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夜空さくら
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『家族』になろう!【短編読み切り】

■ 気合を入れて新作を書こうとして、上手く書けずに行き詰ってしまったので、息抜きに書いた羞恥・ペットプレイものの短編です。

■ 書きたいシーンを書きたいように書きました。凄いものを書こうとしてから回るより、これくらいの感覚でいいのかもしれませんーw-ウム


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 求婚の証として、首輪を渡される日が来るとは思わなかった。

(いや……確かに指輪にしては箱が大きいなぁとは思ったけれど……!)

 ロマンチックなシチュエーションに感動してしまった自分の気持ちを返して欲しい。

 そんな思いを込めてそれを渡して来た相手――婚約者の正二郎さんを見ると、彼は良い笑顔を浮かべていた。

「気に入ってくれたかな?」

「…………このシチュエーションで渡すなら、普通指輪ですよね?」

 私はそう周囲を見渡しながら言った。

 ここは高層階にある雰囲気のいいレストランだ。

 いかにもプロポーズのシチュエーションで使われるような高級感溢れるロケーションで、夜景も綺麗。

 個室だから他のお客さんはいないけれど、部屋付きのボーイさんは普通にいる。

 ちなみにそのボーイさんはさっきから壁際でひたすら気配を殺していた。

 無表情に見えるけど、どこか気まずそうなのは気のせいではないだろう。

(……まあ、ここは正二郎さんが経営するレストランだから……彼の奇行には慣れっこなんだろうけど……)

 正二郎さんはいわゆる多角的経営者であり、その手腕で途方もない資産を持っている人だ。

 財力だけでもSSクラス。そんな彼にも、難点はあり――とにかく、性に貪欲ということがあった。

 そんなことかと人によっては思うかもしれない。それだけの資産があるなら、多少変な趣味くらい許容しようという人もいるだろう。

 だけどその認識は甘い。彼はドの付く変態だからだ。

 その中でも、ペットプレイというのは彼の中では基本となるプレイで、私も何度か犬にされて連れ回された。

 なまじ財力があって滅茶苦茶が出来る分、彼の趣味に付き合うには相当な覚悟がいる。

 私はそんな彼の趣味になんとか付き合うことが出来た。

 元々はそんなことは思いもせず、彼の実直な性格に惹かれて付き合い始めたのだけど――まさかここまで性癖が捩れているとは思わなかった。

(……でも思い返してみれば、初っ端からオープンカーの後部座席で繋がりながら街中を引き回されたんだったわね)

 一応周りに気付かれないように配慮はしていたと思うけれど、堂々と街中でいちゃついているバカップルではあったから、注目を浴びて大変だった。

 たぶん何人かには「あれ絶対入ってるよね」と思われていたに違いない。思い出したら恥ずかしくなってきた。

「……それで、ここでこれを渡して来たってことは」

 私が嫌な予感を覚えながらも尋ねると、彼はとてもいい笑顔で頷いた。

「うん。ぜひそれを身に着けるところを、見せて欲しいな」

 間違いなく、プレイの開始を告げていた。

 私はドクンと高鳴る心臓の鼓動を感じつつ――頷くしかなかった。



 首輪を身に着ける時、それ以外のものを身に着けていてはいけない。

 何も言われはしなかったけれど、それが彼とプレイをする上での暗黙のルールだった。

 私はこの日のために苦労して着込んで来たドレスを、脱ぎ落とす。

 厳かな高級感のある店の中で、ひとり下着姿になるのは中々に羞恥心を煽られる。

 彼はゆったりと椅子に腰かけたまま、ニコニコと笑顔で私の方を見ていた。

 楽しそうな正二郎さんの顔を見て、少し嬉しくなってしまう私は、すっかり彼に絆されていると言えるだろう。

 高いヒールの靴を脱いで、柔らかい絨毯が敷いてある床に素足を降ろす。

 脱いだ服屋靴はあえて散らかしたままにしておいた。その方が彼が喜ぶからだ。

 続いて耳に着けていたイヤリングを外す。ピアスは一切空けていない。

 昔はファッションで開けていたけれど、彼の強い要望を受けてピアスは付けないことにした。

 曰く、素のままの体が好きだからだそうだ。

 いまとなってはピアスホールもすっかり塞がり、傷跡一つ残っていない。

 ネックレスも外し、机の上にイヤリングと一緒に置く。

 そしていよいよ――下着に手をかけた。

 正二郎さんの視線と、隠しているけれど確かに向けられているボーイの視線を感じつつ、私はまずはブラジャーの方から外していく。

 手を後ろに回し、ホックを外す。

 そこそこ大きい私のおっぱいが、ブラジャーの抑圧から解き放たれる。

「……っ」

 ブラジャーに守られていた乳首に、直接空気が当たり、ぴりぴりとする刺激を感じた。

「ふー……」

 私は腕で胸を隠しながら、ブラジャーを抜き取る。

 ドレスの上に放って、最後のショーツに指をかけた。

 ここまで来たらあとはもう勢いだ。

 片手で胸を隠しつつ、空いた片手でショーツをずり降ろす。

 ショーツが脱げ落ちて、ついに私は素っ裸になった。

 少しだけ横に動いて、脱いだ服から距離を置く。

 そして、その場に膝を突き、手もついて四つん這いになった。


 素っ裸で四つん這いの私は、人間ではなくただのメスイヌとなる。


 立ち上がった正二郎さんが、プレゼントの首輪を手に取り、また自分の席に戻る。

 そして悠然と椅子に腰かけながら、私を手招きした。

「おいで、ココ」

 優しい声。ただしその呼び名は人間としてのものではなく、メスイヌとしてのものだった。

 普通の人なら、怒るか、嘆くか、いずれにしてもそんな扱いを受け入れることはしないだろう。

 だけど、正二郎さんにそう呼ばれた私は、きゅっと胸が締め付けられるのを感じた。

 大人しく四つん這いのまま、彼の足下に進む。

 彼が私の頭を優しく撫でて来た。男の人の、大きな手だ。

 それが私の頭を鷲掴みにするように、わしわしと撫でて来る。

 愛情は感じても、明らかに女性の頭を撫でる手つきではない。犬の頭を撫でる時の手つきだった。

 乱暴に撫でられ、せっかくセットした髪が乱れるのがわかる。だけど文句は言えない。

 いまの私は人間の彼女ではなく、メスイヌのペットなのだから。

 そう考えると、背筋がぞくぞくと震える。嫌な感触でないことが、救いだった。

 彼の手が私の顎に添えられ、上を向かせられる。私は自然と目を瞑っていた。

 まるでキスを待っているようだけど、そういうわけではない。

 曝け出された私の首に、柔らかい物が巻き付いて来る。

 本物の犬に着ける首輪と違い、ちゃんと当て布がされているということだ。

 毛皮で覆われている犬の首と違って、人間の肌は柔らかいから全く同じものを身に着けたら傷ついてしまう。

 そんな細かなところにも、色々配慮はされていることはわかるけれど、それを喜んでいいのかどうかは、結構悩むところだった。粗雑に扱われるよりは遥かにマシとはいえ、それを言うならこの扱いがそもそも問題だろう。

 思わずそんなことを考えてしまい、今の状況に疑問を抱きかけた私の首に、その柔らかい物が巻き付いて密着してくる。

 首が緩く締め付けられ、首輪周りに表現しがたい感触が巻き付く。

「……っ」

 体を震わせていると、彼の吐息がすぐ近くに迫って来て――唇に柔らかい感触が伝わって来た。

 思わず目を開けると、彼の顔がドアップに映る。

 首輪を巻き付けるのと同時に、キスをされていた。

 呆けて見つめる私の前で、体を引いた彼はにこやかな笑みを浮かべる。

「可愛いよ、ココ。これから末永く、よろしくね」

 そう言いながらまた頭を撫でて来る正二郎さん。

 普通のそれとはだいぶ、いやかなり違うけれど。

 プロポーズされたことに変わりはないのだった。

 私は様々な気持ちが胸の中から溢れるのを感じ――複雑な思いを抱えたまま、頷く。

「……わぅ、う」

 首輪を身に着けている間は、人の言葉は喋らない。

 こんな時にも、彼に教え込まれたルールが染みついていることを実感させられ、私はますます複雑な気持ちになるのだった。

 彼はそんな調教され尽くした私の様子を見て、ニコニコと楽しそうだ。

「それじゃあ、僕らの家に帰ろうか」

 そう言って彼が取り出したのは、じゃらじゃらと音の鳴る鎖のリードだった。

 リードのカラビナを私の首輪に装着し、彼が立ち上がる。

 私は自然と彼の足下に付き従うようにその体を寄せた。

 かっちりとしたスーツを着込んだ彼の足下で、首輪以外真っ裸で四つん這いになっている私。

 そのあまりに落差のある姿に、私は惨めな気分になりながらも、どこか興奮する自分も感じていた。

 彼が歩きだすのに合わせて、私は四つん這いで遅れないようについていく。

 ちなみに私の脱ぎ捨てたドレスや下着は、いつのまにかボーイさんが片づけてしまっていた。

 元からそれ以外の選択肢はないのだけど、私は彼の気が済むまで、裸で連れ回されなければならないのだ。

(私はメスイヌ、私はメスイヌ、私はメスイヌ……)

 私は頭の中でそう自分に言い聞かせていた。そうでもしないと、恥ずかしすぎて動けなくなってしまう。

 いまの自分は人間ではなく犬なのだと言い聞かせる。

 だから裸で、四つん這いで歩いているのは当たり前の事なのだと、思い込む。

 そうしないと、体が震えてまともに動くことも出来なくなってしまう。

 懸命に私がそうしているのを、正二郎さんはとても優しい目で見下ろしていた。

 足音も立たない柔らかい絨毯は、私が四つん這いで歩いても掌も膝も全く痛くならない。

 彼の足取りも早くはなく、四つん這いの私に合わせてくれているから、動くこと自体は楽だった。

 とはいえ。

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!)

 ついさっきドレスでめかし込んで来た道のりを、全裸で移動させられるのは、とても恥ずかしく惨めなことだった。

 人の目がなくても、普通はありえない格好でいるというだけでも酷く恥ずかしい。

 床に突いた手がガクガクと震え、気を抜いたら倒れてしまいそうになる。

 震えながらも、なんとかエレベーターの前までやってくることが出来た。

「ココ、お座り」

 彼に命じられたので、私はお座りの姿勢――足の裏をぺったりと床に突け、膝を広げ、股の間に丸めた両手を置き、背筋を伸ばす――を取る。

 犬がすれば普通の姿勢だけど、女性がやると股を開いてしまうとても恥ずかしい姿勢だった。

 恥ずかしさのあまり俯いてしまいたくなるけど、なんとかそれを堪える。

 エレベーターがやって来て、扉が開いた。

 その中から、見知らぬ女性が現れる。

「……っ!」

 咄嗟に股を閉じたくなったけれど、辛うじて堪えた。恥ずかしさで顔が燃えるように熱くなる。

 声をあげずに済んだのは、奇跡だった。

 そんな私の様子を見て、現れた女性が笑顔を浮かべる。

「あら。可愛らしいわんちゃんですこと」

 その言い方からして、正二郎さんの関係者であることは明白だった。

(あぶなかった……!)

 もしも彼女の登場に動揺して体を隠すような真似をしていたら、あとで「おしおき」されることが決定してしまったところだ。

「ふふ。賢くていい子でしょう?」

「ええ、そのようですわね。あなたに気に入られるだけはありますわね」

「さっき、家族になったところなんですよ」

「あら。それはおめでとうございます。今度お祝いの品を贈りますわね」

 二人は私を放って、ビジネスライクなやりとりを交わしている。

 まるで本当の犬になったかのような感覚になり、頭がくらくらした。

 その女性は最後に私にウインクをして、エレベーターを降りて行った。

 羞恥に固まっていた私の首輪を、正二郎さんが軽くリードで引っ張る。

「さ、行くよ。ココ。ちゃんとメスイヌに徹していられて偉いね。あとで『ごほうび』、あげるからね」

 エレベーターに乗り込む私に対し、そう囁く正二郎さん。

 「おしおき」であれ、「ごほうび」であれ、結局――エッチなことをされてしまうのは確定しているのだ。


 私は正二郎さんに、妻兼メスイヌとして――末永く可愛がってもらうのだった。


おわり


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