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夜空さくら
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記者、ヒトイヌ公園に入場する 笛吹ちぐさside②

■ あらすじ:知る人ぞ知るヒトイヌ拘束が気軽に楽しめる有料公園『ヒトイヌ公園』。資産家による惜しみのない投資で成り立つその公園に、後ろ暗い裏があると睨んだ女記者・笛吹ちぐさ。後輩カメラマン・田中照正を連れて公園を訪れた彼女だったが、高額な一般入場料に手が出なかった。そこで彼女は自らヒトイヌとなり、照正をパートナーとして、公園内に侵入し、特ダネを掴もうとするのだが……。

■ 『ヒトイヌ公園』シリーズです。単体で読んでも、一応問題はないように書いています。なし崩しにヒトイヌになった彼女を待ち受ける、数々の試練をお楽しみください^w^ 笛吹ちぐさは無事特ダネを掴めるのか。それともヒトイヌ公園に飲み込まれてしまうのか! きっと今回もハッピーエンドですーw-ウム


■ 笛吹ちぐさsideは支援者様向けに公開、田中照正sideは全体向けに公開します。片方だけ読んでも楽しめるようになっています。

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 一時間前の私は、こんなことになるなんて想像もしていなかった。

 仰向けに寝転がった私の体に、青い目のヒトイヌが伸し掛かって来ている。

 ただでさえ、仰向けの状態から起き上がることが出来ていなかったのに、上にヒトイヌに伸し掛かられてはどうしようもない。

「ウ、ウゥーッ」

(ちょ、ちょっと、離れ……ひゃぁうっ!?)

 その青い目のヒトイヌは、私の戸惑いに構うことなく、その体を私と重ねてくる。

 彼女の大きな――私もそう小さい方ではないはずなのだけど、彼女の外国サイズの大きさには分が悪い――乳房が私の乳房を押し潰してきていた。

 私たちの着ているラバースーツは柔らかく弾力があるから、相手の押し付ける力に合わせて、私の乳房は押し潰され、押し返す。

 ラバースーツに包まれた乳房同士が擦れる奇妙な感触は、とても異様な感触だった。

 少なくとも私のこれまでの人生経験の中では全く感じたことのない感触だ。

 強いていうなら、学生時分にスクール水着を着て水泳の授業を受けていた頃、ふざけた友達に抱き着かれた時の感触が近い、かもしれない。

 けれどその時はそもそも水の中だったし、こんな風に体が窮屈に押し込められていることもなかった。

 ほぼ未知に近い感覚に、私は翻弄されてしまう。

 青い目のヒトイヌは楽し気に目元を緩ませながら、私の首筋にその犬のノズルを模した形のマスクを擦りつけてくる。

 ちょうど本物の犬が相手の臭いを嗅ぐ時のような動きだった。

(ひゃぅっ、く、くすぐったい……っ)

 その動きはとても自然で、いやいややってるようには見えない。強いていうなら、体格から推測される彼女の年齢にしては、やけに幼いというか、犬のフリをするのに躊躇いがないということだけど、ヒトイヌに扮することが仕事なのだとすれば、プロの仕草といえば納得がいってしまう。

 しかし、それにしても。

 体温を持つ者がすり寄ってくると、ただでさえラバーに包まれていて暑いのに、さらに暑くなってしまう。

 休んで少し落ち着いていた分、ぶり返すとその掻いた汗の感覚が余計に強まっているように感じた。

「グウ……ッ、ウゥゥッ!」

 私はなんとか冷静になろうと、押しのけようと努力したが、マウントを取られている状況はいかんともしがたい。

 より強くそのヒトイヌが体を擦りつけようとしてきたその時、私は聞きなれたシャッター音が響いたのを感じた。

 音のした方を見ると、田中がカメラを構えて私を撮影している。

(……ッ! あんたねっ! 撮ってないで、さっさと助けなさいよ!)

「ウグルゥゥッ!」

 一気に田中に対する感情が一気に爆発し、私は唸る。

 少し慌てた様子で田中はカメラから目を離すと、急いで近づいて来た。

「せ、先輩大丈夫ですかっ! こ、こらっ、えーと、ダメだろっ?」

 勢いを急速に衰えさせながら、田中は青い目のヒトイヌを私から引き離そうとして――差し出した手が泳いだ。

 どうやらどこを掴めばいいのか判断しかねているようだった。確かに青い目のヒトイヌはスタイルも良いし、リードやハーネスも着けていないから、どこを掴めばいいのか判断しかねるのは、わからなくもない。

 ただ、迷っている間にも、私は彼女に責められ続けていることを思いだして欲しいものだ。

(なんでも、いいからっ、さっさと、退けて!)

「ウウウウッ」

 そんな気持ちを込めてさらに唸る私。

 田中は「ごめんなさい!」と私に向かって謝りつつ、意を決した様子で青い目のヒトイヌに手を伸ばした。

 青い目のヒトイヌは、田中の手が触れる前に、私の上から退いて田中の手から距離を取る。

「ぐるぅ……」

 低く唸って警戒している様子を見せていた。その振る舞いは実に自然で、やはり無理矢理やらされている感はない。

 そんな彼女の様子に気を取られていたから、私は自分がいまどういう格好をしているのかを忘れてしまっていた。

 一応青い目のヒトイヌを追い払った形になる田中が、私の方を心配そうな顔で見る。

「大丈夫ですかせんぱ……いっ」

 そして、慌てた様子でそっぽを向いた。

 その反応をみて私は、自分が体を開いて仰向けにひっくり返ったあられもない格好をしていることを思いだす。

 羞恥に顔が真っ赤になるのがわかる。

 慌てて起き上がろうとしたものの、手足が半分の長さになった状態ではうまくいかない。

「うう、うぅうぅ……っ!」

 恥ずかしさで死んでしまいそうだ。それを自覚して起き上がろうとすると、余計に焦ってしまって上手くいかない。

 そんな悪循環でさらにパニックになった私は、全身から滝のような汗を掻きながら藻掻く。

(やばい、やばい、やばい……ッ)

 頭の中も本格的にパニックになって、涙迄浮かび始めてしまった時――青い目のヒトイヌが私の頭のすぐ上に顔を出して来た。

 視界一杯にヒトイヌの顔が映り、私は思わず体を硬直させてしまう。

 その青い目のヒトイヌは、短くなった前足を、器用に私の肩の下に挿し込んでくる。

 なんとなく、彼女が何をしたいのか、何を言っているのかがわかった。体を半分に畳むように、左腕と左足を右側へと近づける。

 両足を揃えたまま、付け根の部分をまっすぐ伸ばし、両手は体の前で重ねて肘を引いた。

 一本の棒のようになった私は、その状態で腰を回して、体を回転させ、うつ伏せに近い状態になる。

(……! いける……!)

 そしてそこから手足を一本ずつ立てていけば――私は無事、四つん這いの状態に戻ることが出来た。

「ウーっ」

 案外出来るものなんだなぁ、と私が感動ししていると、青い目のヒトイヌが嬉しそうに声をあげながら、私の体にその体を擦りつけてくる。

 くすぐったいものの、褒めてくれているようなので無下にも出来ない。

 暫く私に体を擦りつけていた青い目のヒトイヌは、いつの間にかまたカメラを構えていた田中の方を見ると、不機嫌そうにぐるると唸った。

 てっきり写真を撮られたことに怒っているのではないかと思ったけれど、どうやら違うようだ。

 そのヒトイヌは私の方をしきりに鼻先で示し、唸っていた。

 かなり間をおいてから、その意図を理解したらしい田中が、私たちの傍に膝を突く。

 そして、その手で私の頭を撫でて来た。

「え、えっと、偉いぞー。よく、出来ました」

 仰向けにひっくり返った状態から起き上がったことを褒めろと、暗に青い目のヒトイヌは主張していたのだ。

 私は本来後輩である田中に頭を撫でられることに不満を抱き、プライドが若干傷つく感覚を覚える。

 しかしそれと同時に、私は奇妙に満足する気持ちも感じていた。

 大人になってから、頭を撫でて褒められる、なんて経験をしたことはほとんどない。

 頭を撫でられるなんて、子供扱いされても、嬉しいわけではないのだから、それでいいと言える。

 けれど、この時私は彼に頭を撫でられて――確かに、心地よさを感じていた。

「ンゥッ……ンフ、ゥ……ッ!」

 自然と目を細めてしまっていることに気付いた私は、慌てて目を見開き、頭を左右に振って異様な感覚をなんとか振り切ろうとする。

(いけない、いけない……! 雰囲気に、流されるところだった……!)

 自分がなんとか気を保とうとする間に、青い目のヒトイヌは私の周りをぐるぐると回っていた。

 まるで本物の犬が、遊ぼう遊ぼうと誘って来ているかのようだ。

 その動きの糸は田中にも伝わったのか、何やら考え込んでいる。

「先輩、その人遊びたいみたいですけど……どうすればいいんでしょうか?」

「ウゥ……」

 私に訊くなとツッコミを入れたい。わかるわけがないのに。

 そんなことを視線に込めて睨み上げると、田中はあわわと頼りなさげに混乱していた。

 その時だ。

「あらあら……大丈夫ですか?」

 田中に、女性の声がかけられた。

 その声の主を何気なく見上げた私は、驚きに目を見開く。

(こ、この人は……!)

 日本に存在する女性資産家の一人・天景院志樹久。

 その類稀なる先見の明で、短期間で資産を倍以上に伸ばすこともあるという、紛れもない天才。

 記者として、以前取材もしたこともある人物が、目の前にいた。

 さすがに一度短いインタビュー取材をしただけの私を、向こうが覚えているとは思えないけれど。

 まさかそんな大物が現れるなんて夢にも思っていなかった。

 ただ、その見た目は以前見た資産家の彼女とはまるで違っている。

 以前は高いヒールにお高そうなスーツをびしっと決め、いかにもな装いだった。

 だけどいまの彼女は、まるでそこら辺の公園にジョギングしに来ました、と言わんばかりの、ランニングシューズにジャージという酷く動きやすそうな格好をしていたのだ。

 キャップも被り、サングラスもかけ、まさにランニング中という感じだ。芸能人の御忍び姿、というと一番しっくりくるかもしれない。

 ただ、それでも私が彼女の正体を見破ることが出来たのは、そんな格好でもなお、彼女のオーラのようなものは全く隠せていなかったからだ。

「初めてお見掛けする方ですね。もしかして、公園は初めてですか?」

 取材した時も、途方もない資産を有する資産家にしては腰が低く、丁寧な人だとは思っていたけれど、それはここでも変わらないらしい。

 朗らかな声をかけられた田中は、一瞬放心していた。まあ、美人としても名高い天景院さんだから、無理もない。

 ただ、少し気に食わない。千載一遇のチャンスを不意にするつもりか、とすぐ近くにあった田中の向う脛に頭突きする。

 大した力は入らなかったから、衝撃も大したことはなかったけれど、田中の正気を取り戻させるには十分な刺激だったようだ。

「いっ……! あっ、えっと! はい! 実は、そうなんです! 右も左もわからなくって!」

 しどろもどろになっている田中の情けない姿に、私は溜息が出そうだった。

 案の定、天景院さんから見ても田中の慌てっぷりは面白かったのか、くすくすとにこやかに笑っている。

「ふふ。わかりますよ。私も最初来たときは、どうすればいいのか戸惑ってしまいましたから……ネコちゃん相手なら、多少は慣れてるんですけどね」

 なんとなく、意味深な発言だ。彼女のいうネコというのは、普通の猫ではない気がする。

 まあそれを考えるのは置いておいて。

(田中、これはチャンスよ)

 そもそも私がこんな姿になってまでこの公園に入場したのは、ここに出資しているという者たちのスキャンダルを探しているからだ。

 この天景院さんも、公園の暗部に関わっている可能性は大いにあり得る。

 ここはビギナーの立場を最大限に活かし、色々と教えてもらう体で接近するのが好ましい。

(わかって……るわよね?)

 私は田中を見上げた。しかし田中は天景院さんという大物のオーラに呑まれているのか、しどろもどろな対応しか出来ておらず、いまいち頼れない。

(ここは、私がなんとかしないと……!)

 一応面識がある相手に接近するのはリスクが高いけど、一記者のことなんていちいち記憶していない可能性は高い。

 私は恐る恐る、天景院さんの足元へと近づいた。

 近づいた私に気付き、天景院さんが膝を突いて視線を合わせてくれる。

「ふふふ、可愛いわんちゃんですね。田中さんのパートナーですか?」

 天景院さんの手が、私の顎下に挿し伸ばされ、優しく撫でてくる。

 確かにその手つきは犬に対するものというよりは、どちらかというと猫に対するものだった。

「わふっ……」

(く、くすぐった……い……っ)

 絶妙な指の加減が心地いい。

 伊達に扱いに慣れているというだけのことはあった。

 私が声をあげそうになるのを堪えていると、後ろで田中が彼女の質問に答えていた。

「え、ええ。まあ、その、そうです」

 田中が焦っているのがわかる。私と彼女が面識があることを田中も知っているので、バレるのではないかとひやひやしているのだろう。

 だからといって、そんな動揺を顔に出すんじゃない。

「うぅ……」

 小さく唸ると、その唸り声をどう捉えたのか、天景院さんが少し眉をしかめた。

「あら……? この子、ずいぶん喉が渇いているみたいですけど」

「あっ、そうでした! 水を飲んで休憩しようと、汲んで来たんですよ!」

 そう言って、汲んで来たペットボトル入りの水を示す田中。

 それを見た天景院は表情を和ませると、私から離れて立ち上がった。

「早く飲ませてあげてください」

「あっ、えっ、そ、そうだ! すみません、まだ飲ませたことなくて! あげ方の見本を見せてくれませんか!?」

 田中がそう天景院さんに頼む。

 確かにどうにかして繋ぎを作りたいとは思っていたけれど。

 突然のお願いに、天景院さんも困惑気味だった。

「え……いい、ですけれど……わんちゃんはそれでいいの?」

 そう言われたら、頷くしか出来ないじゃないか。

 私はなるべく躊躇いが見えないように、大きく頷いて見せる。

 天景院さんは少し呆れたような表情を浮かべたような気もしたけれど、表面上は笑顔で快諾してくれた。

「じゃあ一回だけ……そういえば、この子の名前はなんていうんですか?」

「え」

 田中は一瞬固まった。ヒトイヌとして呼び名なんて決めていなかったからだ。

「えーと、えと……ち、」

「ち?」

 田中は困りながらも、頭を絞りに絞って――絞り出した。

「ち……ちーちゃんです!」

 これが、私がヒトイヌになるときの呼び名が、成人女性が呼ばれるには可愛いにすぎる「ちーちゃん」となった出来事だった。


 無論、後に私が田中を正座させたことは言うまでもない。


つづく


Comments

いい大人がつけられて喜べる呼び名じゃないですからねぇーw-; 身バレの危険も考えると、あまりにも安直だということもありますし、あとで田中くんは正座して説教を受けてもらいます^w^

夜空さくら

ちーちゃんかわいい! その後ガミガミと怒るちーちゃんまで想像がつきましたw

ミズチェチェ


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