SamSuka
夜空さくら
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スライムお嬢さま、会社ごと社畜OLをかう ~業務から本業~


 スライムによって強制的に体を動かされるという形で、なんとか始業開始時間ギリギリに会社に滑り込むことに成功した。

 けれどその代償として、私は色んな意味でへろへろになっていた。

 肩を上下させて荒い呼吸を繰り返す。涎がボタボタと足下に落ちるのを気にする余裕もなかった。

「フー……フー……フー……ッ」

 ただでさえスライムによって全身の感覚が敏感になっているのに、全力疾走したのだから当たり前だ。

 体に当たる風の感覚や、走る際の振動。

 気にはしていなくとも無視しているわけでもない、人々の視線。

 さらに、スライムの補助があったとはいえ、運動不足の身体に長距離の全力疾走は本当にキツかった。

 快感の余韻と疲労によって膝がガクガク笑っていて、それこそスライムの補助がなければその場に倒れこんでいただろう。

 私をそんな状態に追いやったスライムは、平然とした調子で私を急かす。

『さあマスター。早くわたくしたちの執務室に参りましょう♡』

「ウゥ……」

 私の役職はただの一般事務作業員から、社長秘書という肩書きに変わっていた。

 もちろん社長はこのスライムだ。

 普通ならあり得ないことだけど、会社ごと私を買ったスライムには全ての人事権があり、私をどこでどう使うかはスライムの自由だ。

 そういえば元々いたはずの社長秘書はどうしたのだろう。昨日から一度も姿を見ていないからわからない。

(それにしても……)

 前世では曲がりなりにもマスターという立場にあったのに、すっかりスライムに買われた、いや飼われた立場になってしまっているのが少し情けない。

 スライムは私を色んな意味で好いてくれているようだし、不快感があるわけではないのだけど。

 いずれにせよ、もうすっかり私生活まで全て掌握されている以上、どうしようもない気もするし、いまの私にスライムを上回る何かがあるわけでもない以上、受け入れるしかない。

(元マスターとしては……本当に情けないけど)

 そんな風に思いつつ、スライムと一緒にエレベーターに乗って、最上階へと向かう。

 これまでは数えるほどしか来たことのないこの階層にも、これからは毎日あがることになるのだろう。

 たどり着いた社長室は昨日までと違って、大きく変更されていた。昨日スライムと一緒に社長室を出た時は普通で、それからはずっと一緒にいたから、スライムの分体がやったのかもしれない。

 その変更はすべて私とスライムが愛し合うためのものなので、普通の社長室の様子とはまるで違う。

 有り体にいえばちょっと淫欲の雰囲気が漂っていた。

 色々増えたものはあるけど、元からあったもので一番変化があるのは、社長が座る椅子だった。

 執務机の前に置かれたそれは、昨日までは腰掛ければさぞ気持ちが良さそうな革張りの高級な椅子だった。

 けれど、いまそこに置かれている椅子は、高級感どころか、そもそも椅子なのかどうかすら怪しいものだ。

 それはなぜかというと、その椅子は骨組みしかないからだ。座るべきクッションも、肌触りを良くする革も、なにもない。

 座り心地がどうこう以前に、椅子としての機能がないというべきものに成りはてている。

 そんな骨組みの椅子に向かって、私の身体を戒めていた拘束具たちが――つまりはそれを構成していたスライムの体が、実にスライムらしい動きで移動していく。

 それまでは限りなく自由を奪われていた私の身体は、あっという間に自由になった。

「ふあ……っ、うぅ……っ」

 股間に突き立っていた二本の杭もぞろりと抜けていき、体が楽になる。穴が広がってしまうのではないかと危惧していたけど、特にそういうこともないようだった。

 スライムの責めの巧みさに驚いてしまう。

 体に残ったのは、首輪と、そして、生やされた男性器を貫き、射精を禁じている栓のみ。

(あ……まだ出させてもらえないんだ……)

 ここに至るまでの様々な刺激で膨張したその男性器は、射精寸前の感覚のまま、ずっとその存在感を主張し続けている。他の部分の刺激がなくなった分、余計にその部分の感覚は鋭く私の頭を埋め尽くそうと迸ってくる。

「……っ、ん、あっ」

 どれほど刺激を与えても出せないことはわかっていながら、思わずその肉棒に両手が伸びそうになる。

 その両手の手首を、首輪から伸びたスライムの体が絡め取った。

『だーめ♡ですわ。それに刺激しても、マスターが苦しいだけですわよ?』

 両手は首輪に吸い寄せられるように引っ張り上げられ、そして顔の両脇で止まるように固定された。首輪の左右から真横に伸びた棒に、手首を戒める手枷が繋がれたような形だ。

 自然と胸を張り、体を晒すような体勢になってしまう。

「あっ、やっ、だめっ」

 私は両手で体を隠すこともできなくなってしまっていた。

 いまスライムは私の身体をラバースーツのように覆うことをしていないから、裸同然なのだった。

 両手の拘束のされ方といい、奴隷市場で売られている奴隷のような気分にさせられた。

『これぞ、ふたなり奴隷……という感じですわね♡ 向こうの世界では、そういう子は好事家に高い値段で買われておりましたわ。……そういえば、捕まえた盗賊の見た目を可愛らしくして、あえてそこだけ変えずに残して売る……ということもしましたわねぇ』

 このスライム、とんでもないことをさらりと言った。

 向こうの世界じゃ悪人は問答無用で切り捨て御免だから、生かしてもらえただけ有情なのかもしれないけど。ふたなり奴隷として、好事家の元でその後の生活を送らざるをなくなった盗賊には若干同情する。

 ある意味私も状態的にはそれと変わらない気もするけど、少なくともこのスライムは私を愛してくれているし、私が本気で嫌なことはしない、と思うし。

 恥ずかしい体勢にされた自分の姿から気を逸らすべく、そんなことをつらつらと考えている間に、私から離れて骨組みの椅子に移動したスライムは、瞬く間に何の変哲もない椅子に変化していた。

 骨組みだけだった椅子に、スライムが肉付けをしたような感じだ。それができるから骨組みしか用意してないのだろう。

『準備ができましたわ、マスタ-。さあ、お座りくださいな』

 見た目は何の変哲もない椅子とはいえ、そこに座れば何をされるのか想像は付く。

 けれど、想像できたところでどうにかすることができるわけもなく、私は半分諦めの境地でスライムが変化した椅子に近づき、その椅子へと恐る恐る腰を下ろした。

 座った瞬間の感覚は、見た目通りつるりとした、心地のいい感触だった。液体っぽくはなく、高級な動物の革の感触に近い。

 椅子に深く腰掛け、背もたれに体を預ける。すると、顔の横で固定されていた手枷が解放され、今度は椅子の肘掛けに吸い寄せられた。手首を戒める枷は肘掛けと一体化し、私は手を動かせなくなる。

 それと同時に、首輪も背もたれにひっつき、足も足首を掴まれるように固定され、瞬く間に私は椅子から動けなくなっていた。

「ま、また拘束するの……?」

 逃げるつもりなんてないのに、何かとスライムは私を拘束したがる。朝食がそうであったように、大抵のことはスライムがやってくれるとはいえ、こうも徹底していると問いかけたくもなる。

 私の疑問に対し、スライムは平然と応えた。

『だって少しでもマスターを近くに感じていたいんですもの♡』

 甘く、優しく、好きだという気持ちを全面に押し出したスライムの声。

 そんな声で言われてしまうと、私はそれ以上何も言えなくなった。

 スライムがその体を細く伸ばし、執務机を展開する。次々モニターが展開され、その全てでなにやら数字のようなものが高速で推移していた。まるでソースコードを直に見ているようなもので、私には何がなんだかよくわからない。

 唯一、真正面の画面だけが、私にもわかる普通の画面となっている。

『さあ、お仕事ですわ。マスターは真正面のモニターをご覧くださいまし』

 スライムは超常的な力で会社を掌握したけど、普通に経営者的にも優秀なのだ。

 いまやっているように、ありとあらゆる情報を瞬時に集積し、判断し、行動に移している。

 利益を最大にするように、かつ損失を回避する策をいくつも打ち出し、元々はブラック労働で回していたうちの会社の経営を、あっという間にクリーンかつ正攻法で回せるように整えてしまった。それどころか莫大な利益を上げているというのだから驚きだ。

 新商品や新企画がことごとく的中しているのだという。

 スライムに言わせれば『世界の動向さえ掴めればこれほど楽な仕事はありませんわ。この世界には広大なネットワークがありますから、余計に楽ですわね』とのこと。

 いずれにせよ、何十というモニターを同時に見、何十というキーボードを同時に叩けるようなスライムだからこそだろうけど。

 スライムの視界や意識というのはどうなっているのか、割と本気で気になる。

 片手間に世界の動向を把握し、指示を出しているスライムは、お嬢さまの姿をした本体を私の膝の上に出現させた。

 猫が甘えるように私の身体にすり寄って来ている。

 猫と違って裸の人間の女の子の姿だし、すべすべで良い匂いがするしで、なかなか刺激的な行為だった。さらにいまだに戒められたままの私の股間のものを、可愛らしいお尻で時たま刺激してくるから、こっちはなかなか気が休まらなくて大変だ。

『うふふ。ご覧くださいマスター。昨日開設したわたくしたちのブログに、もうこんなにアクセスがありますわ』

 そういってスライムが画面上のカーソルを移動させ、WEBサイトを立ち上げる。そこには、昨日の私とスライムの愛し合う様子がはっきりと映し出されていた。

 顔は隠されているけど、それ以外はほぼ無修正で、スライムが私を激しく責め立てる様子が映っている。

「……ほんき、だったんだ」

 昨日スライムは私との睦言を映像として残し、さらにそれを個人ブログで発表すると宣言していた。

 魔法がある世界からこの世界にやってきたスライムは、この世界に存在するインターネットという技術を大層気に入ったようなのだ。

 特に、個人の撮った映像を気楽に世界に向けて発信できるというのが良いという。

 それを用いて、自分たちが愛する様子を全世界に見せつけたいというのが、スライムの望みだった。正直恥ずかしくて仕方ないのだけど、何ができるというわけでもない私がスライムにできることはほとんどないので、スライムが望むならせめて受け入れてあげようと思っていた。

 とはいえ、冗談かもしれないとも思っていたので、本当にブログを開設するとは思わなかった。

『もちろんですわ!』

 ブログについているコメントを見る限り、CGか何かの映像技術を用いているフェイク動画と勘違いされているようだ。

 おおむね好評であり、たまに「女優が歳行っててちょっと残念」とか「こんな技術あるならまず女優の顔を修正すればいいのに」とかいうコメントもあるが、大抵は映画並のCGクオリティで大層えっちな映像が見れるということで、大いに盛り上がっているようだった。

『この愚かなコメントを残した者については、きちんと対処いたしましたのでご心配なく』

「やらなくていいから……って、すでに対処済みなの!?」

 そこまで優れた容姿をしていないという自覚もあるし、歳が行っているのも事実だから気にしないのに。

「ちなみに……対処って、どんな?」

『大したことはしておりませんわ。ちょっとデータを吸いあげて、端末に記録されていた官能コンテンツを全て削除したくらいですから』

「それは人によってはめちゃくちゃダメージ大きそうだなぁ……」

 昨日開設したばかりのブログを発見するくらいだし、そういったものは人一倍集めていたことだろう。それを全部消されたとなれば、相当なダメージだ。

 まあ、スライムに目を付けられてその程度で済むんだから、むしろ運はいいのかもしれない。

『もちろん、個人情報も確保済みですので、もしマスターがこの者達を厳しく罰したいと言うのであれば……』

「そ、それはいいから」

 否定的なコメントをされたくらいで、そこまで酷いことをする気にはなれない。

 スライムは少し不満そうではあったが、私の意思を尊重してくれるみたいだった。

『マスターがそうおっしゃるのであれば、やめておきますわ。……ん、大体の調整が終わりましたわね』

 そうスライムがいうのと同時に、いくつも展開されていたモニター画面が消え、そして次々片付けられていく。

 どうやら私との会話の片手間に、仕事に必要な調整などを終えてしまったようだ。実務時間約30分、驚異的な速度である。

『うふふ……ついでのお仕事もおわりましたし……さあ、一番大事なお仕事ですわ』

 スライムにとって、会社経営は片手間の仕事だった。

 彼女の本当の仕事――大事な仕事はただひとつ。

『さあ、マスター。今日も一日、愛し合いましょう?』

 私と愛を交わすこと。

 それ自体は決して嫌なことではないのだけど、私は少し間を置きたかった。さっきの全力疾走などがまだ尾を引いている。

「ま、待って。この会社がどう変わったのか……教えて欲しいんだけど。ほら、視察って奴だよ」

 そう言ってみると、スライムは少し考え込むような仕草をしてから、ぽんと手を打った。

『そうですわね! マスターにもこの会社がどう変わったのか、知っていただいた方がよろしいですわね。今日は散歩……いえ、見回りの日にいたしましょう』

 そういうスライムが私の膝の上から降りて、その裸身にいかにも品の良さそうな、令嬢らしい衣服を身に纏う。私にもまともな服を着せてくれるのかと思いきや、スライムは。

『マスターの衣装は、どういたしましょうか……散歩、とくればやはりこれでしょうか』

 そう不穏な呟きをすると、私が座っていた椅子が私を包み込むようにして呑みこみながら、骨組みを離れ、そして気づいたら。

 私は四つん這いの体勢で、スライムお嬢さまの足元にいた。

 手足は曲げた状態のまま動かせず、肘と膝で体を支えるしかなく、身体はラバースーツのようなものに再び覆われていて、口には何か奇妙な詰め物がされ、何やらお尻のあたりでふわふわとしたものが揺れる。

 私の首輪から伸びたリードをのようなものを、スライムは握っていた。


 それは俗にいう――ヒトイヌ拘束というものだった。


つづく


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