改変された世界の片隅で ~改変された授業は過酷なものでした①~
Added 2018-10-08 13:27:39 +0000 UTC授業が続く。 最初はこんな格好でまともに授業を受けることなんて出来ないだろう、という気持ちだったけど、普通の授業は普通に進行していたし、下手に身体を動かせない分、集中出来てしまったくらいだった。 一時間目の授業は昨日までの授業と同じく、担当の先生が教科書を読むだけ、という退屈なものだったけど、二時間目三時間目の授業はこの世界に合わせてきちんとバージョンアップが計られていた。 飽きさせない工夫という物がちゃんとあって、話を聞いているだけなのに面白い。どうやら前から熱意のあった先生はちゃんと授業のやり方というのを考えてくれているみたいだった。前の状態だと生徒の方が聞く気がなかったり考える気がなかったりしたけど、いまは皆それしか出来ることがないので、打てば響く状態になっている。 熱意がある先生ほど、良い授業になるのは当たり前かもしれない。 板書や計算はどうなるのかなと思っていたけど、板書の要点は自動的にまとめたものが机の液晶画面に表示されてくれたし、書かなきゃ解けないような複雑な計算は宿題として与えられた。 授業中は解き方のコツとか公式の覚え方とかが主で、この方が合理的だと感心してしまった。もっとも、宿題をするときに手の拘束は解かれるのか、ちょっと気になったけど、それはそのときになればわかるはずだ。 そんな感じで、比較的穏やかに授業自体は進行していた。 整えられた授業でこの身体の状態でも居眠りをしてしまう人はするのか、たまにふらふらした後に激しく震えていた人はいたけど、それもすぐに気にならなくなった。 人間の慣れって本当に怖い。 私の認識では数時間授業を受けただけなのに、生徒が皆全身ラバースーツに包まれて、呻き声以外の声を一切あげない、そんな異常すぎる授業風景を受け入れているのだから。 (やっぱり、私はもうとっくに狂ってしまってるのかも……) 昨日までの常識が薄らいで、新たな常識が上塗りされていくのを感じる。このまま私はこの世界に順応して、やがて周りの皆と同じように何も感じなくなるのかもしれない。 そんなことをとりとめも無く考えつつ、休み時間となっている空白の時間をぼんやりして過ごしていた。 改変された世界の休み時間はとても静かだった。脚の拘束は外れていて、多少身体は動かせるのだけど、椅子と股間の機械の接続が外れていないから、立ち上がることが出来ないからだ。皆脚を伸ばしたりぶらつかせたり、首を回したりする程度しかできない。 トイレに行きたくなったらどうすればいいのかわからないけど、いまのところ誰一人席を立ってトイレに行く気配がない。 それに、おしっこが溜まる感覚がないところを見ると、催さないように何らかの処理がされている可能性が高かった。 処理されているにせよ、何の感覚もないというのは恐ろしかったけど、認識すらできないせいで拒否感はそれほどない。 あるいはこの拒否感の乏しさ自体、私自身も改変された世界に馴染みつつある証拠なのかもしれない。 (たまたま完全に改変されそこなっただけで……本当は改変されるはずだったのかも) 元々世界はこうで、自分の頭がおかしくなったと思うより、世界の改変に取り残されたと思う方がまだ気は楽だ。 いずれこの世界を異常と感じている私の思いも消えてしまうのかもしれない。 この世界に抗う気持ちが徐々に消えつつあるのを、どこか冷静に感じていた。 そして――いよいよ、改変された時間割の中で、一際異彩を放つ『拘束』の時間がやって来た。 私には『拘束』の授業を受けた記憶がなく、担当の先生が誰かもわからない。 (知らない先生なのかな……男の先生だったらヤダなぁ……ああ、でも女の先生もなぁ) そう悶々と思いながら先生が来るのを待つ。 ここまでの授業では、男の先生は昨日までと変わらなかったけど、女の先生は皆ラバースーツのみを着ていた。 朝の斉條先生もそうだったけど、首から下が露出なくぴっちり覆われていて、身体のラインが強調されていてかなり卑猥な格好だったと思う。 私以外の誰も気にしてなかったけども。 その状態で器用に教科書を捲ったり、板書したりしていたから、なんとも奇妙な光景だった。テカテカした胸やお尻が身動きする度に揺れるものだから、気が散って仕方なかった。 これまでの授業のことを思い出していると、教室の扉を開けて斉條先生が入ってきた。いつも通りの悠然とした足取りで、教壇の前に立つ。 どうやら『拘束』の授業の担当は斉條先生のようだ。朝と変わらないラバースーツ一枚の格好で、厳しい顔つきで教室を睥睨する。 「皆起きていますね? 少し早いですが、移動を開始します」 斉條先生が教壇の上で何かすると同時に、椅子に股間を固定していた接続が外された。 身体の中に満ちていた突起物が収納されていくのを感じる。そういえばずっと貫かれた状態なんだった。途中からそれを意識しなくなっていたことに気付いて、ドキリとする。 立ち上がれるようになった皆が、一斉に立ち上がって動き始める。私も慌てて立ち上がったけど、皆と違ってどう動いたらいいのかわからないので、おろおろすることしか出来なかった。 教室の扉に対し、一列に並んでいるみたいだけど、何順なのか。 「水下司さん、早く並びなさい」 皆と違っていまだ机の傍にいた私に、斉條先生が厳しい目を向けてくる。 (どう並べばいいのかわからないんだから、仕方ないじゃない!) 反発心が沸き上がるけれど、そんなことを言えるわけもない。 というか、物理的に言えない。 私は並んでいる子達の並びを見て、背の順ではなく、出席番号順だと当たりを付ける。 慌てて列の後ろの方に向かいつつ、改めて自分の認識もおかしなことに気付いた。なぜなら、ラバースーツと全頭マスクを身に付け、同じ格好をしている私たちはほとんど見分けが付かないはずだからだ。 そりゃ目元とか、大体の体つきはわかるけど、昨日までの私では誰が誰かなんてとてもわからなかっただろう。よっぽど仲の良い美夜くらいならわかったかもしれないけど。 こうしてずらりと並ばれてみると、その判別の困難具合がよくわかる。 体内への器具の挿入に対する忌避感の薄さなど、内面的にも影響を受けてしまっている。 それはとても、恐ろしいことだった。 並んでどうするのかと思っていたら、どうやら一列に並んだ私たち生徒には、首輪に鎖が取り付けられるみたいだった。その鎖は前にいる子の首輪に繋げられ、クラスメイト全員が数珠みたいに繋げられている。 まるで奴隷が移動するみたいだな、と頭の片隅でぼんやり思った。 鎖はさほど遊びがなく、少しでも遅れたり早く歩き過ぎたりすると前後を引っぱってしまいそうだ。 「さあ、行きますよ」 先頭の子の鎖を握った先生が扉を開けて廊下を歩き出す。その後について、ぞろぞろとクラスが動き出した。チャリチャリ、と鎖の鳴る音がだけがうるさい。 私は遅れないよう、かといって足早にならないよう、速度を調整して前の子に付いていった。 廊下は昨日までとほとんど変わらなかった。誰が掲示したのか、『廊下は走らない!』みたいなポスターも昨日のままである。休み時間は自由に動けず、教室移動する時でさえ、こうして鎖で繋がれているというのに、一体誰が走れるんだろう。先生かな。 通りかかった隣の教室の中を横目で見ると、やっぱりそこも私たちと同じ格好をした子たちが、席に座ったまま次の時間の始まりを待っていた。黒いラバースーツと金属製のブラの怪しい輝きが、音もなくずらりと並んでいて、とても不気味な感じがした。 そんな風にいくつかの教室を通り過ぎ、昨日までは多目的室だった広めの部屋にたどり着く。入口に掲げられている昨日まで『多目的室』だったプレートは、『拘束室』に変わっていた。ここが次の授業の場所になるみたいだ。 皆に続いて拘束室に入り、中の様子を見た時、私は思わず身を竦めて立ち止まってしまった。前の子が進んで首輪の鎖が引っぱられ、つんのめる。 「アゥッ!」 「ウグッ!」 首が絞まったのだろう。前の子が苦しそうに呻く。 振り返ってきた彼女は涙目で私を睨みつけていた。 (ご、ごめん!) 慌てて前に出ようとして、今度は速すぎて後の鎖の余裕がなくなってしまう。 「オゥッ!」 「グ……!」 後の子は優秀だった。テンションがかかり切る前に、後に影響しない程度の絶妙な一歩を踏み出し、可能な限り苦しみを減衰させてくれた。 おかげで、私の首はそんなに締まらなかった。 すぐに程よい距離に身体の位置を修正する。 「ウゥ……!」 ありがとう、という気持ちを込めて後を振り返ると、苦笑気味に細められた目が「気にするな」と言っていた。 「そこ、騒いでないで早く中に入る! 後が中に入れないでしょう!」 斉條先生の叱責が飛んで、慌てて前の子について拘束室の中へと入った。 拘束室の中は、おどろおどろしい雰囲気だった。 私にはそういった物に対する知識はなかったのだけど、明らかに『それ』を目的とした道具が所狭しと用意されていた。中にはどう使うのかわからない不思議な器具もあったけど、、ただ『そのこと』だけはわかった。ここにある全ての道具は―― 人を拘束するための道具、だということが。 それが理解できたのは、私でも知っているベルトが沢山ついた電気椅子と思われるものがあったというのもあるけど、最大の理由は天井にあった。 天井から吊り下げられている人の形をした籠。 それの中に現在進行形で――女の子が拘束されていたため、だ。 人型の籠はただの人型じゃなく、まるで車に挽き潰された蛙のような格好にされるようになっていた。とても無様で、屈辱的な体勢だ。 両手はパーの形に広げて、顔の横に並べるようにさせられている。両足は普通の女の子なら絶対にやらない180度のM字開脚で固定され、斜め下から見上げている私たちからだと前のスリットも後の肛門もばっちり見えてしまっていた。 そう、そこが見えてしまっていた。つまり、彼女は私たちが着せられているラバースーツを身につけていなかった。 その子は素っ裸で、その人型の籠に閉じ込められていたのだ。 籠に遊びの空間はなく、彼女は手の指先を曲げることすら許されていない。身体に食い込むほどにギリギリの造りのようで、彼女は身を捩ることすら出来ないみたいだった。 相当苦しいのだと思う。彼女がかすかに呻く声が聞こえてきていた。 彼女は目隠しをされていて、視界も奪われていた。その上に籠の柵が通っていて、万が一にもずれないようにされている。 口は開きっぱなしだった。柵とはまた別の金属製の網が口内を押し広げていて、開いた口の中まで見えるようになっているようだ。その網が舌を押さえつけているから、呻き声しかあげられないのだろう。口で苦しそうに呼吸しているのがなんとなくわかる。 彼女の胸部も、金属製の籠の柵が食い込む程度に押さえつけていて、たぶんだけど深く呼吸することも出来ないはずだった。もし胸を膨らませようとすれば、その分だけ柵が身体に食い込むことになる。 乳房の部分はお椀状に膨らんでいる、と見えたけど、よく見ると乳首の先にピアスを通すような穴が開けられていて、そこに通された輪っかが柵に引っかけられて彼女の乳房全体を引っぱっていた。常に乳首が引っぱられているようなもので、相当痛いはずだ。 そして、大開帳させられている股間が、何もされていないわけもなく。 そこも口を開かせているのと同じ、人型の籠とは別の細い金属で出来た網が広げていた。かなり太いように思える。ぱっくりと開かされた二つの穴は、奥の奥まで見えるようにされている。 無残に拡張され、体内の粘液が乾いてしまうんじゃないかと心配になったけど、よくよくみると、挿し込まれている二つの網には、透明なカバーのような物がしてあるようだった。一応最低限度の健康には気を遣われているのかもしれない。 いずれにせよ、彼女は普通は誰にも見せることはないだろう場所まで露わにされ、晒し者にされていた。 私からすれば見ているだけでも恥ずかしくなってしまう晒され方なのだけど、他の皆からするとそうでもないらしく、むしろ興味深そうな目で拘束された彼女を見上げていた。 彼女に気を取られている間に、斉條先生が皆の首輪から鎖を外し、部屋の隅に並ぶように指示を出した。 今回は特に順序などはなく、とりあえず邪魔にならないようにということらしい。私も急いで壁際に立った。 先生が部屋の壁にあるスイッチを押すと、吊り下げられていた彼女がゆっくり下に降ろされてきた。 「ハァ……ウゥ……アウゥ……ハァ……ハァ……」 かすかに呻く声と、浅く早い呼吸音が聞こえてくる。 当たり前だけど、苦しそうだった。先生はそんな彼女の様子に頓着せず、平然とした声音で授業の開始を告げる。 「それでは授業を始めます。彼女は昨日の夜半過ぎに歓楽街を出歩いていたところを補導され、このような厳しい罰則を受けることになりました」 あまりに扱いが酷すぎると思ったら、どうやら罰則の一環だったらしい。 こんな風にされるということを無意識にわかっていたら、『罰則』という言葉を聞いてあれほどの悪寒が走るのも納得だった。 彼女はそれをいうためだけに降ろされたのか、斉條先生は再び彼女を吊り上げてしまう。そして何事もなかったように授業が進んだ。 「拘束にはこのような罰となるほど厳しい物もありますが、基本的にはいま皆さんがされているように、自由を奪うことを目的として――」 先生が解説を続けていたけど、私は吊り上げられていった彼女の方が気になって仕方なかった。 天井付近に戻された彼女は、窮屈な人型に収められたまま、指先一つ動かせない地獄の中にいるはずだった。一度降ろされて解放してもらえるかもと期待してしまっただろうし、改めてつり下げられ、余計に絶望を感じているだろう。 彼女が不自由な身体を震わせ、籠がかすかに軋む音がした。けれどもちろん金属の籠はびくともせず、ただ軋む音が響いただけで何も起きなかった。 そんな風に、完全に自由を奪われて。 ただ呻き、籠を軋ませるだけの『物』にされている彼女。 それは、なんて。 「――水下司さん。三度目です」 はっ、と思った時にはもう遅かった。 斉條先生の鋭い目が、私を射貫いていた。周囲の子たちが私に注目している。 脚が、身体が、心が、恐怖に震えた。 怯える私に対し、斉條先生が無慈悲に告げる。 「前に出なさい」 すでに十分すぎるほど拘束された私に対して。 「貴女に――少し厳しい拘束を施します」 つづく