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夜空さくら
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記者、ヒトイヌ公園に入場する 笛吹ちぐさside③

■ あらすじ:知る人ぞ知るヒトイヌ拘束が気軽に楽しめる有料公園『ヒトイヌ公園』。資産家による惜しみのない投資で成り立つその公園に、後ろ暗い裏があると睨んだ女記者・笛吹ちぐさ。後輩カメラマン・田中照正を連れて公園を訪れた彼女だったが、高額な一般入場料に手が出なかった。そこで彼女は自らヒトイヌとなり、照正をパートナーとして、公園内に侵入し、特ダネを掴もうとするのだが……。

■ 『ヒトイヌ公園』シリーズです。単体で読んでも、一応問題はないように書いています。なし崩しにヒトイヌになった彼女を待ち受ける、数々の試練をお楽しみください^w^ 笛吹ちぐさは無事特ダネを掴めるのか。それともヒトイヌ公園に飲み込まれてしまうのか! きっと今回もハッピーエンドですーw-ウム


■ 笛吹ちぐさsideは支援者様向けに公開、田中照正sideは全体向けに公開します。片方だけ読んでも楽しめるようになっています。

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 天景院さんがニコニコとした笑顔を浮かべつつ、私に向けて呼びかけて来る。

「じゃあ、ちーちゃん。顔をあげて、こっちを見てくださいな」

 私はそれに従って、恐る恐る顔を上げていく。

 『ちーちゃん』、などという可愛らしすぎる呼ばれ方に思うところがないわけではないけれど、子供の時分にはそんな風に呼ばれていたこともあった。

 本名をもじるという、偽名としては最悪の呼び名にしたことについては、あとで田中を正座させて説教しないといけないが、そこそこよくある呼び名であることも事実。

 そこまで気にしなくていいかもしれない。

(というか……まあ、いまさら気にしても遅いといえば遅いし……覚悟決めるしかないわね)

 何はともあれ、千載一遇のチャンスであることに変わりはない。

 天景院さんというこの公園の利用者が、どういう態度でヒトイヌに接しているのか。

 見極めるチャンスだ。

 天景院さんは、両膝を揃えて地面に突いている。

 そのため、私が顔をあげると、ちょうど天景院さんの胸くらいに視線がいく。

 資産家として非常に優れた手腕を持つ彼女は、並外れた美人としても有名だ。それは顔だけの話ではなく、優れたプロポーションのことも含まれていた。

 下品ではない程度で、しかし服の上から見ても明らかに豊かな乳房。いまは機能性重視のジャージに身を包んでいるのだけど、それでもそこに豊かな乳房があることがわかる。

 同性とはいえ、なんとなく直視することも憚られ、視線が泳いでしまう。

 そんな私の顎を天景院さんの手が掴んだ。

「ッ……!」

 強い力ではなかったものの、やはりそこをいきなり掴まれると、驚いてしまう。

 天景院さんは相変わらず穏やかな態度で、私の顎の位置を固定していた。

「ちーちゃん、しっかり口枷を噛んで、『お口』を開けてみてくれる?」

 言われるままに、顎に力を込めた。噛んでいた口枷が少しだけ凹むと同時に、私の顔を覆っている犬型のマスクの口がパカリ、と開く。

 天景院さんはそんな私の動きを見て、優しく頭を撫でてくれた。

「いい子いい子♡」

 完全に子供扱い、否、賢い犬扱いだった。

 それは決して歓迎できる扱いではないはずなのに、褒められる喜びと撫でられる気持ちよさに、思わず目を細めてしまう。

「うぅ……ッ!」

 その気持ちよさに飲み込まれないよう、必死に抗いつつ、私は天景院さんの次の行動を待った。

 天景院さんは私の顎を片手で掴んだまま、もう片方の手に特殊なストローが先端についたペットボトルを取り出す。

「公園内に給水スポットはたくさんあるので、水分補給はちゃんと定期的にするようにしてくださいね。ヒトイヌちゃんはとにかく汗をよく掻くので、飲ませすぎるということはまずありませんから。ちょっと多いかな? って感じるくらいで丁度良いことが多いようです」

 田中に向かって説明しながら、天景院さんがその手に持ったペットボトルの先端を、私の口元に――正確にはマスクの中に――差し込む。

「口枷の中央、噛んでる部分の丁度真ん中付近にストローを差し込みます。そうすると、口枷の内側にペットボトルの中身を流し込むことができるようになっています」

 私はさらに顎を上げさせられ、斜め上を見ているような状態にさせられた。

 斜め上、といっても私は四つん這いの体勢になっているから、首はほとんど反り返っていて、それなりにきつい体勢になる。

「ちーちゃん、いまから水が入っていくから、落ち着いてゆっくり飲んでね」

 優しく天景院さんが呼びかけてくれる。

「ンゥ……」

 頷けないのでそう唸り声で応えると、天景院さんがペットボトルの傾きを調整する。

 喉に冷たい水の感触が流れ込んでくる。

 私の体は私が自覚している以上に乾いていたのか、いまだかつてないほど美味しく感じた。

 ただの水がこんなに美味しく感じたのは、学生の頃にフルマラソンを走った時くらいだろう。

「ンゥ……ンゥ……ンクッ……」

 程よい勢いで流し込まれる水を、無心で飲んでいく。

 口枷を噛んだままでも、意外と飲めるものなのだなぁ、と感じた。

「水を与える側が気をつけないといけないのは、勢いよく水を流し込んでしまわないことです。一定量以上は口枷にある調整弁が自動的に止めてくれますが、水を飲むのが苦手な子もいますからね」

 天景院さんは田中に向けて丁重に教えながら、私に水を飲ませてくれる。

「ちーちゃんはあまり心配なさそうですね。偉い子、いい子です」

 よしよし、と再度頭を撫でてくれる天景院さん。

 気恥ずかしいことに変わりはないけれど、褒められること自体が不快なわけがない。

 複雑な想いを抱えながらも、なんとか水を飲み切った。

 なんとか飲み切れたことに安堵しつつ、私は一息吐く。

 ふと気付くと、さっきまで天景院さんの説明を聞きながらもカメラのシャッターを切っていた田中は、青い目のヒトイヌに足下にまとわりつかれて焦っていた。

「わ、わわっ、ちょ、ちょっ、とと……っ!」

 どう対処したらいいのかわからないのだろう。なんと言えばいいかもわからず、田中は焦っている。

 そんな彼のことを、青い目のヒトイヌは不思議そうに唸りながら見上げていた。

「うー? うぅぅ……」

 まるで人懐っこい本物の犬が、カメラに興味を持ってまとわりついているみたいだ。

 本物の犬がやれば、もふもふな毛が足に当たってくすぐったくも微笑ましく感じるのだろうが、青い目の彼女はヒトイヌである。

 まとわりつくことで触れるのは体毛ではなく、すべすべで変わった感触のするラバースーツだ。それに女体の独特な柔らかさなども加わって、より形容しがたい感触になっているはず。

 そんなヒトイヌの体が――特に私より大きな胸が――触れた時には、田中は明らかに体をびくつかせていた。

 田中が焦り、対処に困るのも無理もないことではある。

 そんな田中の非常に情け無い対応を、天景院さんはヒトイヌ公園に慣れていない、初心者の対応と認識してくれたようで、微笑ましいものを見る目で見ていた。

「その子は野良ですから、写真を撮っても大丈夫ですよ。あ、でももちろんプライバシーに配慮して、不特定多数に見せるのは厳禁ですけど」

 要するにSNSに乗せたり、ネット上に写真をアップしたりするのは禁止ということだ。それはある意味当たり前のことではあったので、特に問題はない。

(記事にすることになったら……その時は、私の写真使うしかないかしら……)

 目のあたりはモザイクなどで隠すにしても、相当恥ずかしいことに変わりはない。

 それは出来れば避けたいものだけど。

 私が何気なく天景院さんの顔を見上げると、天景院さんは実に意味深な笑顔を浮かべた。

「個人的に楽しむ分には問題ないですから、撮影は遠慮せずにどんどんしてくださいね。ただ……もし、公園の規約に反した行為が確認された際は、相応の処置が取られることになっていますから」

 天景院さんは私たちに向けて、言う。

「――気を付けた方がいいですよ」

 その言葉に、私はぞくりとした悪寒を感じた。

(釘を、刺されてる感じがする……っ)

 私が記者であることに気づかれているわけではないと、思いたい。

 思いたいけれど、明らかにこっちが記事にしようとしていることに対して、牽制された気がする。

「も、もちろんです! あくまで、せんぱ……い、いえ、ちーちゃんとの想い出を形に残しておきたいだけですから……! 超個人的です!」

 田中も同じような悪寒を感じたのか、慌てた様子でそんな風に弁明しているけれど、それが余計に怪しいということに気付いているのだろうか。

(ほんと……頼むわよ……?)

 もっとしっかりして欲しいものだった。

 私の中で田中株の下落が止まらない――元からすごく高かったわけではない――中、天景院さんが良いことを思いついた、とばかりに軽く手を打った。

「水分補給のやり方のおさらいをしておきましょうか。その子に協力してもらって」

 そう提案しつつ、天景院さんは田中ではなく私に視線を向けて来た。

「ちーちゃん、いいですか?」

(私に訊かれても……いえ、本来なら、訊くのが当然かしら?)

 あげるのは田中なのだから私に訊かれても、と思いかけけど、本来ヒトイヌとパートナーというのは、イコールで恋人関係であることが多い、ということに思い至った。

 人によっては、自分のパートナーが自分以外のヒトイヌと触れ合うのが嫌だと感じることもあるだろう。

 だからこその、私に対する確認というわけだ。

(とはいえ……私たちに対しては、その配慮は的外れなんだけど……)

 なにせ私たちは潜入取材のためにパートナーとしているだけで、本当のパートナーというわけではない。

 本来は同じ会社の先輩と後輩であって、そういう感情を抱く間柄ではないからだ。

(嫌がった方がぽいのか、受け入れた方がいいのか……悩むところだけど……)

 本当に嫌がるのであれば、青い目のヒトイヌが彼の足元にまとわりついていた時から嫌がっていないとおかしいはず。

 結局私は、無難に受け入れることにした。

「ンウー」

 別に水をあげるだけのことだし。

 私の反応を確認した天景院さんは、さっそく田中に再度ヒトイヌへの水のあげ方を一から丁寧に教え始めた。

 その間、私は暇なので、さっきのように足を開いて腰をその場に降ろし、見るとはなしに田中が青い目のヒトイヌに水を上げる姿を見ていた。

 さっきの天景院さんと全く同じ流れで、青い目のヒトイヌに水を与えている田中。

 おっかなびっくりではあったものの、天景院さんのアドバイスもあって、順調に水を与えられているようだ。

(この後どれくらい動き回ることになるかはわからないけれど……田中に水分補給をしてもらうこともあるかもしれないし、慣れていてもらった方が、当然いいしね)

 そんなことを考えながら、私は田中と青い目のヒトイヌの様子を見つめていた。

「っと、とと……こ、これくらいで、いいですかね?」

「ンゥー!」

 ペットボトルを青い目のヒトイヌの口から抜きつつ、彼女に向かってそう尋ねる田中。

 青い目のヒトイヌは満足したのか、ぶんぶんと尻尾を振りつつ、嬉しそうにそう唸った。

 あまりに自然に振る舞っているから気付かなかったけれど、尻尾をあんなに動かしているということは、それだけプラグを締め付けているということだ。

 私はどうしても違和感の方が先に立ってしまい、あまり締め付けることが出来ていなかった。

(は、恥ずかしくないのかしら……)

 いくら外からは普通に喜んで尻尾を振っているようにしか見えないとはいえ、内実を知っている物には、それだけ締め付けていることがわかってしまう。

 普通に考えれば、死にたくなるくらいに恥ずかしいはずだ。

 私は彼女がいまどんな気持ちなのか、気になってつい凝視してしまっていた。

「よ、よーしよし。いい子、いい子だ」

 天景院さんに促され、田中が青い目のヒトイヌの頭を撫でている。

「キューン♡」

 嬉しそうに眼を細め、愛くるしい声で啼くそのヒトイヌ。

 ふと、私と目が合った。

 するとその青い目のヒトイヌは、どことなく優越感を覗かせながら、クスッ、と鼻で笑ってくる。

 自分が優先されていることに優越感を抱いているのか、あるいはまた別の理由か。

 どうあれ、マウントを取りに来ていることはよくわかった。

 さっき伸し掛かられたことといい、犬同士のマウントの取り合いを模しているのかもしれない。

(なんというか……本当にそういう気持ちでやってるんじゃないかと思えるくらい、自然よねぇ)

 演技とか仕事とかじゃなくて、素でそういう気持ちでいるんじゃないかというくらい振る舞いが自然だった。

 本当の利用者とそのパートナーに対してするには、ちょっと挑発的にすぎるくらいに。

(まあ私と田中はそういうのじゃないから、別に構わないし、気にしないけれど……)

 あくまでフリでしかないのだから、別に青い目のヒトイヌが田中に擦り寄ろうと、何をしようと気にするようなことではない。

 そう、気にすることでは――


 青い目のヒトイヌが、田中の股間にその鼻先を突っ込んだ。


「ウァッ!?」

「ひゃわ!?」

 思わず、私と田中は声をあげていた。見ていただけの私でさえ声が出たのだから、直接触れられた田中の驚きはひと際大きかっただろう。

(な、なな、なにやってんの!?)

 犬が人の股間に鼻先を突っ込む、というのは、割とよくある類のハプニングだけれども。

 いくらヒトイヌに扮しているといっても私たちは普通に人間であり、普通の女性である。

 ここはそういうプレイも想定している場所であるとはいえ、いきなり初対面の男性の股間に鼻先を突っ込ませることがいいことがどうかというと――微妙な話だった。

 しかし青い目のヒトイヌは楽し気に、悪戯好きの犬がそうするように、田中の股間に鼻先を突っ込み続ける。

「ひゃっ、うあっ、ちょ、や、やめっ、くすぐっ、ひゃわああっ!?」

 咄嗟にどう対処したらいいのかわからないのだろう。田中は情けない悲鳴をあげるばかりで、青い目のヒトイヌを強く制することも出来ず、藻掻くことしか出来ない。

 そうすると青い目のヒトイヌはますます勢いづき、田中の股間にぐいぐいと鼻先を押し込み続けた。

 腰の引けた田中が尻もちを突いてしまったところを、さらに詰め寄っていく。

 田中に伸し掛かって、覆いかぶさろうとしていた。

「ウーっ!」

 咄嗟に、体が動いていた。

 私が声をあげながら二人に近づいていくと、青い目のヒトイヌはそれまでの猛攻が嘘のようにあっさりと体を引いて田中の上から退いた。

 そしてそのまま天景院さんの方に行き、その背中に隠れる。

(く……っ! 本当に、悪戯好きの犬みたいなことを……!)

 天景院さんを盾にして、こちらの接近を防いでいた。

 別に噛みつこうとか、体当たりするつもりであったとかではないけれど、ここまでいかにも「ほーら、これなら手が出せないでしょう?」という顔をされると、反射的にムカついてしまう。

 押し倒されかけていた田中は、起き上がって息を吐いていた。

「はー、びっくり、したぁ……す、すみません先輩、助かりました……」

(先輩って呼ぶんじゃないっ)

「ウーッ!」

「すみません!」

 唸る私と、脊髄反射で謝る田中。

 なんだかいつもと変わらないやりとりだった。

 そんな私たちの様子を見て、どう感じたのか、天景院さんはなぜだかとても楽しそうだ。

「ふふっ。いいパートナーね。……やっぱり、たまにはヒトイヌもいいものね」

 天景院さんは意味深にそう言うと、青い目のヒトイヌを伴って去っていった。

 天景院さんは特定のパートナーを連れて来たわけではなかったので、ちょうど遊ぶ相手を探していたのだそうだ。

 そういう意味で、野良である青い目のヒトイヌはちょうどいい相手だったというわけだ。

「また機会があったら会いましょう」

「ワウワウっ」

 二人はそう言って、私達が向かおうとしていたのとは別の方向に去っていく。

 後に残された私と田中は、なんともきまずい空気感になってしまった。

 本当は天景院さんについて回って、色々探るつもりだったけど、呼び止める暇もない。

 少し惜しいが、仕方ないことはもう仕方ない。

(時間を無駄にはできないからね……)

 そう考えた私は、田中に顔を向けた。

「うーッ」

 そう小さく唸りつつ、顎で公園の先を示す。

 田中は慌てた様子で立ち上がった。

「そ、そうですね! 先を急ぎましょうか!」

 若干慌てた様子で答えつつ、田中は再び私のリードを握った。

 田中が若干背中を丸めている意味に気付かないほど、私は初心でも乙女でもない。

(直接刺激されたのだし、反応してしまうわよね……)

 伸し掛かりかけられた際には、大きな乳房が彼の腰に当たって形を変えもしていた。

 それらのことを考えれば、健康な成人済み男子が反応してしまうのは無理もないことだ。

 だから私は気にしない。リードを牽かれて、遊歩道の先に進みながら、私はそう思っていた。


 ほんの少し――もやっとした感情を覚えたことに、私は気付かないふりをした。


つづく

Comments

そもそもいくら取材のためとはいえ、裸を見られたりヒトイヌ姿を見られたりすることを許していますからね。意識的にせよ無意識的にせよ、ちぐさも彼を憎からず思っているところはあります。 問題は、この時感じた嫉妬が女としてなのかヒトイヌとしてなのか……後者の場合、後々色々捩れる可能性が……ーw-;

夜空さくら

おお~、これはちーちゃん先輩が嫉妬を覚えたのか!? 経験値が増えれば増えるほど深みにハマっていく。 ちーちゃんはどこまで沼に浸かっちゃうのかな~

ミズチェチェ


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