ムトゥ王国の首都であり王城の中庭には、特別な台が設けられていた。
その台の上には二人分の死体が晒されており、片や投石や乱暴な扱いによって頭部以外を徹底的に破壊され、片や死してなお四つん這いに身体を固定された状態で徹底的に犯され、汚されていた。
いずれも目を背けたくなるような凄惨な状態であったが、死んで数日経つというのに腐敗は始まっておらず、特に女性の死体は長く弄ばれることになるだろう。
そんな広場の様子を見下ろすことが出来る城の一室で、ひとりの男が血のように赤いワインを口に含んでいた。
「あんなものを弄んで愉しむ者の気がしれん」
男は、窓から広場を、凄惨な処刑場を見下ろして鼻で笑った。
「フン、かつての王族も死んでしまえばただの肉袋か……人間というのは虚しいものよな」
死体となったあの二人も、かつては民に慕われていたはずだった。
目立った功績こそなかったが、十数年に渡って特に大きな問題も起こさず、地道ではあったが国全体の暮らしの質の向上に寄与したことは事実だ。
近年の暴走のせいで愚王・愚妃とされてしまったが、もし妙な仲違いさえしなければ普通に王族として天寿を全う出来ていた可能性はあった。
だが現実として、ふたりは怒り狂う民衆の手によって殺され、死後も弔われることなく、鬱屈とした勘定の捌け口として、死体を弄ばれている。
男でなくとも、栄華の空しさに溜息を吐きたくなるだろう。
しかし、その場にいた給仕は、男の言葉にただ頷くことはしなかった。
「こうなるように仕向けたのは、将軍閣下でありましょう?」
将軍閣下と呼ばれた男は、給仕の指摘に心外だ、とばかりに肩を竦める。
「人聞きが悪いな。ワシは何もしとらんぞ。少なくともあの二人の不和の最初のきっかけは、ただの痴話喧嘩だ。あんなささやかなことで仲違いをしたのが悪い」
元々王族の度量ではなかったということよ、と将軍は切り捨てる。
「まあ、利用したのは事実だがな。本当に国が分裂していたら被害はいまの比ではなかっただろう。むしろ感謝してもらいたいくらいだ」
「あなたが早い段階で王か王妃のどちらかについていたら、それで収拾がついていたでしょうけどね」
「それではワシが実権を握れんだろうが」
くっくっ、と将軍は嗤う。
「それがするとしたら、ワシではなくシェラ姫だっただろうな。姫はそれなりに優秀ではあったが、情に流されすぎた。中立になど立たず、どちらかに肩入れして争いを早期解決に導くべきだった。どちらの気持ちも理解しようとした優しさがこの結果なのだから」
シェラ姫も王族としては半端者だったと、将軍は酷評する。
給仕は何も言わなかった。
「それで、そのシェラ姫はどこに消えたかわかったのか?」
「いまだ発見には至っておりません。革命軍が城を包囲した時には、すでに脱出した後だったようです。何者かが手引きしたと考えられます。ですが国境は封鎖してありますし、箱入りのシェラ姫が山岳地帯や大森林を自らの脚で超えるのは不可能でしょう」
「手引きした者の存在もある。気を抜くなよ」
「心得ております。しかし最も高い可能性としては、やはり国境の封鎖が解除された後に別人に変装して、あるいは荷物に紛れて国境を越えるのではないかと」
「そうだな。警戒を怠るな。絶対にシェラ姫を捕らえてワシの前に連れてこい。生死は問わん」
将軍はそういうと、再び広場を見下ろした。
そこでは死体となった王妃が裸に剥かれ、汚らしい男に屍姦されているところだった。
「あんなものを弄んで愉しむ者の気がしれん――女は若い方がいいに決まっているのにな」
王妃は一般的な美醜の基準で見ると美人の類いではあったが、今年十八歳になった娘を産んでいる歳だけあって、その美貌にも衰えが見えていた。
ましてや、防腐処理がされているとはいえ、死体となった今は血色も肌の張りや艶も悪くなっており、とりあえず女の身体であれば何でもいいような人間以外、犯そうという気にはなれない代物だったのだ。
それに対し、現在逃亡して行方を眩ましているシェラ姫は、十八歳という若さで、一番美しい年代であり、その美貌は国外でも有名だ。さらにその穢れを知らない無垢な性格に対し、その体つきは女の魅力というものに満ちており、男に性的な魅力を感じさせるのに十分なものだった。
かつては国の王族として、触れることの出来ない聖域であったが、いまやそんなことは関係ない。ただの女に成りはてたシェラ姫を、どう扱おうがどこからも文句は出ない。
「あの女体を思うがまま蹂躙出来るかと思うと……年甲斐もなく、興奮してしまうな」
ワインで湿らせた唇を、舌で舐める。
その脳裏には、ありし日のシェラ姫の、美しいドレス姿が浮かんでいた。
その時、当のシェラ姫は。
ドレスを剥ぎ取られた白い下着姿で――暗い地下室で、両手を吊され、口枷を嵌められ、目隠しをされ――放置されていた。
シェラ姫の命を狙う者から救うため、彼女を王族からはかけ離れたヒトイヌ肉便器に堕とそうと、奴隷商人のリルドは考えていた。
しかし、そのためには他の誰でもない自分自身の手で、初恋のシェラ姫を調教しなければならなかった。
(インディーは優秀な調教師だけど……堕としきってしまうからなぁ)
地下室へと続く階段を一歩一歩降りながら、リルドは内心溜息を吐く。
シェラ姫は至って普通の感性を持った王族の女性だ。性欲は普通にあるだろうが、少なくとも性奴隷のように扱われて悦ぶような感性は持っていないと思われた。
(俺としては、シェラ姫がそういう性癖でも全然構わないんだけどなぁ……それを植え付けるのは違うしなぁ……)
リルドがその気になれば、その気のない女性を無理矢理その道に導くことは不可能ではない。奴隷商人としてやり手である彼は、ある程度人間を作り替える術を知っている。
ただ、それはあくまで奴隷にならざるを得なかった者の精神を壊さないように、奴隷であることを受け入れさせるために使う技術であった。
処刑を回避するためにシェラ姫に性奴隷を装わせたいリルドとしては、その技術は加減して使わなければならなかった。
(自分は本当に肉便器になってしまったのだと受け入れること……しかし、戒めから解放されたら、普通の人間へと戻りたいと思える程度に)
国境を越える一時だけごまかせればいいのだ。
(理想としては、肉便器になっている間のことを悪夢だと勘違いしてくれればいいわけだ。そのための方法ならいくつか思いつきはするが……)
薬や暗示を使うことも考えたが、後遺症が残っては彼の目的は失敗になる。
リルドは自分の目指す理想が遠いことを感じつつ、しかし同時にやりがいも感じていた。
(身に付けたくて身に付けた技術じゃないが……シェラ姫を助けるために使えるんだ。これ以上やりがいのある仕事はない)
彼にとって、シェラ姫は特別な存在だった。インディーに揶揄されてしまったが、彼にとってシェラ姫が初恋だというのは事実だ。
奴隷商人になる前から、彼と姫の間には歴然とした身分の差が存在していて、結ばれることは決してなかったが、それでも彼にとって姫は初恋の相手である。
(俺が、あなたを死なせはしない。そのためになら……俺は悪鬼羅刹の鬼にもなろう)
地下室の扉の前にたどり着いたリルドは、被っている仮面の奥で深い呼吸を繰り返す。
そして、大きな音を立てながら、その扉を開いた。
その部屋の中心には、彼が立ち去った時とほとんど変わらない姿で、シェラ姫がいた。
綺麗なドレスを剥ぎ取られ、繊細な造りでありながら質素な下着を身につけただけの姿でいる。本来王族ならもっと華美な下着を身につけているはずだが、彼女は好んでそういった王族としては質素な下着を身につけていた。
それは必要以上の贅沢を自ら禁じていたためだ。彼女は王や王妃の暴走で疲弊する国のことを想い、せめて少しでも負担を減らすために贅沢を禁じていた。
そんなことは焼け石に水であり、あまり効果があることとは言えなかったが、民のことを本当に考えていたからこそ、無闇な贅沢は出来なかったのだろう。
(本当に、優しい人だよ、シェラ姫は……王族でさえなければ、普通に良き人間で、理想の伴侶だったんだろうけどな……)
ずっと彼女のことを気にかけていたリルドにしてみれば、彼女は生まれる場所を間違えたのだ。
思わず哀れみを覚えてしまったリルドは、いまは冷酷な調教師だと頭を切り替える。
(ととっ……いかんいかん。気合いを入れなければ)
両手に嵌められた枷を天井に向けて引き揚げられ、両足の枷をそれぞれ左右に牽かれている彼女の身体は、「人」の字の形に開かされている。
「ゥ……ゥッ……」
その頭は垂れ下がり、その唇からは涎が糸を引いて垂れていた。最初は涎が零れないように常に頭を上に向けていたが、長時間ずっと上を向き続けるのは不可能だ。自然と頭が垂れ、口枷から涎が零れるがままになっていた。
涎は彼女の胸元に落ち、胸を覆う下着を濡らしていた。下着はそう薄い物ではなかったが、涎の量が多いために色が変わるほど濡れ、少し透けて見えている。
リルドは憔悴したシェラ姫の様子を見て、軽く息を噴いて嗤って見せた。
「くくっ、シェラ姫。少しは自分の立場や状況が受け入れられたか?」
わざと大きな足音を立てながら、リルドはシェラ姫の傍に近づく。
顎の先から涎を垂らしながらシェラ姫が顔を上げる。その頬は羞恥故に真っ赤に染まっていた。
「ウゥ……ッ、クフッ、ッ」
何か言おうとしたのか、シェラ姫が小さく咳き込む。口枷をされたままであるため、かなり苦しい様子だった。
「くくく……喉が渇いたか? まあ、それだけ大量に涎を垂らせば無理もない。わかるか? 下着が濡れて透けているほどだぞ」
言いながらリルドは指を伸ばし、シェラ姫の胸元に触れる。
シェラ姫はリルドに触れられた瞬間、大げさなまでにびくりと身体を震わせ、鎖を鳴らしながら出来る限りリルドから離れようとした。
その過剰なまでの怯えた反応に、リルドの嗜虐心が煽られる。
(さっきはちょっと手加減しすぎたからな……少しキツく接しておくか)
本当は全裸にして放置する予定だったのを、シェラ姫が涙を流す姿を見て、リルドは怯んでしまった。
下着姿でも全裸でも本人の恥ずかしさには大差なかっただろうが、対応が甘くなってしまったのは事実だ。
今程度の差ならば大きな影響は出ないだろうが、この先リルドはシェラ姫をギリギリまで追い込まなければならない。
調教師として、調教対象に「実はそんなに酷いことはされない」などと思われては調教が上手くいくわけがない。本気で痛めつけるつもりはなくとも、あくまで本人には「命令に逆らうと何をされるかわからない」と恐怖を抱いてもらわなければならなかった。
実のところ、リルドは『調教対象を慮りながら行う調教』というものが今回初めてなわけではない。滅多にないことではあるのだが、顧客の要望によって完全に堕とさずに、ほどよい調教段階で引き渡すこともあったからだ。
(最後の一線は自分の手で超えさせたいっていうなんかやたらに拘りの強いおっさんだったな……最初から自分でやればいいのに、とは思うけど……基本はプロの仕込みに任せた方がいいっていう判断なんだろうけど……まあそれはいいとして)
リルドは身体を引いて逃がしていたシェラ姫が、再び元の位置に戻ってくるのを待ってから、左手を大きく開き、シェラ姫の右胸を覆う下着に指を引っかけた。その際、指先が彼女の乳房にめり込み、彼女は胸を掴まれたのだと錯覚したのだろう。
「ウァ、ッ!」
口枷で明瞭にならない悲鳴を上げ、シェラ姫が身体を引こうと動きかける。
「動くんじゃねえ!」
そのシェラ姫に向かい、リルドは鋭く強い口調で静止を命じる。そんな風に怒鳴られたことなど、シェラ姫にあるわけもなく、思わず、という様子で硬直した。
震えているシェラ姫に向かって、リルドは楽しげに処刑する。
「動いてもいいが、下着が破れるぞ? お前が乳首を晒したいっていうなら止めないが?」
リルドが下着に指をかけて引っ張っているため、もしもシェラ姫がリルドの指から逃げようとして身体を引けば、身体に密着している下着は限界を超えて引かれ、破れてしまいかねない。
そもそも、下着は最後の砦であり、当然だがその下に彼女の身体を覆う物はない。
リルドが下着を引っ張っていることで、身体と下着の間に隙間が生まれ、リルドの立ち位置によれば乳首が見えてしまいそうな状態になっていた。ほんのわずか、ピンク色の乳輪が見えている。
その事に気づいたのか、シェラ姫が羞恥に震え、声にならない呻きをあげる。乳首が見られたくないからと身体をリルドに近づければ、今度は乳房にリルドの指が当たってしまうし、まるで自分から胸を男の手に押し付けているような状態になってしまう。
だが、身体を引くことは下着が破れてしまうので出来ない。そうなってしまったら、もろに見られてしまうのは確実だ。
彼女にとっては進んでも退いても羞恥地獄の、葛藤がそこにはあった。
リルドはそんな程度のことで葛藤する彼女が可愛いと感じてしまう。いずれにせよ、いつかは下着を剥ぎ取ることになるのだから意味が無いのだから、その感じ方は自然だっただろう。容赦の要らない調教なら、問答無用で剥ぎ取っている。
(見られたくないんだろう? じゃあ、その代わりに手を胸に押し付けるしかないんだよ)
シェラ姫の調教はその「バランス」が大事だった。
絶対に嫌なことを回避するために、まだマシな嫌なことを受け入れさせる。
そうすることで、「嫌なのだけど示された選択肢の中ではまだマシ」を自ら選択するようになる。嫌なことを完全に受け入れてしまうのではなく、妥協として受け入れるという過程が大事だった。
リルドはシェラ姫がそういう選択をするように、仕立て上げるつもりだった。
「下着を失うか、それとも俺に胸を揉ませるか――好きな方を選べ」
言葉でハッキリと選択肢を示した後、ゆっくりと下着を引っ張る力を強めていく。
シェラ姫の内心の焦燥は想像に難くない。
「ウゥッ、ウウウゥ……ッ」
必死にかぶりを振って許しを請うような声をあげるが、リルドは心を鬼にしてさらに下着を強く引く。下着のどこかが千切れかけるような、嫌な気配がした。
それが最後の後押しになったのだろう。
シェラ姫の身体が前に傾き、リルドの掌に彼女の柔らかな乳房が押し付けられた。
つづく