてさえいた。 致命的なすれ違いが着々と進んでいるのを、私はまだ自覚していなかったのである。 「……そういえば、着換えもさせてくれないつもりですか?」 この国では火山地帯の裕福な国みたいに、毎日湯浴みをする習慣はない。 でも、服は着替えるし、下着は履き替えるし、毎日身体を拭くくらいは当然している。それができないというのは、この国基準でも不潔なことだった。 バイクはしばらく沈黙した後、こう言った。 『希望するのであれば、全身の洗浄を行うことはできます』 「…………」 私は少し考える。バイクのやることは大抵が拘束された状態が基準になっている。考えてみれば当たり前で、このバイクはどこまでいっても囚人護送用だ。 排泄時であれ、就寝時であれ、囚人を自由にさせるわけがなかった。 つまり、全身の洗浄とやらも拘束状態で行う可能性が高い。 「……結構です。濡れタオルくらいなら、持ってきて貰っても大丈夫ですよね?」 『可能です』 「なら、そうします」 なんだかんだいって、バイクは用事が済んだらすぐ解放してくれるし、少なくともこれ以上何も起きないのであれば、バイクがこれ以上私に何かしてくるということはないと思う。 私はそう考えていた。 それが、甘い考えだったとすぐに思い知ることになる。 それは、なんだかんだといいつつ、バイクに拘束されて二日が経過した日のことだった。 さすがにその頃には私もだいぶ拘束生活にも慣れていて、相手を刺激しない範囲で、バイクに色々な話を聞いたりする程度にはバイク自体に慣れていた。 「それじゃあ、海の方にはそんな、一生を海の上で暮らすような国があるんですか?」 『それどころか、海の中で一生を暮らす国もありましたよ。その国では特殊なスーツを身に付け、水中呼吸が出来るように身体を改造しているのです』 「そんなところに訪れて、刑罰を受けるって……囚人は大丈夫だったんですか?」 『問題ありません。元々その国の刑罰とは、身につけているスーツの機能を制限し、死なない程度に溺れさせることにありました。ゆえに、外から来た我々のような存在は、国に滞在することそのものが罰になります』 「……というか、あなた水中も行動できるんですね」 水陸両用というらしい。 そんな風に色々な面白い話を聞けるくらいにはバイクに慣れ、明後日には解放されると思うと、ちょっと残念に思う気持ちも湧いてきた頃のことだった。 話をしている間、喉が渇いて水を飲んでいたので、私は自然と尿意を覚えてしまった。 「……すみません。いつもの、お願いしてもいいですか?」 バイクは勝手知ったるとばかりに、座席部分を排泄時の形状に変形してくれた。どうもバイクに取り付けられている各種センサーのおかげで、私の空腹度合いや尿意の有無まで把握されているようなのだ。私が言葉を濁しても、ちゃんとその対応をしてくれる。 もう何度も繰り返してきたことだったので、もうバイクに跨がって用を足すのに抵抗はなかった。 洗浄時に拘束されるのだけは慣れなかったけど、自分で拭くより早く、綺麗になるというのがわかっていたし、それに気持ち良いというのもあって、抵抗しなくなっていた。 あとから思えば、完全にハマっていたのだけど。 いつものように私がバイクに跨がり、バイクが防壁を展開し、そして私が用を足す。 ほっと一息吐くのと同時に、脚の付け根と腰が拘束され、洗浄用の歯車型のブラシが私の股間を洗い出す。 もう驚かないし、慣れた。それでも股間を擦り揚げていくブラシによる刺激は特別で、私は身体を震わせて刺激に耐えなければならなかった。 いくら気持ちいいとはいえ、この場で喘ぎ出せるほど、私は達観したわけではなかったので。 そうしていつも通り洗浄が終わり、ブラシが収納されていく。 (ふぅ……終わった……) 用を足した後の解放感と、ブラシによる刺激の心地よい余韻。 その時、急に手の枷が外れた。いままでなかったことに驚いていると、バイクから指示が飛ぶ。 『前方、胴体の左右に飛び出しているバーを握ってください』 みれば、私が身体を伸ばしてやっと届きそうな位置から、細い棒が飛び出していた。 すっかりバイクを信用していた私は、どういうことなのかと聞くこともせず、言われるままにそのバーをそれぞれの手で掴む。 かなり前のめりになって、胸をバイクの胴体に推し付けなければ届かなかった。 「握りましたけど、これはなんで……ッ!?」 両方のバーを握った瞬間、手首の横の部分が開き、そこから飛び出したマジックハンドのような拘束具が、左右それぞれ手首を押さえた。思わず手を引こうとしたら、想像以上に強い力でその場に固定されていて、身体が少し退いただけだった。 左右の手首と腰、そして左右の脚の付け根。 合計五カ所で固定された私の身体は、バイクから離れられないようにされていた。 「えっ、ちょっ、なにをっ!?」 『……警告。500メートル後方に此方を向いた大砲の設置を確認。其方の国の行動は明確な敵対行為と見なします。ただちに大砲の撤去を行ってください』 私だけじゃなく、それは周りの見張りにも言っているようだった。私はまだ防壁内にいたから、外の様子はわからなかったけど。 「嘘でしょ!? 何やってるの!?」 『……貴女に非はないようですが、より明確な敵対行為が明らかになった以上、より厳しく拘束し、確保させていただきます』 そのバイクの言葉は、いままでのやりとりなんてなかったように冷たく響いた。 私の目の前にあたるバイクの胴体が開き、中からおぞましい形状をした何かが迫り上がってくる。 つづく