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夜空さくら
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記者、ヒトイヌ公園に入場する 笛吹ちぐさside①

■ あらすじ:知る人ぞ知るヒトイヌ拘束が気軽に楽しめる有料公園『ヒトイヌ公園』。資産家による惜しみのない投資で成り立つその公園に、後ろ暗い裏があると睨んだ女記者・笛吹ちぐさ。後輩カメラマン・田中照正を連れて公園を訪れた彼女だったが、高額な一般入場料に手が出なかった。そこで彼女は自らヒトイヌとなり、照正をパートナーとして、公園内に侵入し、特ダネを掴もうとするのだが……。

■ 『ヒトイヌ公園』シリーズです。単体で読んでも、一応問題はないように書いています。なし崩しにヒトイヌになった彼女を待ち受ける、数々の試練をお楽しみください^w^ 笛吹ちぐさは無事特ダネを掴めるのか。それともヒトイヌ公園に飲み込まれてしまうのか! きっと今回もハッピーエンドですーw-ウム


■ 笛吹ちぐさsideは支援者様向けに公開、田中照正sideは全体向けに公開します。片方だけ読んでも楽しめるようになっています。

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 一歩前に進む度に、体中が軋んでいるような気がする。

「フゥ……フゥ……フゥ……」

 普段の歩く速度にも遠く及ばない、ゆっくりとした速さで動いているのに、自然と息が上がっていた。

 口を大きく開けて呼吸したくなるけれど、噛まされた口枷をしっかり噛みしめていないと、涎が垂れてしまうので、口での呼吸はできなかった。

 私のすぐ隣を歩く田中は、こちらのことを心配そうに見ながら、手にしたリードがぴんと張らないようにと気を遣ってくれている。

 ただ、かなり余裕を持たせて鎖を持っているせいで、じゃらじゃらという音が頻繁に鳴ってしまっていた。

 首輪にリードをつけられているなんていうことは忘れたいのに、その音が鳴るせいでその存在を強く意識してしまう。

 自分が犬に――ヒトイヌになっているということを、強く意識させられてしまう。

(気にしない……気にしない……! これは、あくまで潜入取材なんだから……!)

 そう、どんな姿になろうとも、私は記者なのだ。

 あくまでも取材。このヒトイヌ公園に隠された闇を暴くのが目的だ。

 こんなところで、くじけるわけにはいかない。

「フゥ……フゥ……フゥ……!」

 気合いと気持ちを入れ直して、私はまっすぐ前を向いて、進んでいく。

 公園の入り口らしきドアが見えてきた。

 案内してくれた職員が、田中にパンフレットのような園内の地図を渡している。

「それではお時間になりましたら、アナウンスいたしますので、存分にお楽しみくださいませ」

 職員が深々と礼をしながら、扉を開く。

 外の風が――野外の気配が私たちを包み込む。

 公園の中の様子を見るのは、これが始めてだ。写真などでわかってはいたけれど、一見すると極々普通の、いや、それ以上に綺麗に整備された有料の公園、といった風情だった。

 ゴミ一つどころか、葉っぱ一つ落ちていない。

 遠くまで見晴らしがいいかと思えば、茂みが乱立していてあまり先が見えない場所もあったりして、かなり変化に富んだ作りのようだ。

 私と田中は、導かれるまま、そんな公園の中に脚を踏み入れた。

 かなり先の方まで、散歩道が続いている。綺麗に刈り込まれた芝生のスペースが多く、本物の犬でも駆け回って楽しむのに十分な広さがあった。

 どこからどう見ても、極普通の広い綺麗な公園、と言った風情だ。

 私はそんな野外に、全身ラバーに覆われ、アナルプラグまで入れられた状態で出て来ている、という事実が信じられなかった。

「ウゥ……」

 全身で感じる野外の感覚は生々しく、かえって現実味が損なわれて、信じられない原因になっていた。

 公園の中に出た私たちの背後で、入ってきた扉が閉められる。さほど大きな音ではなかったけれど、私は思わず体を震わせて、そちらを振り返った。

 高く聳え立つ扉が、元の世界に戻らせないための障害のように感じられ、急に心細くなってしまう。

 いますぐその扉の中に戻って、この不安な状態から解放されたいという気持ちが膨らむ。

 もしも私一人で来ていたら、早々にギブアップしていたかもしれない。

 けれど。

「先輩、まずはこの、『仲良し広場』ってところに行ってみませんか? 利用者同士の交流を推奨する場所みたいです。もしかすると、とんでもない大物がいるかもしれませんし」

 確かに、まずはどんな利用者がいるかということを把握するのは大事だ。

 どんな人物がいるか、その人物がどのようにヒトイヌに接しているかどうかで、公園がどういう場所か見極められるかもしれない。

「ウー」

 私は心細く不安に感じる自分の心を押し込め、田中の提案に賛同してこくりと頷いた。

「よし! いきましょう!」

 自分の意見が採用されて嬉しいのだろうか。

 妙に楽しそうに笑った田中は、リードを持ち直し――じゃらりと大きな音が鳴る――強くはなかったが、軽くリードを引いて私を誘導しようとする。

 もちろん本物の犬ではないので、田中のリードを引く力は極々小さなものだった。

 それでも私は、心細く感じていた自分の心が少し楽になるのを感じてしまう。

 普段は私の方が田中をぐいぐい引っ張っていく立場なのに。

 引っ張ってもらうことに、なぜこんなに安堵してしまうのか。

(……いまは、移動ね)

 体を動かすことに集中する。

 四つん這いで動くというのは、思った以上に神経を使った。

 全身覆われているし、転んでも怪我をすることはないと思うけれど、外で転びたくないのは当然だ。

 慎重に、転ばないように神経を尖らせながら一歩一歩前へと進んでいく。

 今日の天気は快晴で、日光が燦々と降り注いでいる。

 幸い暑い時期ではないものの――全身ラバースーツに包まれた状態では、どう足掻いても熱はその中に籠もる。

「フゥッ、フゥッ、フゥッ」

 じんわりと全身に汗をかいているのがわかる。

 ラバースーツの擦れる感覚が代わり、手足を動かす度に形容しがたい感覚が生み出されていた。

 特にボディハーネスの影響もあって絞り出され、いつもより遙かに揺れている感覚がある胸などは、特に表現しがたい感覚だった。

 妙に感覚が研ぎ澄まされていることもあるのか、じわじわと何か妙な快感のようなものを感じてしまう。

「ウゥ……ッ」

 額に汗が浮かぶ。全頭マスクを被っているから、垂れこそしないものの、頭の中は蒸れているのがわかる。

(一時的だからいいけれど……これ長時間に及んだら髪にも肌にも良くないわよねぇ……)

 そんなことを考えつつ、歩くこと数分。

 私は本格的に息が上がり始め、立ち止まってしまった。田中もすぐ気付いてくれて、リードが引かれることはなかった。

「フゥッ……フゥッ……フゥッ……!」

「先輩、大丈夫ですか? 休みますか?」

「ウゥッ……!」

 コクコクと激しく頷かざるを得ない。

 幸いすぐ側に東屋が用意されていた。ここで休憩してくださいと言わんばかりの場所だ。

 屋根とベンチくらいしかない休憩所ではあったけれど、いまの私にとっては天国に等しい。

 道の脇にあるその東屋に移動するだけでもしんどかったが、田中がボディハーネスで補助してくれた。

 体が締め付けられる感覚は少々恥ずかしいものの、やはり補助があるとかなり違う。

 私は屋根の下に入って、ひとまずほっと一息を吐いた。

「あ、先輩。そこに休憩に関する案内板みたいなものがありますよ」

 言われて田中の指さした方向をみてみれば、説明図付きの案内文らしきものがあった。

(ええと……何々? ヒトイヌ状態での効率的な休み方……?)

 どういうポーズで休めば効率的かということが書かれていた。

 ベンチの上で仰向けに寝っ転がる、というポーズが一番四肢を休ませることができる、とのことだったけど。

(恥ずかしすぎて死ねるでしょうが!)

 抱き上げてくれるパートナーの協力が必要な上に、開けっぴろげに体を晒すことになる体勢だったので却下した。

(ビギナー向け……こっちね。ええと……まず両足を開いて……)

 私は案内板の通りに、まず両足を開き――膝と膝の感覚を開けた――その状態で、ゆっくり腰を後ろに下げていく。肘で勢いを殺しつつ、女の子座りのような、お尻を地面につける体勢になった。

 そして、背筋を柄って体を起こし、腕は軽く体を支えるだけにして、体重がかからないようにする。

 体重のかかっていた両腕がその重みから解放され、かなり楽になった。

(はふぅ……ああ、なんだろ……この感じ……)

 慣れない姿勢で動かし続けて、固くなっていた四肢の緊張が自然と解れていく。

 私が深く息を吐いてリラックスしていると、いきなりパシャパシャとシャッターを切る音がした。

 びくっと反応してしまった私は、私にカメラを向けている田中を睨む。

「す、すみません、つい……」

「ウゥッ……!」

 唸ってしまう私。しかし一利用者として来ている以上、私の写真を全く撮らない、というのも変な話だろう。

(私を撮るのもいいけど、公園内の様子もちゃんと撮りなさいよ! 後々それがいい証拠になるかもしれないんんだから!)

 口が利けたら間違いなくそう叱りつけていた。

 視線と仕草で公園をもっと撮れ、という意図は伝わったのか、田中は慌てて公園の設備の方にもカメラを向けていた。

「い、いやー、前から来たかった公園っすからねー。いっぱい写真撮っとかないと、ですよね先輩!」

 田中はそうわざとらしい説明口調で話しながら、公園の方にカメラを向けてシャッターを切る。

 どうやら、さすがの田中も公園内での発言が盗聴されているかも、ということには気付いたらしい。

 そこは褒めてあげてもいいけれど、その結果がその大根役者っぷりかと思うと、情けなさで涙が出そうだった。

(余計な言い訳しないでいいから……黙って写真撮りなさいよ……)

 心の中の私の指摘は、残念ながら田中には届かない。

 こんな調子で、ちゃんと調べられるのだろうか。不安になってきた。

 田中はそんな私の様子をどう見たのか、少し慌てた様子でいう。

「そ、そうだ。すぐ傍に水飲み場がありましたから、水汲んで来ますね! ちょっと待っててください!」

 そう言うや否や、田中は東屋の外に出て行ってしまった。

 一人取り残された――とはいっても、すぐ傍で田中が水汲みをしている姿は見えていたので、そこまで不安にはならなかった――私は、もう一度ふぅ、と溜息を吐く。

 周囲をぐるりと見回して見る。私たちが最初に出てきた建物は、数分歩いたにしては近くに見える。

(時間内に全部見て回るのは、かなり厳しそうね……行く場所はよく選ばないと……パンフレット、置いていって貰えばよかったかしら。あとで見せてもらいましょう)

 私は、体を休めながらそんなことをつらつらと考えていた。

 そんな私の背後から、さくさく、と何かの足音が聞こえてくる。

「ウ?」

 何気なくそちらを振り返った私は、黒い何かが――ヒトイヌが近づいてくるのを見た。

 服装というか、装備品は大まかには私と同じだ。全身を覆う真っ黒なラバースーツに、四肢を拘束する拘束具。首に巻かれたごつくて太い首輪。犬の頭部を模した全頭マスク。そして、お尻から垂れて揺れている尻尾飾り。

 唯一違うのは、その首輪からぶら下がっているプレートの色だ。

 その色は、青。

 職員の説明によると、そのプレートの色はそのヒトイヌの立場や考え方を表している。

 例えば黄色のプレート。これは実際の犬でもイエローリボンという『何らかの事情であまり話しかけたり触れたりしないで欲しい』ことを主張するための取り決めがあることに倣って、この公園内でも似たような意味合いになっている。

 つまり『ヒトイヌになること自体が目的で、交流を目的としていない』ことを表すわけだ。このヒトイヌには道ですれ違うなどの一部例外を除き、極力関わらないようにしなければならない。声をかけるのはもちろん、触れ合うなんていうのはもっての他だ。

 声かけはいいけどふれ合いはダメというのもあれば、積極的に触れ合ってオーケー、むしろ触って欲しい、みたいな主張もできる。

 ちなみに今回の私はそういったプレートなし、つまり「初めてなのでよくわからない。嫌がったらやめて欲しい」というような主張になっている。

 情報収集的には、『積極的に交流可』という主張にするべきかもとも思ったのだけど、職員から「いきなりそれはお勧めしません」とアドバイスされたこともあって、素直に従っている。

 閑話休題。

 では青のプレートはどういう主張になるのか。

 それは『公園で管理されている野良。話しかけてもいいし触れても構わない』というものだった。

 つまり公園の裏の顔を探りたい私にとって、一番出くわしたかった種類のヒトイヌというわけだ。

(無理矢理言うことを利かせられてるのか、それとも自分から望んでそう振る舞っているのか……! 彼女と関わっていけば、何か掴めるかも!)

 いきなり出会えたのが野良のヒトイヌというのは、少々都合が良すぎる気もしたけれど、行幸には違いない。

 野良の彼女は、私とはまるで違う動きだった。同じ拘束をされているはずなのに、軽やかさが全く違う。その状態で動き回ることに慣れているのかもしれない。

 私の傍まで来た彼女と、全頭マスクのレンズ越しに目が合う。彼女の目の色は澄んだ空色をしていた。どうやら日本人じゃないようだ。

(外国人……!? お、おかしくはない……かしら。うん。こういうのは向こうの方が本格的っていうし……)

 しかしそうなると日本語が通じるのかが怪しい。外国語で話しかけないと、望む反応は見られないかもしれない。

 私がそんなことを考えている間に、その青い目のヒトイヌは、私のことをマジマジと見つめて、何かを探っていた。

 職員や田中以外から、視線を向けられるのは初めてだ。

 思ったより恥ずかしさを感じずに済んだのは、彼女も同じヒトイヌだからだろうか。

 客観的に見ると自分もこんな風に見えるのだということを改めて突きつけられたような感覚もあるので、それはそれで恥ずかしいことではあるのだけれど。

 そんなとりとめもないことをつらつらと考えていたら、その青い目のヒトイヌがずずい、と私に近づいてきた。

「ウゥ……――ぁッ!」

 私は咄嗟に仰け反ってしまった。

 結果、重心を後ろに傾け過ぎた私は、そのまま後ろにひっくり返ってしまう。

 幸い後ろに何もなかったから、頭を打つことはなかった。ただ、コロンとひっくり返ってしまい――体の前面を開けっぴろげに晒す、恥ずかしい格好に陥ってしまった。

 羞恥に顔に熱が集中するのがわかる。

(やばっ……はやく、起きなきゃ……!)

 慌てて体を起こそうとしたけれど、短くなった四肢をどう動かせば起き上がれるのかがわからない。

 体を動かす度に、体の上で絞り出された胸がブルブルと揺れているのがわかって、ますます恥ずかしくなる。

 余計に冷静さを失って暴れる私に、青い目のヒトイヌがのし掛かってきた。

「うウッ……!?」

 体を重ねるようにして、そのヒトイヌが私を押さえ込んで来る。

 胸と胸が――相手はかなりの巨乳で、圧倒される――重なり、ぐにゃりとその形を変形させた。

 私は青い目のヒトイヌに、完全にマウントを取られていた。


つづく

Comments

犬が寝転がるのには色々意味があるらしいですねー。 ヒトイヌ公園では概念として、犬のする色々な行動を言葉を介さない合図として採用しているので、うっかりその合図のひとつになってしまったのかもしれませんーw-ウム

夜空さくら

ん?ヒトイヌ同士が出会って、いきなり仰向けに寝転がるという事は… 確か犬だったらその行為はあなたに忠誠を誓うとかあんたがボスだとか好きにしてくださいとかって意味だったような… 笛吹さん、知らずのうちに私を好きにしていいって意思表示しちゃったのかな~。

ミズチェチェ


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