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夜空さくら
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キミと過ごした、全裸の夏 ~キミが全裸で過ごすワケ~

■ あらすじ:全裸露出に興味のあった都会の女の子・綿部鈴が、人里離れた田舎に引っ越し、裸族のような生活をしている田舎の女の子・五月雨塚なぎさと出会い、露出への道をどんどん進んでいく物語。

■ この物語はフィクションです。実際に認識がおかしくなってしまった場合は、すぐに病院にかかるのが重要です。いつもとは違う意味で、真似をしないようにしてくださいーw-ペコリ


■ 一部のエピソードは支援者様向けに限定して公開します。あらかじめご了承ください。

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「太郎は、この家で飼ってた犬の名前なんよ」

 そうなっちゃんは話し始めてくれた。

 いま御婆さんは夕食の準備をすると言って台所にいる。

 あれよあれよいう間にご飯を御馳走になることになってしまい、断り切れなかった私は居間でなっちゃんと話していた。

 なっちゃんは御婆さんがいつ戻って来てもいいように床に正座し、私の膝に体を乗せるようにしてひそひそ話が出来る距離を保っていた。

 裸に首輪だけの姿のなっちゃんとそんな風に触れ合っていると、正直ドキドキしてしまうのだけれど、状況が状況だけにドキドキしてばかりもいられなかった。

 なっちゃんが話して聞かせてくれた内容は、想像以上に大変なことだった。



 なっちゃん曰く。

 御婆さんとなっちゃんは二人暮らしだという。

 なっちゃんのご両親は病気で早くに亡くなってしまったとのことだ。

 それ自体はとても悲しいことだったけれど、なっちゃんは当時まだ幼くて両親のことをあまり覚えておらず、御婆さんが親代わりになってくれたので特に問題はなかったのだとか。

 何より、この家にはもう一匹家族がいた。

 それが、大型犬の太郎だ。太郎という名前ではあったが、雌犬だったという。

 犬種が何なのかはなっちゃんも御婆さんも知らなかったらしく、雑種で大きく、全身黒い毛で覆われていた。

 太郎はなっちゃんが生まれる前からこの家で飼われていた犬で、何でもなっちゃんの御爺さん――つまり御婆さんの旦那さん――が亡くなった時に飼ったのだとか。

 一般に大型犬の寿命は小型犬より短いと言われているけれど、太郎は今年で17歳にもなる老犬であった。

 そんな高齢にも関わらず、特に衰えた様子もなく、この夏まで元気な様子だったという。

「……でも、今年の夏の初めに、悲劇が起こったんよ」

 御婆さんとなっちゃんは、御爺さんやご両親が残してくれた遺産や年金、そして個人的にやっている畑の収穫で十分暮らしていけていた。

 結構な御歳である御婆さんだったけれど、足腰もしっかりしていて、軽トラックに乗って畑まで行って毎日農作業をしていたのだとか。

 ところが、少し帰りが遅くなった時があった。

 日も落ちて暗くなった中、御婆さんはゆっくり軽トラで帰って来た。

 それを察知した太郎は、いつものように御婆さんを出迎えに家の玄関へと走り出て――御婆さんの運転する軽トラに牽かれてしまったのだ。

 残念ながら太郎は即死だった。

 暗くなっていたこともあったし、普段は太郎もきちんと車に牽かれないような場所までしかいかなかったから、本当に不幸な事故であったと言わざるを得ない。

 しかしこのことがあって、御婆さんは精神的に参ってしまった。

 なっちゃんも生まれた時から一緒だった太郎が突然死んでしまって悲しかったが、それ以上に心に傷を負った御婆さんを支えてあげなければ、と奮起したという。

「おばあはすっかり塞ぎ込んじゃって、うちはどうしたらええんかわからんかったんやけど……」

 なっちゃんが抜け殻のようになってしまった御婆さんを懸命に介護していたある日のこと。

 彼女がお風呂から上がった時のことだった。

 元々なっちゃんは家では結構、裸族に近い格好をしがちだったそうだ。

 さすがに小学校をあがる頃には御婆さんから「ちゃんと服は着るようにしんしゃい」と叱られてちゃんと着るようになっていたそうだけど。それでも下着姿でうろつくのは日常茶飯事だったという。

 その日は下着を含めた洗濯ものを脱衣所に持ってくるのを忘れており、全裸で居間の方へと移動したのだとか。

 なおその頃の御婆さんは無気力状態で話しかけてもほとんど反応すらせず、起きている間はほぼずっとぼーっとしていたらしい。

 なっちゃんがそんな御婆さんの傍を通って、縁側に放り込んだ洗濯物を這って集めていた時のことだった。


「……太郎!? どこいってたんけぇ!」


 御婆さんはなっちゃんのことを太郎と呼び、戸惑うなっちゃんを太郎として撫で回した。

 太郎が自分のせいで死んだという自責の念に堪えられなかった御婆さんは、現実逃避した結果、裸のなっちゃんを太郎と認識するようになったのかもしれない。

 大型犬の太郎は少し小柄ななっちゃんと同じくらいには大きく、またその毛色も黒で、全身よく日焼けしたなっちゃんと似てなくなくもない。

 なっちゃんが混乱している間に、御婆さんはなっちゃんに太郎が着けていた首輪を着けたのだという。

 こうして、奇妙な生活が始まったのだとか。



 私はなっちゃんから話を聞いて、なんていったらいいかわからなかった。

「いや、それは……その……なんというか……」

 いくらなんでも、人間を犬と間違うのはどうなのか。

 色々問題がありすぎるのでは、と口から出かけた。

(でも実際、御婆さんは本気でそう思ってるみたいなのよね……)

 事故のショックで頭が混乱し、軽い錯乱状態にあるのかもしれない。

 いずれにしても所詮部外者でしかない私が、軽々にあれこれ断じていいことではないだろう。

 なっちゃんは困ったように眉尻を下げながら言った。

「うちもなぁ、ほんとは良くないことじゃとはおもっちょるんよ……けれんど、意気消沈して塞ぎ込んでるより、ずっと元気じゃけぇ……」

 いずれ落ち着いた時に、それとなく真実を告げようとなっちゃんは思っているみたいだった。

「もし他の人に知られてもうたら、おばあは病院に入らなあかんくなってまうやろ……?」

 だから、お願いだと。

「れい。黙っとってくれへん? なんでもするけぇ!」

 うるうると、まるで本物のチワワみたいな訴えかける目で私を見つめる。

 私は正直かなり迷った。

(う、うーん……なっちゃんの気持ちはわからないでもないけれど……)

 いまの御婆さんは明らかに異常だ。

 大人に知られたら、すぐにでも警察やらが呼ばれて、病院に連れていかれ、二人は引き離されてしまうかもしれない。

 太郎という家族同然の存在を失って寂しいのは、なっちゃんだって変わらないはず。

 そんな彼女から御婆さんまで奪うことになってしまうのは避けたい。

(でも、こんな生活をいつまでも続けられはしないだろうし……第一、それは御婆さんのためにもならない気がするし……)

 事故を起こした時に頭を打っているのかもしれない。

 そう考えれば、すぐにでも病院に見てもらった方がいい。

 ぐるぐると思考が回る。すぐに答えが出るような問題ではなかった。

「……わかった。とりあえず、いまは様子見するね」

 私がそういうと、なっちゃんはその顔を綻ばせた。

「れいっ! あんがとぉ!」

「あ、でももう一つ。部屋の檻があるんだけど、あれは……?」

「太郎の使っとったケージなんよ。夜、寝る間はあれに入っとったから。いまのうちもあれに入って寝ちょる」

 なっちゃんはさらっといったが、その光景を想像すると正直とんでもない。

「……南京錠かかってない?」

 閉じ込められるとしたら、もし万が一御婆さんに何かあった時に大変なことになりかねない。

 そういう意図を込めて尋ねると、なっちゃんは大丈夫だと胸を張った。

「うちもそれは思ってな。予備の鍵をケージ内に入れちょるから大丈夫や」

 閉じ込められたら大変だということはなっちゃんもわかっていて、対策はしていたらしい。

「ちゅーか、おばあが寝て暫く経ったら、抜け出しとるから」

「そうなの?」

 なっちゃん曰く、基本昼は出かけており、夜に帰ったら太郎のフリをし、その後夜御婆さんが寝入ったらケージを抜け出して自分の部屋に戻るらしい。

 そして朝、服を着て家のことを朝の間に全部して、太郎と散歩に出るフリをして御婆さんを誤魔化している、というのが彼女の最近のルーティンなのだとか。

「朝昼の間はおばあも比較的元気なんじゃけど、『太郎』の姿が見えない時間が続くと、だんだん不安になるみたいなんよ」

「……夜になっちゃん自身がいないことはどう思ってるのかしら?」

 そう尋ねると、なっちゃんは寂しそうな顔をして、首を横に振った。わからないようだ。

 まあ太郎と認識してはいても、心のどこかではそれがなっちゃんだとわかっているのかもしれない。

 なっちゃんの秘密を全て知った私は、深々と溜息を吐く。

(なっちゃんはこの生活を苦に思ってはないようだし……様子見、が一番ね)

 私は改めてそう考えた。

 ちょうどその時、晩御飯の準備を終えた御婆さんが、こっちにやって来る。

「お待っとうさん。出来たでぇ」

 配膳を手伝う私。たぶんなっちゃんの食器なのだろうけれど、大人しく使わせてもらうことにした。

 一方、そのなっちゃんはというと。

 床の上に置かれた餌皿に、ご飯を出されていた。

 人間が食べるのとそんな変わらないような内容だ。

「太郎にもいつも同じもん出しとるんじゃ。もちろん、犬の体質に合わせてるけぇ、心配いらんよ」

 思わず見ていたことに気付いたらしい御婆さんがそう説明してくれた。

 それならまあ、なっちゃんが食べても大丈夫なのだろうけど。

(この光景……傍からみたらわけわかんないわよね……)

 食卓を囲む私と御婆さん。その比較的近くでなっちゃんが床に置かれたエサ皿に顔を近づけてご飯を食べている。

 その格好が裸に首輪だから、もうなんというか、凄い。

 なるべく気にしないようにはするものの、褐色の肌が動いているがちらちら見えてしまうので、どうしても気になる。

(……犬とか猫になって、ペットとして飼われてみたい……って妄想はしたことあったけれど)

 そういう漫画では割とあるシチュエーションではある。

 まさかその妄想と全く同じシチュエーションを、生で、しかも友達がしているところを見ることになろうとは。

 あったばかりの御婆さんと食卓を囲んでいるという非日常的な光景も相まって、私はなんだか夢見心地だった。

 ちなみに御婆さんの手料理はとても美味しかった。

 太郎に出しているものと同じではあったけれど、太郎の分を取り分けた後でちゃんと味付けを整えているらしい。

 古き良き田舎の郷土料理という感じで、とても懐かしい味がした。

 それから私は帰ろうとしたのだけど。

「もう外も暗くなっちょるけえ、今日は泊まって行きんしゃい」

 御婆さんにそう強く説得されてしまった。

 確かにもう外はすっかり真っ暗になっていた。

 実質一人暮らしであることや住んでいる場所については、食事をしている間に話していたので、御婆さんがそういうのもある意味当然だった。

(……まあ、なっちゃんも心配だし……)

 そのなっちゃんは現在、檻の――じゃなくてケージの中に納まっている。

 裸の女の子が檻の中に入れられている光景なので、なんともおかしな光景だ。

(気にしない……気にしない……)

 そう自分に言い聞かせるようにして呟いた私は、先にお風呂を頂くことになった。

 色々と想定外のことになってしまったけれど、なっちゃんの家のお風呂はすごく立派な檜風呂で、正直テンションが上がったのは事実だ。

 軽く体を流してから、湯舟に浸からせてもらい、足を伸ばして寛ぐ。

 なっちゃんの思いがけない秘密を知ってしまい、私はこれからどうしたものかと悩む。

(どうにかして、御婆さんが正気を取り戻してくれればいいんだけど……時間が解決するかもしれないし……)

 そんなことを考えつつ、軽く頭も洗おうと洗い場へと戻る私。

 お湯を頭から被り、髪の汚れをしっかり洗い流していたら。

 突然、御婆さんがお風呂場に入って来た。

「ぴっ?!」

 あまりに堂々と入って来られたので、思わず私は縮こまり、体を硬直させる。

 御婆さんはそんな私を見て――目を丸くした。

「あれま? お前さん……どこから入ったんじゃ?」

「ふぇ!?」

 まさか、こっちのことを忘れてしまったのだろうか。

 そんな風に思った私の頭を、御婆さんのしわくちゃな手が軽く撫でる。

「毛並みのええ子じゃなぁ。……近くに犬を飼っとるとこはなかったはずじゃが……?」

 手つきと発言から、私は状況を把握できてしまった。


 御婆さんは、裸の私のことも、犬として認識してしまっていた。


つづく


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