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夜空さくら
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人形ダイブ ~初めての女友達・カミラ~

■ あらすじ:ある日、送られ来た等身大ドールに意識が移ってしまった東田三平。ネットゲームで使用している獣人族の女の子・ココナの姿になってしまった彼は――

■ 友達になったカミラと一緒にショッピングを楽しむ三平。その後、待っていた衝撃の展開とは……乞うご期待!0w0クワッ!

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 カミラはとても社交的な女性だった。

 三平、もといココナが慣れない女性の姿で積極的に動けない中、カミラはココナの手を引いて次々店を連れ回す。

「ココナちゃんはスタイルが抜群にいいから、どんな服でも似合うわね!」

「あ、ありがとう……って、まだ着るの!?」

「まだまだ着て見て欲しい服がいっぱいあるから!」

 そう言ってカミラはココナを着せ替え人形のようにして、色々な服を着せていた。

 なお、帽子に関しては早い段階で「事情があって帽子は脱げない」と説明している。

 カミラはそれを素直に受け止め、なるべく帽子には触れずに服を選んでくれていた。

(し、尻尾は隠れてるよな……? に、しても、女同士で回るショッピングって、こんなに歩き回るのか!?)

 ココナはカミラの勢いに完全に振り回されていた。

 着て欲しいという服を次から次へと持ってくるため、ココナは気が休まる時がない。

 尻尾は腰に巻き付けたり、足の付け根に巻き付けたりして、上手く隠し続けていた。

 作り物なのだから当然だが、ココナの整った外見は人を惹き付けるらしく、カミラだけではなく店員まで一緒になってココナを飾り付けようとして来た。

 そのおかげで随分色々なバリエーションに富んだ服を確保することが出来たものの、ショッピングが始まって三時間が経つ頃には、ココナはぐったりとしてしまっていた。

(まさかここまで振り回されるとは……女の買い物って、恐ろしいな……)

 ココナはそうしみじみと思う。

 女性と付き合ったことのないココナ――三平にとって、その買い物に振り回されるという経験は初めてのことだった。

 それを経験させてくれたカミラは、満足そうにほくほくと笑みを浮かべながらも、ぐったりしたココナに対し、少し申し訳なさそうにしていた。

「ごめんなさい、ココナちゃん……楽しくて、つい……」

「いや……頼んだのはこっちだから……」

「ココナちゃん、あんまり服とか持ってないの?」

 突然そう尋ねたカミラに対し、ココナは空を仰いでいた目線を向ける。

「……どうしてそう思ったの?」

「だって私が薦めた服、ジャンル違いを一通り買ってたじゃない? まるで服を一から揃えてるみたいだなぁって思って」

 ココナはなるほど、と頷きつつ、内心舌を巻いていた。

(凄いなちゃんと把握してたのか……そう言えば、後半はわざわざそういうジャンル違いを選んでたみたいだったし……)

 女性ならではのことなのか、それとも自分がファッションに無頓着すぎるだけなのか。

 ココナは取りとめもないことを考えつつ、慌てずに応える。

「正直いうと、そう。……これまで、あんまり服に頓着したことがなかったから」

 ただの事実なのだが、言葉の響きに含みを持たせていた。

 まるで、経済的にか家庭環境的にか、何らかの問題を抱えているかのように。

 何かと聡いカミラでも、さすがにその真意までは悟ることが出来ず、何を感じたのか、沈痛な面持ちでココナの手を握る。

「これまでの分も、いっぱい楽しんだらいいんだよ! 私でよければ、いつでも協力するからね!」

「あ、ああ。ありがとう……」

 しっかりと手を握られたココナは、伝わってくるカミラの手の柔らかさに思わずドキリとしていた。

 女性と付き合ったことのないココナ・三平にとって、それは初めて覚える感触なのだから、無理もない。

 無論、いまはココナ自体がそういう柔らかな身体になっているのであるが、感触を覚えたことに違いはない。

 ココナの手を離したカミラは、カバンから携帯を取り出した。

「連絡先を教えてもらってもいい? また遊びましょうよ!」

「もちろんいいけど……あっ」

 普通に応じそうになったココナは、思わず体の動きを止める。

 カミラが不思議そうに首を傾げる中、ココナは内心冷や汗を掻いていた。

(連絡先……俺の携帯じゃ、俺の連絡先になっちまう……!)

 当然その連絡先は、三平の名前になっている。

「あ、あー……ごめん。そういえば携帯忘れたんだった……」

「あらら、そうなの? じゃあ、電話番号とIDを書いて渡すね」

 カミラはそう言うと、メモ帳を取り出してその一部に自分のIDと電話番号を認めると、ココナに渡した。

 ココナはそれを受け取り、懐にしまう。

「い、家に帰ったら連絡するね。それじゃあ、今日はありがとう。色々助かったよ」

「ううん。助かったのはこっちだよ! また遊ぼうね!」

 混ざり気も下心もない、純粋なカミラの笑顔に、ココナは思わず引き込まれた。

 その体に心臓は厳密には存在しないが、それと同じ役割を果たすものが早くなった鼓動を再現している。

「それじゃあ……またね」

「ええ! また!」

 笑顔で手を振るカミラと離れ、ココナは自分の家へと向かう。

 歩きながら、ココナはしみじみとカミラと交友関係を築けたことを噛みしめていた。

(思えば……女友達自体、初めてじゃないか? 俺)

 ココナは、三平はその事実を改めて自覚し、なんとも言えない気分になる。

 彼自身の認識はともかく、女のココナとして友人になったのだから、ただの友人と言えるかもしれないが、どうあれ女性と友人になれた事実は変わりない。

(……ひたすら振り回されて大変だったけれど……いまから考えれば、カミラさんの服も探してあげればよかったかな)

 自分のセンスに自信があるわけではないが、そんなことを考えてしまう。そうすればもっと楽しめたのかもしれない。

(ま、次の機会があれば、そういう提案もしてみるか……って、やべっ)

 愉快な気持ちで帰路を急いでいた三平は、視界の端に警告表示が浮かぶのを見た。

 バッテリーが少なくなっていることを示す表示だ。ココナの身体は機械仕掛けであるため、電源が必要になる。

 十分余裕がある状態で家を出ていたが、予想外の出会いがあって長時間歩き続けたことで、そのバッテリーが危機的状況になっていた。

(急いで家に戻って充電しないと……!)

 のんびりしている場合ではなかったと、大慌てで帰路を急ぐ。

 それがかえって良くない方向に働き、いまにも充電が切れそうな状態になってしまう。

 それでもなんとか、行動不能になる前に自宅の玄関までたどり着くことが出来た。

(ふー、危ない危ない。そういえば、体に戻らない内にこの体のバッテリーが切れたらどうな――)

 鍵を取り出して鍵を回し、ドアノブを掴もうとした瞬間だった。

 突如、ココナの――三平の視界が真っ暗になる。

 びくんっ、と『三平の身体』が跳ねた。

「うぉっ!? あ、あれ? 戻って……?」

 三平は目の前を遮っていたヘッドギアを押し上げた。三平の身体は、ソファの上に腰掛けていた。

 どうやらココナの身体が活動限界に達し、自動的に意識が元の身体に戻って来てしまったらしい。

 想定以上に長く放置していたからか、体の節々が痛み、強い尿意が発生する。

「いてて……こういうのこそ、自動で処理して呉れてたらありがたいんだけどな……っと! いけねえ!」

 三平は尿意に従って思わずトイレに行きかけたが、慌てて踵を返し、玄関へと向かう。

 活動限界を迎えたココナの身体は、現在玄関の向こうに放置されているはずだった。

 住民に見つけられたら、説明が面倒くさいし、救急車なんて呼ばれたら最悪にも程がある。

 大慌てで玄関へと向かった三平は、ゆっくりとドアノブを回してドアを開けようとした。

 三平の家の玄関は外開きではなくうち開きであるため、開ける際にココナの身体が邪魔になることはない。

 ゆっくりと扉を開けてみた三平の目に、ドアノブに手を伸ばそうとした体勢で固まっているココナの身体が存在した。

「倒れてなくて良かった……」

 三平はそう思いながら、まずはココナの身体が持っていた荷物を全部部屋の中に放り込む。

 それから、相変わらず一ミリも動かずに固まっているココナの体を腰を掴んで抱き上げ、部屋の中に運び入れた。

 完全に体勢が固まっているので、人を運び込むというよりはマネキンを運び込んでいるような感覚だった。

「ふぅ……こうしてみると、まじで出来のいいドールって感じなんだけどな……」

 いまのいままで自分の意識がその中に入り、普通の人間と何ら変わらない動きをしていたとは思えない。

 とりあえずリビングのコンセント近くまで運んだ三平は、ココナの体をそこに横たえた。

 そして、充電用のコードを引っ張り出す。

「さて……と。確か……」

 呟きながら、三平はココナのワンピースを捲り上げ、股間を露出させる。

 履いていたショーツをずり降ろし、尻尾の付け根を確認する。

「んと……ああ、これか」

 尻尾の付け根を掴んで軽く上に引っ張ると、尻尾の付け根が折れるようにして開き、その下からプラグの差し込み口が覗いた。

 その挿し込み口にコードの先端を接続し、コンセント側も挿入する。

 接続が終わると同時に、ココナの身体は小さく痙攣した。充電が始まった合図だ。

 それと同時に、今まで固まっていたココナの体勢が崩れ、普通の人間が横たえられているような状態になる。

 動かなくなって固定されていた関節が動くようになっていた。

「これでよし、と……さて、あとは……」

 三平はココナの懐から、カミラの連絡先が記入されたメモ用紙を取り出す。

「どーしたもんかなぁ……」

 一応、自分の携帯を使って連絡をすることは出来なくもない。名前などを変更してから送ればいいだけだからだ。

 名義は三平のままでも、普通にやりとりするだけならそれがバレることはほぼない。

 だがそうすると、他の連絡先にまで名前をそう変えていることがわかってしまう。

 付き合いの深い友達が皆無というわけではなく、そういう者たちにココナの名前がバレるのは喜ばしいことではなかった。

「となると、新しくココナ用の連絡先を作るか……? でもメールならともかく、携帯電話はなぁ……」

 格安スマホという選択肢はあるが、ココナを語るためだけにそういったものを手にするのはいかがなものかと、三平の小市民的感覚が訴えてくる。

 カミラとはこれきりの関係にする、という選択肢が浮かばないわけではなかったが、せっかく良好な関係を作れたのに、それを自ら捨てるような真似は勿体なくてそれも出来なかった。

「あー、考えても、わからん! とりあえず、トイレ行くか!」

 三平は催していたことを思い出し、トイレへと向かった。

 手早く用を済まし、すっきりとして思考をクリアにする。

「やっぱ、ココナ専用の携帯を作ろう。いまからならまだ、携帯ショップも受け付けてるはず!」

 今日中に間に合わなくとも適当な理由を付けて連絡すればいい。

 三平はココナの存在を、三平というものからきっちり分けた上で成立させる気になっていた。

 ココナとして動く時は、三平という人間は関係なく、ココナとして存在しようと心に決めた。

 その瞬間までは、そう決めていた。

 トイレからリビングに戻って来た三平は、思いもしなかった光景に出くわす。


 充電していたココナが、体を起こしていた。


 その作り物の目と、三平の視線が交錯する。

「「……は?」」

 三平の口から、思わず間抜けな声が出た。その声に、それより高く可愛らしい声が重なる。

 動き出したココナは、その嫋やかな指で三平を指差した。

「なんで? なんで、俺の身体が動いてるんだ??」

 その疑問符塗れの言葉に、三平の方こそ疑問符を浮かべた。

「いや、むしろなんでその体が動いてるんだよ? ヘッドギア、外しちゃったぞ?」

 というか、と三平は呟く。

「お前、まさか……東田三平、なのか?」

「…………マジかぁ」

 ココナの返答は噛み合っていないようで、三平にしてみれば納得のいく反応だった。

(お前は東田三平か? って俺が俺に言われたら……そういう反応するもんな)

 三平は確信していた。


 今現在ココナの身体を動かしている意識もまた――東田三平なのだということを。


つづく


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