記者、ヒトイヌ公園に入場する 笛吹ちぐさside⑦
Added 2021-12-14 14:23:42 +0000 UTC■ あらすじ:知る人ぞ知るヒトイヌ拘束が気軽に楽しめる有料公園『ヒトイヌ公園』。資産家による惜しみのない投資で成り立つその公園に、後ろ暗い裏があると睨んだ女記者・笛吹ちぐさ。後輩カメラマン・田中照正を連れて公園を訪れた彼女だったが、高額な一般入場料に手が出なかった。そこで彼女は自らヒトイヌとなり、照正をパートナーとして、公園内に侵入し、特ダネを掴もうとするのだが……。
■ 『ヒトイヌ公園』シリーズです。単体で読んでも、一応問題はないように書いています。なし崩しにヒトイヌになった彼女を待ち受ける、数々の試練をお楽しみください^w^ 笛吹ちぐさは無事特ダネを掴めるのか。それともヒトイヌ公園に飲み込まれてしまうのか! きっと今回もハッピーエンドですーw-ウム
■ 笛吹ちぐさsideは支援者様向けに公開、田中照正sideは全体向けに公開します。片方だけ読んでも楽しめるようになっています。
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逃げるように遊技場から出た私と田中。
少し急いだため、かなり体力を消耗してしまった。
私は一端立ち止まって呼吸を整えつつ、田中の方を見れないほどのきまずさを感じていた。
(潜入取材で、恋人みたいな振る舞いはしたことがあったけど……っ)
極端な話をするなら、普通にセックスをした方がまだ気まずくないまである。
私にとって田中は恋愛対象外というか。仕事上の後輩としての意識が強すぎて、あまり異性として意識したことがない。
それは今でもあまり変わっていない、と思う。田中と付き合うとか結婚するとか、そういう感情はあまり感じないままだ。
だけれども、いままでと同じように後輩としてだけ感じられるかといえば、そういうわけにもいかなかった。
先ほど、見事な責め方で私を翻弄した田中の手腕が思い返される。
(実際……結構……いえ、かなり……気持ちよくはあったのよね……)
最初はあの二人の利用者を誤魔化すための、演技のつもりだったのに、途中からはその視線を感じている余裕もなかった。
田中があんなテクニックを持っているとは思わなかった。
思い返すと、全頭マスクに覆われた顔が熱くなるのを感じる。
(……っ。やば……っ)
ドクンドクン、と鼓動が激しく高鳴る。
あの時の快感は本当に凄まじかった。一瞬、自分を見失うほどに、あのまま田中に身を委ねたくなるほどに――気持ちよかったのだ。
じゅくじゅくとあそこが濡れているのを感じる。若干気持ち悪かったが、ヒトイヌ状態の私にはどうすることも出来ない。
呼吸を整えることに意識を集中し、股間の状態は忘れることにした。
そんな私の努力を知ってか知らずか、田中が恐る恐る声をかけてくる。
「せ、先輩……次はどこに、いきましょうか……?」
田中の顔を見上げてみると、田中は私から視線を外し、あらぬ方向を見やっていた。
見られていないことは歓迎するべきことのはずなのに、その事実に私はなぜか若干の不満を感じた。見て欲しい、だなんて思ってないはずなのに。
(何を見て……案内板?)
田中の視線の先を追いかけると、地面に案内板が埋め込まれていた。
この公園内の見取り図のようだ。地面に埋め込んであるのは、ヒトイヌ状態でも見やすいようにだろうか。
確かに普通の公園のように立て看板だと、視点の低いヒトイヌ状態ではとても見づらい。
この公園には単独でヒトイヌになりにくるものもいるらしいので、その配慮は適切なのだろう。
(……パートナーがいる相手だと、その人の目を気にして本当のことを伝えられないかもしれないし……出来れば、単独で行動している人に話を聞いてみたいけれど)
問題は、ヒトイヌ状態だとほぼ口が塞がっているということだろう。話を聞こうにも話せないからそもそも話が聞けないということが多い。
(そもそもそういう反抗的だったり、施設として危険な立場のヒトイヌに、そんなに簡単に接触出来るようにしているわけもないのよねぇ……)
ヒトイヌたちの安全や無事を確認するという名目で、監視カメラは公園の至る所に設置されている。
見た限り、おおよそ死角らしい死角はないので、位置情報は常に公園側に把握されているだろう。
そうなれば、私たちがそういう危険なヒトイヌに接触しようとしたら、自動的に避けるようにそのヒトイヌたちを誘導することもできる。
(今のところ、全然不本意そうな子は見つかってないし……というか、皆平然と受け入れすぎよね……)
唯一、あの男性のヒトイヌに関しては、ちょっと戸惑いというか、躊躇いのようなものも見られたけれど、それも消極的な傾向だというだけで、本気で嫌がっているとかそういう感じの雰囲気ではなかった。
(……本当にこの公園は正しい存在なのかしら……?)
そんな弱気な気持ちが心の中に湧いてくる。
自分の勘を信じられなくなるのは、記者としてあまり良くない傾向だ。
最初の勘に固執するのも問題だとは思うのだけど、まだはっきりと白だと言えるだけの情報が集まっていない。
私はさらに情報を集めるべく、案内板を確認する。
(……考えてみれば、仮に無理矢理ヒトイヌにされた子がいたとしたら、当然人の多いところからは離れるんじゃないかしら)
公園側から何らかの形で命令され、決まりきったルートを移動していたり、あるいは行く場所を指定されている可能性もあるけれど。
自由に動ける時間があるのであれば、目立つところは避けている可能性が高い。
(そう考えると、どこかしら……? なるべく人が来なさそうな場所……)
私は案内板の端の方を確認する。
遊技場などは比較的真ん中あたりに位置しているから、人が多いだろう。運動場とされている広場も恐らく同様だ。
なら、これまでの道中でも見かけて来たような――施設とは言えない、簡易の休憩所が一番人が来る確率が低い、のではないだろうか。
(影とかに隠れておけば、気付かれないかも……!)
そう思った私は、あえて一番人が通りにくそうな、公園の入口から離れた休憩所を前足――じゃなくて左肘で指し示す。
私の指示した場所を見た田中は、少し困ったような顔をした。
「そこ……ですか? 結構遠いですけど……大丈夫です?」
それは、そうだ。思ったより田中は私のことを見ていたらしい。
確かにもうかなり長い時間四つん這いで歩いていて、手足の限界が近い。
その上、さらに長い距離を歩くとなると、相当無理をしなければならないだろう。
ボディハーネスによって歩行補助はしてもらえるけれど、それで負担がゼロになるわけじゃない。
(時間はまだ残ってるけど……休憩しながらじゃ、辿り着いてもほとんど探れなさそうよね……)
むむむ、と私が唸っていると、不意に田中が手をぽんと打った。
そしてその手に持っていたリードを、近くの柱に括りつける。
「さっきの二人に、いいことを聞いていたのを思い出しました! ちょっと待っていてください!」
そういって田中は遊技場の中へと戻っていこうとする。
「ンゥッ!?」
(ちょ、待ちなさい!)
慌てて呼び止めようとしたけれど、田中は早歩きで遊技場の中へと入っていってしまった。
(お、おいていくのはいいけれど、リードを巻き付ける必要はないでしょう!?)
本物の犬なら、どこかに行ってしまわないようにそうするのが正しいけれども。
私が勝手にどこかに行くことはないのだから、そういう犬扱いはされなくてもいいはずだ。
「ウゥ……ッ」
自分が本当に犬になってしまったかのような状況に置かれ、私は忘れていた羞恥心が再び湧き上がる。
それもこんな人の通りが多そうなところに置いていかなくても――そう思った。
俯いていた私は、だからその子たちの接近に気付くのが遅れた。
「わっ、珍しい」
すぐ近くから声がして、私が驚いて顔を上げると、私よりも遥かに若く見える女性が、その丸い目をキラキラさせて私を見ていた。背の小さな子だ。
まるで本物の子供が、本物の犬をスーパーの店先で見かけた時のように、楽しそうに目をキラキラさせながら手を伸ばしてくる。
思わず体を固くしてしまったけれど、その子はお構いなしに渡井sの頭に手を当て、撫でまわしてきた。
いきなり頭に触れられて撫でまわされるなんて、普通なら同性でも許されるような行為ではない。それを彼女が躊躇なくしてくるのは、このヒトイヌ公園が「そうされたくないもの」はそれをきちんと示しているからだろう。
基本的には触れ合いの場から、触れ合いに躊躇することはないのだ。
その子の隣には、背の高い別の女の子がいた。
「あかり。あんまり乱暴に触れちゃだめだよ」
こちらはあかりと呼ばれたもう一人の子とくらべると、落ち着いているというか触れ合いに消極的な態度だった。
私から少し距離を開けて、威圧感を与えないようにしてくれているのかもしれない。
そんな気遣いのある子の方を振り返りつつ、私の頭を撫でている子はいう。
「この子、接触禁止のタグ付けてないから、だいじょーぶだって! ちゃこは真面目だなぁ」
「真面目なわけじゃない。当たり前の気遣いよ」
「んー。それもわかるけど、今回は私達以外のヒトイヌに触れ合うことが目的なんだから……ちゃこもこの子を撫でてあげてよー」
そうもう一人の子と喋りながらも、あかりというらしい子は私の体を撫でる手を止めない。
いつのまにか両手を使って、私の顔を挟む混むようにしたり、喉のあたりを撫で摩ってくる。
――ギュ、ギュ、ギュムッ……
ラバースーツ同士が擦れ合う音が響く。その刺激は言い表しにくい特殊なもので、私は背筋がゾクゾクする感覚を覚えた。
私がその子の触れ合ってくる行為から咄嗟に逃げようとしなかった理由の一つに、彼女たちの姿もまた普通ではないということがあった。
彼女たちはとても若々しく、ともすれば学生のようにすら見えるのだけど――その着ている服もその印象に大きな影響を与えていた。
というのも、あかりとちゃこという二人が着ている服は、ラバーセーラー服と呼ばれる類の、衣装だったからだ。
ひらひらとしたスカートや、セーラー独特の大きな襟なども、全部ラバーで出来ている。スカーフすらラバー製で、ずっしりと重たそうだったのだ。
彼女たちはそんなラバーセーラー服の下に、私が着ているような全身を覆うラバースーツを着ていて、肌の露出が極端にすくなかった。
身バレ防止か、口元はマスクで覆われているものの、それもラバー製なのでかなり異質な雰囲気であると言える。
一見すると、ヒトイヌ公園なのにヒトイヌというわけでもなく、ヒトイヌを連れているわけでもなく、ラバー衣装姿というだけなので、違和感を覚える姿ではあった。
「ほらほら! ちゃこも触ってあげてよ!」
「……はいはい。お姉さん、触っても、いいですか?」
あかりの勢いに負けたちゃこが、私の近くに膝をついてそう呼びかけてくる。
改めて許可を求められると気恥ずかしい気持ちが湧き上がってきたが、すでにあかりの方を受け入れている状況で、そっちだけ断るというのも妙な話だ。
私は恐る恐る頷く。するとちゃこは少し申し訳なさそうな顔をしながらも、その手で私の頭を撫でて来た。
あかりの小さな手よりは大きな、しかし男性よりは当然小さな手が私の頭を撫でる。こちらを気遣うようなとても優しい手つきだったので、私は少し安心してその手を受け入れることが出来た。
(当たり前だけど……田中の手はこの子たちより当然大きいのよね……)
先ほどお腹を撫でられた時に感じた、田中の手の大きさを思い出す。
あの大きな手で、頭を撫でられたら、どれほど気持ちいいのだろうか。
私はふとそんなことを考えて――慌ててその思考を打ち消した。
(な、なな、何を考えてるの私は!)
頭を撫でられるのなんて、本来の私の気性からいえばとても受け入れられるものではない。
舐められないことを第一に活動している私が、人に撫でられたいと思うなんて、あってはならない。それも頼りない後輩の田中になんて。
ただ、仕事の後輩としての田中はともかく、ヒトイヌのご主人様としての田中であれば。
そんなことを考えかけ、私は再度その思考を打ち消した。
(そんなこと考えてないったら! うう……雰囲気に流されてる……!)
勝手に湧き上がってくる思考に私が翻弄されているところに、田中が戻って来た。
「うぇっ!? ちょ、ちょっと君たち……っ」
私を助けようとしたのだろうか、しどろもどろに田中が二人に声をかける。
しかし二人の格好はラバーセーラー服というあまりにも特殊な姿だ。それに戸惑った田中の視点は、あっちこっちに向いてしまっていた。
そんな田中の情けない姿を見て、二人がどう思ったかはわからないが、立ち上がって自然に距離を離した。
「お兄さんがパートナーなんですか? 大人しくてとても可愛らしい方ですね!」
「こら、あかり。戸惑ってるから……すみませんお兄さん。私たちはちょっと特殊な入園方法をしているもので……驚かせてしまい、申し訳ありません」
「い、いや僕は別に……いいんだけど……っ」
ぐいぐいと田中に迫りそうになるあかりの襟首を、ちゃこが捕まえてそれ以上近づけないようにしていた。
そのやりとりからすると、まるで元気な小型犬を制する飼い主か母親犬のような関係に見えた。
そんな二人に、田中は押され気味で、少し情けなくも思える。
(やっぱり……田中に任せてはいられないわね)
改めてそう思った私は、どこか安堵しつつも――少し残念に感じるのも事実なのだった。
つづく