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夜空さくら
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流刑少女の監理員の受難 その6

 囚人に巻かれている首輪は、一度巻かれれば二度と外されない。  それは囚人を囚人たらしめている道具であり、囚人の首からそれが外されるのは、囚人が死んだ時だけ。  そんな話を、いままさに私に首輪を付けようとしている当のバイクから聞かされていた。 (いやぁ! あの囚人みたいになりたくない!)  このバイクが連れてきたあの囚人の姿を思い出す。  先輩の手によって鎖を牽かれ、国の中央部へと牽き立てられていった彼女。口枷を噛まされ、乳首に鈴のついたピアスを通され、明らかに性的虐待を受けていた。バイクから聞いた話じゃ、これまで訪れたどんな国でも、ほぼ例外なく虐待めいた性的奉仕をさせられていたらしい。  あの囚人と同じ首輪を巻かれるなんて、冗談じゃない。  私は無駄なことを知りつつ、全力で暴れた。たとえ手足が千切れても、この首輪の装着だけは絶対に阻止しなければならないと思ったから。  けれど、それだけの覚悟を持って暴れたのに、大国の技術力は残酷だった。  私がどれだけ力を込めて暴れても、自由を縛る枷はまったく小揺るぎもしない。枷が揺らぐことはなくても、私の身体は傷つくだろうと覚悟していたのだけど、枷と身体が擦れて傷つく様子すらない。  なんでそんなところだけ無駄に優しいのか。 (いやあああああッッッ!! やめてやめてやめてッ!!!)  半狂乱になって暴れる私をどう思ったのか、近付いてきていた首輪が一端止まった。 『……警告。抵抗は無意味です。抵抗を続けるようであれば、装着時の安全を確保するため、相応の処置を行います』 (やめられるわけないでしょうがッ!!)  私は全力で身体を暴れさせる。裸で暴れる感覚は、とても恥ずかしいものだったけど、暴れるのをやめるわけにはいかなかった。  少なくとも、暴れている間は装着できないだろうと踏んで。  けれどそれは、悪手でしかなかった。  ただでさえ浅い呼吸しか許されていない私は、いくら抵抗しようとしても、暴れたことによって息苦しくなって、動きが緩慢になっていってしまっていた。  それでも暴れるのを止めるわけにはいかない。 (なん……とか……はぁ……はぁ……しない、と……!)  目の前の画面に映し出されている映像でも、私の動きがどんどん弱まっていっているのが目に見えてわかった。全裸にされた身体に玉となった汗が浮かんでいる。  それでも首輪が動き出すのを見て、私は根性で身体を暴れさせる。少しでもその装着を遅れさせることしか、私には出来なかった。  それに意味なんてないのに。  やがて許容範囲を超えたのか、バイクの声が再度響く。 『懲罰機構を起動します』  それと同時に、私は急に呼吸が出来なくなった。 (うぐっ……く、苦しい……っ!!)  どれだけ必死に鼻から空気を吸おうとしても、まったく新しい空気が入ってこない。  完全に気道が封鎖されていた。本格的な酸素不足に陥り、ただでさえぼやけていた視界が急激に白くなる。頭がぼーっとして、暴れようとする気力そのものが削ぎ落とされる。 (う……だめ……首輪……つけられたら……)  戻れなくなる。  それだけはなんとか避けないと。 『首輪の機能には特殊ラバースーツの展開機構があります。このスーツは耐熱・耐刃・耐衝撃に優れているものです。貴女の安全を確保するために必要な処置となります』 (……私の安全の、ため?)  酸素不足でぼんやりとした頭に、その言葉は滑るように入り込んできた。 『通常、首輪は不可逆的な装着となりますが、貴女は人質であっても囚人ではありません。解放時に首輪は解除されますので、ご安心ください』 (……それなら、そうと……いいなさいよ……)  最初に言って欲しかった。私は不親切なバイクに不満を抱きつつ、抵抗する気力を完全に削がれ、無抵抗状態に陥る。  動けなくなった私の首に、首輪が巻き付いた。苦しくもなければ楽でもない、そんな絶妙な力加減で首輪は締まり、固定される。 『首輪装着完了。特殊ラバースーツを展開します』  バイクの言葉と共に、首輪から不定形の黒いものが噴き出して私の身体を覆っていく。 (ひゃあっ! ちょ、な、なにこれ!?)  こんな風にしてあのスーツが着脱されていたとは思わなかった。  頭部は、髪の毛やすでに装着されている仮面もも巻き込んで、のっぺりとした卵状になってしまう。いままではまだ人の頭部ということがわかったけど、いまはもうただの黒い球形の何かにしか見えない。  不定形の何かは身体にも広がって、私の素肌が見えている部分をあっという間に無くし、黒い人形みたいな姿に変えてしまった。  黒いものに包まれて光沢を放つ乳房が妙に大きく見えるのは、単に印象の問題なのだろうか。否、スーツは身体を程よく締め付けているから、それによってスタイルが引き締められて、相対的に胸が大きく見えているみたいだった。 (もしかして……囚人の外見が優れていることが多いのって、この服のせい?)  私はよくわからない技術を用いたスーツによって、優れた体型に無理矢理変えられているのではないか、という意味で考えたのだけど、その予想は当たらずとも遠からずだった。  スーツには的確に脂肪を燃やし、筋肉を付けさせる効果があった。加えて、肌に接する部分からは潤滑油を兼ねた肌を清潔に保った上、磨き上げる粘液がにじみ出ている。その粘液は場所によって少し配合が変わり、無駄毛やシミといったものも処理してしまうとか。  さらに、バイク自体の機能で移動中の睡眠時間と、栄養バランスも含めた食事は完全に制御されている。  持って生まれた顔と骨格はどうしようもないとしても、それ以外を完璧に調整されれば、相応の容姿にはなる、という話だった。 『特殊ラバースーツ展開完了。指定した期限まで残り18時間。拘束を続けます』  バイクはそう告げると、静かになった。目の前の映像も消え、視界が真っ暗に戻る。  あとは時間までこの状態で待てということなんだろう。  浅い呼吸を繰り返しつつ、私は思いを巡らせる。 (これ以上、上層部が何かしてきたら……私、どうなっちゃうのかしら)  最初は腕の拘束だけだったのに、いまや全身拘束されてしまっている。食事の自由も排泄の自由も奪われ、これ以上何を奪われてしまうというのか。  自分の命が自分の自由にならない状態に、私は途方もない無力感を覚えていた。  軽く身体を捩らせて見ると、スーツが軋む音が響いて、あまり身体の自由が利かないことがわかった。スーツを装着されるまでは枷が密着している部分以外はまだ動かすことができたけど、いまはスーツ自体が動きを阻害していて、指先や足先もほとんど動かせない。 (……やっぱり、首輪は装着させたらダメだったかも……)  安全のため、とバイクはいうけど、完全に自由を奪うのが目的だったんじゃないだろうか。これでは仮にバイクから解放されたとして、バイクが首輪を外してくれなければ私は自分で自分の身体を洗うこともできない。  その時、急に自分の足がピクピクと痙攣し始めた。 (ま、まさか足が痙った……? いえ、そういうわけでもない、のかしら……?)  咄嗟に激痛を覚悟した私だけど、痙攣以上の動きが起きないのを知って戸惑った。  そんな私の疑問に答えるように、バイクが教えてくれた。 『スーツは定期的に筋肉や神経を刺激し、長期間同じ体勢をとり続けても身体の状態を正常に保つようになっています。その際、多少の刺激が与えられますが、身体に害はありませんのでご安心ください』  そういうことはちゃんと教えてくれるくらいに気が利くなら、首輪の装着に関してもきちんと教えて欲しかった。  とにかく、問題がないならそれで安心だった。  けれど、その安心は甘かったのだと直後に私は思い知る。  いきなり、乳房全体に震動が加えられたからだ。 (ひぐっ!? ひあっ!? な、なんなの!?)  まるで私の乳房が撫でさすられているような感触。身体を動かせないから、その震動から逃れる事も出来ず、ただ、突然与えられ始めた性的快感に戸惑うことしかできない。  刺激を与えられて乳首が硬くなっているのが、わかる。その乳首目掛けて、的確に刺激が与えられたのだから、溜まらなかった。 「ンギィ!! フゴッ、ウグゥ……!」  ただでさえ限定された呼吸の中、その刺激は呼吸を乱すのに十分なものだった。  刺激はそこだけでは済まず、うなじや鎖骨、首筋に背筋、そして秘部にまで刺激が与えられ始めた。 (んぐぐぐ……! い、いっちゃう……っ!)  性的な経験はそれほど多い方ではないのだけど、絶頂の経験くらいはあった。それがいまにも訪れそうだと、身構えた瞬間。  始まった時と同様、刺激は休息に収まっていった。限られた空気で呼吸をしつつ、目の前まで来ていた絶頂を取り上げられて呆然としてしまう。 (うう……いったいなんなのよ……いまのも、身体の状態を保つための刺激……ってわけ?)  今度の疑問に答えはなかった。絶頂寸前まで高められた身体は火照り、何の刺激を与えられないことに不満すら感じる。  けれど、私に出来ることはなく、ただじっと時間が過ぎるのを待つだけだった。  私が呼吸して、空気が出入りする音が響く。  あれからもう何時間が経過したのかわからない。周りが明るくなったのか暗くなったのかもわからないし、鳥や虫の鳴き声だって聞こえない。  時折、身体の筋肉が痙攣したり、お腹が膨らんだり凹んだりしたり、微睡んだりしたりしていたけど、それは時間の感覚をはっきりさせる役割は果たしていなかった。  何度か乳房や秘部に対する性的快感を与えるという行為もされていたけど、それも不定期で時間を計るための基準にはならなかった。 (もう次の日になったのかしら……?)  全然わからない。推測する手段すらないのだから、どうしようもない。とにかく、早くこの状態から解放して欲しい。気がおかしくなってしまいそうだった。  ただ、それは苦しいとか辛いとかではなく、いまの状態を受け入れてしまいそうという意味で、だった。 (こんな状態が長く続いたら……普通に生きていけなくなっちゃう……!)  もう遅いのかもしれないけど。  それに、性的な絶頂を何度もお預けされたせいで、私は次の刺激が来るのをいまかいまかと待ち望んでしまっていた。また最終的には絶頂直前で刺激が取り上げられるのであろうことは自覚していても、少しでも気持ちよくなるために刺激が欲しくて溜まらない。  その刺激をもらえるなら何でもしてしまいそうな、そんな風に躾けられているような気がした。  もう取り返しの付かないところまで、堕ちてしまっているような。  次の刺激を待っていた私の視界に、急に映像が映し出された。急に眩しくなった視界に思わず顔を顰めつつ、その映像を見つめる。 (……これは……長官と、司令官?)  ジープに乗って、こちらに向かってきている正面からの映像だ。  どうやら、バイクの指定していた期限が来たらしい。 (これで解放されちゃうのか………………え?)  私は、なぜかそのことを残念に思っていることを自覚した。  解放される時が来たというのに、私はこの状態を脱してしまうことに、残念な気持ちを抱いていた。思わず呆然としてしまう。  バイクによって与えられた快感は、この国の技術レベルでは再現するのは不可能だ。  それはつまり、この時間が終わったら二度とこの快感は与えられないということで。 (い、いやいや! 自由も何も無いじゃない! 快感はあっても……それじゃあ、ダメよ!)  そう言い聞かせる。ただ、早く解放してくれと願いながら。  これ以上取り返しの付かない場所に墜ちる前に、早く解放して欲しいと願う私が見ている映像の中で、ジープが止まった。 (あれ……? やけに、遠いような……)  普通、もっと近くで止まるんじゃないだろうか。  疑問に思う私の前で、司令官がゆっくりとその手を振り上げ、振り下ろした。  それと同時に、バイクの周囲直径50メートルほどの地面が、その上にあった建物と物、そして――バイクと私ごと崩落した。 つづく


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